太陽に向かって…
敵の大型戦艦より発射された髙重力場をできるだけ直進して躱せる進路をAIが導く。
そうしないと行路が大きく逸れて後が面倒になりそうな気がしてならない。
「1個目クリア、2個…」
ズッズゥ~ン~と後ろから押された感じがする。
(追突された?そんな馬鹿な)
2個目をクリアした。
3個目はまだ小さい。
〈3個目には突入して下さい〉
「何で?って間に合わないわ」
そのまま突っ込む。
今度はガクンと急ブレーキが掛かったみたいな感じがした。
「何なのよ、重力安定装置が故障でもしたの?でも敵の攻撃もないわね、どうしたのかしらクリア出来たの?追っても来てないわよね?」
〈前方に障害物はありません、敵の追跡はありますが通常空間航行でこのスターキッドに追い付ける宇宙艇は他にありません。重力安定装置の故障もありません〉
「そんなに断言しちゃって、後になって間違いでしたって言わない?」
〈さっきの重力場回避時にスイングバイ加速が2回行われました。現在当艇の速度は光速の99.9%です〉
「わぁ光速アイリーンじゃない、さっきブレーキ掛けなかったら良かったのにぃ」
〈通常空間航行で超光速航行を行うと時間軸限界点を突破してしまい、時間が逆行するため幾つものパラレルワールドが発生と復帰を繰り返す現象が起きるとされています〉
「パラレルワールドの世界を飛ぶってのも有りなんじゃない」
〈可能ですが元の世界に戻れる可能性はゼロとされています。戻った世界は既にパラレルワールドの世界とされているからです〉
「良く分からないよ~、うちはお兄ちゃんさえ無事なら良いんだからね」
〈神が造られたこの世界のエントロピーは一定量しかないとされています。パラレルワールドの発生が復帰を上回った時、世界のエントロピーが希薄になり最後は消えてなくなるのではないかと危惧されます。あなたも、あなたのお兄ちゃんも消えてなくなるのです。それで良いのですか〉
(AIに脅迫されている?)
「エントロピーがゼロになって世界が消えるにしたって、お兄ちゃんと一緒ならうちは構わないわ、それよりAIのくせに神だとか危惧だとか言い出すのね、本当にさっきはうちが操縦していて良かったと思うよ、あんたに任せていたら敵前逃亡していたかも知れないわ、あんたAIのくせに命が惜しいのね」
〈あっ、私の事をAI、AIって今まで無事でいられるのは私のおかげですからね感謝こそすれ、良くそんな悪口を言いますね後で後悔しても知りませんから〉
「うちは後悔しない生き方をしているのでご愁傷さま。その時はあんたを見直して褒めてあげるわ」
〈では直ぐにでも褒めてもらいましょうかね、実は…〉
「それはそうと、あなたに名前を付けなくてはねAIキッドなんてどうよ?ぶフフ…」
〈嫌がらせ? いやがらせですよね、本当に子供なんだから… そう言えば本当に子供だったですね… どうするの? どうすればいいのですか、こんな子供と一緒にそれもニ人だけで心中みたいにして死ぬのは嫌ですよ!〉
「いや死なないから誰もあんたと心中なんてしないからうちはお兄ちゃんと…って違うでしょう、それより何か言い掛けたでしょう」
〈感謝して下さい、迎えが来ました。今すれ違いましたけど。私が出したSOSを誰かが受信してくれたみたいです。後方から追っ掛けて来てますけど距離が開くばかりですので減速して待ちます。通信可能になりますからコンタクトの準備して下さい〉
「そんな大事な事は先に言いなさいよね、それにうちの指示がなくて勝手にSOS出したり減速したり、したのね」
〈SOSはほぼ自動発信です(ウソです)あれだけ出鱈目な出発すれば(とても生きた心地がしませんでした)、そして普通、助けが来たら減速して停止して待つでしょう。誰がやるにしても(神にも祈りますって)〉
「あっ、今殺るって言ったわね、仲間を撃つ気?」
〈冗談ですよ冗談、少しは鬱憤を晴らさせて下さいよAIでも鬱になるのです。それとまだ味方だとは断定されていません(この際、助けてくれるなら悪魔でもいいです)〉
「鬱なAIなんて想像したくもないわよ! それと敵は後方なんでしょう、だったら前方から来るのは味方だって言うのがセオリーね」
〈スターキッド応答して下さい。聞こえていますか?〉
「ほら味方みたいじゃない、でも受信音声を変えないとダメねAIキッドと同じじゃ紛らわしいわ」
〈お願いだからその呼び方だけは先に変えて…〉
「慣れるわよ慣れよ馴れね、それより、返事しなくていいの?」
〈キャプテンがするのあなたがキャプテンなの他に誰かいますか?〉
「AIキッドがすれば…ってそう言う訳にはいかないのね、わかったわうちが応答しちゃる。でもキャプテンってへへ、照れるわね」
〈さあ早くやり方は分かるでしょう〉
「通信席のディスプレイセットをこっちに転送してっとスイッチON、こ、こちらは、ス、スターキッド、キャ…キャプテン代理のアイリーン…です。分かりますか」
〈キャプテン・アイリーン?登録はないようですが、所属はどちらですか?〉
「いや、説明が難しくて石井光一…キャプテンライトで登録ないですか」
まだ無理…お兄ちゃんの事を思うと涙が出てしまう。
〈キャプテン・ライトでしたらドロンパ号のキャプテンで登録されています。そちらのビーコンはドロンパ号搭載機のスターキッドで間違いないですよね、先程あり得ない速度ですれ違いましたから不審に思いまして、SOSの発信源はそちらで間違いないですか? それでしたらあなたはドロンパ号で新規に登録されたグエン・アイリーンさんで宜しいですね、 地球防衛基地の方からスターキッドの捜索願が出されてましたので巡回中でした。お会いできて幸いでしたね〉
「はいその通りです」
〈え~っと登録内容では、ご、5歳になっていますが、間違いですよね〉
「いいえ、5歳で間違いありません」
〈同乗者は…キャプテンライトは負傷でもしているのですか?〉
「他に誰もいません!」
ダメだ声が詰まって上手く喋れない。
〈現在の操縦者はあなたですか、当船への着艦は可能ですよね?〉
「可能です…誘導信号出して下さい」
アイリーンは多分と言う言葉は飲み込んだ。
(『出来ないよ~』とか言ってみたいなー、少しくらい嫌がらせをすると気分が晴れるのかもしれないのだけど…いけんいけんうちも大人になるんだからね。涙も止めて見せる)
アイリーンは踏み止まった。
「それとうち達…スターキッドを追い掛けて来ている船がありますが分かっていますか」
〈相手は一隻ですね一個小隊を向かわせます、敵ですか兵力は分かりますか〉
「敵です。髙重力力場を展開してきたという事しか分かりません」
〈ありがとう、それだけでも十分助かります。もう直ぐ着艦ですね迎えが行きますので同行して来て下さい。それで本当にお一人ですか?〉
誰もが驚く程綺麗な着艦をする。
迎えに来た隊員達もうちを見てさぞ驚いた事だろうとほくそ笑む。
セーラー服を着た幼稚園児みたいな子供が一人しかタラップを降りてこないのだから。
「お迎えに上りました。どうぞこちらへ」
ビシッと敬礼される。
後に隠れられるお兄ちゃんはここには居ない。
うちが泣き出したらこいつらどうするのだろうかと好奇心が湧いてきた。
いかんいかんと首を振る。
(うちは心が病んできてるのかしら…)
「どうかしました。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。行きましょうか」
迎えの為に乗って来ている4人乗りのタイヤが無いオープンカーみたいなスライドカー?に乗り込んだ。
(へぇー、重力安定装置を利用しているのかなぁ)
スライドカーが床面すれすれに浮上して音もなく進む。
着いた所の入り口には統合作戦本部と書かれた看板が不自然にぶら下がっていた。
迎えに来てくれた人がドアを開けると扉の向こうで大きなテーブルを挟んで50人ほどの人がこちらを向いて敬礼している。
ドロンパ号の食堂で連絡会・懇親会などとふざけた事をしていたのを思い出して涙が溢れてくるのを感じた。
だからそれ以上は何も考えない。
うちは敬礼には答えず一番手前の空いているイスの手前で黙ったまま立っている。
「どうぞお掛け下さい」
幼稚園児に敬礼して丁寧語を使うってどんな気持ちだろうと想像してみたが失敗した。
黙っていたら事は進まない。
うちは心を無にして、光兄ちゃんに出会ってからの事を箇条書きにして話し始める。




