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29.スカウト

◼️前回までのあらすじ◼️

スポーツ大会中に過労にて倒れてしまった真雪の治療が完了し、また学校に通えるようになりました。


※真雪からの視点に戻ります。

「学校だ……」


 目の前の学校を見上げて、私は思わず笑みが溢れる。


 やっと体が回復して、お父さんお母さんから登校の許可が出た。

 スポーツ大会で倒れてしまってから、一週間振りの登校だ。


 絶対安静が解除されて家での休養となってからは、一応リモート学習として家から授業だけ参加してたけど、やっぱりこうやって学校に来ると、楽しみで笑みが溢れてしまう。


「よし。まずは難関のこの心臓破りの坂だな」


 校門へ続く坂道。他の生徒は誰も苦にしてはいないであろうなだらかな坂道でも今の私には難関だ。


 身体は回復したと言っても、未だに全身に湿布が貼られたツギハギお化けの状態である。

 お父さんからは「絶対に無理をするな」って言われてるから、時間をかけてでもゆっくり歩いて行こうと気合を入れて小さく頷く。


 と、そのときにポンと肩が叩かれる。


「真雪ちゃん、おはよ!」


 振り返ると、美月ちゃんと朱音ちゃんが笑顔で挨拶して来た。


「初めて会った日もこの時間だったから、もしかしてと思って同じ時間に来て正解だったよ」


「ふぁ…… さすが美月ね」


 嬉しそうに話す美月ちゃんと、眠そうにあくびをする朱音ちゃん。


「一緒に行こ」


 二人はそう言うと、私の横に着いて歩く。


「あ、無理しなくていいよ。歩くのは真雪のペースでいいからね。休みたい時は言ってよ」


 二人に合わせて歩くペースを上げようとしたら、美月ちゃんに注意された。


「私もスポーツ大会で膝をやっちゃってるから、真雪のペースぐらいがちょうどいいかも」


 まだ瞼をこすりながらも、朱音ちゃんがにひひと明るく笑う。その左膝にはサポーターが着けられていて、歩き方も少し違和感があった。


「うん。ありがとう」


 私はお礼を言って、自分のペースで歩き始める。


 こうして私は早々に再会したお友達2人と、休んでいる間のクラスの様子とかを聞きながら登校するのであった。


  ★


「おはよう」


 教室に入り挨拶をすると、クラスメイトが私の声に振り返って「元気になったんだ。良かった!」「身体、大丈夫? 痛みとか残ってない?」と何人かが私の周りに集まって心配そうに聞いてくる。


「みんなに忘れられてなくてよかったよ」


ほっと息を吐きながら、そう前置きして言葉を続ける。


「心配してくれてありがとう。


 ほとんど痛みは消えたし、無理をしなければ問題ないってお医者さんにも言われたから、もう大丈夫だよ。


 みんな、心配をかけちゃってごめんね」


 集まってくれたクラスメイトに恐縮しながら、ぺこりと頭を下げた。


 クラスのみんなは「そんな、謝らないで」と慌てていた。

 こんな私をすごく気遣ってくれて、本当にいい友達に恵まれたなと感謝する。


 その後、クラスのみんなとスポーツ大会の話をした。


 うちのクラスはいい成績だったので、この後のイベントでも優遇されるらしく、これからの学校のイベントも楽しくなりそうだって言っていた。

 私は学校が初めてなのでどんなイベントがあるかとかあまりわからないんだけど、それでもこのクラスメイトと楽しく過ごせると思うと胸がワクワクした。


「柊木さんもスポーツ大会で活躍したんだし、胸を張っていいんだよ!」


「なんだかよく分かんなかったけど、柊木さんが出たブレバトの試合凄かったよ。あっと言う間に勝っちゃったんだから。すごいよ」


 みんなが私のことを称賛してくれる。はっきり言って、当時のこと頭がぽーっとしていてあまり覚えてないんだけど、みんなの役に立てたのなら嬉しいな。

 私は「えへへ、ありがとう」と答えた。


「おっ、なんだ柊木。復帰早々、大人気じゃないか!」


 みんなに囲まれて話をしていると、先生の声が聞こえてきた。話に夢中になっていて気づかなかったが、もう朝のホームルームの時間みたいだった。


「よーし、みんな席につけー」


 と柏葉先生が声をかけると、みんなは「また後でね」と言葉を残して席に着いた。



 こうして、何事もなかったかのように、私の学校生活が再開された。


 授業で発言しようとして元気に手を挙げたときにちょっと痛みを感じてしまった。やっぱり私、ちょっと浮かれてたかもしれないと、次からはゆっくりと手をあげて発言するようにした。

 こうしてまたみんなと一緒に勉強できることが、すごく嬉しかった。


 そんなこんなで、あっという間に一日の授業が終わってしまった。


「はふぅ…… 久々の登校だったから、ちょっと疲れちゃったかな」


 そう感想を言いつつ、荷物を入れた鞄に頭を埋める。ちょうど鞄につけた熊の人形がクッションになって気持ちいい。油断してると寝ちゃうそうだ。


「ふふふ、お疲れ様。そうやって授業が終わって突っ伏すのってなんか朱音ちゃんみたい」


 隣の席の美月ちゃんが笑顔で声をかけてくる。


「うー私の時は「はしたない」って注意する癖にー、態度違くない?」


「ははは。だって真雪ちゃんだと、なんか小動物みたいで可愛いから」


「むー何となく分かるけどね……」


 朱音ちゃんは抗議の声をあげるが、美月ちゃんの言葉に納得しつつ、口を尖らせて見せる。


 やっぱりこうして直接2人と話せると楽しいな。


 そう思っていると、なんだか廊下でざわめきが起きている。


 なんだろうと、突っ伏していた鞄から顔を上げて、廊下側に視線を向けると、開かれた教室の扉の前に一人の生徒が現れた。


 腰に手を当て、堂々と立つその姿はとても凛々しく感じた。

 艶っぽい黒髪を腰まで伸ばした、涙ホクロが特徴的な和風美人だ。胸を張るその胸元には三年生を示す緑色のストライプリボンタイ。


「く、久遠寺(くおんじ)先輩」


「部長」


 朱音ちゃんと美月ちゃんが驚いて姿勢を正す。


「おう。榎崎と大鍬。


 確か今日から()()()が復帰と聞いたから、スカウトしに来たぞ」


 鷹揚に告げる先輩の言葉に、朱音ちゃん達は私に視線を向ける。


 えっ、何?


「まさか、部長が自らうちの教室まで来るなんて」


 美月ちゃんが小声で言葉を漏らす。


 その言葉で、目の前に現れた先輩が登校初日にダイブルームで見かけたeスポーツ部の部長だと思い出す。


「二人とも、部活があるんだよね。私は一人で帰れるから――」


 鞄を持って立ち上がろうとしたのだけど、ズンズンと教室に入ってきた先輩が私の前までやって来たので、驚いて言葉が途切れる。


「榎崎と大鍬の反応を見るに、君が『Snow』だね?」


 驚いて立ち上がれずに椅子に座ってしまった、私を見下ろすように先輩が問いかけてくる。


「えっ、と。あの……」


 急なことに思考が追いつかない、『Snow』という単語からブレバトの事かなと推測できたので、慌てて答える。


「はい。ブレバトで私は「Snow」っていうアバター名でやってます、けど……」


「君をうちの部にスカウトしにきた! 是非とも私たちと一緒に全国を目指そう!」


 私の言葉が終わる前に、黒髪の先輩は溌剌とした声で手を差し伸ばしてきた。


「え、えっ?」


 急なお誘いに慌てふためく。


 どうしよう、と美月ちゃん朱音ちゃんに視線を向けるが、先輩を前にして緊張しているようで、期待していたアドバイスはもらえなかった。


「ふむ。急に言われても困っちゃうか、すまないな。

 もし良かったら今日、部活の見学だけでもしていってくれないか? 入部するかはそれから判断してもらっても構わない」


 真剣だった眼差しから、すこし表情を崩して柔らかい口調に変化して問いかけてくる。



「一緒の部活に入ってくれたら、私も嬉しいかも」


 どうしようか迷っている私に、緊張が解けた朱音ちゃんが言葉をかけてくれる。


「もし大変そうだったら私がフォローするよ」


 美月ちゃんの優しい声も重なる。



 二人にそう言われたら断ることなんてできないな。


「分かりました。ますは見学をさせて下さい」


 そう答えると、先輩は「おお、ありがとう。歓迎するよ」と私の手を取って握手を交わした。


 その後、私は急いでお父さんに『部活の見学をすることにしたので、お迎えは夕方にして欲しい』との旨のメールを送って、先輩と二人の友達に連れられてダイブルームへ部活見学に行くこととしたのである。

作品ストックが尽きていて毎日更新がギリギリの状態です…_:(´ཀ`」 ∠):

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― 新着の感想 ―
[一言] さすがにスズカみたいなことならないよね? 一応受け入れる準備は出来てるけどこえーなー。 美麗だっけ?あいつ引っかかんなかったのはちょいとなー。 こっからもっとざまぁされろ
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