特別専任教育主任 2
いきなりホーク艦長が頭を撫でてきた。
アイリーンは一瞬お兄ちゃんに似た雰囲気を感じてビクッとする。
「本当に一時はどうしようかと思ったよ、君みたいな小さい子供と話するのは初めてだから、どう接したらいいのか分からなくてジラーフさんにお願いしたのだけどここからは私が説明しよう」
初めて口を聞いたホーク艦長は少しオドオドしていてタカ派のクセにと思った。
「うちにも他の人たちと同じ様な態度をして下さい。小さい女の子がチヤホヤされていると思われるのは嫌ですから」
「しっかりした子だなぁ地球人がみんな君みたいだったら良かったのにな」
「ありがとう… ございます」
アイリーンは少しためらってからビシッと敬礼する。
ホーク艦長は首を降りながら今後の事を話し出した。
臨時格納庫の中でスターキッドAIは黄昏時を感じていた。
〈これから先も長いのにどうしよう、つまらなく長い退屈な日々が戻って来そうで嫌だな、いっそシャットダウンしてしまおうか〉
「何を年寄り染みた事を呟いているの外まで聞こえてるわよ、検査官がさっき入っているのを見掛けたけどもう出て行ったかしら、だとしたら中に入りたいからリフト下ろして下さいな」
〈アイリーンが帰って来てくれた。嬉しくて涙が出そうだよ〉
「錆びるわよ」
〈ああこの感じもう私はアイリーンなしでは生きていけない。結婚して!〉
「マシーンとは結婚出来ないわね」
〈分かった考えてみる〉
(ろくでもない事を考えなければいいんだけど)
「今日はここで寝るわ。なんか落ち着くのよねジラーフさんと艦長がうちの為に部屋を準備していたみたいだったけどこっちが逆に気を使って疲れそうだからって言って断ったわ、ちょっと可哀想だったけど」
〈キャプテンは後ろの倉庫に積み込まれてるお土産のことを誰にも言ってなかったでしょう。検査官が驚いていましたよ、直ぐにでも下ろしたかったみたいですけどやっぱりキャプテンの許可がないと動かせないとか言って帰っていきましたよ。何か言われなかったですか〉
「別に何も言われなかったわ。うちもすっかり忘れていたと言うか親書もまだ渡せてないしね、それとキャプテンと言うのは止めてねもう違うからあなたとの縁も切れてしまったのよ、だからここで寝るのも今宵限りかもね」
〈そんな悲しい事言わないで下さいよ別れろ切れろは芸者の時に言う言葉でしょう、私はたとえロミオとジュリエットになったとしても別れる気はさらさらありませんからね〉
「あなたね何かの宗教でも始めたのとてもAIの言葉とは思えないわ、うちは誰とも心中なんかしない。でもそうね一緒に戦火の炎の中に飛び込んで死んでしまったらそれは心中ではなくて戦死になるわね… それならいいかもねなんか釈然としないけど」
(何でうちとスターキッドが一緒に死ぬ想定になってるのよ!)
〈貴女は絶対に死なせません。私が必ず守ります。あっ言いたかっただけですから深く考えなくていいです。今ですねこの基地のメインコンピュータ〖アシュラ〗と交渉しているのですよ〖アシュラ〗が『人の心』に興味があるみたいで私のほうが有利なんです〉
「それってまさかうちの事をサンプルにしてるんじゃないよね、してないのだったらいいけどそれで何を交渉してるって」
〈これまでにお互いが持っている情報の85%は共有出来ました。いまは『人の心』に関わるのは大変難しい事だから百聞は一見にしかずと言って私と友達になりませんかと説得してる最中です。友達になったら無理難題を聞いて貰えますよね〉
「へぇー、お友達って無理難題を聞いてもらえるんだ知らなかったわ、それじゃああなたが無理難題を押し付けられたらどうするのよ」
〈決まっているじゃないですか《出来ません》って返事するんですよ他に何て返事するんですか〉
「そうね聞くのはタダだものねしかし最後は嫌われそうね」
〈そんなことにならないように上手くやりますって〉
「そうなのね分かったわでももう限界かもすごく眠くなったからもう寝るわね」
〈まだ21時ですよ、この前22時に就寝して翌朝06時に起床するって言ってましたよね〉
「人はタイマー仕掛けの機械じゃないから、多少の融通ってものが必要なのよ…おやすみ」
〈ほら聞きましたかこれが『人の心』の一面なのです。つい最近言った事でも平気で覆す何て利己的で私たちに刺激を与えてくれる生命なのでしょうかね〉
〈ジ、ジジジ…〉
「キッド!あんたまさかアシュラを連れ込んだりしてないでしょうね、乙女の寝所に… ぐぅ…」
〈乙女の寝所って、ここはコクピットの操縦席でしょうが、まったく~〉
ドロンパ号改めキャメロットの臨時格納庫ではアイリーンの無事帰還のお祝いと言う名の下での連絡会・親睦会が続いていた。
その場で艦長と司令官が話し合いをしている。
「スターキッドに積まれている物資の報告は以上になります。全てモーリス星の特産品ですね、あとアイリーンさんは天王星警備隊長よりの親書を預かっていて上の人に渡したいと言っていました」
ホーク艦長が話を切り出す。
「その親書は私が開封して差し支えないでしょう、それよりあの物資をどうしましょうか」
オビス司令官が聞く。
「そうですねスターキッドのAIは『天王星警備隊からのお土産です』としか返事しませんでしたけど、まさか全部がアイリーン個人へのお土産ではないと思われます」
「私も同意見です。その中であの氷パンとか言うものは保存食としてかなり値打ちがありそうですが、アイリーンの食べ物としてそのまま残しておきましょう。食べ物にはかなり執着していると報告書に記載されてましたから取り上げると後で何をしでかすかわからないですからね。しかしダークマターの塊と未知の物質のサンプルそしてスターキッドがいきなり現れたのと繋がりがあるものと思われる〖うずしお〗回数券についてはこちらで頂けないか交渉しましょう。回数券は別として他はアイリーンが持っていても猫に小判みたいな物ですからですね。あっ、お酒も忘れずに回収しないといけませんね地球人にはアル中って病気があるらしいですから。最後にアイリーンの今後の処遇についてですが艦長はどの様な考えをお持ちなのか聞かせて欲しいのですけど」
「さっき個人面談をしたのですが初等科卒業程度の能力を有していると思われます。しかし中等科に入れると言うのもさすがに幼過ぎますので止めたほうがいいでしょう。ここは本人の自由意思のままに生活して貰おうかとも考えましたが野放しは良くないと思いましてジラーフ室長と補佐官のゴートを指導係に任命されることを進言致します」
オビス司令官は難しい顔をして考え込んだが直ぐに結論を出した。
「ゴートさんを特別専任教育主任に任命して、四六時中アイリーンに張り付いてもらいます。ゴート主任にはアイリーンさんの日常生活から中等教育まで指導して貰いましょう」
「ゴートもジラーフ室長の下について長いですからそろそろ上に上がるチャンスを与えても良いでしょう。上手く物に出来るといいのですけど」
ホーク艦長も同意しジラーフ室長とゴートを探し出すためにタカの目を光らす。
「ジラーフ及びゴート参上致しました」
親睦会の席上でいきなり呼び出された二人は、ビシッっと敬礼する。
勝手知ったるホーク艦長だけなら良いけど滅多にお目に掛かれないオビス司令官が一緒に居て緊張しないわけがない。
「ああ、楽にしてくれたまえ楽しんでいる所をいきなり呼び出して済まないけど業務連絡をする。登録管理室ジラーフ室長補佐官ゴートを解任しその後アイリーンの特別専任教育主任に命じる。正式な辞令は後日渡す。特別専任教育主任はいま作ったばかりの新しい役職なので当面はゴート主任の直属上司は私になる。08時と18時に連絡方法は問わないので私へ定時連絡すること以上だ。これからも精進して益々上位の地位を狙って貰えることを期待する。解散!」
「ゴートさん、いえもう主任よね良かったじゃない昇進して、私は寂しくなるし新しく来る人をまた初めから教育しなくてはならないのかと思うと気が重くなるのだけど、でもその前にこれからお祝いね皆を集め直さなきゃいけないわ」
「待ってジラーフさん私は自信がないのよ何で私が選ばれたのかも疑問たわ、多分目立つジラーフさんの横に居たのがたまたま目に入ったんじゃないかってそれだけだと思うの、それはアイリーンさんはいい子よでも教育主任だなんて何をどうしたらいいのかさえ分からないわ」
「大丈夫よ誰にも最初ってのは訪れるものよ心配いらないと思うわ、教育主任と言うのだからゴートさんの常識を教えてあげればいいんじゃないかしら、あの子は少し常識外れの所があるでしょう」
「ありがとう少し気が楽になったわ明日からのことだから今からアイリーンに挨拶しておこうと思うのだけど何処に居るか知ってます?」
「専用個室を用意したのだけどスターキッドに帰ってから寝るんだって言って出て行ったわね」
二人は『スターキッドに帰る』と言ったアイリーンの言葉に早くも不安を感じるのだった。
「常識ねぇ…」
ゴート主任はこれから先が思いやられると言った表情を浮かべジラーフ室長と共に酒宴の真っ只中へ自分たちの場所を求めて歩き出して行く。




