80.ライバル宣言
◼️前回までのあらすじ◼️
七夕イベントに参加した真雪たち。
そこで行われていたブレバト紹介ブースにて、たまたまデモ体験をすることとなった真雪と冴華は、ゲーム開発者の策略もあり強敵と戦うこととなったが何とか撃破するのであった。
□登場人物紹介□
柊木 真雪
主人公。病弱少女だがゲーム内では敵なし
姫野宮 冴華
トッププロプレイヤー。正体を隠して真雪と共にデモ体験に参加した。
かつて真雪と対戦し敗北してる。気の許した相手だと京都弁が出る。
榎崎 朱音
真雪の同級生。冴華(プレイヤー名:SaeKa)の大ファン。
大鍬 美月
真雪の同級生。知的な三つ編み少女。
風祭 楓
真雪の先輩で、冴華の幼馴染。
冴華からは「フーちゃん」と呼ばれている。
ブレバト紹介ブースでの体験イベントが終わったが、想定以上の盛り上がりになったため、観客席の熱気は冷めやまなかった。
体験参加者はそのままログアウトして舞台から姿を消したが、主催者側であるセシル叡王は総評をするためにその場に残った。
その顔には、さすがに討伐クエストに3連戦で参加したためか、疲労の色が見えた。
『叡王、討伐クエスト如何でしたか?』
そこに空気を読まない司会者からの質問が重なり、セシル叡王はうっすらと青筋を浮かべながら総評を述べる。
『おっと、ここで先程デモプレイに参加してくれたメンバーが出てきました』
セシル叡王の総評がちょうど終わったタイミングで、デモプレイに参加した6人が舞台に現れる。
『皆様、素晴らしいバトルを披露してくれた参加者に盛大な拍手をお願いします』
その参加者は観客らかの拍手を受けて、舞台を降りる。
「いやぁ、彼女にいい格好を見せようと思ったのに、君達の凄い闘いを見たら僕の活躍は色褪せちゃったよ」
「そんなこと言わないの。凄いバトル、見せてくれてありがと」
カップルの参加者は舞台からの降りざまに、真雪達に声をかけた。
「えっ、いや。その、こちらこそ」
この言葉に真雪は慌てて言葉を返す。慌てた為が、階段を危うく踏み外しかけた真雪を、冴華が「危ない」と肩を掴んで助ける。
「ふふふ。こんな普通の子があんな凄いバトルが出来るのね。私、ちょっと興味持っちゃったわ。帰ったら私にも教えてね」
カップルの彼女の方が、彼氏に向かってそう言うと手を振りながら席に戻っていった。
「なぁ、あんたらって都内の高校か?」
カップルの参加者を見送った真雪達に、今度は男子校生の参加者が声をかけてくる。
「えっと、私は埼玉の高校、です」
「私は、うーん、ま、関西の学校だよ」
男子高校生の問いかけに、真雪と冴華が答える。
「あー、良かった。司会者は過剰演出とか言ってたけど、間近で見たらあんたらの強さは流石に分かったからな。同じ都内の高校じゃなくて良かったよ」
「全高グランプリ、全国大会で会おうな!」
そう言い残して男子高校生の参加者も席に戻る。
「私達も戻ろうか。そろそろセシルさんの視線が痛いから」
冴華が苦笑して呟くと真雪を先導して、仲間達の居る自分たちの席に戻る。その間も、観客達の拍手が続いた。
「あの、冴華さん。なんかみんなこっちを見てるみたいなんですけど、冴華さんの正体、バレたとか、ないですよね?」
キョロキョロと周りを見回して、真雪が小声で声をかける。
「う〜ん、最後の方はカッとなって剣技を披露しちゃったから何ともいえんけど、大丈夫やないかな」
「で、でも、みんなこっち見てますよ」
あっけらかんと答え冴華に対して、真雪は不安気に肩を窄めている。
「ふふっ。フーちゃんが言ってた通りやね。
ねぇ、真雪ちゃん。さっきのバトルについて、もしかしたら私が活躍したから正体がバレたかもしれない、って思っていない?」
笑みをこぼしながら問いかける冴華に、真雪は「えっ、それしかこんなに見られる理由は……」と素直に答える。
「やっぱりね。みんな貴女を大切に扱ってるから、ちゃんと伝えてくれる人がおらんやな。
私の想いもあるから、ちゃんと伝えとくよ」
くるりと振り返り、冴華は真雪へ真っ直ぐに向き合う。
「えっ」
何を言われるか分からずに、真雪は固まる。
「そう構えなくてええよ。
さっきの討伐クエストバトル、私が活躍したっていうのは間違えてないんやけど、あのバトルについて一番活躍したのは誰かって観客に聞いたら、10人中半数以上は真雪ちゃん、貴女だって言うと思うんよ。見栄えがいい大技を使ったセシルや、とどめを刺した私より、二人分の防御をやり遂げて防具破壊と再飛翔しようとしたデネブを撃墜させた真雪ちゃんの功績は私達を上回っていた。
私が正体バレてないって思ったのは、私より活躍した貴女がいたからなんよ。
そろそろ真雪ちゃんは自分の実力に気づくべきや」
真剣な眼差しで冴華が告げる。その真剣な物言いに真雪は咄嗟には言葉が出なかった。
「だから、みんながこっちを見てるのは真雪ちゃんを含む私達が活躍したからや」
真雪の思っていた事を冴華が正しく訂正する。
「ここからは私の想いや。
私が全高ブレバトグランプリに出場するって決めたんは真雪ちゃん、貴女と再戦したいと思ったからや。
この際だからはっきりと伝えておく。私は貴女のことをライバルだと思ってる。だから、貴女も自分の強さを自覚して、全高ブレバトグランプリで勝ち上がって来なさい。
高校最高の舞台で、次は私が勝つから」
冴華は真雪に向けて拳を突き出す。
真雪はしばし固まりながらも、冴華の言った言葉の意味を理解していく。
「えっ、私……」
「ほら、いいから私の拳に拳をぶつけて」
「は、はい」
冴華の言葉に、真雪はおずおずと相手の拳に自らの拳をぶつける。
「よしっ。これでライバル関係成立やな!
全高ブレバトグランプリ、楽しみにしとるよ」
ニカっと笑うと、冴華は視線が集まっていた観客に向けて大きく手を振ってから、席に戻るべくまた歩き出した。
今の会話は拍手が起きていたため、他の人達には聞こえてなかったであろう。それでも大切な約束を取り付けて冴華は上機嫌に大股で歩く。その後ろを、やや強引に話を進められたため慌て戸惑ったように真雪が追いかける。
「ただいま。めっちゃ楽しかった」
席に戻ると、冴華は朱音達に声をかける。
「す、す、す、すごかったです。冴華さん。やっぱり貴女の闘ってる姿は凛々しくて私の憧れです!」
その声にすぐに反応したのは朱音。キラキラと目を輝かせて感想を伝える。
「ありがとう。朱音ちゃん」
朱音の熱量に驚きながらも笑顔で答える冴華に、楓が「だが、サエはちょっと調子に乗りすぎだな。水着ではしゃぐのはいいが、剣技を披露するのはどうかと思うぞ」と辛辣な感想を告げる。
「う〜、フーちゃんはほんま厳しいわぁ。
だけどあれは真雪ちゃんが活躍し過ぎて、ムキになったセシルさんが大技を出すから、私も目立たないとって思っちゃう流れやったし……」
「いや、正体を隠して参加したんだから、目立っちゃダメだろ。まったく……」
拗ねた様に口を尖らせる冴華に対して、やれやれと肩を竦めてみせる。
そんなやりとりを横目に真雪も席に戻ると、話に参加していなかった美月が「真雪ちゃんも、お疲れ様」と声をかけた。
「うん。ありがとう」
「真雪ちゃんもすごかったよ。あんな巨大な鳥に立ち向かっていくなんて、私には出来ないよ。それなのにみんな勇敢に立ち向かっていて、真雪ちゃんもすごく活躍していて、ほんとびっくりしちゃったよ」
にこやかに美月が感想を伝える。真雪は「そうかなぁ」と照れ笑いをするか、そこに「そやで。まだ私の言葉を信用してないな?」と冴華からのツッコミが入る。
「えっ、どういうことですか?」
「ここに戻ってくる時に真雪ちゃんに話したんやけどな、さっきの討伐クエストバトルで一番活躍したのは真雪ちゃんやって伝えたのに信じてもらえへんの」
朱音の質問に対して、冴華が困り顔を作って答える。
「まぁ柊木は自分を過小評価するきらいがあるからな。
サエの言う通り、アタシからしてみれば柊木の活躍が一番だと評価できたな。特にあの氷の嵐を捌いた神業めいた『流水の捌き』は目を疑うほどの凄さだった」
うむ、と頷きながら楓が先程のバトルの感想を伝える。
「えっ、あ、ありがとうございます」
「ぶー、フーちゃんだけは友情補正で親友の私が一番活躍してたって言って欲しかった」
「あ、あの、私は冴華さんが一番活躍してたと思いました」
「もー、朱音ちゃんはええ娘やわぁ〜。よしよし」
楓の反応に不満を零した冴華をフォローする朱音の言葉を受けて、冴華は朱音の頭を撫でて嬉しそうな表情を浮かべる。朱音も、主人に撫でられた猫の様に呆け顔になっている。
「まったく、朱音ちゃんの冴華さん推しは相変わらずね……
ふふふ。私もさっきのバトルは真雪ちゃんが一番活躍したと思うよ。だから自信を持って、ね」
話の収集がつかなくなった冴華達のやりとりを横目に、美月が真雪に声をかける。
「うん。美月ちゃん、ありがとう。ちょっと自信ついた」
嬉しそうに応える真雪の表情には、少しだけど自信の色が見えた。
『さーて、ブレバト紹介イベント昼の部は、これにて終了となります。皆様、ご観覧ありがとうございましたー!』
舞台ではイベントが終了だようで、今回のイベントに参加したプロ選手達が総出で観客達に手を振っていた。
「イベントが終わったよやね。私達もここから出よっか」
冴華の言葉で、私達は外に出る人の流れに乗ってブレバト紹介ブースを後にするのであった。
本話でついに、真雪は自分の実力に気付くこととなりました。
さて、これからどうなっていくでしょうか。
応援、よろしくお願いします。




