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65.不良②〜不良を統べる者〜

※1時間前に一話投稿しています。読み流している方はそちらからお読みいただければと思います。


◼️前回までのあらすじ◼️

放課後にバイクに乗った不良集団が神里高校に集まっていた。

その不良集団に声をかけられた菫麗は、不良達がゲームで負けた復讐をしに来たと思い、元々良い印象を持っていなかった真雪を不良達の前に突き出す。

しかし、不良達のとった行動は想定外なものだった。


「Snowさん、貴女の闘いを見てファンになりました。サインを下さい!」

 はぁっ!? 何じゃそりゃ!


 不良達が一斉にサイン色紙を片手に柊木へサインをねだるという予想外の光景に、菫麗(すみれ)は絶句する。


「えっ、いや、あの。私、サインとかした事ないし」


「名前とアバター名を書いてくれるだけでいいです。

 できたら下に小さく日付と『ドモンさんへ』と書いて頂ければ」


 柊木がやんわりと断りを入れようとするが、それでも不良達が食い下がる。


「そ、そんな。私のサインなんて何の価値も」


「何を言ってるんですか! あの強さ。そして、美しさ。全高グランプリが始まれば『Snow』は必ず注目され有名になります! なので、是非サインを頂きたい」


 必死に頭を下げる不良達。柊木はその光景に戸惑うばかりだったが、それ以上に戸惑っているのは菫麗だ。


「はぁっ? てめえらふざけんなよ。ゲームで負けて、現実世界で復讐しに来たんじゃねーのかよ!

 そんなモヤシっ娘の世間知らず女のどこがいいってのよ。馬鹿じゃないの!」


 堪えきれず、不満を不良どもにぶつける。


「ああん? そういえば手前はさっきSnowを転ばせたよな」


「!っ、土門さん。Snowさんの膝に擦り傷がっ!」


「何だと! おい、クソ(アマ)ぁ、俺らのSnowさんを傷つけるとはどういう了見だ。テメェ、ぶっ殺されたいみたいだな」


 リーゼント男が睨みを効かせながら菫麗に近づく。


「な、な、な、なによ」


 急に不良達に敵意を向けられ、菫麗は後退る。



 ブゥウウウウウーーーーッ!!!!!



 その時、車のクラクションが鳴り響いた。


 振り返ると坂の入り口に黒塗りの車が停まっていて、クラクションを鳴らした後、中から色付きの眼鏡をかけ派手なシャツのスーツを着たチンピラ風の男が出てきた。


「た、隆司っ!」


 その姿を目にすると、菫麗は小走りにその男に駆け寄り、その背に隠れる。


「おう、菫麗、大丈夫だったか?」


「隆司、あの不良達、私を脅してきたの。すごく怖かったぁ〜」


 菫麗が震える様な演技を加えてそう告げると、チンピラ風の出立ちの隆司と呼ばれた男は眼鏡をズラして不良達を睨みつけ、ずんずんと坂を登り不良達に近づいた。そして


「オラァ、テメェら俺の女に何してくれてんじゃあ!」


 いきなりリーゼントの男を蹴り飛ばした。


「なっ――がはっ。くそっ、いきなり蹴りをくれるなんてっ」


 チンピラ男をリーゼント男が睨みつける。


「クソガキどもが、何だ。文句あるなら、かかってこいや。

 だがな、この俺はここらを取り仕切ってる『鳩邑(はとむら)組』の幹部じゃけぇ、やるならうちの組が敵に回ると思うんだな。

 高校生のワルごときが、極道を相手にする勇気があればだけどな」


 はん、と鼻を鳴らして、蹴りで吹き飛ばされたリーゼント男を見下ろす。


「はぁっ⁉︎ 知った事かよ! ハトだかカラスだか知らねえが、売られた喧嘩は買ってやるよ!」


 額に血管を浮き上がらせてリーゼント男は立ち上がり、足元に置かれたバッグの所まで歩くと、先程仕舞った金属バットを取り出すし、ガリガリと地面を擦りながらチンピラ男に近づく。


「チィッ、力の差も分からねえクソガキかよ」


 チンピラ男はスーツの懐に手を入れる。一触即発――ピリピリとした空気が辺りを包む。



「待て!」


 遠くから低い声が響く。

 坂道の入り口を塞ぐように停まっている車の隙間を縫う様に一台のバイクが近づいてくる。


「土門、お前はまた暴力事件を起こして出場停止になりたいのか?」


 不良達の近くでバイクを止めると、それを運転していた巨漢の男がリーゼント男に声をかける。


「うっ、す、すみませんゴウキさん、そんなつもりじゃ……」


 リーゼント男が我に返って、巨漢男に謝る。


「フン、なんだテメェら、スポーツマンだったのか?

 不良が聞いて呆れるぜ」


 そのやりとりを見ていたチンピラ男は懐に伸ばした手を元を戻して、蔑む様に言い放つ。


「スポーツマンは大変だよなぁ。蹴り飛ばされても、なーんも出来ねぇんだからよ。もう二・三人蹴り飛ばしてやろうか? はーっはっは」


 相手が反撃できないと分かり、いきなり態度がでかくなるチンピラ男。

 その態度に不良達は一斉に睨みを効かせる。


「何だその目は、文句あるならかかってこいや。できねぁだろ? まぁ、もし俺に危害を加える事があるならば、俺の所属する鳩邑組が動いて、全員コンクリに詰めて東京湾に沈めらることになるけどな」


 両手を広げて余裕を見せるチンピラ男。そんなチンピラ男に、声がかけられる。


「鳩邑組といったら玄弥(げんや)の爺さんのとこだね。

 組に帰ったらさ、藤岡 勇悟がよろしく言ってたって伝えてくれるかな?」


 その声は、巨漢男の運転するバイクの後ろに乗っていた男のものだった。

 この場に乱入してきたバイクは二人乗りをしていて、巨漢の男の背に隠れるように柔和な顔の学生が乗っていた。


「はぁ、何を言ってんだテメェは。意味わかんねぇこと言ってると、ぶっ殺すぞ」


 何を言われたか分からないチンピラ男は、その優男に対して凄んでみせる。


「はぁ、分かってくれないか。

 ゴウキ先輩、ここまで乗せて来てくれてありがとう」


 トントンと巨漢男の肩を叩くと、二人乗りで来た優男はバイクを降りる。そして、ゆっくりとチンピラ男に近づいていく。


「さっきの話を聞くに、もしかしたら僕の仲間を蹴ったりしたのかな?」


 歩きながらにこやかな表情で問いかける。


「あぁ、蹴っ飛ばしてやったよ、こんな風に、なっ!」


 チンピラ男はその問いかけに答えると同時に、近づく男を蹴り飛ばそうとする。が、その蹴りは空を切った。

 数歩ステップを踏んだだけで相手の視線から外れて、蹴りを躱し、一気に距離を詰めた。まさに達人の様な動きである。


「そうかい。仲間に危害を加えたとなると、()の出番だな」


 目の前まで距離を詰めていた柔和な表情の男の表情が一瞬にして鋭い眼光に変わり、素早い動きで伸ばされた手が相手の襟を掴み締め上げた。


「なっ――ぐっ」


「さっき意味わかんねぇとか言ってたな。

 ならば、()が分かりやすく言ってやるよ『テメェみたいな三下には用は無ぇから、俺が黙ってるうちに消え失せな』ってことだ」


「ぐ、ぐぇっ…… き、きさま、こんな、ことして…… 俺の後ろには、鳩邑組が……」


 徐々に締め上げる力が強くなり苦悶の表情を浮かべながら、チンピラ男は絞り出す様な声で言う。


「ふん、テメェの後ろに極道がいようが関係ねぇよ。

 もう一度言うが、俺の名は『藤岡 勇悟』だ。この辺りもうちの息がかかってる地域だから、その名前を聞いて何も思わねぇなら貴様は本当に三下だよ」


 一度チンピラ男を吊り上げるように持ち上げると、突き放す様に手を離す。チンピラ男は尻餅をついて、がはっがはっと咳き込みながら必死に空気を肺に取り入れる。


「て、てめぇ、くはっ。はぁ、はぁ、テメェの名前なんて聞いたことも…… って、待て、藤岡、だとっ? しかもうちの組長の名前も知ってるとなると、ま、まさか――」


 真実に気づいたチンピラ男が、目を見開くとその顔からみるみる血の気が引いていく。


「気付いた様だな。テメェのバックに『鳩邑組(極道)』がついているみてぇだが、こっちは()()()が『藤岡組(極道)』だ。

 テメェに害を加えたら組が動くだと? ならば組をあげての抗争となるな。戦争がしてぇなら相手になるぞ。ほら、やるのか?」


 ガシリとチンピラ男の髪を掴んで自分の方へ顔を向けさせると、雰囲気の変わった優男は相手の目を覗き込みながら訊く。


「あわ、あわわわわ。や、やりません。藤岡組なんて、大きな組と抗争になるなんて事になったら、お、俺の命がいくつあっても、たり、ない……」


 全身を震わせながら、必死に首を横に振り、敵対しないことをアピールする。


「ふん。極道(くみ)を盾に威張り散らすだけの小物が! 今すぐ俺の前から消えろ!」


 掴んでいた手を離すと、チンピラ男は「ひぃぃぃっ、すんません。すんませんでしたぁーーー」と泣き叫ぶように喚きながら、坂道を転がり落ちる様に走り、車に乗ってその場から去ってしまった。


 その後ろを必死にチンピラの名前を呼んで追いかけようとした菫麗は、坂道に足を取られて転んでしまう。その間に、チンピラは車に乗って一目散に逃げて行ってしまった。菫麗はチンピラ男に見捨てられて、置いていかれる様な格好となる。


「で、お前らはなんでこんなところに居るんだ?」


 先程まで優男風だった男が鋭い目つきのまま振り返って、不良達に問いただす。不良達はその視線に姿勢を正し、震え上がる。


「去年の話は聞いてる。汚い手を使った相手高に討ち入って一年間の活動停止になったんだよな?

 だが、昨日の練習試合では相手高に不正は無かった。現実復讐(リアルリベンジ)なんてする理由なんて無いよな?

 テメェら、今年も出場停止になりたいのか?」


 まるでゲーム内で闘気を纏った様な、凄まじい威圧感を放ちながら問いただす。


「ち、ち、違うんです、ジョーカーさん。俺達は、あの――Snowさんに会いたくて、ここまで来ちゃったんです!」

「午後の授業をサボってしまって、すみませんでした。俺達、体調を崩して先にログアウトしちまったSnowさんが心配で」


 不良達は必死にここに来た本当の理由を告げて頭を下げる。


「ええっ、なんか私のせいみたいになってる?」


 不良達が頭を下げているその中心で、線の細い神里高校の制服を着た少女はオロオロする。


「! もしかして、そこにいる神里高校の生徒が、Snowなのか?」


 ギロリと視線を向ける。目が合うと少女は驚いて「ひぁいっ」と変な声で返事をした。


 闘気にも似た空気を纏った少年はゆっくりとのそ少女に近づくと、口元を綻ばせて右手を差し出した。


「昨日の試合は最高だった。俺が今まで闘った中でのベストバウトだった」


 そして少年はそう告げる。


 どうしたらいいか分からなく、オドオドしていた少女は、相手が昨日の練習試合で闘った『ジョーカー』だと気づくと冷静さを取り戻し、「こちらこそ。いい試合でしたジョーカーさん」と手を握り返した。


「なるほど、状況は理解した。『俺』の出番はここまでだ」


 そう告げるとジョーカーから発せられていた威圧的な空気が霧散する。


「うちの生徒達が押しかけてしまって、すみません。迷惑だったでしょう。

 先輩方、すぐにバイクを端に寄せて下さい」


 優男の表情に戻ったジョーカーは、Snowとの握手を終わらせると、不良達に指示を出す。

 津張工業高校のメンバー達はその言葉を受けると「はい!」と返事をして坂道を通るのに邪魔にならない位置にバイクを移動させた。


「ところで一つ気になっていたのですが、あそこのもう一人の神里高校の生徒って誰ですか? 先輩方の見た目に驚いて転んでしまった神里高校の生徒かな思いますけど、違いますか?」


 ジョーカーが不良達に問いかける。


「あっ、木下さんは私のクラスメイトで――」


「なるほど。僕の予想通りですかね」


「いや、しかしジョーカーさん。あの女はSnowさんを転ばせて怪我を負わせたり、あのチンピラ男を呼んだりと気にきわねぇ奴なんすよ」


「ほぉ、そうですか。でも、先輩方に驚いて転んでしまっているんですよね。

 ちょっと僕が謝罪してきますね」


 不良の言葉にピクリと反応したジョーカーはにこやかな表情のまま菫麗に近づく。


「大丈夫ですか、立てますか?」


 ジョーカーが声をかけると「ひぃっ」と言葉を溢した後、「だ、大丈夫です」と膝を震わせながら立ち上がる。


「ところで貴女、Snowの事を良く思ってませんよね?」


 ジョーカーが表情から笑みを消して問いかける。菫麗は恐怖で顔が引き攣って声が出ない。


「先程Snowさんを怪我させたみたいですが、Snowさんが見ている場なので今回は見逃しましょう。けれど――」


 そこで一度言葉を途切ると、チンピラ男を追い払った時の威圧感を纏わせて小声で言葉を続ける。


「次にSnowさんに危害を加えたら覚悟していて下さいね。『僕』はさっき逃げて行った男より遥かに上をいく『(ワル)』ですからね」


「ひっ、ひぃっ!」


 菫麗の耳元でジョーカーが告げると、菫麗は小さく悲鳴を上げて恐怖で硬直してしまう。


「僕が伝えたかったのはそれだけです。怖がらせちゃって、すみませんでした」


 ジョーカーは優しい笑みを浮かべ最後にそう伝えると、振り返りSnowのところへ戻っていった。


「さてと、とりあえすこの状況をなんとかしないといけないですね。

 多分、先輩方が校門前を占拠しちゃっていたので神里高校の皆さんが下校できなくなっている状況ですよね?」


「いやいや、俺達はそんなつもりは――」


「そんなつもりはなくても、相手がそう捉えていたなら、そういう事なんですよ?」


「うっ、す、すいません……」


「Snowさん。お手数をかけて申し訳ないのですが、あちらでこっちを伺っている先生方に道を空けたのでこちらに気にせず下校して下さい、と伝えてもらえますか?

 先輩方は生徒が通ったら、「迷惑をかけてすみませんでした」と謝るのですよ」


 テキパキとジョーカーが指示を出し、下校出来ずに困っていた神里高校の状況を改善させた。


 Snowが校門ゲートの近くて心配そうにこちらを見ていた先生に事情を説明して、教室待機の状態を解除してもらった。

 神里高校の生徒は恐る恐る下校を始め、ゲートを出て坂道を通り過ぎる生徒達に不良達が「迷惑をかけてすみませんでした!」と頭を下げる。


 その場を離れる機会を逸したSnowは頭を下げる不良達の真ん中にぽつんと佇むこととなり、神里高校では次の日から「あの娘は、気弱そうに見えて不良達を従える裏番長なのでは」と噂が出回るのであった。

とりあえず、練習試合編はこれで一区切りです。

次回からは七夕まつり編(日常話)となります。


◼️登場人物紹介◼️

藤岡 勇悟

 津張工業高校一年生。

 アバター名は『ジョーカー』

 東関東一帯に影響力のある極道『藤岡組』の一人息子。多重人格であり、優男の主人格と好戦的な副人格を使い分ける。格闘から武器や銃火器までを扱う『藤岡無双流』の使い手。

 入学初日に当時番長格の生徒に喧嘩をふっかけられ、それを返り討ちにして一日で津張工業高校の番長格となる。


土門どもん 勝利かつとし

 津張工業高校三年生。

 リーゼントに髪型を決め、短ラン、ボンタンというレトロな不良姿。

 アバター名は『ドモン』。金属バットを武器に闘う。


本郷ほんごう 剛毅ごうき

 津張工業高校三年。2メートルを超す巨漢の大男。

 アバター名は『ゴウキ』

 津張工業高校eスポーツ部の部長。


津張工業高校については、もう少し細かく人物設定があるのですが、今回はこれくらいに。

本編で名前が出たタイミングで登場人物紹介したいと思います。

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