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夢見る乙女

 惑星間宇宙船『ドロンパ号』は東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地に向けて出航する。

「それでは各人配置に付いて下さい、1時間後に恒例の連絡会をいつもの場所で開きますので段取りお願いします」

「はっ! 一つ進言しても宜しいでしょうか」

 さっきから光一に話し掛けている白い制服の鳥頭が言う。

「いくつでも良いですよ」

「キャプテンの言動が緩いため隊員もつられて緩くなっていますのでもう少し綱紀粛正をなされた方が宜しいかと愚考いたします」

(言葉遣いを厳しくしろってか…)

「いやだね私はぬるま湯が好きなんですよ、それではまた後で」

 アイリーンの手を引っ張って静かになった廊下を歩き出す。

「お兄ちゃんは本当にキャプテンだったんだねここではそう呼ぶよ、本当に現実に付いていけないってのはこういう時に使う言葉なんだね、いま初めて実感したよ、それとリトルバードって名前はうちも好きだよ。本当だよでもキャプテンライトってなぜ?光一だからなの」

「アイリーンが前に言っていたよね石井光一は冥王星で死んだのさ。この体はドクターイノマンのクローンなんだしね、だから新しい名前が必要だったんだよそれでライトにしたんだ。さあもう少しだけ歩くよこの先の部屋でアイリーンの登録を済ませるからね」

「おに…キャプテンは、え~っと何とかって会議に行くんだよね、うちを置いて行くんだよね…おとなしく待っているから心配しないでね」

 無理だねと直感した。

 少し考えただけで心配事が一杯になる。

 だからあえて言った。

「アイリーンは僕のことしばらくお兄ちゃんと呼んでくれるかなぁ、皆の反応を見たいからね、悪いけど協力して欲しいな」

「願ったり叶ったりだよ、うちも助かるよキャプテンなんて呼んだら、もうお兄ちゃんじゃなくなっちゃうもんね」

「登録終わったらブレインを付けてもらえるから、そしたらブレインが言葉を分かる様に翻訳してくれたりいろいろ教えてくれたりするから…ブレインの言うことだけはしっかり守るんだよ、そうしたらあっちこっち探検してもいいからね、それとアイリーンのことはこの船の乗組員全員が知っているので邪険にはされないと思いますよ」

「えっ! うちは重要参考人だったりするわけなの違うよね、これから宇宙裁判でお兄ちゃんの証人発言したりして…あはは」

(そんな訳あるかい!)

 光一は口に出さずに突っ込みを入れた。

「アイリーン夢見る乙女もいいけど現実もしっかり見ようね。いいね!」

「キャプテンらしい言葉だね見直したよ、あはは…」

 アイリーンは少しだけ悲しい笑顔を見せた後、直立不動の姿勢で敬礼した。

「アイリーン三等兵、これより単独任務を開始します!」

(まだだってば~)


挿絵(By みてみん)


 誰も居ない白い光に照らされた長い静かな廊下を二人で歩くというのもなかなかいい雰囲気だと思う。

「誰もいないね」

「みんな出航したばかりなので持ち場に付いて緊張しているよ」

「お兄ちゃんはキャプテンなのにこんな所をうちと歩いていたりして大丈夫なの、司令室でデ~ンと構えてなくていいの」

 アイリーンが何かそわそわしている。

「宇宙艇の時も言ったけど、これからやる事が決まっている時は任せることにしてるんだ。みんなベテランのプロだからね、僕がいると変に気を使わせてしまうから何かあったら連絡があるだろうし、ヘマをやらかしたら僕が責任取るだけだからねそれよりトイレ我慢してないかい。早めに教えてって言ってたよね」

「お兄ちゃんトイレあと1時間は我慢出来るよ、場所だよ場所、場所さえ教えてもらっとけば安心できると思うよ」

「ちゃんとしたトイレは居住区にしかないけど簡易トイレなら各ブロックにあるよ、ここの登録管理室にもあるから、慣れる為にも時間がある時に経験しといたほうがいいね…久しぶりに来たけどこの辺で良かったはず」

 白い光に照らされたどこまでも続く長い廊下にしか見えない壁に手を当てると、手は何の抵抗もなく壁の中に入っていく。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんの手が壁に食べられちゃったよ!」

「ハハハ、壁の中に呼び鈴があるのさ」

 アイリーンは私の説明など聞かずに壁をバシバシ叩いている。

「うちは嘘つきじゃないのに入れてくれないよ、美味しくないのかなぁ」

「壁をバンバン叩かない。うるさいよそれに嘘つきでも登録さえしていればベルは押せるから」

 壁からいきなりキリンが出てきた。

 でも良く見るとドアみたいなのが開いてキリンも人間さんみたいで首だけがこっち側に出ている。

「ああキャプテンか待っていたよ、その子がアイリーンさんだねさあお入り」

「さあ行っといでア、アイリーン?」

 アイリーンが私の後ろで服を付かんで離さない。

 ちょっとまて人見知りにも程ってもんがあるだろう。

 まあ、ちょっと宇宙人ではあるが。


挿絵(By みてみん)


「大丈夫だよ、頭がキリンさんだけと優しいジラーフって言う名前のお姉さんだよ、山羊さんよりは怖くないでしょ」

「誰が怖いって!」

「ぎゃっ! いたのですか、いえゴートさんが怖いって一言も言ってませんから…」

「いま言ったじゃない。本当にこのキャプテンは大事な時にはいつもフラフラブラブラ出歩いているんだから、少しはブリッジの連中の心労を軽くしてやろうって気持ちは持ってないのかねぇ」

(横長の四角い瞳であまり見つめないで下さい… 怖いから)

「あっ、ゴートさんこの子がアイリーンさんです」

 アイリーンを引っ張って前に出して注意を反らす。

 ゴートさんの小言を黙って聞いていたらどこかの会長さんより長くなるのは確かだ。

「引っ張らないで!」

 アイリーンが珍しく反抗する。

 何の事を話しているのか分からないけど、とりあえず自己紹介でもしとけばいいのよね。

「グエン・アイリーン、昨日で5才になりました。3日前にキャプテン・ライトに地球の日本より連れられてやって来ました。どうぞ宜しくお願いいたします」

 しっかりした挨拶だけど、まず何を置いても言葉だなとジラーフさんは納得する。

「ジラーフさん最初にブレインの装着から頼むよ」

「そうですよね言葉が通じないと不安が増幅しますからね、分かりましたわ」

「ゴート、アイリーンさん用にセッティングしていたブレインをそこの棚から出してもらえますか」

「はい分かりました。いつもの場所で変わってないですよね、最近は来る度に配置が変わっているので大変です」

「そうね、ゴートは今日みたいにお客さんが来る時しか来ないものね、ここ最近は誰も来ないものだから暇をもて余してしまってつい配置換えを始めてしまうのよね、自分でも悪い癖だとは分かっているわ」

 ジラーフさんはそう言って首を竦めた。

 キリン型人間と言っても特別に首が長い訳でなく、普通の人より少し長い位でそれはそれで可愛いいと思う男性もいるだろう。

「アイリーンさんこれからブレインを装着しますが首と手首どちらにしますか、ネックタイプがおすすめですがどうしても首に巻き付けるのは嫌だと言う方が多くて、それまで使っていたハンドタイプも引き続き使って良いことになりましたので今は選んでもらっています」

 ジラーフさんが日本語で喋ってくれてる。

 でも彼女の口の動きと聞こえる言葉が一致しない。

 明らかな口パクなのが分かる。

「ジラーフさんそれはブレインさんが喋っているのですか?」

 アイリーンは人見知りより好奇心のほうが勝ったようだ。

「そうよネックタイプにするとこう言った事が簡単に出来るのよ、他にも手首タイプでは出来ないことが沢山できるの、でもね、首には着けたくないと言う人が多くてね、あの時は相当困ってしまったわ」

「うちは首に着けるのでいいわ、早く皆と仲良くなりたいし多機能ってお得感増し増しじゃない」

 私の後ろに隠れて人を威嚇する様な大声で喋っているアイリーンの頭を優しく撫でてやる。

 アイリーンが例の上目遣いで私を見る。

「分かったわ任せられるわね。諦めるのには馴れているの、お兄ちゃんはお兄ちゃんを必要としてる所へ行ってらっしゃい」

 アイリーンが私の前に回り込み、私をドアの外に押しやろうとした。

「アイリーン分かったから、押さないでそれじゃジラーフにゴートさんあとは頼んだから宜しくね」

 登録管理室から出ると後ろを見てアイリーンが出て来ていない事を確認して、壁のさっきと違う場所に手を入れる。

「アイリーンに見つかると厄介な事になりそうだからね」

 別の扉が開いて中に入ると白い巨大な玉子が置いてある。

 玉子の側面に手を当てると縦長の長方形に亀裂が入り上方に開いていく。

 中を見るとお相撲さんが2人は座れる大きさのベンチシートがある。

 光一は馴れた手付きで入り込みベンチシートに腰掛けた。

「久しぶり、食堂まで頼むよ」

 ベンチシートに深くもたれ掛かりながら独り言の様に言う。

 〈いつもお疲れですね、疲れていない時はご利用されませんからね〉

 ドロンパ号を統括管理しているAIが答えた。

 この巨大な玉子はドロンパ号に張り巡らされたチューブの中を高速で移動するためのエアカーみたいなもので『エッグ』と名付けられていた。

 

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