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名誉市民だって 2

「何か私たちにお手伝い出来ることがあれば何でも言って下さいね」

 ブレインの登録をしてくれたエレン室長が伝えてくる。

(お兄ちゃんさえ元通りになれば他には何も望まないわ)

 アイリーンは心の中で返事した。

「これでここでの作業は全て終わりました。控え室のほうで食事の用意が出来たそうですのでお戻りになられていいですよ」

(助かった。これ以上ここにいたらこっちまで泣き出しそうになってたかもだわ… お腹がすきすぎてね!)

「グース小隊長早く戻りましょう」

 なかなか動こうとしないグースさんを急かすように言う。

「アイリーンさんは良く平気ですね、私には生存を認めてもらえないなんてとても耐えられるものではありません」

 グース小隊長がまだベソベソ言ってる、

(はあ、何をさっきから悩んでいるのかと思えば初対面の人間に何でそんなに感情移入できるのかしら、分からないわ)

「はい分かりましたから早く行きましょう、うちはもう色々諦めていますし、慣れましたから…でも空腹とかには永遠に慣れることなんかないかもだわ」

(あれ何でだ涙が出るのは、お兄ちゃんの事は諦めてないよでもお母さん達の時は諦めるしかなかったじゃない。そうだよ自分じゃあどうしようもない事は諦めてどうにかなる事は絶対諦めない。それでいいんだ)

「アイリーンちゃん…通り過ぎたよ」

「え! いつの間に」

(いつの間にうちはグースさんの手を引いて歩き出していたのだろう)

「嫌だわ、考え事しながら歩くと駄目ねぇ、アハハハ」

(お腹が空き過ぎると本当にろくでもない事を考え出すもんだわ、気を付けなくっちゃ)

 本部室の控え室だからといって本部室の中にあるわけではなくかなり手前にあった。

(だから通り過ぎたんだわ本部室の看板がまだ先に見えてるし、決してうちがボーッとしていたからではないのよね)

 扉を開けてもらって中が見えると思わず口も開いてしまう。

 よだれは垂れてない。

「わぁ、ご馳走じゃない…」

 これ、食べられるの?と続けなかったのは自分にしてはアッパレなことだと思った。

 控え室の白いテーブルの上にパーティーでも始めるのではないかと思ってしまう量の見たこともないような料理(お皿の上に盛ってあるから多分料理)が並べてある。

 でも、お箸やフォークが見あたらないので食べ方がわからない。

(これはやはり日常を知っているグース小隊長に頼るしかないわ)

 まさに今、グースさんの黄色いアヒル口がとても気になった。

(鳥さん用の食事かしら…まあ食べてみないことには分からないわね)

「ご馳走ですね」

 グース小隊長は断言した。

「そ、そうよね」

(ほかに何て返事すればいいのよ)

 以前ウオンさんが作ってくれた郷土料理が辛くて一口しか食べなかったら、その後1週間は口を聞いてくれなかったことを思い出す。

「頂いていいのよね」

 アイリーンが聞く。

「宜しいですよ」

 グース小隊長が返事する。

「イスに座っていいんですよね」

「どうぞ」

「一緒に食べませんか」

「では、ご一緒させて頂きます」

(良かったー。これでここのテーブルマナーが分かるってものだわね)

 イスに座ってグース小隊長の仕草を盗み見る。

(誰も居なかったら手づかみで食べても平気なんだけど今はグースさんが見てるからね)

 グース小隊長は直ぐに食事を始めず何やら口の中でゴニョゴニョ言い出す。

(お祈りみたいね、うちもしたほうがいいのかしら、でも見よう見まねでしてはいけない気がするし、こんなことならママがやっているのをちゃんと聞いておけば良かったかもだわね…ただあれは日本語じゃなかったのよね~)

 程なくしてグース小隊長が食事を始めた。

(何だか緊張するけど、後はグース小隊長の食事作法をお手本にして同じようにすればいいのよね)

「おわっ!」

「どうかされましたか?」

(ちょっとグース小隊長~ それは違反じゃなくて)

 グース小隊長が大皿から小皿に手づかみで料理を取り分けて、そのまま直接手づかみで食べ始める。

(そりゃあ誰も居なければうちも手づかみで食べるつもりでしたよ、でも人前でそれはちょっとレディとして… 抵抗感じますわね)

「食べないんですか?」

「遠慮なく頂きますわ」

 テーブル回りにお箸の類いは出てない代わりにナプキンが多めにある。

(やはり指で食べるしかないのか… これが本当のつまみ食い! なんちゃったりして)

 テーブルの上に載ってる茶色の葉っぱ、ピンクの中華まん、真っ黒な食パン、緑色のゴボウ、(どれも、最後に見たいな…が付くけれど)を大皿に取り分けて自分の前に置く。

 飲み物は白と青と透明の液体がそれぞれのピッチャーに入って置いてあるので牛乳の様な白い液体をコップに注いだ。

(ええい女は度胸だ!)

「頂きます」

 手を合わせ食事にありつけた事を(自分に)感謝する。

 自分流のお祈りをした。

 最初に白い液体を飲んでみると…あら不思議ちゃんとした牛乳の味がする。

 ピンクの中華まんは…しっかりと肉まんの味。

(もしかしたら、これは…)

「緑色の『 』を茶色の『 』で巻いて黒い『 』に挟んで食べると美味しいですよ」

 ブレインでも翻訳できない言葉(方言や、その地方にしか無い物らしい)は口パクだけになって発音されていないから何の料理か分からない。

(それでも、ここの料理はうちが想像した料理の味になっている)

 急いで小皿の上を空にして次の料理を取りに行くためその小皿を持って席を立つ。

「アイリーンさん一度使ったお皿はテーブルの上に置いたままで新しいお皿を使って下さいね」

(そうなのね)

「教えてくれてありがとう」

(この灰色の石みたいな固まりは絶対に鳥肉の唐揚げだわ、でも1個だけにしてあとはサラダに(肉だけしか食べてないと知れると絶対ママに叱られる)フライドポテトはどれだ?そうかこれだ、それとさっきからグースさんが食べている短く切ったスパゲッティみたいな食べ物っと。グースさんが透明の液体を美味しそうに飲んでいるけどあれはお酒に違いない。頬っぺたも赤くなって来ている気がする)

 席に戻って食べるとやっぱりだ。

「すごく美味しいわ!素晴らしいことね」

 アイリーンが声高く宣言した。

(思った通り…自分の信じた味になるんだわ)

「アイリーンさんおめでとう、合格したよ」

 グースさんが笑顔で言う。

「えっ、何のこと?」

 控え室の扉が開いて大勢の人たちが入って来ながら褒め言葉を口にする。

「おめでとう」

「すごいよ」

「可愛いね」

 ・・・

「図太いね」

「大食漢」

 最後のふたつは聞き流せない。

「ちょっとそこの2人、喧嘩売るなら買うから…食後の運動にね」

(当然、半分くらいは冗談よ)

 本部室で最初にうちと言葉を交わした人が偉そうに喋り出す。

「素晴らしくて頼もしいけど短気はいけないよ、それではこれよりグエン・アイリーンさんが名誉市民として仲間入りした事による記念パーティーに移ります」

 うちは訳が分からずに口走った。

「なんじゃそりゃー!」

 パーティーは勝手に盛り上りの様子を見せている。

(何でうちが名誉市民になっちゃうの、訳が分からないや)

 小石にしか見えない鶏の唐揚げを食べて、見掛けも同じ牛乳を飲み何種類かのサラダを口に入れ牛乳で流し込み、次の料理を求めて席を立つ。

(しかしうちのカンも正しかったのね、あの品定めする様な目付きはやっぱり評価していたのよ)

 豊な想像力と堅固な意志を持つ事でここの料理は飽きることなく楽しめる。


挿絵(By みてみん)


(グース小隊長もグルよね、食事の後でとっちめないといけないわ、クチバシにも触らせてもらうわなくてはね)

「アイリーンさん楽しんで食べていますか」

 作戦本部室に入った時、最初に声を掛けて来てブレインをこの船に登録しろと言った人だったと思う。

 この人を見た瞬間プロレスラーより強いんじゃないかな、なんて思ったから覚えている。

「はい、すごく美味しいです。ここの料理が想像した味になるってのは素晴らしいアイデアですね。ちょっと精神力を使いますけど」

(信じるものは救われるの典型かしら)

「ハハ、勘が良い方ですね勘以上の物をお持ちの様だ、ご自分では気付かれてないみたいですけど」

(この人だれたっけ?)

「すみません。お名前まだ教えてもらってないですよね」

「それはすまないことをしました。私はこの船の船長を努めますアンバと言います。この船と同じアイン星の出身になります。これからも宜しくお願いします」

『アイン星とか聞いた事もない名前ね』

 小さな声でボソリと言う。

『お答えしますか』

 ブレインがこっそり聞いてきた。

『ありがとうだけどまだいいわ、必要な時に声を掛けるからその時迄待機しといてね』

「船長、できれば何でうちが名誉市民になったのか教えてもらえますか?」

『ただより高いものはない』という言葉が頭をよぎる。

「全部はお教え出来ませんがお話ししましょう。それでも少し長い話になります。それと、聞いて後悔されるかも知れませんがどうしますか」

「うちは聞かずに後で後悔するより、今聞いて後悔するほうを選びます」

「まだ…お若いのにしっかりとした考えをお持ちですね」

 さすがに『幼稚園児みたいに』は省略したようだ。

「ごはん食べながらでもいいですよね」

 それからの30分間、アイリーンはアンバ船長の話に聞き入った。

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