101. ヘンナ副司令官の誤算
時間が少し遡り、アリオン艦長が地球衛星軌道上で最後の命令書を作戦に参加している艦に向かって読み上げている。
「・・・これにより作戦の終了を告げる。最後の最後にスターキッドによる妨害があったものの5年にも及ぶ過酷な任務に良く堪えてくれた。これから戦艦マリンと保護した地球人を乗せた戦艦セドナと輸送艦ケンタウルスは基地へと向かう、他の艦は整然と隊列を組んでルナ・ターミナルへ向かいそのまま休暇に入るように、解散!」
東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地、あくまでも宇宙人のための地球防衛基地なのだけど、そこではドライアイスメテオ作戦が大成功とは言い難いけど失敗したとも言えない状況に終わり、お祝いしていいのか反省しなければいけないのかどっち付かずの雰囲気に包まれている
そうは言ったものの地球上から近代化文明を破壊することには成功したし生き残った人類も確認されていない。
アリオン艦長は作戦終了直後『地上に生存した地球人の姿は皆無』と基地の司令部へ報告していた。
作戦終了直前に見える範囲の地球人を全て強制救助していたのだから当たり前だのことになる。
アリオン艦長は保護した地球人を基地へ連れ帰るとは誰にも報告していない。
既成事実を突き付けて無理矢理にでも基地に入港するつもりでいる。
最高責任者のオビス司令官が最近落ち込んでいるみたいだったのでサプライズを仕掛けて喜ばそうと企てたのだった。
連絡員兼補佐官のアルビレオが『やめた方がいいですよ』と進言したことを彼女の名誉のため記載しておく。
だから今、アステロイドベルトにある宇宙人のための地球防衛基地は当初より防衛のために残留していた2艦隊しか居なくて、実質上の防衛力がかなり手薄になっていたのは認めざるを得ない。
本籍地がカシオペア座ベータ星でカフ星人として登録されている地球防衛基地ヘンナ副司令官はこの時を逃せなかった。
カシオペアを含む北方星域の人達の最初からの野望だった太陽系を含む東方星域への侵略が今始まろうとしている。
計画は緻密に準備されていた。
ドライアイスメテオ作戦の成否に関わらず出兵した兵士達の全ては作戦終了後ルナ・ターミナルで休暇に入る事は予定表にある。
後は通信を誤魔化せば暫くは帰ってこないようにできるだろう。
基地から入出力される全ての通信信号へ割り込みこちらの障害となるものには細工した。
そこへ計画通り突然出現してきたガルメニ艦隊が地球防衛基地を包囲し警告も無し一斉攻撃を開始する。
ヘンナ副司令官とその仲間達は成功を確信した。
しかし精密な機器や計画ほど小さな塵や不足の事態に弱い。
今回は戦艦マリンとその随伴艦が予想外に戻って来たことが一つ。
戦艦マリンのアリオン艦長が今回の作戦には最初から大反対していたドライアイスメテオ作戦最高指揮官だったのと、ルナ・ターミナルで宴会に参加するより幼馴染みのオビス司令官と飲みたいと思う個人的な理由を、地球人の保護と言う大義名分で覆い被せて颯爽と帰投してきた。
もう一つの誤算。
光速宇宙艇スターキッドのキャプテンアイリーンがアリオン艦長によって保護された地球人の行く末を案じて追い掛けてきたこと。
この2つのイレギュラーが発生したことにより先制攻撃で計画通りの効果が得られない上に、アイリーン達の攻撃(?)を受けガルメニ艦隊が壊滅しヘンナ副司令官の作戦は失敗に終わった。
スターキッドのアイリーン達はガルメニ艦隊を一瞬で宇宙の塵にした後、アイリーンと旧知の仲だった地球防衛基地のオビス司令官に会い皆で繁華街へと出掛ける。
そこで地球防衛基地へ単独潜入していたガルメニ人を捕らえるのだけど、実は人畜無害な外甲殻人種の空になった甲殻に閉じ込められて連れて来られたフレア族妖精のロースだと言う。
以前より地球防衛基地の在り方に不満を抱いていたオビス司令官は、親友のアリオン艦長を道連れにして地球防衛基地を離れることを決意していた。
ロースさんに悪者役をやってもらいガルメニ人がスターキッドを奪取したように見せ掛けてアイリーン達と共に地球防衛基地を無断で飛び立つ。
ヘンナ副司令官が地球防衛基地を乗っ取るための代替作戦に移ろうとしていた矢先に地球防衛基地に潜入していたガルメニ人がスターキッドを奪い、オビス司令官とクルー達を人質にして逃走したと連絡が入る。
ガルメニ人が本当は存在せず北方星域反乱軍による傀儡によるものだと知ってるヘンナ副司令官は、この報告こそが欺瞞だと判断して自分達の計画の全容がオビス司令官にバレるのも時間の問題だと考え保身へと走った。
アリオン艦長の戦艦マリンとスターキッドの母船ドロンパ号、正式名称輸送艦キャメロットへスターキッド追跡の命令を出す。
そして現在に至り、過重労働でくたくたに疲れ果てたマリンのアリオン艦長は身体をシートに沈めたまま深い眠りの淵にいた。
「艦長、アリオン艦長起きて下さい。スターキッドのキャプテンアイリーンから返信が来ましたよ」
補佐官のアリビレオが起こしにかかる。
「もう少し、ましな夢が見たいな…」
アリオンが目を閉じたまま言う。
(艦長は余程お疲れなんでしょうね、ほとんど熟睡の域に達してるよ)
「スターキッドのアイリーンからの返書です。読み上げますよ『そのお茶会にドロンパ号も呼んでもらえるなら、やぶさかではないです』と言ってますけど」
アルビレオは通信文を読みながら何か違和感を感じている。
「とてもガルメニ人の精神支配を受けている人間が言うような内容には思えないですよねー、スターキッドもとろとろと飛んでるしって…いや、これって停まってるんじゃないですか」
アルビレオが言う。
アリオンは艦長席でモニター画面を見ながら寝落ちしていた。
そのモニター画面の中でスターキッドは停止している。
アリオンが薄目を開けて話し出す。
「いくらスターキッドがゆっくり飛んでいたって追い付けるわけがないでしょう、ましてや輸送艦を仲間に入れろとか言って来てるのでしょう。カメののろいになってしまいますよ、はっ、今何て言いましたか?」
(艦長は起きたんだよなー、寝言じゃないと信じよう)
アルビレオは声を少し大きくしてもう一度言う。
「だから~スターキッドが機関を停止してこちらの到着を待ってるみたいなんです。このまま最大出力で追跡しますと、あと4時間もしない内に握手できますよ、キャメロットも一緒にってのが条件ですけど」
「それは大変、まず先にヘンナ副司令官へ連絡してキャメロットの出陣許可を貰わないといけないな、うん少し鎌を掛けてみましょうか」
アリオンが微動だにせず目を見開いて喋っている。
(これはこれで怖いな、せめて何かアクションをしながら喋って欲しいなー)
アリオンはアルビレオの心の声に従ったわけではなく普通に起き上がりヘンナ副司令官へ依頼書を光速通信で送った。
「返事が直ぐに来るといいですね」
アルビレオはキャメロットがヘンナ副司令官の命令を受けて直ぐに追い掛けて来たとしても1日以上は待たされるのだろうから、空き時間をどうしたものかと思う。
「『スターキッドは元々がキャメロットの搭載艇なので母船へ帰りたいとか、訳の分からないことを言っているとか、奪取されたので補給が間に合ってないと思われるし精神支配でおかしくなったのかも知れない』と書いているので返信は行動を伴って来るかもですね」
アリオンは楽観的に考えるようにして再びシートに沈み込む。
「キャメロットはホーク艦長でしたよね、スターキッドが搭載されていた頃はドロンパ号って勝手に呼ばれていて、その時の艦長は石井光一であのイノマンのクローンとか噂されていた人でしたよね、キャプテンライトとか呼ばれていて冥王星で死んだとされてますけど亡骸もブレインも認識プレートさえ回収されてないので、今でもどこかで生きているのではないかと噂されてますよね」
「そうだったかな、あまり興味がなかったから覚えていないなあ」
アリオンがシートの上で伸びと欠伸を同時に行う。
『本当に艦長ったら興味のないことには無頓着なんですから』
アルビレオが話している最中に着信のお知らせランプが点灯したのに気づく。
「艦長、ヘンナ副司令官からの返信が届きましたよ。すごく早かったですね何て書いてあります。早く読んで聞かせて下さいよー」
アリオンは急かされて少し膨れた表情を見せたが何も言わずに返書を読み上げる。
「『輸送艦キャメロットにはマリンの後を追従するよう既に命令を下し出航させている。そちらで連絡を取り合い合流されたし』と書いてある。何だかなあ~ヘンナ副司令官が考えていることが手に取るようにわかるような気がしてきたよ、フフフ…」
(アリオン艦長が笑った。嵐が来るな)
アルビレオは確信し艦内回覧板を出す。
艦内回覧板とはチーフ以下の一般兵士だけで情報共有するための仕組みで士官以上の者は目にすることはない。
今回の艦内回覧板の内容は『艦長が薄笑いをした。前回は逃げ遅れた地球人を救助すると言って地球に突入した時だった。今回も同等クラスの激務が予想される。特に新人は早目に食事をすませ今の内に十分な休憩を取るように』
戦艦マリン艦内の一般兵たちがざわめき出す。




