70.再会
◼️前回までのあらすじ◼️
七夕イベントに参加すべくイベント最寄駅までやってきた真雪達。
会場に向かって歩き始めたその時、部活の先輩である楓先輩からの着信があるのであった。
□登場人物紹介□
・風祭 楓
eスポーツ部、二年の先輩。次期エース候補。
京都府立祇園女子高校からの転校生で、真雪にゲーム内での闘い方を教えた『クマ子』の中の人でもある。
三白眼で目付きが悪い見た目だが、心優しい先輩。
「急に連絡してすまない。今って話しても大丈夫か?」
電話に出ると、端末越しに楓先輩が聞こえる。朱音ちゃん達には了承を貰っているので私は「はい。大丈夫ですよ」と答える。
「部活で榎崎達と話しているのを聞いたのだが、柊木は今日お台場の七夕イベントに参加していたりするか?」
質問の意図が分からず首を傾げるが、取り敢えず今の現状を正直に答える。
「はい。今、最寄駅に着いたところで、会場に向かってるところです」
「そうか。榎崎も一緒にいたりするか?」
「はい。朱音ちゃん、美月ちゃんと一緒です」
「なるほど。実はアタシも友人と一緒に七夕イベントに参加しているんだ。それでその友人がどうしても君達に会いたいと言ってるんだが、もし差し支えがなかったらイベント会場で合流しないか? 無論、断ってもらっても構わないのだが……」
何だか楓先輩らしからぬ歯切れの悪い言い回しだ。しかも、何か向こうでやりとりがあったらしく「すまない。やはり出来たら会いたいのだが」と言い直していた。
「ちょっとこっちでも聞いてみます」
そう一言入れて、こっちの声を聞こえないようにして、朱音ちゃん達には確認する。
「楓先輩もイベントに参加していて近くにいるみたいで、私達と合流したいみたいなんだけど、いいかな?」
「えっ、そうなんだ。私達は真雪ちゃんの付き添いだから、真雪ちゃんがいいなら私は構わないよ」
美月ちゃんが柔らかな表情で頷くが、朱音ちゃんは「むー」と唸っている。
「朱音ちゃんは嫌だったりする?」
その様子を見て訊くと
「いや、嫌ではないんだけど、先輩と合流したら私が食べるパンが減っちゃうかな、と。はっ、もしかして風祭先輩、このパンの匂いを嗅ぎつけて――」
「んなワケないでしょ」
美月ちゃんの手刀が朱音ちゃんの頭に落ちる。
「たはは。冗談、冗談。私も大丈夫だよ」
朱音ちゃんはチョップが落ちた頭をさすりながら、笑って肯定する。
「うん。分かった。それじゃあ合流するって楓先輩に伝えるね」
私はミュートにしていた音声を再度オンにして先輩に合流OKだということを伝える。
「そうか、良かった。で、合流場所なのだが、これもこちらの都合で申し訳ないのだが、会場外にしたいのだが、30分後に近くの海浜公園で落ち合うってので、どうだろうか? こちらは会場入り口近くにいるので、再入場できる手続きして向かえば、そっちと同じくらいに着けると思うのだが」
楓先輩が待ち合わせ場所を提案する。私はこの辺の地理がわからないので二人に確認すると、美月ちゃんが手早く経路を確認してくれてOKのサインを出してくれる。
「はい。分かりました。では、30分後に」
そう答えて、電話の通話を切った。
それから私達は会場に向かう道を逸れて、経路案内に従って近くの公園へと向かった。
移動の最中、突然の事に「何だろうね」と語り合ってる間に目的の公園へとたどり着いた。
「ついでだし、公園でパンを食べようよ」
「いやいや、私達まだ電車移動しただけでしょ? しかも朱音ちゃんは電車の中で寝てただけでだし。食っちゃ寝してると次の日に体重計乗った時に大変な事になるよー」
「だって、真雪ん家のパン美味しかったんだもん。朝昼晩、三食いけるよ」
朱音ちゃんはバスケットからほのかに香る匂いを嗅いで、にひひーと笑って見せる。
「もー、朱音ちゃんったら食い意地だけ張ってー。真雪ちゃんも何か言ってあげてよ」
私に話題を振ってくるが、私もちょっとお腹が減っていた。
「まぁ食べてもいいんじゃないかな? 楓先輩とその友達にも新作パンの感想を聞けたら、お父さんも喜ぶと思うし」
「なっ、まさか真雪ちゃんが朱音ちゃん側とは」
「ふっふっふー。真雪は私の味方だって思ってたよ」
美月ちゃんは驚いた顔をし、朱音ちゃんは勝ち誇ったように胸を張る。
「あっ、風祭先輩」
私達がそんなやりとりしながら公園を進むと、別の入り口から入ったのか前から歩いてくる楓先輩を見つける。隣を歩く帽子を被った女性が楓先輩の友人なんだろうか。
「先輩。お疲れ様です」
朱音ちゃんがまずは駆け寄って頭を下げる。ついで、美月ちゃんも近づいて挨拶する。鈍臭い私は、慌てて躓いて転びかけながら挨拶する。転びかけた私を朱音ちゃん美月ちゃんが慌てて支えてくれた。
「そんなに慌てなくて良かったのだがな。すまない、急に呼び出すような事をしてしまって……」
楓先輩にと心配されてしまった。何だかちょっと恥ずかしい。
「友人がどうしても柊木と榎崎に会いたいって聞かなくてな……」
「嫌やわぁ楓ちゃん。迷惑かけたのを全て私の所為にしないどってくれる?」
楓先輩の後ろにいた帽子を被った女性が唇を尖らせて抗議の声を上げる。どこか聞き覚えがある声だが、誰だったか思い出せない。それにこのアクセント、京都弁かな?
「いや、どう考えてもサエの我儘だろう?」
「まぁそうやけど、そこは先輩を立てるのが京女の矜持と思うんやけど?」
「こんな時だけ先輩風を吹かすな。そんなんだから京女は腹黒だと思われるんだ」
「いけずやわぁ。それに本音で言うと、この状況を作ったのはフーちゃんにも一因があると思うんやけど? 私があれだけ分かりやすく合図出したのに、あの時はショックだったわぁ……」
「うぐ、それを言われると何も言えないが」
何だか私達を置いて、楓先輩と友人が言い合っている。話の流れから楓先輩が折れたようだ。
「で、どっちがSnowなん?」
唐突に帽子の子が訊く。青いカラーレンズの眼鏡の奥の瞳が私と美月ちゃんを交互に見る。
ん? 朱音ちゃんを知っている?
「今、転びかけた線の細い子の方だよ」
「ホンマに? ゲーム内とは本当に別人やな」
帽子の子は驚いた顔をした後、真っ直ぐにこちらを見つめる。
見つめられて、私の心がザワリと騒めく。
何だろう。この感覚。
「あ、あの、風祭先輩。話が見えないのですが、この方は?」
痺れを切らして、美月ちゃんが楓先輩に声をかける。
「ああ、すまない。コイツは――」
私達を置いてけぼりにしていた事に気づいて、楓先輩が慌てて友人を紹介する。その言葉と共に、隣にいた楓先輩の友人は私から視線を外して、帽子と眼鏡を外し、ポケットから取り出したヘアゴムで帽子から溢れた髪をポニーテールに結ぶ。
「あ、ああ……」
相手の正体に気づいた朱音ちゃんが驚愕に言葉を失う。
結ばれたポニーテールを軽く払い、こちらを向いたその顔は――
「姫野宮 冴華。アタシの幼馴染だ」
朱音ちゃんの憧れの人であり、ブレバトの最強高校生である女王SaeKaこと、姫野宮 冴華、その人であった。
□登場人物紹介□
・姫野宮 冴華
ブレバトにて高校生最強のプレイヤー。
高校生でありながらプロのゲーマーとしても活躍し、最年少でプロタイトルをも手にしている。
楓の幼馴染でもあり、紫電一刀流の使い手。
トッププロが集うオールスターバトルにて、楓との闘いを望んだが、さまざまな行き違いがあり朱音を傷付け、Snowに敗れるという経緯がある。
Snowに敗けた事により「焦り」や「奢り」が無くなり更に腕前が上がっている。




