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ピエロと『私』2

(ニンジン代?)

 単純にチップのことだろうと思う。

 だけど、もしかしたらバニーガール姿のウサギ星人がサービスで一緒に食事をしてくれるのかも知れないと期待を膨らませながら財布から2000ポンタ出して手渡す。

「お釣りをニンジン代にしてもらえばいいのかな」

「毎度おおきに、大変ありがとうございます」

 お決まりの様にウサギ手でごますりポーズをしながらオーダーを伝えに行った。

 ちょっと、なんかこのうさ子おかしくない?チップが多過ぎたのかな。

「色々大変な目にあったけど無事で良かったね、お父さん!」

「それ、僕の言葉でしょう取らないで下さいよー」

 見た目は30のおっさんなんだけど言葉遣いがどうしてもアイリーンに引きずられてしまってる。

「早い者勝ちよ」

 以前から少し思っていたがひょっとしたらアイリーンもテレパシストなのかも知れない。

 ウサギ星人のウェイトレスがテーブルに着く様子を見せず、注文の品だけ置いて去っていったのは少し残念だった。

 アイリーンがサンドイッチを食べている間に考えを整理しようと思う。

(まず宇宙母船に行かず直接ルナ・ターミナルに来た理由は、宇宙嵐の発生が人為的なものだとした場合、その意図が不明のままで母船に帰るにはリスクが大きいこと、それとここへ来れば何か宇宙嵐を起こした犯人の手掛かりとなる情報が得られるのではないかと思って来たのだけど……)

 アイリーンを見ると一目散に食べている。

 食事を中断されるのが嫌みたいに思えたので声は掛けずにさっきの続きを思考する。

(確かにさっきの得体の知れないピエロは容疑者の可能性が大きい。仲間がいるようなことも匂わせていたし、私が知らない事情ってのは一体何の事だろうか)

 ピエロのことはしばらく放っておいて、再度接触してくるのを待って返り討ちにするのが得策に思えた。

 それより大変なのはアイリーンの中に居るというもう1人の『私』の存在だ。

(そうか『私が知らない事情』とはこの事かも知れないな、それにしてもあの時の喋り方はどうしてもアイリーンが二重人格者だとは思えないのだけど、アイリーンは自覚してるのだろうか『うちの中に『私』がいる』と言ってたし、またいつもの悪ふざけだろうと深く考えずにいたけど、この事は様子をみて、心に傷を負わせないように配慮しながらもう少し詳しく聞いてみないといけない)

「お父さん食べないの?」

 自分のサンドイッチを食べ終えたアイリーンがまだ手を付けてない僕のサンドイッチを見ながら聞いてくる。

「半分食べるかい?」

 当然食べるんだろうなと思いながら半分に千切って聞く。

「うん、ありがとう」

 期待を外さない返事が帰ってくる。

 私は残った半分を食べながら思考を再開した。

(でもあんまりゆっくりもしてられないな、アイリーンの体があれに乗っ取られるんじゃないかと心配しながら一緒に居続けたら私の神経が持たなくなってしまう。おまけに少しづつみたいだけどアイリーンを支配する力が強くなってきてる気がする。次に奴が顔を見せたらもう少しいろいろ聞き出さないことには情報不足だよな。だから今はあまり考え込まないで観光を楽しむようにしよう。もう既に泥沼にかなり嵌まり込んでいることだしね、さてとここを出て次はどこに行けば良い事やら)

 バニーガールのウェイトレスが手ぶらで通りすぎる時を見計らって声を掛けてみる。

「あのー、すみません」

 誰が誰を呼び止めたのか分からない声掛けをしたのだけど、ウサギ星人のウエイトレスはしっかり自分の仕事をした。

「ご用向きは何でございましょうか?」

 でも優しい口調に反して目付きがきつくて態度も冷たく感じる。

(さっきの娘とは違ったみたいだな)

「この子と2人で遊べる場所が近くに有りますか」

 私は会話を早く終わらせようと早口になった。

「それでしたら、店を出て左へ行かれました先の右側にゲームセンターがございます、そちらで如何でしょうか」

 ウサギが手振り身振りを交えて案内してくれる。

「分かりました、行ってみます、有り難う」

「アイリーン、ゲームセンターに行ってみようか」

「うん、行きたい!、行く、行く」

 ゲームセンターは直ぐに見付かった。

 間口は狭かったけど、奥行きがやたらあり、遊具も何処かと違い同じ物は少なく目移りしてしまう程あって決めるだけで時間が過ぎてしまう。

 それでもUFOキャッチャーで取った宇宙人のぬいぐるみ、射的で射落とした宇宙船のおもちゃ、エアホッケーは私が3ー1で勝ちと連続で遊びまくる。

「お父さん、大人気ないよ! 勝ちは子供に譲るものでしょう!」

 やっとアイリーンの毒舌が冴えだして私の気分も少し晴れた。

「ははは、勝負の世界は厳しいのだよそろそろ終わってもいいかな?」

 こんなに楽しい場所では早目に終わりを宣告しとかないと、いつまでも帰れない事を私は知っている。

「じゃぁ、最後にプリクラ! 良いでしょう?」

「わかったプリクラね、2人で撮るんだよね?」

「当たり前でしょ! あれが良いわ」

 アイリーンが選んだのは、背景が暗い宇宙になっていてその中で2人が光の球に入って撮るものだ。

 2人してカプセルに入って椅子に座るとスポットライトが当てられる。

 ポーズを決めていくと、出来上がり予定の写真がディスプレイに表示される。一番気に入ったところでフォトポタンを押す。

 フラッシュが閃光して目が眩む。

「中々面白い遊びをしているものだ。〖私〗も混ぜて貰おう。そろそろゲームではない現実の緊張感を味合うのも面白いんじゃないかな」

 思わず横を向くとそこには、アイリーンの中の〖私〗がいた。

 私は背筋に冷や汗が流れていくのを感じる。

 いまアイリーンを支配しているのはアイリーンの中の〖私〗のほうだと感じる。

「アイリーンだよね」

 確かに緊張した。

「アイリーンであってアイリーンでない者、アイリーンの中に潜む〖私〗」

 1オクターブ低い声で言う。

 しかし、同じことを2度も聞かされるとだんだん腹が立ってきた。

「私は貴方のことを何とお呼びしたら良いんでしょうか?」

 こいつの機嫌を悪くするとアイリーンに危害が加えられるのではないかと不安になり丁寧な口調になってしまう。

 揉み手もしたほうが良いだろうか。

「では、鈴木とでも呼んで貰おうか、ドクターと呼んでもらっても構わないが」

 もしかしたらこいつ、アイリーンと同じノリなのかも知れない。

「鈴木さんと言うのはアイリーンのもう一つの名前ですが、そちらで呼べと言うことですか、それと、ドクターと言うのだけでは分かりにくいと思うのですが」

 まさか自分が指名手配中のドクター・イノマンだとか言い出すんじゃないだろうな。

 あり得ないことではないが、それでは私との因縁が深すぎる。簡単に説明出来る事でもない、深く考えようとすると先に嫌な事を思い出しそうな気がしたのでやめた。

「知りたいか、なら教えてやろうアイリーンの父親は鈴木四郎、私の仮の宿となってもらった日本人だ。アイリーンは私のDNAを引き継ぐ娘、その中に私がいても何の問題もないはず。お前には『百年ぶり』と言いたかったがこの前会ったばかりだったな。フハハハ、面白い本当に久しぶりに笑ったな。いや失礼した、前回よりも、長く出ていられる様になったが、そろそろ限界だまた会おう…」

「やっぱりイノマンだったか…もう出てくるな、アイリーンに負担が掛かるんだろうが!」

 私は、精一杯の虚勢を張って言い放つ。

「天才と呼ばれたマッドサイエンティストのドクターイノマン、地球にいたとは……私か? あの時からずっと私の中に居たのか」

 コールドスリーブカプセルに入って冥王星軌道上で、助けを待っていた私が救助されてから10年間、基地内で軟禁状態に近い形で事務仕事と検査に明け暮れていたがイノマンの気配すら感じなかったのに。

「お父さんどうしたの?震えているよ、プリクラもう出来上がったの早いね、あれうちってこんな笑い方してたかなぁー」

 アイリーンのあどけない声に少しだけ癒されながら、出来上がってアイリーンの手の中にあるプリクラを覗き込むと写真の中のアイリーンが片方の口の端だけ吊り上げてにやけ顔を作っている。

 イノマンが人を見下した時の表情だ。

「ドクターイノマン…」

 無意識に名前を呟く。

「ねえ、お父さんドクターイノマンって誰?」

「ああ、何でもない、気にしなくていいから」

 アイリーンが知ってもいいことではないように思えたので何とか誤魔化したい。

「気にしなくていいなんて顔じゃないわよ」

 アイリーンの気遣う言葉とは裏腹に『嘘はつかせないわよ』と詰問する様な目に見詰められては逆らえなくなってくる。

(そう言えば昔から尋問には弱かったな~)

「分かったよ喋るよ、でも、場所を変えようね」

 いつまでも人気商品のプリクラ機を独占していては待ってる人に悪い。

 秘密の会話をするには良い場所だとは思うけど。

「ねえどこに行くの?公園なんか良くないかしら、走っている時マップで見かけたわよ」

 いつから、主導権をアイリーンが握るようになったんだ?それに肩に担がれて走っている時に道端のガイドマップを記憶したのか。

 鈴木光一は感心した。

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