初陣だよ
食堂に集まっていた100人超えの参加者が一斉に1ヵ所しかない出入口に集中して入り込めない。
「しかし人が多いねアイリーン少し待たないと出られないかも知れないよ、次までに何か対策しないと」
「そうだね、今あそこに行ったら押し潰されてしまうね」
光一とアイリーンは顔を見合わせ肩をすくめた。
「なに呑気なことを言っているのですか、キャプテンが指揮を取らなくてどうするのですか、早くこっちへ走って!」
ラッキーが怖い顔して叱咤してくる。
人が話をしている途中でいつも割り込んでくる調子のいい奴だ。
ゴリラ顔とかライオン顔の強面の人が人波を押さえ、2人の通り道を確保して早く来いと腕を振って促す。
「ねえ、地球の動物達が進化して宇宙人になったのかなぁ、動物顔した宇宙人が地球に来て動物になったのかなぁどっちなの?」
(好奇心を抑え切れない気持ちは分かりますけどね、今はそんな時と場合じゃないでしょう)
「後でね、今は急ぐよ!」
光一はそれだけ言ってアイリーンを掬い上げて前抱っこして駆け出そうとした。
そして最初の一歩を踏み出した所で横幅が二人分はありそうな巨人にまとめて抱えられ凄いスピードで食堂から抜けだす。
「アイリーンさんを落とさないで下さいよ」
巨人の野太い声が聞こえる。
「やあヘラクレス君ありがとう」
あっという間の出来事だった。
アイリーンが言葉を発する前に二人して『エッグ』に放り込まれ緊急優先発進によりドロンパ号の艦橋に到着する。
「うちも挨拶したかったのにぃー」
「舌を噛んでたかもしれませんよ、黙ってて正解です」
アイリーンは光一に抱き抱えられたまま小さくなった。
「状況報告を!」
小さな女の子を抱いたままの光一がキャプテンライトになっていく。
艦橋にいる大勢の人は自分が受け持っている仕事に集中してわき目も振らない。
そんな中、細身のテラマンだけがお兄ちゃんに近づいてきて敬礼をした。
「ルナ・ターミナルを出てから当船の後を星籍不明の中型戦艦が一定距離を保ったままで付いて来ています。こちらからの問いかけに対しては全く応答無しです。中型戦艦のほうが足が早く戦闘能力も高いので下手な挑発はしていません。次の対応のご指示お願いします」
「サキさん、報告了解しました」
(テラマン? 女性だからテラウーマンよね)
アイリーンは一人突っ込みを入れてみた。
「お兄ちゃん、下ろして!さすがにこのままでは恥ずかしいよ」
「ああ、ごめんごめん」
「ごめんは一回でしょ」
「ハイ、ハイ」
「ハイも一回!」
「ご…、」
「仲が宜しいんでしょうけど早急に ご指示お願いします」
サキさんはもう少しで眉間にシワが入るんじゃないかと思われるくらい怖い顔をした。
「確認ですがルナターミナルの保安局には連絡したんですよね」
「連絡はしましたが応答ありません。防衛基地のほうへもいくつか連絡しましたが応答がありません。当然、当船の故障でもありません」
(人為的な妨害か、超自然現象なのか?)
「無人機をルナ・ターミナルに向けて飛ばして下さい」
「了解しました。無人機発進!」
サキが踵を返す前にチラッとアイリーンを見たのに気付く。
光一は気になってサキさんの視線をトレースする。
「アイリーン、その胸ポケットからはみ出ているのは何ですか?」
「非常食よ、いま非常事態なんでしょうだから必要よね」
「非常食… いらないから僕に渡してもらえますか、捨て、いや預かっておきますね」
アイリーンはラップに包んでひしゃげたサンドイッチを渋々キャプテンに手渡した。
「うちが食べるんだからね」
「分かったから」
「キャプテン!!」
外部環境監視席より悲鳴に近い報告が上がる。
「無人機消滅!撃墜された模様」
直ぐに少し落ち着いた報告があった。
「無人機だとバレたのかな?」
「至近弾を3発撃たれた後の自動回避行動で無人機だとバレたと推察されます」
「なる程、圧縮弾だったね、でも、こっちへはまだ直接攻撃がないか…そして、どこにも連絡が取れない。こっちは足が遅くてトンネルまではあと2時間、先方にはまだ仲間がいる可能性が高いが近くにはいないかぁ、今の状況はこんなものかな」
光一が指揮席の回りに映し出されているディスプレイを睨みながら独り言を言って指揮棒を振り回している。
「お兄ちゃん!一緒に出よう」
アイリーンが力強く可愛い声を掛けてくる。
「お兄ちゃん・・・このまま奴らの思い通りになるのは詰まらん一泡吹かせてやろうではないか」
アイリーンが一オクターブ低い声で喋ってきた。
こいつは今なのか?アイリーンの肩を掴み見つめる。
「どうしたの? 青い顔してるよ怖くはないでしょう、うちがいるけんね」
「もう居ないのか脅かさないでくれ」
「うちが居るよ、いきなりどうしたのさー、昼間っから幽霊でも見たみたいな顔してるよ」
「いいやさっき一緒に出ようって言ったのはアイリーンなのかい、なぜ?」
「あいつらきっとホテルの前で襲ってきた人達だよ、だってあの船の後ろの方が赤く塗ってあるでしょう、あの赤はレジスタンスを意味する赤だと思うわそして狙われているのはお兄ちゃんよ、イノマンの関係者だろうと言っていたじゃない、だからうち達が出て行けばこの船は逃げられると思うわ、その時うちを置いていったりしたら追いかけるからねそしたらもっと、厄介な事になるわよ!」
(幼子に脅迫されてしまったよ~)
「僕もそれが一番いいとは考えていたんだ、アイリーンは置いて行くつもりだったけどそこまで決意しているのなら一緒に行こうね」
厄介な事になるのは嫌だからねとは言わない。
「副官のホークは居るか、私とアイリーンは当船を離脱する。後の指揮は任せたこれを第1級命令にする」
「了解です。ただ私は反対した事をここに記録させていただきます」
司令室内でも全てが自動で記録されているので言葉にするだけで記録保管されている。
「一番足が速いのは光速小型艇のスターキッドだったかな、発進準備は整っているね」
(ここで整ってませんなんて言ってみろ独房どころでは済まさないぞ)
「大丈夫です。装備は標準のままです。装備の交換には、じゅ…8分必要になりますが交換されますか」
「BK1と円太2追加装備して下さい。5分でお願いします」
「了解!」
アイリーンがまた名前で文句いうんだろうなとチラリと顔色を伺う。
「もう馴れたわ、それよりうち達の準備も急いだほうが良いんじゃないの」
「いやこのまま行くよいいよね、あっトイレは済ませたよね?」
「ラジャー!」
ラジャーだけじゃ良く分からないけど『大丈夫だよ』と解釈しておこう。
「これに乗るの?」
アイリーンの目が輝く、僕達は小型艇の発着所でスターキッドの真下にいた。
スターキッドは先端が尖っている完全な特攻型戦闘機の外見をしていてアイリーンが歓喜するのも理解できる。
中央の開口部より昇降機が降りていて、それに乗って艇内へ入って行く。
アイリーンが先に操縦室に入り振り向きながら叫ぶ。
「うちが操縦席でいいでしょう!」
いい訳ないでしょう!と言うのはやめた。
最後になるかも知れないので好きにさせよう。
「オモチャじゃないんだからね」
「やっぱりダメだよね」
「壊さなければいいよ」
「やったー!大事にするよ」
「操縦できないよね」
「お兄ちゃん手伝って!」
私はあの人が出て来るとばかり思っていたが気配がない。
アイリーンを操縦席でオートホールドさせ安全確認した後、私は副操縦席でオートパイロットシステムチェックのコマンドを入力していく。
操縦席回りはリトルバードとほぼ同じ造りになっていて、アイリーンは一度見たら覚えるみたいなので説明する必要がなくて助かってる。
何かあれば聞いてくるだろうからそれまでは自分の仕事に専念した。
「発進して60秒まで自動、その後手動に切り換えて切り換え操作は僕がやるからアイリーンは姿勢制御に集中してね、反射神経に期待してるからね」
操縦と姿勢制御はアイリーンに任せてそれ以外は全て私が行う。
それだけでも凄く楽になるので余裕が出来た。
「ラジャー!」
アイリーンは各種のディスプレイを鬼の様に見つめて小言を言いながら操縦席の角度を調整したりディスプレイの表示位置をずらしたりしている。
「発進10秒前」
「ラジャー!」
アイリーンの操縦席がかなり出っ張ってきているが、自分の大きさに回りを合わせようとするとこうなってしまう。
(しょうがないなぁ)
光一が心の中でぼやく。
「発進!」
急加速しているけど重力制御装置の働きにより操縦室内は加速によるGの影響は受けない。
直ぐに敵の有効射程距離内に入る。
「大丈夫?」
「ラジャー!」
「えっ? そんなに緊張しなくて良いから」
「そんなに緊張してないわよ、でも、直ぐに緊張しないといけないね、敵の圧縮弾連射口にロックオンされたわ、無人機の報復に来たと思われたみたいよ、こっちは単騎だけど攻撃機だし… 攻撃機だよね? 来たわ6発」
「迎撃する」
圧縮弾なら回避できる。
回避出来るにしてもこちらの攻撃力を誇示して相手を牽制する必要もある。 だからまだ光速小型艇だとは言わないでおこうかな。
「全弾迎撃成功…これを見て諦めてくれないかなぁ…」
「キャプテン降伏勧告してみたら」
(アイリーンったらいきなり良いことを言う)
「でもさ、通信妨害されてたんじゃなかったかなあ」
「キャプテン! まずやるのそして考えるのよ!」
ちょっと違うような気がするしアイリーンの『やる』が殺るに聞こえたような気がしてならない。




