9.下校
■前回までのあらすじ■
eスポーツ部の部活の時間になったので、真雪は下校です。
「あぁ、楽しかったな」
Brave Battle Onlineをログアウトした私は、一つ息を吐き出してバイザーを端末に収納した。
ログアウトした事で、カプセルの中の灯りの明度ゆっくりと上がり視界が確保される。
リクライニングチェアから身体を起こして、後ろの収納に仕舞ってあった鞄と靴を取り出してカプセルの扉を開く。
「お疲れ様」
扉を開くとアカネ――じゃなくて、榎崎さんが声をかけてくれた。
遅れてカプセルの扉を開いた大鍬さんからもお疲れ様の声がかかる。
「うん。お疲れ様。すごく楽しかった」
私は二人に言葉を返すと、靴を外に出してその靴を履くようにカプセルから外に出た。
ダイブルームには多くの人が集まっていた。
多分、eスポーツ部の部員だと思われる。
「一年は部活前にダイブルームの清掃と換気」
凛々しい黒髪ロングの女性の先輩が指示を出して、テキパキと皆が行動している。
「部長、すみません。私たちもすぐ準備に取り掛かります」
「いや、急がなくていい。
君達は友人とダイブしていたんだろ?
見たところ友人は初めてのダイブだった様だから、ちゃんと最後までエスコートする事を優先してくれて構わないぞ。
使用していたカプセルの清掃と除菌だけは、自分らでやってくれればいい」
部員たちの動きに慌てて言う榎崎さんに、部長らしい先輩が指示を出した。
しまった。使用後は清掃するのがルールだったのか。
慌ててカプセルに戻ろうとするが、「あ、大丈夫だよ。真雪の分も私達がやっとくから」と榎崎さんに止められた。
使用後のカプセルの操作方法だけ口頭で簡単に教えてもらった。
「バタバタしちゃってごめんね。
この後、私達は部活だから部屋を出るとこまででいいかな?」
申し訳なさそうに大鍬さんが視線を向けてくる。
「ううん。気にしないで。私、大丈夫だから」
慌てて両手を振って答える。
「忘れ物とかない?」
「うん。荷物は鞄だけだから」
熊のぬいぐるみが揺れる鞄を持ち上げて見せる。
「じゃ、廊下まで送るね。朱音ちゃんも、廊下まで行こ」
「うん。
部長。友達を送ってきます。すぐ戻りますので」
「ああ。行ってこい」
部長が許可を出して、榎崎さんと榎崎さんが私を廊下まで案内してくれる。
「おい。お前」
途中、二年の先輩に声をかけられる。
「は、はい……」
「その鞄に付いてる、ぬいぐるみ。お前のか?」
ショートヘアで三白眼のその先輩がぶっきら棒な口調で訊いてきた。
「はい。わた、私のです」
なんだか睨まれているようで、怖くなって少し声が震えてしまった。
「それ、どこで手に入れた?」
「これは、知り合いから頂いたものです」
今度は声が震えないように答える。
何だろう。師匠から貰ったこのぬいぐるみに何かあるのかな?
「そうか。分かった。呼び止めて悪かったな」
そうとだけ言うと、先輩は部屋の準備に戻っていった。
なんだったのだろう?
「柊木さん。こっち」
扉を開けたところで大鍬さんが手招きしていたので、慌ててそちらに向かう。
慌てすぎたせいか、途中で転びかけた。
「思った以上に時間使っちゃったね。最後の方は端折った説明だけになっちゃって、ごめんね。十分に説明できなかったけど、ブレバトに興味持ってくれたかな?」
廊下に出ると、大鍬さんが優しく聞いてくる。
「うん。元々興味あったから。
けど、まだ私の知らなかったこともいっぱいあると思うからまた教えてね」
「もちろん!」
大鍬さんの代わりに、榎崎さんが食い気味に答える。その反応が可笑しくて3人で笑い合った。
「最後に柊木さん。連絡先、教えてもらっていいかな?」
「うん」
「あ、私もー」
こうして、2人と連絡先を交換した。
「そうだ。私からも一個いいかな。
折角友達になったんだからさ、さん付けじゃなくて下の名前で呼び合おうよ」
別れの挨拶をしようとしたところで、榎崎さんが手を挙げて提案する。
「私だけ下の名前で呼んでて、なんか温度感違うなーって思っちゃったからさ」
榎崎さんが照れ臭そうに頬を掻く。
「そう、だよね。じゃあ、別れの挨拶は下の名前で言い合おうっか。
私も柊木さんじゃなくて、真雪ちゃんって呼ぶね」
「うん。分かった」
頷いて答える。
下の名前で呼び合う。恥ずかしいけど、それ以上に嬉しい。
「じゃ、私から。
真雪。また明日ね!」
最初に榎崎さん――ううん、朱音ちゃんが手を振って別れの挨拶をする。
「真雪ちゃん。また明日。じゃあね」
それに倣って、大鍬さん、じゃなくて美月ちゃんも手を振る。
最後に私。
「朱音ちゃん――美月ちゃん。
また明日ね」
私も手を振って別れの挨拶をする。
そして、3人で笑い合うと私は2人に背を向ける。
こうして、私の学校生活1日目が終わりを告げるのであった。