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63.ジョーカー〜藤岡 勇悟〜

◼️前回までのあらすじ◼️

千葉県立津張工業高校との練習試合を行った。

今回は津張工業高校のNo.1プレイヤーである『ジョーカー』にスポットを当てたお話です。



※どうでもいい小噺※

登場する人物や団体の名前は架空のものです。ノリで付けた名前なので深読みしても意味はありません。


千葉県の不良高校について

 主人公の高校が埼玉県なので、埼玉と仲が悪そうな(?)千葉県の高校としました。

 あと津張という地名はありません。不良だからツッパリ→つっはり→津張とした駄洒落みたいな命名の流れでした。


極道の藤岡について

 これは完全に後付けの名前です。

 津張工業の切り札のアバター名を、『切り札』から取ってジョーカーとし、中の人の名前どうしようと考えた時に、ジョーカー→じぉーかー→ふじおーかー→藤岡としただけの、こっちも言葉の語呂合わせみたいな感じで命名した名前です。

 その男、藤岡(ふじおか) 勇悟(ゆうご)は特殊な環境で育った。というか生まれた環境が既に特殊であった。


 西関東全域に名が轟く極道の一つ藤岡組の長男として生まれたのだ。


 勇悟は物心ついた頃から組の未来を背負って立つ男として厳しく育てられた。

 組の(おさ)となる者は強くあるべし。その家訓の通り身体を鍛えさせられ、帝王学を学ばされた。

 厳しく育てられた、と言っても地獄のような日々であったかと言われると、そうでは無かった。組長の一人息子ということで厳しくも大切に育てられたのだ。


「流石です坊ちゃん。モデルガンの分解組み立てを10分以内に出来るなんて、組の者でもそこまで早く正確に拳銃(チャカ)をメンテできるのはそうは居ませんぜ」


「くうっ、まさか将棋でこの儂を負かすとは」

「はっはー、遠間(えんま)御爺(おんじ)に勝つなんですげーですぜ。御爺の引退も近いですかね」

「馬鹿を言うな。まだ、1駒落ちでの勝負じゃ。次は平手で勝負じゃ!」

「御爺が本気になった。すげぇですぜ、若。あっしなんて御爺に裸玉で負けたことがあるんですぜ」

「そりゃあ、お主が弱すぎるだけじゃ」


 組の者は自分が成果を上げると我が事のように喜んでくれた。実際に物を作ったり、戦略を考えることは得意だった。しかし――


 ドダダン!!!


 家に併設されている道場に畳を叩く音が響く。

 組の武闘派No.1と呼ばれる鬼塚(おにづか)は子供である勇悟を容赦なく投げ飛ばした。


「うっ、うう……」


 その痛みに視界が涙で滲む。


「お前の本気はそんなものか? この俺を殺す気でかかってこい」


 頬に大きな刀傷がある鬼塚は大の字に横たわる勇悟に対してそう言い放つ。


「うう、もうヤダよ…… 何でこんな痛い思いをしなくちゃいけないの……」


 立ち上がる気力も失っている勇悟は泣きながらそう訴える。そう勇悟は人を傷つけるのが苦手であった。


「痛みを知らぬものは人の上に立てぬ。そして組のために非情になり、相手を傷つけることも厭わない強さを持たなければ組長の跡を継ぐなんて無理だ。そんな奴は俺は組長とは認めない」


 冷たく言い放ち鬼塚は背を向ける。


 うう…… 僕だって極道の組長になんてなりたくないのに……


 喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。


 その言葉を口にするのは簡単だが、しかし自分に期待を向けている組員が多くいる事を知っている勇悟は弱音を吐く事は出来なかった。


 バサッ!


 そんな勇悟の耳元に何かが投げ置かれた。音の感じからすると紙の束の様だ。視線を向けるとそこには数冊のノートがあった。


「俺が若い頃に書いたノートだ。この藤岡組の武力を支える『藤岡無双流』の極意が書かれている。門外不出の極意書を組長(オヤジ)殿に頼み込んで見せてもらい、その内容に俺の所感を含め複写したものだ。

 極意を極めた俺には不要になったものだから、お前にやろう。お前には内容を理解することはできないだろうが、勉強が大好きな坊ちゃんならもしかしたら読み解けて、藤岡組の強さの極意を知れるかもしれんからな」


 鬼塚は勇悟を見下ろして、そう言葉を残すと道場を後にした。

 後に知ったことだが、そのノートは『鬼塚ノート』と呼ばれていて、どんなに仲の良い組員に対しても中身を見せたことがない鬼塚の強さの極意が記されているものであった。

 しかし、子供の勇悟にはその内容を理解することは困難であった。それはそうであろう。漢字すらまともに読めない子供に、身体や筋肉の部位など事細かに記された極意書など理解できるはずもなかった。だが、鍛錬にて叩きのめされた反骨心と、難解な物を読み解くことへの好奇心から、少しずつその内容を読み解いていったのだった。


 事件が起きたのは勇悟が6歳の時であった。


 それは幼稚園からの帰り道だった。バス停から家までの僅かな距離で、敵対している組に攫われたのだった。

 最初は何が起きたのか分からなかった。黒塗りの車が勢いよく横につくと中から数人の男達が出てきた。迎えに来てくれていた組の若手が驚きながらも対応しようとするが背後から迫っていたもう一人の男に殴り飛ばされた。その間に勇悟は口を塞がれ、抵抗できぬままに車へと連れ込まれたのだった。


 目が覚めた時には知らない部屋で椅子に座らされていた。後ろ手に手首を縛られて座らされているだけの状態だった。

 目の前には大きなテーブルに高級そうな皮の椅子。そこには猛獣の様な鋭い目つきの男が座っていた。


「おう。目が覚めたか、坊主」


 ギロリと視線を向けてその男が声をかけてくる。勇悟は怖くて言葉が出ない。勇悟はその男のすぐ隣に簡易的な木の椅子に座らされている。縛られている縄を解けば手が届く様な距離だ。しかも縛っている縄は緩く上手くしたら抜け出せるかもしれない。


「くくく……

 そこから抜け出して俺に攻撃してみるか? それとも逃げ出すか?

 そこから一歩でも動いたら抵抗の意思ありと判断して、ちぃーとばかし痛い目にあってもらうからな」


 男はテーブルに置いてあったクルミを手に取ると、その殻を勇悟の目の前でバキリと握り潰して見せた。


「まぁ命は取らんが、指の骨の一・二本、このクルミの様に砕かれるぐらいは覚悟しとけよ。くくく、はーっはっは!」


 恐怖で青ざめる勇悟の顔を見下ろして高らかに嗤う。


「これで調子に乗ってる藤岡組も黙るでしょうね」


「ああ、大した額ではないが、ガキのために金を払ったとなれば、もう奴らは俺らに怯えて手が出せなくなるはずだ」


 部屋にいたスキンヘッドの男の言葉を受けて、勇悟を脅した男は手の中のクルミの実を口の中に放り込みながら応える。


「おっと、そういえば自己紹介がまだだったな。

 俺は鮫島組の若頭の鮫島(さめじま) (あざみ)だ。お前と同じく極道の次期頭領になる男だ。これからも末永くよろしくお願いしますよ。藤岡の坊ちゃん」


 勇悟の髪を引っ張り上げ、無理矢理に目を合わせて薊と名乗った男が下卑た笑みを浮かべて、はーっはっはと嗤う。


 そんな声が響く部屋のドアがバタンと開く。


「た、大変です、若頭っ!」


 息を切らしながら部屋に飛び込んできた男に、薊は「ああん、騒がしいな」と不機嫌に睨みを効かす。


「藤岡組の者がカチ込んできました! 今、若い衆に対応させてます」


 血相を変えながら部屋に飛び込んできた男が報告する。


「ちぃっ! こんなガキの為に騒動を起こすか。素直に金を払えばいいものを。で、藤岡はどれだけの規模で来やがった?」


「そ、それが、一人で」


「はぁ? 一人だと。そんなもん数人で取り囲んでひねり潰せ。ふん、馬鹿な鉄砲玉の暴走か。取り押さえて金の吊り上げ材料にしてやれ!」


「いや、それが、カチ込んで来た一人ってのが、藤岡組の武闘派No.1の鬼塚なんです」


「何だとっ! あの『藤岡の赤鬼』がこんなガキの為に動いただと⁈ ふん、むしろ好都合だ。藤岡組の最大戦力、ここで潰せれば組の力関係も大きく崩れる。おい、どんな手を使ってもいい。ぶっ殺せ!」


 狂気に染まった様に表情を歪めて、薊は指示を飛ばす。


 殺せ。その言葉を聞いて勇吾の表情から血の気が引いていく。極道の抗争でのその言葉は比喩でも何でもなく、まさに命を奪うことなのだ。


 鬼塚が殺されてしまう。どうして、なんで僕のために……


 勇吾は頭の中で疑問を繰り返す。自分を次期組長とは認めないと言っていた鬼塚がなんで自分のために助けに来たのか理解出来なかった。それ以上に自分のせいで人が死ぬことになるかもしれない状況に絶望していた。


 開け放たれたままのドアの向こうから争う音と、悲鳴の様な声が聞こえて来る。それはどんどんと近づいてきて……


「ま、まさかもうここまで――ぐえぁっ!!!」


 報告に来た男が外の様子を窺おうと部屋の外に出た瞬間、その男の叫び声と共にその男の体が吹き飛ばされて部屋の中に転がった。


「おう、ここか? よう、久しぶりじゃな、鮫島の若大将……」


 ドアの向こうから現れたのは、全身ボロボロになりながらも鋭い眼光を光らせた鬼塚だった。右手には木刀が握られており、それ一本でここまで辿り着いた様だ。しかしその代償は大きく、ピッチリと着こなしていた筈のスーツはボロボロになり、刃物でやられたのだろうか胸元と左腕の辺りがぱっくりと切り裂かれており、ジワリと血が滲んでいた。そして、いつもはオールバックに決めている髪型も乱れており、顔も所々青く変色していたり血が滴っていたりした。


「お、鬼塚ぁ〜っ」


 ギリギリと歯軋りしながら薊が鬼塚を睨みつける。


「薊さん、ここはあっしに任せてくだせぇ。手負いの鬼なんざ、3枚におろしてやりまっさぁ」


 薊とともにずっとこの部屋にいたスキンヘッドの巨漢男が、部屋に飾られていた日本刀を手に取り、鞘を投げ捨てた。


「権藤、殺っちまえ!」


 薊がスキンヘッドの巨漢に命令を飛ばす。


「はん。鮫島のタコ坊主か。

 勇吾坊ちゃん、すぐ助けますんで、もうしばらく待ってくれ」


 チラリと勇吾に視線を向けて小さく微笑むと、鬼塚は木刀を構えた。


「き、貴様ぁ、俺ぁタコじゃねぇ! 鮫島の仁王じゃ! 今回は頬に少し傷をつけるだけじゃ済まんぞ!」


 スキンヘッドの権藤は足元のテーブルを鬼塚に向けて蹴り飛ばす。


「チィッ! 足癖の悪いタコ坊主が!」


 鬼塚は迫り来るテーブルを思いっきり蹴り返す。もしも相手がテーブルの後ろから追撃を狙っていたならカウンターとなっていたのだが、しかし相手は蹴り飛ばしたテーブルを大きく迂回する様な動きで間合いを詰めていた。


「タコ、タコ、言うな!」


 抜き身の日本刀の刃が横薙ぎに鬼塚を襲う。テーブルを蹴り返した大勢の鬼塚は避けられない。


 危ないっ! そう思うが、勇吾は恐怖で身体が硬直していて言葉が出ない。


 ガギィ……スパッ――


 何とか木刀で日本刀を受け止めるが、素早く日本刀の刃を引くことで木刀は二つに切り裂かれ、切れ味が最大になっている刃がそのまま鬼塚を襲う。しかしその切っ先はギリギリ鬼塚へは届かなかった。


「はっ! よく躱したな。だが、その棒っ切れで次が躱せるかな?」


 ニヤリと口元を歪めるスキンヘッド。


「お前など、素手で十分だ――ぜ!!」


 鬼塚はその言葉と同時に手に持った半分の長さになった木刀を相手に投げつける。


「チィッ、猪口才な!」


 スキンヘッドはその木刀を躱すと、距離を詰めていた鬼塚に向かって日本刀を振り下ろす。


「藤岡無双流・飛燕拳(ひえんけん)


 鬼塚はまるで燕が滑空するような素早い動きで、振り下ろしている日本刀を持つ手の甲に拳を叩き込む。


「ぐあっ」


 激痛にスキンヘッドの表情が苦悶に歪む。

 その一瞬の隙をついて、鬼塚はさらに一歩踏み込んで相手の鼻頭に頭突きを叩き込んだ。

 その頭突きは藤岡無双流の奥義の一つ『激犀衝(げきせいしょう)』だということをノートを読み解いていた勇悟は知っていた。


 す、すごい。あのノートに書かれていた技で本当に敵を倒した。あのノートには本当に強くなるための極意が書かれていたんだ!


 勇吾は目の前の想像を絶する強さの男に憧れを抱き、そしてその強さの秘訣を惜しみもなく自分に教えたその優しさに、その時初めて気付いた。だが――


「ふ、ふ、ふざけるな。たった一人に我が組のメンバーが壊滅なんて、そんな、そんな事あってはならないっ!!!」


 すぐ横にいた鮫島組の若頭である薊が震える声で叫びながら、机の引き出しから何かを取り出していた。


――それは黒い塊で――


「組の者でもそこまで早く正確に拳銃(チャカ)をメンテできるのはそうは居ませんぜ」


――そんな言葉が思い出される。


 あれは、自分が分解・組み立てしていたモデルガンにそっくりで、しかし鈍色に輝くその姿はとても凶悪に見えた。


――あれは、本物の拳銃だ!


「し、し、し、し、死ねぇぇぇっ!」


 薊がそれを構えて絶叫する。


 鬼塚はその声に振り返るが、反応できない。


 やめろ、やめろぉぉぉぉっ!!!!


 脳内で絶叫する。その声と共に、頭の中で『ブツン』と何かが切れるような感覚。そして、もう一つの声が聞こえる。


――お前じゃ無理だ。『俺』と代われ――


 その声は自分の声であった。勇悟はすぐにその声に身を委ねると、勝手に身体が動いた。


 緩く縛られていた縄から両手を瞬時に抜け出させ、椅子を倒しながら、極意書に書かれていた足捌きで一瞬のうちに薊との距離を縮める。そして、相手が引き金を引くよりも早くその腕を蹴り上げていた。


 パァン!


 響く銃声。腕が蹴り上げられていたため、弾丸は天井に穴を穿ったのみであった。


「き、貴様ぁっ!!」


 鬼の様な形相で薊が勇悟を睨みつけ、勇悟に拳銃を向ける。


「遅せぇよ!」


 勇悟の口から、勇悟の心とは別の言葉が吐き出され、右手が鋭い掌打を繰り出していた。その一撃は相手の喉元に突き刺さり、そのまま相手を床に押し倒した。

 途中に銃声と、耳元を熱い何かが掠めて飛んでいったが、身体は気にせず次の行動を起こしていた、掌打から手を広げて、相手の首の頸動脈に爪を突き立てる様に握り込む。子供の握力なので相手にダメージは与えられないが、頸動脈を締め付けることにより、脳への酸素供給をじわじわと断っていった。


「うおらぁぁぁぁっ!!!」


 全力で声を吐き出しながら両手を使って相手の首をさらに握り込んでいく。しばらくすると、相手は白目を剥いて意識を失った。


「坊ちゃんの、勝ちです……」


 声をかけられて、我を取り戻す。

 振り返ると鬼塚がすぐ近くに立っていた。


――こっから先はお前の役目だな。あとは任せる。また、暴れる時があったら呼んでくれや


 頭の中でそんな言葉が響くと、身体の自由が戻った。


「鬼塚、無事で良かった……」


 ボロボロの鬼塚を見上げてそう言うと、鬼塚は柔らかく笑い「それは、こっちのセリフですぜ」と答える。


「良かった。僕は――」


 そこまで言うと、緊張の糸が途切れたのか全身から力が抜けて意識を失った。




 次に目を覚ました時は、鬼塚に背負われていた。


「おっと、目を覚ましましたか坊ちゃん。もうちょいで家ですので、しばらく俺の背中で我慢してください」


 目が覚めたことに気づいた鬼塚が優しい声をかけてくれる。勇悟は「うん」とだけ答えた。


「それにしても、まさか相手の若頭に飛びかかって気絶させちまうとは、坊ちゃんの強さに驚きましたよ。

 拳銃(チャカ)を持つ相手に素手で飛びかかるなんて、まさに坊ちゃんの名前の通り『勇気』と『覚悟』を感じ取れました」


 先程の事を思い出して鬼塚が囁く。しかし、勇悟の心は複雑であった。あれは自分であって、自分ではなかったのだ。あの声は何だったのだろう。いや、分かっている。あれは自分の声だった。あれは多分、人を傷つける事を苦手とする自分が作り出してしまったもう一人の自分なんだろう。


「あれは、僕じゃないんだ」


 なので、先程の活躍を誉める鬼塚の言葉を遮って、そう告げる。その言葉に鬼塚は戸惑った様に言葉を途切れさせる。しかし、少しして鬼塚は言葉を続ける。


「坊ちゃんは俺と一緒なのかも知れないですね」


 その言葉に、今度は勇悟が戸惑う。


 同じ?


「俺には心の中に『鬼』が一匹棲んでいるんです。

 そいつは仲間が傷つけられるのを見ると勝手に現れてきて相手を再起不能にするまで暴れるんです。若い頃はその『鬼』が何度も現れて返り血で真っ赤に染まることから、組でも制御できない武闘派幹部の『赤鬼』なんて呼ばれました。

 最近じゃあ『鬼』はめっきり出て来なくなったんですが、坊ちゃんが攫われたと聞いて久々に出てきちまったんです。

 組長(オヤジ)の静止を振り切って、一人で鮫島組に乗り込んじまったんで、帰ったら俺は組長から大目玉を喰らうことになりそうです。

 だけど俺は後悔してません。坊ちゃんも、自分の中の鬼を嫌うのではなく、相棒として仲良くやっていければいいと思いますぜ」


 続いた鬼塚の言葉に、少しもう一人の自分とは違うとは思いつつも、相棒として仲良くやっていくべきという言葉はスッと腑に落ちた。


「うげっ、組長」


 鬼塚のその言葉に視線を前に向けると家の門の前で、腕を組んで佇む組長(とうさん)の姿があった。


「坊ちゃん。どうかあまり怒られない様に口添えお願いできないですかね……」


 怯えた声で鬼塚が呟く。


「分かったよ。口添えしてあげる。ただし一つ条件がある」


「何でしょう」


「藤岡無双流の奥義書、難しい漢字が多すぎて分からないところばかりなんだ。だから、次からの稽古の時にもっと分かりやすく教えて欲しいんだ」


 そう言うと、鬼塚は嬉しそうに「そんな事ならばお安い御用ですよ。共に強くなりましょう」と答えた。


 こうして、二人は無事に家に帰るのであった。


 勇悟の経験した人生初の誘拐事件は、藤岡組の一方的勝利として幕を閉じたのであった。

ジョーカーのキャラ設定が分かりづらかったかなと思い、掘り下げてみました。

初めて多重人格キャラを書いてみたのですが、なかなか難しかったです。

バトルや喧嘩では鬼の方の勇悟が、通常では優しい勇悟が主人格として表に出てくる感じです。


予定ではブレバトとの出会いや、1日で不良高校を締め上げて番格まで上り詰めてしまった話とかも書きたかったのですが、文字数的に増えすぎてしまったので今回は泣く泣くカットしました…… 今後のお話で追加エピソードとして書ければと思っています。


津張工業高校については、神里高校がレベルアップするための「噛ませ」みたいなイメージでいたのですが、今では思い入れのある高校となりました。

なので、もしかすると千葉県大会を勝ち上がり、全高グランプリで再戦することになるかも知れません(^^)


次回はみんな忘れていると思われるあのキャラが再登場します。

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