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48.オールスターバトル⑦〜女王の誤算〜

◼️前回までのあらすじ◼️

ブレバトオールスターバトル開催中です。


今回は最年少プロである、女王・SaeKaからの視点です。

 くそっ、あー腹が立つ。


 私は剣の道を極めようとしていただけなのに、私は何をしているのか。


 私は『紫電一刀流』と呼ばれる剣術流派の子として生まれてきて、物心ついた頃から木刀(けん)を振るっていた。

 そして、いつも隣にはひとつ年下の幼馴染の楓が一緒にいた。

 私は本家筋で、楓は分家と立場は少し異なったが、幼少期より剣術に触れていたという境遇が一緒でいつも一緒に剣を振っていて、共に「この流派を広げよう」と約束した。


 私は剣を振るう事が楽しく、ひとつ下の楓に負けないようにと必死に訓練を重ね、いつしか門下生の誰よりも強くなっていた。


『紫電一刀流』は居合いや1対多の戦術に特化した流派のため、剣道とは異なる流れを踏んだものである。

 なので、いくら強くても『剣道』の様に一般にも浸透した階位があるわけでもなく、世間に認知されることはなかった。どちらかというと『護身術』の延長線上だったのだ。


 私はそれでも良かったのだが、幼馴染と戯れに始めたVRゲームにて状況が一変した。


 実戦に即した剣術である『紫電一刀流』がゲームの世界で通用したのだ。


 私は夢中になってそのゲームにのめり込んだ。


 始めたばかりの頃は負けることもあったが、中学高学年になる頃には常勝無敗となっていた。


 私はゲームを始めた当初に楓と約束した「一緒に同じ高校に入って、素人(アマ)の大会での最高峰である全国高校ブレバトグランプリで優勝する」ことを目標にやってきた。


 状況が一変したのは高校一年の時だ。


 ブレバトグランプリの常連である強豪校の祇園女子高校に入学した私はその実力を買われ、一年生ながらレギュラーとして大会に出場し、なんと無敗のまま優勝を手にしたのだ。


 その時はたまたま一度も負けなかっただけだったのだが、一躍注目の的となり学年が上がった翌年にはエースとしてブレバトグランプリに参加することとなった。

 ただ一つ誤算だったのは、一年遅れて入学してきた楓がレギュラーから外れた事だった。私は当時の部長に猛烈に抗議したのだが、その決定は覆らなかった。当時の三年生が近距離タイプが多く、私と流派も戦い方も被っていたという事が理由だった。


 ならば翌年こそは私が部長となって楓と共に全国一位になろうと目標を変更したのだが、そこでもまた私が想定していなかった事態が起きる。


 プロへの勧誘だ。


 2年目の大会でも無敗のまま学校を優勝に導いた私に対し、ブレバトのプロ協会が勧誘してきたのだ。

 私は楓と共に日本一になるという夢があったので、高校卒業まで待って欲しいと個人的に断ったのだが、「流派を全面に押し出してPRしていきます」の殺し文句に両親が先に折れる格好で私はプロの世界へと足を踏み入れる事となったのだ。



 プロ転向宣言やゲーム会社との契約について大々的にテレビ放映され、プロデビュー戦なんかは全国テレビ放映され翌日にはニュースサイトに『ブレバト期待の新星・鮮烈デビュー』と大々的に報じられた。


 さらに京都で有名なアニメ制作会社が、地元でのスター選手誕生にあやかって私をモデルにしたアニメ制作の打診があった。

 これも流派を全面に押し出しすという条件に両親が食いついて承諾。アニメが放映されるや否や爆発的な人気を博して、流派は一気に認知度が上がり、プロとしての活動だけでなく、メディアやマスコミの対応に忙殺される事となった。


 そんな多忙な日々を送りつつも、プロとしてデビュー戦からの連勝記録を伸ばしていた中、私にとって衝撃な出来事が起きる。


 幼馴染の楓の転校だ。


 楓の母親が体が弱いということは聞いていたのだが、まさか入院していたなんて知らなかった。

 そして、手術のため遠く離れた場所へ転院することになり、その付き添いで楓も転校する事となったとを全てが決まった後に知らされた。


 どうして! 私と一緒に高校で日本一になるんじゃなかったの!


 転校の事実を知った時に、私は楓にそう問い詰めた。


「ごめん、冴華。アタシは貴女ほどの剣の才能もないし、強くもない。他の部員にも勝てない程の凡才だ。

 転校については、家族で決めた事だ。母さんのためを思うと、誰かが一緒に行かなくちゃならない。

 だからこれを良い機会だと思って、アタシは新天地で一からやり直そうと思う」


 そう私に言葉を返した楓の表情は悲壮感があった。後から聞いたのだが、どうやら楓は剣術もゲーム内の成績も伸び悩んでいたみたいだった。

 ずっと変わらないであろうと思っていた幼馴染から「貴女とは違う」と言われたことは正直言ってショックだった。


 幼馴染と一緒に高校で日本一になるという夢が潰えたため、私は高校のeスポーツ部の部長を退きプロの活動に専念していった。

 プロ活動では同じプロ選手との試合の他に、最新のAIを組み込んだ擬似プレイヤーエネミーなど高度な戦闘訓練が多く、学生同士が対人で訓練するよりも何倍もの経験を積む事ができた。プロの世界、プロの環境を知ってしまうともう高校生レベルのバトルはヌルすぎて戻ることは出来なくなった。


 いつしか私は全高ブレバトグランプリへの興味は失われていた。


 そんな中、良い知らせが一つあった。


 幼馴染の楓が転校先でもブレバトを続けるとの知らせだ。楓は強さの壁にぶつかり思い悩んでいたので、もうブレバトは辞めてしまうかもと思っていたので、そのメールを見た時はとても嬉しかった。


 そこで私は一計を案じる。


 一つタイトルを取ったことで生じたブレバトオールスターゲームへの出場権。この権利を使って楓の存在を世に知らしめようと思ったのだ。私以外にも『紫電一刀流』を扱う有望な選手がいるのだと。


 全高ブレバトグランプリへの不参加報告と併せての高校生達とのサプライズバトル。

 通常ではそんな我儘は通らないのであるが、丁度大ヒットした私をモデルにしたアニメの劇場版が決定し、そのキャラと同じ衣装を着て番宣もするという事を条件にスポンサー企業を通して提案し、そして無理矢理に案を通してもらった。


 嫌々ながらでもアニメのPR活動や、イベントにゲストとして参加したりしていた甲斐があったと心の内で喜んだ。


 そして計画当日。私の目算通り事が運んだ。いや、むしろ私が『名人』を倒した事によって絶好の演出となったのだ。


 はっきり言って高校生レベルのプレイヤーは相手にならない。複数人全員が敵に回る様なバトルロイヤル形式であっても、1対多を前提としている『紫電一刀流』を扱う私からすれば問題ないのだ。


 全ての敵を倒し、『紫電一刀流』同士の闘いを見せつけて楓の存在を世に知らしめるのだ。


 ついに待ち望んだ瞬間が訪れる――と、思ったのだが、想定外の事が起きる。


 なんと楓の高校から出てきた代表が別の選手だったのだ。


 なんて事だ。ふざけるな!


 頭に血が上る。私の計画が台無しだ。なんて事してくれたのだ。

 さっさと他のプレイヤーを倒す。すると、楓の代わりに出場したプレイヤーが何か語りかけてきた。


 お前の話なんか聞きたくないんだよ!


 私はそのプレイヤーを「聞く耳もたん」と斬り飛ばす。


 お前の話なんか聞きたくないんだよ。


 地に伏せた相手を踏みつける。それでも何か言っている。仕方ないと言葉に耳を傾けると、とんでもない一言が耳に入った。


「私の我儘で、この試合の出場権を譲って貰いました」


「何?」


 その一言で私の怒りが頂点に達する。


 私は怒りに任せて相手を踏みつけ、見え見えの弱点であった相手の膝を刀で貫いた。


 そして相手に『棄権』させて、本来出場するはずだった楓と変わる様に強要した。


 相手は泣きながら私の言葉に従い、『棄権』した。


 そして、試合終了判定前に主催であるプロ連盟に出場選手が違っていたので正しい選手で再戦したい旨を伝える。


 先輩プロである叡王が「大会を私物化しすぎだ」と抗議の声を上げたが、そんな事私にも分かっている。しかし、ここは我を押し通した。楓のためならば、私が受けるペナルティーも覚悟の上だった。


 結果、大きく譲歩され3分間のみのショートタイムバトルならばと承認された。

 これがラストチャンスだ。


 私は計画を隠すこともなく、会場にいる楓に向けて刀を向けて「貴女が出場しなさい」と合図する。

 それを受けて楓が席を立つ。そのままダイブルームに向かうのだろう。


 楓の準備が出来るまで、会場がずっとザワついていた。


 大丈夫だ。計画は途中狂ったが、これで計画通りに行くはずだ。


 あとは楓がバトルフィールドへ来れば全ては上手くいく。


 そう思って、楓が参加してくるのを待つ。


 しばらくすると、バトルフィールドが再度構成されていく。対戦相手が確定した様だ。


 早いな。急いで準備をしたのかな。


 やっと待ち望んだ瞬間が来る、と転送されてくる相手に目を向ける。


 そこに現れたのは、白い熊の格好をした相手だった。


 それは着ぐるみ装備といわれるトライアル版でのみ実装された謂わばネタ装備である。


「楓。なんて格好してんのよ」


 ついつい相手に話しかけてしまった。知り合い贔屓したのがバレないように、すぐにバトルに入る予定だったのに、しまったと思った。


 しかし、相手から返ってきた言葉は私の想像していなかった言葉だった。


「ごめんなさい。私は楓先輩ではないの」


 その言葉に私の中で何かがぶつんと切れる。


「はぁーーーっ! ふざけんじゃねぇよ!!!」


 計画が全て崩れ去った事に、私は絶叫していた。

ということで、次回オールスターバトルのクライマックス。


SaeKa vs Snow の闘いとなります。

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[一言] 掲示板民+αは歓喜ww
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