名誉市民だって 1
アイリーンを救助してくれたのは、東域宇宙和平維持連盟所属のアイン星人が所有する母船エム18号の宇宙人で地球人とほぼ同じ体型だけど、良く見ると間接とか筋肉の付き方ががっしりしていてプロレスラーのような体型をしている。
アイリーンが招き入れられた部屋での説明を終えるとザワザワと騒ぎ出したので透かさず言った。
「うちは知ってること全てを言いました。そしてものすごく疲れていてもう休みたいです。でもその前に何か食べさせてもらえませんか」
(お兄ちゃんが言ってたわ『地球人用ではない料理を食べるとお腹を壊しますからね』って、でも今はそんなことを言ってられない、とにかくお腹が空いて…暴れ出しそうだわ)
「それは至らない事で申し訳ない。控え室に食事を用意させるので少し待って欲しい、それで待っている間に君のブレインをこの船のマザーコンピューターに登録してもらえるだろうか、今後のお互いの為にもそうしてもらいたい」
嫌だと言いたいところだがここは背に腹は代えられない。
それにここの人達は良い人だと思う。
会話が宇宙標準語ではなく日本語で喋ってくれている。
あちらのブレインがだけど。
「わかりました。どこで登録手続きすればいいですか」
(もうお腹が空きすぎて一歩も歩きたくないのだけれど、何でかなー、地球人の代表として扱われているような気がしてならないのよねー)
部屋に入った時から皆の品定めするような目付きを受けて困ってしまってる。
(うちはナイーブじゃけん、そんなに見詰めんで欲しかとばってん)
もう少し元気があればアイドルにでもなった演技をして振る舞えるのだけど、今はとてもそんな余裕はない。
「グース小隊長、この子の案内を頼む」
「了解!」
グース小隊長と呼ばれた人はうちの横で立ったまま話を聞いていた人だ。
(多分階級の違いだと思うのだけど、立ったままの人が手前側でざっと30人、残りの20人は奥のほうで机に座って何かしているけど…何かしらね。そう言えばさっきからうちに話し掛けてきてる人は一体誰なんだろう、でもそれより今は隣の小隊長が気になって仕方ないんだけど…)
部屋に入った時の敬礼による洗礼に慣れていないのでずっと下を向いたままでいた。
だから良く見ていなかったけどグース小隊長にはクチバシがあったように見えてそれがいまとても気になってきてる。
ついに我慢できなくなり、チラッと上を見てしまう。
(ヤバイかも上目遣いに見上げてしまった)
直ぐに視線を外し下を向く。
もう一度、今度はゆっくり首を回してよく見ようとする。
(グギギって音がしたみたい、身体が固まってきているよ~)
やはり黄色いアヒルに似たクチバシを持っていて白い顔の頬っぺたが赤い。そういう種族なのだろう鳥さんの種族は初めてだったので少し感動した。
これからも見たこともない色々な種族の宇宙人達に会えるのかと思うとなんだか楽しくなってウキウキしてくる。
「グース小隊長、何を赤くなって突っ立っている。早く行け!」
「は、はい!」
なんだ~ほっぺたが赤い鳥族ではなかったのか。
小隊長に連れられて廊下に出た途端に話し掛けて来た。
「地球人は5才で一人前なんですね驚きました」
クチバシが器用にうねうねしている。
(おもしろ~い、あのくちばしって柔らかいんだあとで触らせてもらえないかなぁ)
「いいえ普通は16才で一人前ですよ(そうよね結婚出来る年なんだし)お酒って分かりますか、アルコールって精神安定飲料は大人年齢20才にならないと飲めない規則があります」
(ここの所をはっきりしておかないとドロンパ号の宴会…じゃなくて親睦会の時みたいに無理矢理お酒を飲まそうとする輩が出てくるもんな)
「それではアイリーンさんはずば抜けた天才でいらっしゃるのですね。羨ましいです」
「いいえ間違えてはいけませんよ、ものすごい努力をした結果なんですからね。何もしないで最初から何でも出来る人なんかいないですよ」
(うちは努力って言葉が大嫌いなんだから建て前ですけどね。もしかして最高の知識と技術を最初から持ったクローンを造れたらそれこそ何でも出来る天才と呼べる人なんだろうなあ、ドクターイノマンがお兄ちゃんにクローンの身体を与えたのもその実験の一環なのかも知れないな、実験体のクローンにお兄ちゃんの記憶と幽体をコピーしたって言ってたもんね)
「すみません、あなたがあのイノマンの遺伝子を受け継ぐ子供だと聞いたものですから、イノマンも5才から天才の頭角を現し始めたと聞いていますよね」
(イノマンって結構有名なんだ、こんな所にまで名前が知れ渡ってるのね。あっ、確認してなかったけどイノマンは地球人で良かったんだよね、『フハハハ』って笑ってたってお兄ちゃんが言ってたから日本人ではないと思うけど)
「うちはイノマンのことをあまり知らないの良かったら教えてもらえますか」
「あっ、すみませんイノマンのことを詳しく知っている人はいないのですよ、今のところ一番知っているのがあなたとキャプテンライトさんだけだったのです」
(まだ生きているのに過去形で言われたりするとお腹が空いている分だけ余計に腹が立つじゃない。いままでの事を説明しても理解出来ないだろうし、お兄ちゃんのことを口にするだけで悲しくなって泣き出すかも知れないから今は何も言わない。考えないっと)
だから心を無にして返事する。
「そうなんですか。うちはイノマンとずっと一緒に居たのかも知れないの、でもイノマンは幽体になったままの状態でうちの体内に隠れ住んでいたのよ、お話なんかはしていないしそんなこと最近まで(宇宙に出るまでかしら)全然、まったく知らなかったわ」
(歩きながら話をしているので疲れたわ、もう歩きたくないヘトヘトよ。グースさん小隊長なら『ヘイ、タクシー』みたいにスライドカーを呼んでくれないかしら)
「この部屋です」
言いながらグースさんがスライド扉を開けている。
「エレン室長キャプテンアイリーンをお連れしましたよ」
ビシッと敬礼…していないし口調も廊下でぐだぐだと話をしていた時と余り変わらない。
「お疲れ、お互い大変ねグースもそろそろここを勤務地に志願したことを後悔されているんじゃない。そちらがアイリーンさんね初めまして、これからも宜しくして下さいね」
(びびった~ さっき色々な種族の方とお近づきになりたいなと思ったばかりなのに今度はいきなりのゾウさんだよ~。ちゃんとお鼻が長いしうちは感動しちゃったね、あっ、挨拶が先か…)
「初めまして、アイリーンと言います。うちのブレインを登録するように言われて来ました。これからも宜しくお付き合い下さい」
これからも宜しくって、この辺りの社交辞令なのかな、もう会うこともないだろうに。
「ちょっと見せて下さいね」
(うわー鼻が伸びてきたよ)
いきなりだったので身体が無意識に反応して一歩下がってしまった。
「あっ、驚かせてしまいましたか、ごめんなさいね地球人の方は初めてなので緊張してたみたいですわ」
エレンさんは済まなさそうに手で頭を撫でた。
「そのブレイン、見た感じは私たちのと同じ同盟の標準仕様ね。だったら問題ないわ始めましょう。アイリーンさんの手をここへ入れてそのまま何か喋ってブレインに翻訳させて下さい。喋る内容は何でもいいですが差し障りのある内容は控えて下さい」
(良く分からないけど、この机の引き出しみたいな所に両手を突っ込んで何か喋ればいいのね)
「あのー、差し障りのある内容って具体的にはどういうものでしょうか」
「そうね今までの事例で言えば…上司や家族の悪口、他人の秘密、自分の懺悔、ここは告解の場所ではないですものね、無難なのは自分の名前から始めて生立ちとかを喋っていると直ぐに終わりますわ」
「分かりました。先に両手を入れるんだったわね何だか言いたい事が一杯あるような気がしてきたわ、そして名前を言って生立ちを話せばいいのね…」
この装置には人が喋りたくなるような、何か特別な仕掛けがあるんじゃないかと思いながら目を瞑って話し出す。
1人で頻繁に公園へ行くようになり出した所で終わりを告げられた。
もう少し喋っていたい想いを引きずりながら目を開けるとエレンさんと後に立っているグース小隊長までが涙を流している。
「どうかしたのですか?」
(うちがお喋りに夢中になっている間に何かあったのだろうか)
「アイリーンさんはたったの5年しか生きていないのに私たちの想像も付かない様な不憫な生き方をされて、くやしくて…もどかしさしかありませんでしたわ」
(そんな勝手に同情されて泣かれても困るんですけど~)




