宇宙アイドル?
アンバ船長の話を要約すると250年程前に中央宇宙観光協会で時間遡行を利用した東の辺境地球観光がピークを迎え、多くの宇宙人が白亜紀から新生代の地球を訪れ始める。
その影響によりパラレルワールドが数多く出来てしまい世界が希薄になって崩壊の危機が訪れた。
この危機を回避するため宇宙連盟の加入星系で時間遡行が禁止される。
希薄になった世界を正常に戻すため最大の要因となった地球の時間密度を高める作業に着手し何千何万年と続いている変化に乏しい安定した時間に介入して、事象の起伏が激しい歴史の世界になるように改ざんを加える努力を始めた。
それは今から6千5百年前に巨大な隕石を地球に落とし様子を見ることから始まる。
その結果氷河期が訪れ恐竜が絶滅した。
そして暫く経ってから地球旧人類が突然の進化を遂げて文化を目覚ましく発展させていく。
地球新人類になってから同族間の争い事が増え続け武器が開発され改良を重ねる。
やがて兵器と呼ぶべき物へと発展するともはや宇宙人でさえ介入ができなくなった。
この間わずか200年とも言わない。
宇宙人たちがちょっと目を離した隙にこの有り様になった。
責任を感じた一部の宇宙人組織が情報収集のために地球人の中に紛れ込んだりして地球を守る努力を行ったけど成果が上がっていない。
そこで諜報員を送り込み実力行使に出てみたけど地球人に捕らえられ人質になり取引に利用されたりして宇宙人に取って最悪の方向へ加速しだす。
それが50年ほど前の出来事になる。
これ等の波乱万丈の歴史が産み出される事で地球の時空間エーテル密度が高まり世界崩壊の危機はなくなったけど、地球人が宇宙人の存在に気付きその知識と技術を独占しようと宇宙開発に力を入れるようになったのも事実。
その事態を重く見た宇宙連盟議会は今後の方針を決めるために何回も議論を重ねたのだけれども未だに結論が出ず今も三竦み状態が続いている。
150年程前にドクターイノマンが現れ、地球人の肉体と幽体の分離、その制御及び宇宙トンネルの発見と解読をして応用まで出来るようになったことで、宇宙人たちへの危険度が増すのではないかと不安を募らせる人々が益々多くなった。
その勢いに乗った地球人類排斥派が地球人の宇宙侵略の始まりだと騒ぎ立て、それまで地球人に無関心だった人々も煽動して味方に付け勢力を拡大させていく。
穏健派は人類排斥派が今以上に勢力を拡大させない、若しくは過激な行動を起こさないように抑え込んでいるのだけどギリギリで持ち堪えているのが現状。
だから何か今一つプラスになる要素が欲しくて思案の末、今回の方法が考え出されたと言う。
つまりそれは素晴らしい素行の地球人を選出し人類擁護派の本部があるアイン星アルベ市の名誉市民の権利を与える。
地球人類代表のアイドル的存在として活動を行う事で地球人擁護支持者を増やし反対派を衰退させる事を目論んでいるらしい。
今回アイリーンを選出することができたので地球出身の名誉市民は46人になったと言う。
元々アイドルを目指していた方とかも結構いたのでその人達は既に地球人類の宣伝をしているとの事だ。
地球人排斥派とそれに反対してるアイン星人が代表を勤める擁護派、これから行く東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地は地球人類保護派が多く、それぞれの思惑で三竦み状態になっていると言う。
保護派は200年前より地球人類ジェネシス計画を掲げて曰くのある選ばれた14才位の少年少女を地球防衛基地へ穏便に連れて来て教育し優秀な者は残し、選ばれなかった者はプロキシマ星系アルファ星に造られた人工惑星C2へ移住させている。
簡単に言ってしまえば、地球人には別の星に移住してもらいましょうと言う事らしい。
その代償は保護派が有する知識技術の提供と支援及び連盟加入への後押し。
地球を新人類誕生以前の状態に戻せば観光を再開する事が出来ると考えている。
ただ悪い事にアルファ星系は監視の目が緩いのでガルメニア星人によるものと思われる元地球人の誘拐が横行していた。
それなのに人類保護派による救済はまだ行われていないと言う。
アンバ船長の話しは終わって、目の前のテーブルに載せてる料理を盛った皿も空になってる。
「つまりうちに地球人の代表みたいな看板娘になって笑顔を振りまけと言う事ね、そしたら地球人を殺害しようなんて思う人はいなくなるだろうと考えているのね」
「単純に言ってしまうとそうなるのかも知れませんね」
「そうよね地球人類皆殺し計画なんてとんでもない事だわ、うちが何とかしないとね、そうかぁ、うちがアイドル…とか考えた事もなかったわ、それで何をすればいいのかしら?」
「いやアイリーンさんは今すぐと言うのではなくて(どう見ても幼稚園児にしか見えない子にアイドルさせたら不味いでしょう。敵に塩を送るようなものです)もう少し時期を見て、そう最高のタイミングでと言うでしょう、その時を待って参加してもらおうと思うのです」
「そうよね素人が浅はかな考えだったわ、うちももっと磨きを掛けて最終兵器的存在にしてあげるからその時になったらプロデュースをお願いするわね」
「プロデュースとは違うのですが、まあいいでしょう」
「アンバ船長言いそびれていました。改めてお礼を言います。助けて頂いてありがとうございました。それでこれからどうされますか」
「私たちエム18はスターキッドに攻撃を仕掛けた艦船の調査に向かった搭載機を追い掛けます。そしてそのままあなたから得られた情報を元に冥王星のイノマン研究所を調査します。途中で応援部隊と合流もしますけど一緒に行きますか」
「いいえ、うちは地球防衛基地へ向かいます。そこにはキャプテンライトのクローンがあるはずですので急いで会いたいのです。それにしても地球防衛基地の目的が地球観光の再開を図る為のもので、地球人は何か害虫扱いみたいで嫌になりました。その事は基地に居るどれくらいの地球人が知っているのですか」
「地球から出て来て間もない人には知らせてないでしょう。只、主要な箇所には告知されてる様ですよ。アイリーンさんがその気になったらいつでも私たちは受け入れますのでためらわずに連絡して下さい」
「ありがとうございます。地球防衛基地に嫌気がさしたら直ぐに連絡しますね、好きになっても連絡しますから、その時は嫌わないで下さいよ、色々とお世話になりました。本当に料理は美味しかったです。それでは出発の準備がありますからここで失礼します。また…料理を食べに来るわ」
「本当に休まれてから行かなくていいのですね、ご幸運をまたお会いしましょう」
(うちはもう誰とも別れたくないわ、だから『さようなら』は言わないことにしようと決めたの)
アイリーンはグース小隊長にスターキッドが駐機している格納庫まで送ってもらって再会の約束をして別れた。
「元気にしてた? AIキッドちゃん!」
〈その呼び名は嫌だと言っているでしょう、〈ちゃん〉まで付けちゃってから、各部異常無し直ぐにでも飛び立てます。キャプテン〉
「エム18管制官へこちらはスターキッドただ今より離艦しますので許可をお願いします」
〈スターキッドへこちらエム18管制官了解した。当艦はカタパルト発進のみ採用です。スターキッドは射出完了後に推進機関始動の事。了解ですか〉
「わ…了解しました。準備出来ています。カウントダウンお願いします」
〈10、9、…〉
「AIキッドちゃん大丈夫よね出来るよね、うちは全面的に任せるからね」
〈私は待遇改善と名前の変更を要求します〉
(ほう、この忙しい時に言ってくれたわね)
「別にいいわよ一緒に太陽系のデブリになりましょうね」
(怖がりのキッドちゃんなら耐えられないはずよね)
〈せめて名前だけでも変更お願いできませんか〉
「可愛いじゃないAIキッドちゃん、うちは好きよ」
〈う、嬉しいかも…〉
AIキッドが人型をしてたなら頬を染めたに違いない。
浮か浮かしていたので(宇宙だから仕方がないと思う)気が付いたらAIキッド共々宇宙空間に放り出されていた。
最後に管制官が何か言っただろうけど聞きそびれたみたい。
通信装置をあたふたとセットして呼び掛ける。
「こちらスターキッド、エム18管制官応答どうぞ」
〈こちらエム18管制官、無事な離艦おめでとうございます、その後の綺麗な操縦は見ていて素敵でした。乗組員一同またお会いできる時をお待ちしています〉
「了解しました。本当にありがとうみなさんにまた会いに来ますとお伝え下さい」
(取り敢えず一息入れたいわね。ああ緊張の連続だったわ、地球人が皆うちみたいないい加減な人間だと思われたら方針を変えて来るかも知れないわね。まあうちはお兄ちゃんさえ無事ならいいんだけどね)
「基地まであとどれくらい掛かるかしら」
〈現在速度は光速の13%です。このまま秒速4万kmの速度で飛ばして36時間です。光速の99%、秒速29万7千kmまで加速すれば5時間で到着しますが危険が伴いますし、諸々の理由によりお勧めしません。ここで命を賭ける必要はないと思いますが、諸々の理由を述べますか?〉
「別にいいわよ、8時間とかで安全に到着する方法はないかしら、少し休ませてとにかく眠いの」
〈今の状況下では残念ながらないです。36時間お休みになったら宜しいかと思いますが〉
AIキッドは冷たく言い放った。




