7話
来夢は確信した。姫子こそが自分が求めていた女性だと。気の所為ではない、心が!! 本能が"この娘だ"と言っているから間違いない。
(こんな事があるのね。これは所謂、シンデレラと言うカクテルが掛けてくれた魔法かしら?)
此処にはガラスの靴もカボチャの馬車も、キレイなドレスを着ていないけれど。そんなモノが無くたって、来夢の眼には姫子がとても可愛く魅力的に映る。
(愛でたい、たくさん可愛がってあげたい)
姫子は言わば"シンデレラ"では来夢は所謂王子様……否、女性だからお姫様になる。女性同士のステキな出会い。物語には無い、もう1つの物語の始まりだ。
(欲望が止まらない。しちゃいけない目をしたりしていないかしら? ……自分でもどうして良いか分からない位、高揚しちゃってる。た、態度に出していないわよね?)
来夢は生まれて初めて感じる抑えられない感情と言うモノに翻弄されていた。新鮮とも言える感情に、どうしたら良いのだろう?
「あ゛ぁあぁ……。でもさぁ、飼われるってどう言う事だろうぉ」
……と、悩んでいた時。唐突に姫子が意味深な事を聞いてきた、これには一瞬、来夢が姫子に向ける視線が気になっていたマスターも反応してしまう。
「酔ってる割には難しい事考えんだね」
「そりゃそうだよー、酔ってても大事なことはァ、考えるよ? 私はさー」
「なんだそりゃ、そこだけ聞いたらシラフかどうか分からんよ」
「えへへ、ちゃんと酔ってまぁす」
ちょっぴりちょっかいをかけつつ、マスターも少しだけ考えてみる。飼われる……か、姫子が思う"飼われる"と言うのはどう言う事なのだろう。
まぁ、それはさておき……姫子はじぃっと来夢の方を見た。そのままじぃ……っと見つつ顔を寄せてきた。
「あらあらあら。どうしたの?」
「んー……甘えてるのー。来夢さんいい人そうだから、頭とか撫でても良いよ? ほらほら」
目をとろーんと蕩けさせ、少しだけ寄り添ってみる。完全に誘っている仕草の姫子にマスターは露骨さを感じた。
初対面の人あいてに本当に何をやっているのやら……。
「急に甘えんぼさんになったわね」
「そりゃなるよ。やっと見つけた私を癒してくれる人かも知れないんだもん」
えへへー、と可愛げたっぷりに笑った後。完全に来夢の肩に姫子は自分の頭を乗せた。言わずもがな、かなり危ない体勢……カウンター席なのに怖い事をするものだ。
「随分と可愛いお誘いね、でも……流石に危ないわ。落ちちゃったりしたら大変よ」
「へーきへーき、来夢さんは私をおっことしたりしない優しい人って信じてるから」
「もぅ、初めて会う人を信用しすぎよ」
「えへへぇ」
姫子の危ない行為を微笑んで注意した。けれど、来夢はあまり気にしていない様子、と言うより……内心では心が高揚し荒ぶっている。
(この娘、初対面の人に対して遠慮がないのね。ここまで無防備だと直ぐにでも家に誘いたくなるじゃない)
姫子と言うシンデレラは、ほんの少しだけ危ない娘なのか。太陽の様に笑って、確実に来夢の心を掻き乱してくる。
お酒の匂いに交じって香るのは、姫子の香り……優しくて甘い、香水の香りだろうか? この匂いは来夢の理性を大きく揺らしてしまう。
「おいおい、流石に絡み過ぎだっての。離れろ、人の迷惑考えろ」
「ぇっ、あ゛。う゛ぅぅ、いーやぁぁぁぁ゛ッッ。客に過干渉するなぁぁ」
「これの何処が過干渉だっ、迷惑な客を注意してんだよっ、この……酔ってる癖に力つえーなコイツ!!」
と、ここでマスターが間に割行って姫子をちゃんと座らせた。まるで子供のように駄々をこねる姫子……。暫く見ていたら、まるで子供のケンカみたいで可愛らしい。
でも、その駄々をこねる姫子の姿すら来夢を魅了する。
どうしよう、そろそろ耐えられなくなる。これ以上可愛い姿を見せるのは……キケンだと姫子は悟って欲しい。
「ま、マスターさん。私は気にしてないから……姫子さんの好きにさせてあげて?」
「え? い、いいんですか? そんな事言ったらコイツ、とことん甘えまくりますよ?」
「良いのよ、人に甘えられるの……興味あるから」
……と、来夢の気持ちを知らない姫子はと言うと。来夢の言葉を聞いた瞬間ピタリと来夢の肩に頭をのせ返し、小悪魔的な顔をマスターに向け。
「本人が良いって言ったもんねー」
と、意地悪く言った。それに対しマスターは敢えて聞こえるように舌打ちした後。「調子にのんな」と軽く小突く。
その後……。
「来夢さん、本当に優しいなぁ……。1回でも良いからお世話して欲しいかも」
あぁ……また、来夢の理性を壊す言葉を語った。来夢の目の色が変わり、欲がこもった目で姫子を見てしまう。
来夢の熱い視線に、姫子は気づいていない。あと少しで手を出しそうだったのも気付いていないだろう。
(いいの? そんな事を言って……私は本気にするわよ)
どうやら、このシンデレラはお姫様を本気にさせてしまった。本当は少しずつ少しずつ姫子を誘って、来夢自ら誘うつもりだったのに……。
「あのね、来夢さん。私、本気で言ってるんだよ?」
それもその筈。姫子だって本気だ。本気で来夢に飼われたいと思っている。だから、自分から誘った。初対面だろうが関係ない……自分自身がこの人が良いと望んだのだから止まれる筈がない。
「……そうなの?」
「うん。辛いから、癒して欲しいの」
「そう」
この時、来夢は密かに。
(貴女は私を潤わせて欲しいわ、今の私は乾ききっているもの)
日々どうしようもなく感じている本性を心で語る。すっかり飲み切り、氷だけが残ったモヒートのグラスが、カランっと音を鳴らした頃。
気がつけば2人の熱は高まり、身を寄せているからか、熱は混ざり合い少しだけ妙な気持ちにさせた。
まだ魔法は効いている。深夜12時の針は刺していない……。否、この魔法は無制限で続く永遠の魔法となるかもしれない。故に、本当に魔法が効くのは此処から。
姫子と来夢は、これから本音を語り……互いに魅了されていく……。
更新が遅れて申し訳ありません。次回の更新も遅くなってしまいます……。できる限り早めの更新を心掛けます。




