改めましてこんにちは、です
桜子視点
碧ちゃんは、わたしのことを全然知ろうとしてくれないから自己紹介しちゃいます。
朱雀院桜子。12歳。
好きな食べ物、クロワッサン。
好きな遊び、碧ちゃんを困らせること。
好きな友だち、碧ちゃん。
好きな人、碧ちゃん。
以上!
そんなのみんな知ってるって?
じゃあここらは初出の情報です。
家はやんごとなき家系の大富豪。
その長女です。兄と弟もいます。
自分で言うのもなんですが、何不自由なく育てていただいた自信があります。
それでも、なんか退屈に感じちゃったので一人暮らしを始めました。
一人暮らしの地に選んだのは木津杉町です。
都市圏から程よく離れたところに位置するこの盆地は、知る人ぞ知る高級住宅地です。
そんな治安の良い町だからこそ一人暮らしを許してくれたという側面もあります。
その街に引っ越してきて初めにしたことは、もちろんダンス教室探しです。
ふと目に留まったのが田中ダンスレッスン教室でした。
正直に言うと、この街にしては平凡な、どこにでもありそうな教室。
それが逆に新鮮で、ついつい気になってしまいました。
その直感は正解でしたね。
なんでもてきとうにこなしてたわたしがダンスだけは真面目にやってきていた理由ですが、実はわたしもあまり覚えていません。
もちろん楽しいからこそ続いているのですが、始めたきっかけというものがわからないのです。
お母様が言うに、幼稚園くらいの年齢の頃たまたま参加したダンス体験教室で楽しさを知ったそう。
言われてもピンとこなかったので、それ以上はよく聞いていません。
今度もう少しちゃんと聞いてみようかしら、なんて。
ーーー
学校での生活の問題は人間関係がほとんどだと思いますが、私にはその辺問題ないので、割とすぐに馴染めたと思います。
驚きだったのが、クラスで田中さんがちょっと浮いていることでした。
とはいってもほとんどが裕福で穏やかな家庭で育っていることもあり、いじめのようなことが起きる雰囲気はとてもありません。
確かに踊っている時の雰囲気とは違って学校での田中さんはクールに感じてしまいましたが、それでも少し不自然です。
気になったわたしはみんなにそれとなく田中さんについて聞き込みを行いました。
曰く、「彼女は世界に名を轟かす某大企業の隠し子である」
曰く、「彼女は8歳年上の婚約者がいる」
曰く、「芸能人である」
曰く、「容姿端麗頭脳明晰ポケモンマスターである」
曰く、「女神である」
バカバカしいものからバカバカしいものまで選り取りみどりです。
どんな人も噂話は好きなんですね。
どちらかと言うと神聖視といったところでしょうか。
過去に何をやったらそんなことになるのでしょうね。
ーーー
碧ちゃんには妹がいました。
この妹がまた曲者でした。
率直に言うと同族です。
人をコントロールしちゃうタイプ。
そして、お姉ちゃんが大好き。
あの子も私のことを『お姉ちゃんに近づく悪い虫』と判断したらしく、態度は冷たいです。
「こんにちは翠さん。碧ちゃんのクラスメイトの朱雀院桜子です。これからよろしくお願いしますね。」
「朱雀院家のご令嬢ですか。仲良くなれるよう願っておきますわ。」
「あら、ご存知ですのね。勉強熱心ですこと。」
というよりお姉さんの方が世間知らず?
「わたしも勉強熱心なの。わたしの知らない碧ちゃんのこと、たくさん教えてね。」
「いやですわ!お姉ちゃんは渡さないんだからねっ!」
「碧ちゃんはまだ誰のものでもないですよ〜。」
碧ちゃんはそんな私たちに対して何をどう見たのか、
「やっぱり仲良しさんね〜。良かったよかった。」
なんて暢気なことを言っています。
ずっとそのままでいてください。
ーーー
レッスンは思った以上にレベルが高く、何よりハードでした。
そんなレッスンに姉は涼しい顔で、妹は涼しい顔をしながら内心必死でついていきます。
もちろん私も必死です。
「このターン、指先の向きがぶれがちだからしっかり意識した方がいいよ。」
「ありがとう、碧ちゃん。」
きついけど、『素直な』碧ちゃんと話せるこの場は貴重ですね。
堪能します。
ーーー
学校での碧ちゃんの不思議な立ち位置は、どうも妹の翠ちゃんが作り上げたものであるらしいことがわかりました。
小学の5年間かけてあの少し浮いた立ち位置、そして学校でのちょっと素直じゃない性格が出来上がったようです。
思えば中学1年と小学6年という離れるタイミングに滑り込めたのはとても幸運だったようです。
よおし、もっと碧ちゃんのことを知って、もっともっと仲良くなるぞ〜。
可愛くてついからかっちゃいたくなっちゃうけど…。