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泥酔のシンデレラ  作者: わいず
灰被(はいかづき) 姫子は魔法に掛かりたい
1/10

1話

本作品はGL描写を含みます。苦手な方はご注意ください。

 お酒を飲めば魔法に掛かる、飲んでる時は気持ちがふわふんして、現実で起きた事を語りながら、自身の想いを吐露しちゃう……。

 そんな事は、ありはしないだろうか? 少なくとも、とある会社のOL 灰被(はいかづき) 姫子(ひめこ)にとって、日常茶飯事である……。





 夜も老けた頃。

 駅から少しだけ離れ、人目に付かない所でひっそりと営むバーに彼女はいた。


「ねぇ、ますたぁ。聞いてくれるぅ? と言うかぁ、きいてよー。ひっく」


 ヒック、と酒に酔った時に出る独特なしゃっくりをしつつ。カウンターテーブルに姫子は突っ伏していた。

 酷く酔っ払った彼女は、カクテルが入ってあるグラスを片手にマスターを呼んでいた。


「ねぇ、ねぇ、ねぇってばー。聞いてるー? お客様が話し掛けてますよー。ちゃんと接客して下さーい」


 わかりやすい位の絡み酒、火照った顔をちょっぴり悲しげにさせ。仕切りにマスターを呼ぶ。

 そのマスターはと言うと、一つ括りにした黒髪を揺らしつつ、"敢えて"姫子を無視し仕事をした。


「うあー、マスターなのにお客しゃま無視するのかー。いけないんだー」


 何故ならば、単純に鬱陶しいから。姫子はこのバーの常連であるが。毎度のこと酷く酒に酔い、酷くマスター……ないしは客に絡む。

 ウザイにも程がある、一度(ひとたび)話しを返せば無限に時間を食い潰されてしまう。言ってしまえば姫子は、お喋り絡み酒女なのだ。


「お客を大事にしないマスターはダメダメになるのよ。やーいダメマスター。万年ダメマスター」


 だが。無視するのにも限度がある。

 "ダメマスター"と言われた瞬間、ギンっと目を光らせ、ズンズン足音を鳴らし姫子に近づき、目の前で舌打ちをした。

 それも最大限に聴こえる様に、かつ鬱陶しさを込めて。


「黙れ酔っ払い。仕事の邪魔するなら帰れ、あとお前にダメって言われたかないんだよ。ダメOL」

「うぇぇ。酷いー、言葉の暴力キンシー」

「酷いのはアンタの酔い方だっての。少しは控えろよ」



 兎に角姫子は酒を飲めば必ず悪酔いする。決して酒に弱いわけでは無く、悪酔いするまで飲んでしまうのだ。


「うー。仕方ないじゃん、こんななるまで酔わないと、ヤな出来事なんて忘れらんないのー!!」

「あー、はいはい。解ったよ、そろそろ水飲むかい?」

「やだー!! もっとお酒飲みたい。ビールお代わりッッ」


 と言うか、既に悪酔いしてる。追加のビールを頼んだ時、マスターは大きく溜息をつき「はいはい」と意気消沈気味に返事をしビールを用意した。あと、暖かいお茶も。


「水分もとりなよ。酒だけ飲んだら悪酔いするんだからさ。って、もう手遅れか」

「え、うわー!! マスター優しい、なになに? 私を口説いてるの?」

「黙れ、お前なんかにミジンコ程の興味はないから」

「でもゴメンねぇ。私、口説かれるのは金髪でナイスバディなお姉さんって決めてるから」

「黙れって言ってんのに、コイツはペラペラよく喋る。しかもアタシの話は無視かよ」


 本当にペラペラと良く喋る女だとボヤキ、マスターはため息をついた。実を言うと、これはいつもの事だ。

 姫子は酔うと喋りだしたら止まらなくなるのだ。それ程、仕事場で色々あったみたいだが……それでもちょっぴりウザイ。


「うぅ、私好みのナイスバディなお姉さん。周りにいないんだよね」

「あぁ、そうなんだ」

「そうなのーっっ!!」


 子供みたいに泣きじゃくる姫子は、マスターの迷惑も考えずカウンターに突っ伏し涙で濡らした。


 あぁ、また消毒しなくちゃ。等と考えていた時。姫子は急に起き上がり、目をとろーんっとさせ、また喋り出した。


「と言うかー、今日職場で嫌な事あったんだけどー!!」


 うがー。と猫が怒ったような勢いでマスターに食い気味に前のめりになった。こうなったら話を聞いてくれないと後が煩い。

 至極面倒ではあるが、話を聞いてやる事にした。


「あー、セクハラでもされた?」

「ちーがーうー!!」


 姫子はバンバンとカウンターを叩いた。それを「やめろ」と小突いた後、更にマスターは聞いてみる。


「じゃぁ何なんだよ」

「うー。あのねぇ、今日の昼休憩に……上司の女とお弁当食べることになったんだけどぉ」


 すると、思い返した反動でイライラが増し酔いが回ったのか、回らない呂律で話し出す。つどうやら姫子は……。


「好きな人の話題になったのー」

「あー……。その話題かぁ」


 なんの事の無い、何気ない話をしていたらしい。だが、この話題は姫子にとってかなり避けたい話題であった。


「来る日も来る日もさー、仕事中にもその上司は話してくんのー。隣の部署の部長が格好いいー、結婚したいって!!」


 もー、何回も言うのー。と、何度も同じ話をされイライラしているらしい。

 しかし、そう話は単純なモノじゃなかった。


「それでさぁ、私にさぁ。絶対とんないでよね。とか言うわけ!! 取るかよー、あんな女たらし。アイツ奥さんいるのに浮気とかしてんだよ?」

「あー、そいつは典型的なダメ男だね」

「でしょー」


 どうやら、女上司に変に絡まれてしまってるらしい。数回程度なら許容はするしスルーは出来たが、姫子の場合……この出来事が何十回と続いている。


「てか、そんなんはどうでも良いの。問題はさぁ、私がその部長の事狙ってるとか思ってるのー!!」

「うわぁ、面倒な言い掛かりだな。てか、そもそもアンタって」


 流石にマスターは同情した。同じ状況に会えば、きっと辟易するしイライラもしてしまうだろうから。

 と、それよりもマスターは姫子のとある事情を知っているが故にソレについて聞こうとした。だがソレよりも先に……。


「もー、面倒になってさ。もう限界ってなってさー。カミングアウトしたの」

「ッッ。ま、まじかよ。したのか!?」


 その事情を姫子自ら話したではないか。流石に驚きを隠せない。マスター自身、姫子の"ある事情"は中々に言い出せないモノだと勝手に思っていたから。


「したんだよっ。私はッッ、恋愛対象女の子だから男に興味無いって!!」

「はっ、ハッキリ言ったんだなぁ」


 その事実は、姫子が同性愛者だという事。実はマスターも同じ同性愛者。故にカミングアウトをする事の重大さは分かっている。


「ハッキリ言わないと分かってくんないと思って……んくっ、んー……」

「あー、もー。ヨダレ垂れてる。ちゃんとしなよ」

「うー。ありがと」


 ベロンベロンに酔いつつ、カクンカクン首を振る姫子は、突然真下を見て声低く話した……。


「でもさ、中々信じて貰えなくて。同じこと何回も言って、やっと信じてもらえたの」

「はぁ、なるほどな。大変だったな」


 まさに、散々な一日だと言っても良いだろう。本来はしなくていいカミングアウトをしてまで誤解をとこうとしたのに信じて貰えない。相当疲れてしまったんだろう。

 そう思うと、酷く酔っ払いたくなる気持ちも分かってしまう。マスターは同情した後、今日だけは優しくしてやるか……と思った時。


 姫子はまたカウンターを両手で叩きマスターを凝視した。


「問題はその後だよッッ!! あの女上司、やぁぁっと信じたとおもったらさぁぁっ。私に言ったのッッ。なんて言って来たと思う?」


 どうやら、まだ話は終わっていないらしい。


「……あー。えと、んー。ごめん、検討もつかない」


 恐らくだが。その言葉が今日の姫子を酷くイライラさせている原因となっているんだろう。

 姫子はフーッ、フーッと荒く呼吸しビールをゴクッと飲んだあと……勢いよくその事を話した。


「あの女上司はねぇッッ。へー、女の子の事がねぇ。信じてあげるけど、私の事狙わないでよね? とか抜かしやがったのー!!」

「う、うわぁ……。まじかぁ」


 ソレは同性愛者にとって、酷い誤解とも思える言葉だった。まるで同性愛者は全ての同性を恋愛対象として見ていると言っていい物言いだ。

 答えは否、そんな事ある筈がない。男女との恋愛と同じでちゃんと人それぞれの好みがあるっ。


「誰が、お前みたいな仕事中でも化粧に夢中なケバい女を好きになるかってのっ。スタイルの良いお胸の大きいパツキン女連れてきてから言えってのよー!! う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」

「あー、よしよし。辛かったな。流石に同情するわ……」


 酷く傷ついただろう。酷く嫌な思いをしただろう。マスターは少しでも慰めようと、姫子の頭を優しく撫でてあげた。


「ゔぅ。マスター優しい。私の気を引こうとしてるの? でもごめんね、マスターお胸がペタペタだから対象がイデデデデデデッッ、痛い痛いいだァァいっ、ごめんなさいごめんなさい。ごめんなさーい!!」


 ……が、余計な事を言ったのでアイアンクローを仕掛けてやった。キリキリと後頭部が締め上げられ、かなり痛いのかペシペシとマスターの手を叩いて抵抗をするが、マスターは暫く放してやらなかった。


「私もなぁ、お前みたいな酷い酔っ払いなんか対象外なんだよ」

「ヒーッッ、謝りますっ、あやまるがらぁぁ。やめてー!!」


 あ゛ー、と酷く痛々しい悲鳴を聞いた後。マスターは放してあげた。その直後、姫子は痛そうにカウンターに突っ伏してしまう。


「たくっ、人が心配してんのにお前って奴は」

「ごめんー。でも、でもさ、本当にもー、なんというか。こんな思いしたら、あの気持ちが大きくなっちゃうから」


 ……姫子が話を終えた直後、マスターの眉がピクリと動いた。"あの気持ち"の事をマスターは知っているから反応してしまったのだ。


「はぁ、まぁた始まった」


 姫子に聞こえないよう、呟いた後。姫子は物惜しげに見上げ……その事を口にする。


「あ゛ァァ……ッッ。グラマーでパツキン美人に飼われたい゛ー」


 それは、かなり尖りすぎかつ危険な願望……。その後姫子は、その言葉が本気だと示すように、暫く悲しげに呻き続けた。

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