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アリオン艦長の憂い

 東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地でスターキッド を降りていった新月さんについて昴くんがあれこれと揣摩憶測している。

「別にここにいたら不幸になるとか早死にするとか言ってないじゃないですか、ここでは恋人は作れないしましてや結婚なんか絶対無理でしょうと言ってるだけですよ」

 昴くんは自分でも訳が分からない苛立ちに襲われている。

〈ああそうですね、昴くんの考えていることが手に取るように分かりましたよ、でもアイリーンとの結婚はあと4、5年は待って下さいね、それと子供を作るならアイリーンを妊婦にするわけにはいきませんので育生装置を仕入れないといけませんね〉

「なんてことを言い出すのよ!」

「そんなこと一言も言ってない!」

 アイリーンと昴くんが同時に叫ぶ。

「3人共いい加減にしないか、彼女が残るか残らないは彼女自身が決めたことだろう。オビスさんは彼女にスターキッドを下りる口実を与えたに過ぎない、新月さんの意思を尊重すべきだ」

 九論は放置すればアイリーンがヒステリーを起こすのではないかと心配になり早めに対処する。

「そうだね新月先生は自分の意に沿わなかったら大人しく従ったりする人じゃないものね、だから自分の意思で下りたんだね」

 昴くんが少し寂しげに言う。

「新月君が私に言った最後の言葉があってね、本当は言わないようにしてたのだけど聞いていて本当に愛されていたのだなと思って、それにスターキッドAIも他言無用ってやつを喋ったしね、だから私も言おうと決めた」

 オビスさんが口を開く。

 アイリーン、昴くん、九論そしてコクピットの入口に静かに佇んでいるロースさんまでもがオビスさんの言葉に耳を傾けた。

「『私はまたしばらくの間は可愛い2人の生徒を教育したいと考えていました。でも数年後に私が教えることが無くなった時、私は2人の重荷にしかならないと思ってしまいました。だから私はスターキッドを安心して下りられる今、この場を去ることにします。幸いにも基地司令官だったオビスさんがいらっしゃるのですから、私の代役など簡単に引き受けて下さりますよね、そう信じていますから、これから先あの2人が早く一人前になれますようにご指導お願いします』彼女は最後にそう言って去って行ったんだ」

(新月さんとは短い間だったけど思い出が一杯だよ)

 アイリーンはこんなことならもう少しだけ手の掛からない生徒でいてあげれば良かったかなと少し後悔してる。

「ううっ、新月先生がそんなことを思っていたなんて僕は考えてもみなかったよ」

 昴くんが感傷的になってしまった。

「そんなんじゃないと思うよ、新月さんはもう自分の手に負えないから、これ幸いとオビス司令官に後を任せようとしてるんじゃないかなあ」

「ひどいよ、新月先生はそんな人じゃないよ~」

 昴くんは哀しみの縁から這い上がってきてアイリーンを睨む。

「わかったわよ、新月さんがそんなことを考える人でないってのを忘れてたわ、ごめんなさい。お詫びと言っちゃあなんだけど、落ち着いた頃を見計らって新月さんに会いに行っちゃいましょうね」

 昴くんの表情が弛んでコクンと頷く。

「君たち2人を見てると飽きることがないな、新月君もさぞ手を焼いたことだろうと想像できる」

 オビスさんが手を打って笑った。

〈いつもの事ですから、何時までも黙って見ていたらあっという間に時間が過ぎてしまって後悔しますよ〉

「その通りだオビス君にも早く慣れてもらわないといけないな、私はもう2人が目の前で抱擁しようと何しようと動じることはないな」

「な、なんてことを言うのよ九論の前でそんなことしてないわよ」

「愛鈴、その言い方は誤解されるよ、僕たちはまだ一度だってそんなことはしたことがないです」

「アハハ分かったよ、まだまだ言葉遊びができそうですけど2人に嫌われだしたくないのでこれ以上茶化すのは止めておきましょう」

「もう、皆して僕たちをからかうのはやめて下さいね」

「だったら、軽はずみな言動を皆の前でしなければいい日頃から隙を見せないことだな」

〈あっ九論、本当にそんなことになったら僕とアシュラの楽しみが激減しちゃうので嫌ですよ~〉

「まあ当分はそんなことにはならないだろうから気落ちすることもなかろう」

「だから僕たちを話のネタにしないで欲しいです。愛鈴も黙ってないで何か言ってよ」

「うちは悟ったの、うち達が反応するから終わらないのよ、こういった手合いは無視するのがいいと思うの」

「そうかなあー」

「そうに決まってるわ」

 アイリーンはオビスさんの後ろに立って後方から追い掛けてきてる2隻をモニターで見ながら話をしてる。

「このままの距離を保ったまま行くのが良いか、一度止まって合流するのが良いのか、うちは合流したいんだけどオビスさんはどう思いますか?」

「そうですね最終的には合流するとしても基地からの距離をある程度取ってからの方がいいでしょうね。それよりも私はアリオンの精神状態が気になりますね、いきなり攻撃してこなければ良いのですが」

 オビスさんが静かに恐ろしいことを言う。

 実はスターキッドが基地を飛び立って戦艦マリンの防空射程距離を抜けた頃、アリオン艦長は索敵士のニハルからスターキッドが基地から木星方面へ向けて飛行していると報告を受けていた。

「スピード違反ですよって話し掛けてみましょうか」

 お喋りニハルの横から同じラビット族で通信士のアルネブがお調子者らしく言う。

 この2人が調子に乗って喋り出したら誰にも止められなくなる事をよく知っているアリオン艦長は慎重になった。

「今は敵の残存兵がいないか細心の注意を払って索敵しなくてはいけないだろう、だから駄目だ。どうしても声を聞きたいなら後から遠距離通信で挨拶すればいい」

(中で会おうと言ったのに約束を果たせなかったな)

 本当はアリオン艦長も連絡して基地での事を聞きたくて仕方ない。

「了解しました」

 アルネブが詰まらなそうに言う。

 しばらく静かな時が流れた…がアルネブの嬉々とした声で終わりを告げられる。

「アシュラから命令文です」

 艦長席のモニターに示されたそれにはスターキッドの追跡と捕縛が指示されていた。

(これだけじゃあ、何のことかさっぱり意味が分からない…)

「アルネブ君オビス司令官を呼び出してくれないか」

(全く、オビスの奴はどうにかしちまったんじゃあないだろうな)

「了解し…あっ艦長、ヘンナ基地副司令官から秘匿通信で命令文書が届きました。緊急みたいです」

「この忙しい時に何て言って来たんだ」

 アリオン艦長はモニター画面に写し出された文面を読んで目を疑った。

「アルビレオ君、目薬は無いかな、いや、気付け薬の方が良いかもな」

(どういう事だ『スターキッド破壊命令』スターキッドがガルメニ人の精神支配を受け再び反逆した。今のところ被害は出ていないがオビス司令官も連れ出している、司令官がそう易々と敵に情報を渡すとは思えないが、精神支配を受けてしまえば敵側の人間になってしまう。そうなる前に追跡を行いスターキッドごと天国へ送ってもらう。オビス司令官もそれを望んでいる筈だ』と)

「ニハル君スターキッドの現在地を教えてくれないか」

「スターキッドならレーダー追跡継続中であります。索敵の一環ですよ…ミーハーじゃありませんからね」

(そういえばニハルがスターキッドグッズを集めていたと聞いたことがあったな)

「それで今どの辺りだ」

「150万㎞先を移動中かなりゆっくり飛んでますね、なんか…お尻ペンペンされてるみたいですよ」

「・・・」

 アリオンはコメントを返さない。

「航海士ペルシアンは何処だ?」

「後ろに控えています。アチチ…」

 珍しくコーヒーを飲んでいたようだが自分が猫舌なのを忘れてたんじゃないだろうか。

 アリオン艦長の冷たい眼差しを受けて一瞬たじろいだペルシアンだったが弁明を試みることにする。

「今は目的地があって航海している訳でないですから、手持ち無沙汰で眠いんですよ」

「分かったから、今の一連の流れは聞いていたよなスターキッドに追い付けそうか」

 ペルシアンはコーヒーを持ったまま自分の席に着く。

「普通に考えたら追い付くのは無理でしょうね、このコースだと…あっ、目的地は冥王星かも知れませんね冥王星で追い付けますよ」

「いったい何年後の話をしてるんだ!」

 アリオンはシートに深く沈む。

「艦長、スターキッドに『待って』て言ったらいいんじゃないですか」

 いつも陽気なニハルが気安く声を掛けてくる。

「それは良い考えですね、今日もニハル君は冴えてますよ」

 通信士アルネブが同意してきた。

「それで、どうすればいいのかな」

 アリオンは目を瞑る。

「まずは戦艦マリンで開かれる『お茶会』への招待状を光速回線で送りましょう。スターキッドの軌跡がまだ残ってますから大丈夫ですよ」

 このまま考えることを放棄して夢の中へ行ってみたいと思った。

(まあ戯れ言で済まされる程度ならこの2人に任せても大丈夫だろう)

「任せるから好きにしていいですよ、少しだけこのまま寝かせて下さい」

 最強の2人の息が合ってしまった事に匙を投げ出す。

 ディスプレイに映し出されている星星の間にスターキッドの軌跡を探し求めながらアリオン艦長は深い眠りに沈んでいく。


挿絵(By みてみん)

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