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74.デモ体験①〜セシルの眼〜

◼️前回までのあらすじ◼️

七夕イベントのブレバト紹介ブース。

ひょんなことから冴華と共に最新衣装とスキルを体験する『デモ体験』に参加することとなったよ。

 あの後、もう二組の観戦者がデモ体験に選ばれた。選ばれたのは私たちと同じ位の男子2人組と、すこし年齢が上の大人の男女カップルだった。

 総勢6名のデモ体験参加者が集まると、そのまま舞台へと案内された。


『はーい。こちらが今回のデモ体験に参加してくれるみなさんだ。

 まずは簡単に自己紹介してくれるかな?』


 司会の方がそう言うと、私にマイクが手渡された。


 えっ、私から?


『えっと、柊木 真雪です。埼玉県立神里高校の一年生です。高校に入ってからブレバトを始めました。よろしくお願いします』


 緊張しないように観客席には目を向けないようにして簡単に自己紹介する。


『高校から始めたってことは、始めてから3ヶ月ぐらいかな?

 やっとゲームに慣れてきたとこだと思うけど、最新の衣装とスキルを体験していってねー。では、次の子どうぞ』


 促されて私は隣の冴華さんにマイクを渡す。冴華さんはブレバトでは超有名なプレイヤーなんだけど大丈夫かな、と不安げに視線を向けるが、冴華さんからは大丈夫よ、と軽くウィンクが返ってきた。


『同じく高校3年の「カリナ サエ」です。

 私は中学からブレバトやってます。無課金でやってるから、普段着れないレアな衣装とか試着できるの超楽しみー。真雪ちゃんとは大の仲良しでーす。よろしくお願いしまーす』


 陽気な口調で答える。なんだか思いっきり仮名みたいな名前だけど、大丈夫なのかな? そう思って見ていたけど、その不安は杞憂に終わり司会が「是非、楽しんでね」と一言残して、次のデモ体験参加者にマイクが回った。

 次の男子二人は近場の高校の生徒らしく、来月から始まる全高ブレバトグランプリに向けての情報収集のためにイベント参加したのだと話していた。

 最後のカップルは二人とも社会人で、男性の方がブレバト経験者で女性の方が未経験だとのことだった。男性の方が「ゲームで彼女に良いところを見せたい」と意気込んでいた。


『では、舞台裏の特設ダイブルームへ案内しますね。案内役はこちら』


 司会が合図をすると舞台の袖から一人の美女が現れる。トッププロのセシルさんだ。


「マジかよ! 本物のセシル叡王だよ!」

「おおお、セシル叡王。めっちゃファンです。後でサインください〜」


 男子コンビは声を上げて喜び、カップルの男性は一瞬うっとりした表情を見せてしまったためか彼女さんに肩をつねられていた。


「では、私が案内しますね。こちらへどうぞ」


 柔らかな口調でにこりと笑うとセシルさんは私達を舞台裏へ誘導する。


『参加者がアバター設定をしている間、プロ選手同士のバトルをお楽しみ頂きます』


 司会がこれからの流れを説明し、プロプレイヤーのアバターが立体映像で舞台に登場していた。


「セシルさんはバトルに参加しないんスか?」


 先程セシルファンだと言っていた男子高校生がセシルさんの背中に問いかける。


「ふふふ。私は後方支援型だから、一対一のエキシビションバトルには出ないのよ。なので貴方達の誘導と仮アバター設定の説明を担当することにしたの」


 笑顔で振り返りながらセシルさんが答える。その笑顔を見て男子高校生は「そうですか。セシル叡王に直接説明頂けるなんて、光栄です!」と興奮の声を上げた。


「……それと、ちょっとお話聞きたい子もいるしね」


 チラリとこっちに視線が向いた。


「あかん。やっぱバレとる……」


 その視線を受けて、冴華さんが小さく言葉を漏らして眉間に手をやる。


「ここが特設ダイブルームよ。

 カプセルの中にはこちらが用意した端末があるから、そちらを装着してブレバトにログインして貰えばアバター作成画面となるわ。

 カプセルに搭載されている機器によって全身スキャンした情報で現実とほぼ同じ基本アバターが作成されているから、髪や瞳の色など変えたり、髪型を弄ったりくらいで設定は終われるはずよ。今回のアバター設定では職業と属性の選択はスキップされます。選んだ装備から自動で選択されます。

 そしてそこからが今回のデモの真骨頂ね。装備とスキルの選択だけど、この特別端末で作成したアバターについては装備制限はなくて、固有スキル【武器重量軽減】と【防具重量軽減】の両方が付与されているので重量装備も可能です。

 これまで実装されている装備が全て選択可能なので、好きな装備を選んでみてね。

 最新に実装された装備には『New』ってついているので、出来れば装備の中の一つはそれを選んで欲しいわね。

 あとはスキルの選択については、今回のデモアバターは特別にスキルスロットが10使用可能となっているので、気になったスキルをどんどん登録しちゃってね。

 説明はこんな感じだけど、質問はあるかな?」


 セシルさんが一気に設定の仕方をしてくれた。


「大丈夫そうね。設定の最中でも疑問があったら、通話機能でここで待機している私に連絡ができるようにしておくので困ったら私に聞いてね。

 それじゃあ、みなさん楽しいデモアバター作成を満喫ください」


 その言葉と共にオペレーターが操作してダイブ用のカプセルの扉が開いた。

 デモ参加者は嬉しそうにそれぞれのカプセルに入っていく。


「たのしみだなー」


 それに紛れて冴華さんもカプセルに入ろうとしたのだが、素早い動きで背後を取ったセシルさんに肩を掴まれた。


「あ、あのー、肩、めっちゃ痛いんですけどー」


 ギギギと錆びついたロボットの様な仕草で後ろを振り返る。


「ちょーっとお話聞かせてねー

 サエちゃんだっけ。貴女、こんなとこで何してるのかな〜?」


 にっこり笑うセシルさんの顔に影が差し、掴んだ肩にメリメリと指がめり込んでいく。


「痛たたた、ちょっ、セシルさん。肩もげる」


 冴華さんの顔に脂汗が浮かんでいる。それを目にして私は「はわわ」と言葉が漏れる。私と冴華さん以外はみんなカプセルに入ってしまったので、今は私たちとセシル叡王と機材のオペレーターのみがこの特設ダイブルームに出ている状態だ。


「質問の回答次第では本当に腕をもいじゃおうかしら〜」


 にこぉとセシルさんの笑みが深まる。


「イベント観戦してたら、たまたま友達が指名されたので、一緒にデモに参加することになっただけで」


 冴華さんは状況を伝えながらなんとか肩の手を引き剥がそうとするが、それが敵わずに顔が苦痛に歪む。


「ふうん。でも貴女、友達とかいなそうじゃない。ねぇ、本当かしら? 天堂橋のスパイとかだったらお姉さん警察呼んじゃうわよ?」


 セシルさんの黒目がちな美しい瞳が私を捉える。その美貌と鋭い視線のギャップにぞわりと鳥肌が立つ。

 天堂橋ってなんだっけ、たしかゲーム会社の名前だったような……


「真雪ちゃんは天堂橋とは関係ない。むしろセガワ側の人間だ。ちゃんと話をするから、いい加減手を離してくれ!」


 私に話題が振られた瞬間、スイッチが入ったかのように冴華さんの瞳に光が灯り、鋭い眼光がセシルさんを射抜く。ゲームの中の女王さながらの気迫に、流石のセシルさんも冴華さんの肩から手を離した。


「セガワ側、とはどういう事かしら?」


 セシルさんの問いに、冴華さんはチラリと私を見て「情報を売るようなことしてごめんね。これも()()にさせて」と断りを入れてから言葉を紡ぐ。


東雲(しののめ)さんに『チャンピオンロックベア人形の子』って伝えれば分かるはずよ」


 その言葉に、様子を静観していたオペレーターの一人が「あっ」と言葉を漏らした。私は何のことだか分からずに頭に疑問符を浮かべるだけだ。


「スパイ行為を疑うならば、これを渡しておくわ。

 流石にこちらも機密があるのでブレバトの情報は施錠してるけど、アプリの起動履歴を見ればスパイ行為をしていたかどうかぐらいは分かるでしょう?」


 セシルさんに近づいて、装着していた自らの端末を外して差し出す。

 今や『端末』は個人情報の塊だ。それを差し出すというのは相当な覚悟が必要なはず。だが、冴華さんは私を巻き込んだスパイ疑惑の解消にとそれを行ったのだ。その意味をセシルさんも分かっているはずだ。


「……分かったわ。預からせてもらう。だけど完全に信用した訳ではないですからね。少しでも疑わしい行動履歴があればすぐに警察を呼びますよ」


「ええ、それで構わないわ。それで、私達はデモ体験、参加していいかしら?」


 しばし二人は睨み合うように視線を交わしていたが、セシルさんがため息混じりに「そこまでの覚悟があるなら、許可するしかないじゃない」と言葉を漏らす。


「では、お二人ともカプセルにお入り下さい」


 周りで見ていたスタッフが私たちに声をかける。


「こんなすぐに正体がバレるなんて。真雪ちゃんごめんね。巻き込んじゃって」


「い、いえ、全然」


「とりあえず、今のいざこざは忘れて、私達もこのデモ体験を楽しみましょう」


 そんなやりとりを冴華さんとした後、スタッフさんに促されるまま特設カプセルへと入るのであった。


一話で終わらす予定だったデモ体験コーナー編ですが、やはり全然無理でした。

ここは七夕イベント編の盛り上がりポイントなので、しっかりと書き込んでいこうと思うので、あと2〜3話使うこととなると思います。


◼️登場人物紹介◼️

氷室ひむろ 聖識せしる

 ブレバトのプロプレイヤー。アバター名は『セシル』

 セガワ・コーポレーションの専属プレイヤー。

 芸能人顔負けの美貌と体型の美女。見た目に似合わず極度のゲームオタクで、元々ゲーム会社セガワの大ファンで、セガワからプロ契約の話が来た時は泣いて喜んだという逸話もある。

 セガワ制作のMMOゲーム『Shining Star Operation』のトッププレイヤーでもある。

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