102. 女性艦橋主任サキの手柄
アイリーン達はガルメニ人の格好をしていたフレア族妖精ロースさんの話しで、基地に奇襲攻撃を仕掛けたのがガルメニ艦隊と偽った別物であることを突き止めた。
しかしまだ全容が明らかになっていない。
オビス司令官は基地の中に手引きをした者が居るのではないかと考え、何とかスパイの炙り出しができないものかと考慮する。
そこで本当の趣旨を誰にも言わないまま、スターキッドをガルメニ人に奪取されたと偽ってアイリーン達と一緒になって基地を飛び出す。
新月さんについてはそれ以前に『地球上に於ける豊福昴くんの見守り任務の完了』を告げて本来の姿である成富支部長配下へ戻ってもらってるのだけど、あれやこれやの憶測が積もって変な話で落ち着いている。
スターキッドが基地を飛び出して周囲に混乱の波紋が広がり続け3時間が経過した頃、輸送艦キャメロットの中でもてんやわんやの大騒ぎになっていた。
基地の防衛任務に就いていた艦隊は残存敵艦の索敵と掃討で出撃のままになっていて基地に戻れていない。
補給艦はそんな艦への補給対応で大忙しになっている。
キャメロットも3回目の補給任務へ向かうために自身の補給を行い出航準備をしていた。
そんな中とんでもない命令が飛び込んでくる。
そしてホーク艦長は吠えまくった。
「戦艦マリンへの補給任務だとおー 、ヘンナ副司令官は何を考えていらっしゃるのか、マリンはスターキッドを追い掛けてもう遥か彼方を飛んでるんじゃないのか、スピードが遅いこのキャメロットでは到底追い付けないと気付いて欲しいものだけど。おまけに何ですかこの当てこすりみたいな辞令は、今の糞忙しい時に人事異動って…」
ホーク艦長は少し冷静にならなくてはと思い指揮卓の回りをゆっくりと歩きだす。
(まあ確かにスターキッドはこの艦の搭載艇だったのだからその頃の乗組員と入れ換えるってのも意味があるのかも知れないが、しかしなあ~ これってヘンナ副司令官派を下船させてオビス司令官派を乗せて行けっていう図式そのものじゃないですか、全くヘンナ副司令官の考えてることが手に取るように分かっちゃいますけど、まさか基地に戻れなくなるってことはないでしょうね~」
キャメロットのホーク艦長が頭を抱え込んだままだんだんと暗い表情になっていく。
そんなホーク艦長を横目で見ながら 艦橋主任のサキも警戒心を募らせている。
(嫌な予感がしますわね、出航間近のドタバタってのは縁起が悪いんですよねー、 特に最近はきな臭いにおいが漂ってるみたいで気になりますしね、ヘンナさんだけに変なことしてないといいんですけど)
サキも1人妄想に耽りながら通信士サスケの横に立つ。
「ねえ、絶対に迷惑は掛けませんから横に座って、ちょこっと触らせてもらってもいいでしょうか」
美人のサキが突然そう言いながら隣の補助席へ座ってきたのでサスケはビクッとして赤面する。
(ああ、通信機ね…ボーッとしてたとはいえとんでもないことを想像してしまった)
「あまり目立つ事はしないで下さいよ」
小声でそう言うのがやっとだった。
「大丈夫よ、ちょっと盗み聞きさせてもらうだけだから」
サスケはちょっとだけイヤな顔をして少し昔の逸話を思い出す。
(サキさんは元通信士だったんだけど、自分の趣味で軍事通信を傍受し一般兵が知り得ない情報を提供するアルバイトをしてたのがバレて、士官兵から一般兵へ降格処分になって清掃員をしだしたんだよなあー、その時に環境管理士のキャット星人フェリスが自分の立場を利用して部下の女性にセクハラしてるのに気付いてホーク艦長が開設していた『井戸端ホークに言いたい放題』のフォーマットに入力した。それが元でフェリスは解任されサキさんはホーク艦長から感謝状をもらった上に艦橋主任って役職まで手に入れたんだ。あの時サキさんが直属の上司に報告しただけなら、もしかしたら今でも下働きのままだったんじゃないかなあと思うんだよなあ。まったく運がいいのか要領がいいのか羨ましいったらありゃしない)
そのサキが今は真横に座って一心不乱に機器の操作に没頭してる。
(何年も触ってないけど腕は鈍ってないみたい、それに昔より操作が簡単になってるような気がする。防御障壁も無いみたい)
まさか基地のメインコンピューターアシュラがサキの手助けをしてるとは誰一人として知る由もない。
(ふむふむ、あれ?過去の通信ログまで見れてるじゃないどうなってんだこれ、でもこれって…あってはならない事だわ、ヘンナ副司令官はクーデターでも起す気なんじゃないかしら)
サキは自分が今使っていた全ての機器を一瞬で完全にシャットダウンした。
当然、自分の通信ログを完全に消した後でだ。
(ホーク艦長に言った方が…言わないと駄目よね、苦手なのよねーあの人のあのタカの目で見られると、何にも悪いことしてないのに洗いざらい白状しないといけない気分になるのよねー、生前は神父さんだったんじゃないかしら)
サキはホーク艦長が座る指揮卓までやって来て話し掛ける。
「ホーク艦長、報告したいことがあるのですが百聞は一見に如かずと言います。端末を操作させて貰もらっても宜しいでしょうか?」
ホーク艦長は顔に似合わず頭が柔らかい人で素直に場所を譲った。
サキが昔やっていた趣味の事も良く知っていたので、これから何をするのか予想ができたのも理由の一つ。
黙って席を立ち嘴を振って座ることを促した艦長に驚いたが、端末を操作して出てきた資料の緻密さとその量を見て更に驚く。
(艦長が使う端末だからかなあさっきよりすごく細かい、ヤバイ…個人情報まで解析されている)
サキは素早く席を立ち、モニター画面を手の平で指し示す。
「艦長これをご覧になって下さい。あっ、私は内容を見てない、知らない、言わないと誓約致しますのでこれにて失礼します」
(ホーク艦長は私達に優しく接しようとしてくれてるのだけど、見た目と内面から醸し出されるオーラが半端じゃないのよ、早く離れたい)
サキが席を立ったのでホーク艦長が座り情報満載の画面を一目見て声を発す。
「待ちなさい」
(やっぱりこうなるのか)
サキは一瞬身を縮め艦長の方へ向き直って目を瞑り次の言葉を待つ。
「ありがとう」
「はあ…?」
思わぬ言葉が返ってきたので自分の耳を疑い気の抜けた返事をしてしまう。
「昔の悪い癖が出たんじゃないかとか何をどう思ってこんな事をしたのか聞かないから、少しだけ君の意見が聞きたい。まあ他の人はそんな時間が取れないからなんだけどね、これを見て知って理解して…理解してるよな、だから私に見せたんだ。これは命令だ君の思った事を発言したまえ」
(言うの?ここで、皆に聞かれたらまずいんじゃないのかなあ、それに私の正気が疑われて隔離されたり、前みたいに清掃の補助員でバケツの水汲みには戻りたくないよな、でも艦長を信じてみるのもいいかもね)
「私が思ったのはヘンナ司令官がクーデターを最初から計画していたのではないかという事です。それこそ東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地を作り地球人排斥運動を始めた頃から駒を集め布石を置いて時が満ちるのを今か今かと待っていたと思います。開示されたデータがそう物語っています」
クーデターという言葉の響きには魔力が宿る。
艦橋内で忙しく作業をしていた人達が動きを止め艦長と主任を視線の矢で射貫く。
「私はまだ内容を精査していないので判断しかねているのだが、サキ主任の言ってることに間違いはないだろう、間違いであって欲しいとの思いはあるがデータが事実であると示している」
「艦長!このまま出航して大丈夫なのでしょうか、基地を出てしばらくした辺りで罠に掛かって…宇宙の藻屑になってしまうのではないでしょうか」
航海士のラッキーが大きな声で叫ぶ。




