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泥酔のシンデレラ  作者: わいず
二十日(はつか) 来夢(らむ)は乾きを潤したい
7/10

7話

 来夢は確信した。姫子こそが自分が求めていた女性だと。気の所為ではない、心が!! 本能が"この娘だ"と言っているから間違いない。


(こんな事があるのね。これは所謂、シンデレラと言うカクテルが掛けてくれた魔法かしら?)


 此処にはガラスの靴もカボチャの馬車も、キレイなドレスを着ていないけれど。そんなモノが無くたって、来夢の眼には姫子がとても可愛く魅力的に映る。


(愛でたい、たくさん可愛がってあげたい)


 姫子は言わば"シンデレラ"では来夢は所謂王子様……否、女性だからお姫様になる。女性同士のステキな出会い。物語には無い、もう1つの物語の始まりだ。


(欲望が止まらない。しちゃいけない目をしたりしていないかしら? ……自分でもどうして良いか分からない位、高揚しちゃってる。た、態度に出していないわよね?)


 来夢は生まれて初めて感じる抑えられない感情と言うモノに翻弄(ほんろう)されていた。新鮮とも言える感情に、どうしたら良いのだろう?


「あ゛ぁあぁ……。でもさぁ、飼われるってどう言う事だろうぉ」


 ……と、悩んでいた時。唐突に姫子が意味深な事を聞いてきた、これには一瞬、来夢が姫子に向ける視線が気になっていたマスターも反応してしまう。


「酔ってる割には難しい事考えんだね」

「そりゃそうだよー、酔ってても大事なことはァ、考えるよ? 私はさー」

「なんだそりゃ、そこだけ聞いたらシラフかどうか分からんよ」

「えへへ、ちゃんと酔ってまぁす」


 ちょっぴりちょっかいをかけつつ、マスターも少しだけ考えてみる。飼われる……か、姫子が思う"飼われる"と言うのはどう言う事なのだろう。

 まぁ、それはさておき……姫子はじぃっと来夢の方を見た。そのままじぃ……っと見つつ顔を寄せてきた。


「あらあらあら。どうしたの?」

「んー……甘えてるのー。来夢さんいい人そうだから、頭とか撫でても良いよ? ほらほら」 


 目をとろーんと蕩けさせ、少しだけ寄り添ってみる。完全に誘っている仕草の姫子にマスターは露骨さを感じた。

 初対面の人あいてに本当に何をやっているのやら……。


「急に甘えんぼさんになったわね」

「そりゃなるよ。やっと見つけた私を癒してくれる人かも知れないんだもん」


 えへへー、と可愛げたっぷりに笑った後。完全に来夢の肩に姫子は自分の頭を乗せた。言わずもがな、かなり危ない体勢……カウンター席なのに怖い事をするものだ。


「随分と可愛いお誘いね、でも……流石に危ないわ。落ちちゃったりしたら大変よ」

「へーきへーき、来夢さんは私をおっことしたりしない優しい人って信じてるから」

「もぅ、初めて会う人を信用しすぎよ」

「えへへぇ」


 姫子の危ない行為を微笑んで注意した。けれど、来夢はあまり気にしていない様子、と言うより……内心では心が高揚し荒ぶっている。


(この娘、初対面の人に対して遠慮がないのね。ここまで無防備だと直ぐにでも家に誘いたくなるじゃない)


 姫子と言うシンデレラは、ほんの少しだけ危ない娘なのか。太陽の様に笑って、確実に来夢の心を掻き乱してくる。

 お酒の匂いに交じって香るのは、姫子の香り……優しくて甘い、香水の香りだろうか? この匂いは来夢の理性を大きく揺らしてしまう。


「おいおい、流石に絡み過ぎだっての。離れろ、人の迷惑考えろ」

「ぇっ、あ゛。う゛ぅぅ、いーやぁぁぁぁ゛ッッ。客に過干渉するなぁぁ」

「これの何処が過干渉だっ、迷惑な客を注意してんだよっ、この……酔ってる癖に力つえーなコイツ!!」


 と、ここでマスターが間に割行って姫子をちゃんと座らせた。まるで子供のように駄々をこねる姫子……。暫く見ていたら、まるで子供のケンカみたいで可愛らしい。


 でも、その駄々をこねる姫子の姿すら来夢を魅了する。

 どうしよう、そろそろ耐えられなくなる。これ以上可愛い姿を見せるのは……キケンだと姫子は悟って欲しい。


「ま、マスターさん。私は気にしてないから……姫子さんの好きにさせてあげて?」

「え? い、いいんですか? そんな事言ったらコイツ、とことん甘えまくりますよ?」

「良いのよ、人に甘えられるの……興味あるから」


 ……と、来夢の気持ちを知らない姫子はと言うと。来夢の言葉を聞いた瞬間ピタリと来夢の肩に頭をのせ返し、小悪魔的な顔をマスターに向け。


「本人が良いって言ったもんねー」


 と、意地悪く言った。それに対しマスターは敢えて聞こえるように舌打ちした後。「調子にのんな」と軽く小突く。

 その後……。


「来夢さん、本当に優しいなぁ……。1回でも良いからお世話して欲しいかも」


 あぁ……また、来夢の理性を壊す言葉を語った。来夢の目の色が変わり、欲がこもった目で姫子を見てしまう。

 来夢の熱い視線に、姫子は気づいていない。あと少しで手を出しそうだったのも気付いていないだろう。


(いいの? そんな事を言って……私は本気にするわよ)


 どうやら、このシンデレラはお姫様を本気にさせてしまった。本当は少しずつ少しずつ姫子を誘って、来夢自ら誘うつもりだったのに……。


「あのね、来夢さん。私、本気で言ってるんだよ?」


 それもその筈。姫子だって本気だ。本気で来夢に飼われたいと思っている。だから、自分から誘った。初対面だろうが関係ない……自分自身がこの人が良いと望んだのだから止まれる筈がない。


「……そうなの?」

「うん。辛いから、癒して欲しいの」

「そう」


 この時、来夢は密かに。


(貴女は私を潤わせて欲しいわ、今の私は乾ききっているもの)


 日々どうしようもなく感じている本性を心で語る。すっかり飲み切り、氷だけが残ったモヒートのグラスが、カランっと音を鳴らした頃。


 気がつけば2人の熱は高まり、身を寄せているからか、熱は混ざり合い少しだけ妙な気持ちにさせた。

 まだ魔法は効いている。深夜12時の針は刺していない……。否、この魔法は無制限で続く永遠の魔法となるかもしれない。故に、本当に魔法が効くのは此処から。


 姫子と来夢は、これから本音を語り……互いに魅了されていく……。


 更新が遅れて申し訳ありません。次回の更新も遅くなってしまいます……。できる限り早めの更新を心掛けます。

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