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202.準決勝前の邂逅

◾️前回までのあらすじ◾️

夏の一大イベント、ブレバトグランプリ。

決勝トーナメントは連日の闘いとなる。

辛くも準々決勝を勝ち上がった神里高校は翌日の闘いに備え、試合後の疲れを癒すために療養施設へと向かうのであった。


■大会経過■

<結果>

準々決勝

・仙台神薙高校(宮城) 1 - 3 白幌高校(北北海道)

・クラーク電子(西東京) 2 - 3 金沢蓮花(石川)

・祇園女子高校(京都) 3 - 0 湘南白浜高校(神奈川)

・甲賀不忍高校(滋賀) 2 - 3 神里高校(埼玉)


<翌日の予定>

順位決定戦

・仙台神薙高校(宮城) - クラーク電子(西東京)

・湘南白浜高校(神奈川) - 甲賀不忍高校(滋賀)


準決勝戦

・白幌高校(北北海道) - 金沢蓮花(石川)

・祇園女子高校(京都) - 神里高校(埼玉)

 準々決勝を終えた私達は激戦の疲労を回復するため、大会が開催されている巨大アミューズメント施設内にある療養区画へと移動した。


 移動中に色々と気になる事があり、移動中も気が気でならなかった。


 気になる事がいくつかあるが、特に気になっているのは楓先輩の状態だ。ずっと両手の状態を気にしている様子で、表情には出してはいないがその纏っている雰囲気から状態があまり良くない様に思える。

 さらに同じように刹那部長の状態も不安だ。前みたいに強がって不調を隠す事はなくなったけど、それでも療養施設を早く使いたいという思いが伝わる言動が見て取れる。こちらも状態が心配だ。


 そして――


「ねぇ、真雪ちゃん」


 小声で声かけてきたのはクラスメイトでもある美月ちゃんだ。


「なんかちょっと朱音ちゃん、様子が変よね?」


 私が振り返ると、美月ちゃんが小声で聞いてきた。それも気になっていたので、その言葉に小さく頷く。

 いつもは前だけを向いて突っ走っているイメージの朱音ちゃんが少しナイーブになっている、と言うか少し元気が無いように思える。


 そんなこんなで、気になる事が幾つも重なり色々と思考を巡らせていたら療養区画へと到着した。


 医療区画では受付があり、そこで利用する内容を告げて案内される形となる。


「神里高校の方々ですね。大会主催者から施設利用の件については伺っております。

 どの設備・サービスを受けたいか仰っていただければ、担当の者を手配いたします」


 受付をしているスタッフが丁寧に説明してくれる。途中、スタッフと目が合い、私は小さく会釈した。

 私は東雲さんの計らいで、ここの施設は何度か利用していたので何度か話したことがあるスタッフだったのだ。


「こちら、施設とサービスの案内です。ボディケア等、医療スタッフが付くような有人サービスについては空きが出来次第の対応となります。こちらのQRコードを読み取っていただければ、端末にて空き状況を確認可能ですので、もしそちらのサービス利用をご希望でしたら是非確認してみてください」


 受付スタッフが案内冊子を部長である刹那に手渡す。


「ありがとう。

 ……色々なサービスがあるみたいだな」


 受け取った冊子を開き、刹那部長が言葉を漏らす。


「刹那部長と、楓先輩は有人のボディケアサービスを受けた方がいいと思います」


 様々なサービス内容に戸惑っている刹那部長に私が助言をする。


「そう、なのか?」


「はい。ここの医療スタッフは優秀なので『気力切れ』状態を回復させるための施術はしっかりしてもらえると思うので」


 戸惑いがちに聞いてきた刹那部長にそう告げる。

 優秀な医療スタッフに診てもらう事でしっかりとケアもしてもらえるし、もし状態が酷い状態の場合はドクターストップの判断もしてもらえる。無理をして倒れる、なんて最悪な結果は避けれるはずだ。


「なるほどな。Snowには私の身体の状態はお見通し、という事か。では、私達はそのサービスを」


「かしこまりました。スタッフの空き状況を確認しますね」


 刹那部長の言葉を受けて受付スタッフが手早く端末を操作し、スタッフの空き状況を確認する。


「丁度、前の施術が終わったところみたいですね。次の予約を入れておきますね。

 しばらくお待ちいただければ、ご案内できると思います」


 ちょうどタイミングが良かったみたいで、すぐに予約を取ることが出来た。


「他の子達は使用したいサービスはあるかしら?」


 受付スタッフのお姉さんはこちらのメンバーを見渡す。そう言われても、みんなはすぐに決めることが出来ずにまだ悩んでいた。


「ふふ。急かしている訳ではないから、ゆっくり決めてね。スタッフが付くようなサービスじゃなければすぐに案内できるから。

 あ、真雪ちゃんはいつもの担当のスタッフが待っているから、すぐに施術可能よ」


 焦った神里高校の生徒を見て、受付スタッフのお姉さんはふふふと笑う。


 あと、どうやら私にはしっかりとケアスタッフが着くみたいだ。この施設の所長である東雲さんの計らいだ。私だけが特別扱いされることを、eスポーツ部の仲間達は特に気にすることはなかった。みんなはここのスタッフと私が知り合いだという事は伝えてあるからだ。


 みんながどうしようかと悩んでいると、療養施設の扉が開いて数名の高校生が出て来た。


「丁度施術が終わった子達が出て来たみたいね。セツナさんとカエデさんはすぐに案内スタッフが来るのでもう少し待っててね」


 その生徒を見て、受付のお姉さんが次に案内する二人に優しく声を掛ける。


「ん? 誰か思たら風祭さんやん」


「あら、ほんま懐かしいなぁ」


 療養施設から出て来た高校生たちが声を掛けて来た。声を掛けたのは楓先輩だ。


「お久しぶりです。羽佐間(はざま)先輩、酒匂(さこう)先輩」


 楓先輩は小さく頭を下げて挨拶する。


「あいからわず、愛想があらへんなぁ。せっく美人なんやし、にっこりしてへんと」


「せやで。折角の美人がもったいないわぁ」


 そんな楓先輩にふふふと笑いながら言葉を続ける。声を掛けた二人組は黒を基調としたセーラ服を身に纏っていた。

 その制服には見覚えがある。京都府代表の祇園女子高校の制服だ。


「助言、感謝します」


 そんな二人の言葉に楓先輩は素っ気ない返事をする。どうやらそんなに親しい仲ではない様だ。


「風祭さんがここに居るってことは、準々決勝は神里高校が勝ち上がったんやね」


「強敵やね。うちにいた頃はまだ実力が足りていなかったけど、神里へ行って大活躍みたいやね。

 明日はお手柔らかに頼みたいわ」


 またしても、ふふふと二人が笑う。なんとなく心の籠っていない笑みで、なにか含みを持たせているように思える。


「そうですね。明日はよろしく頼みます」


 そんな相手の態度に辟易した様に、楓先輩はぶっきら棒に返す。


「あんたの態度鼻につくなぁ。もっと謙虚にならな」


「ほんまやで。まさか本当に私達に勝てると思てるんとちがうやろうな」


 楓先輩の態度を見て、祇園女子高校の二人から笑みが消える。


「なんですか。お手柔らかにって言ったり、自分らに勝てると思うなって言ったり。これだから京女は何を考えているか分からないんですよ」


 やれやれと楓先輩が肩を竦める。先程まで和やかに見えたやり取りが一瞬にして空気が変わる。


「うちではレギュラー取れずに、剣の道からも逃げた負け犬が粋がらんでくれるかな」


 先ほどまでのにこやかな態度が一変し、あからさまな敵意をぶつけて来る。


 急に殺伐とした空気となった場に誰も言葉を発することが出来ずにいた。受付のお姉さんもどう対応したらいいか分からずオロオロしていた。



「あんたら、なにしてんの?」


 そんな緊迫した場に新たな声が響く。


 この声は……


 振り返ると黒髪を和紐でポニーテールにした美女がそこに立っていた。


「冴華さん」


 この場を収めてくれる人物の登場に思わず声が漏れる。


 そこに現れたのは最年少でプロとなりタイトルをも手にいれた最強のプレイヤーでもある姫野宮(ひめのみや) 冴華(さえか)であった。


 「真雪ちゃん、久しぶりやね。明日の試合、楽しみにしてるよ」


 私の声に冴華さんがにこりと笑って応える。

 しかし、その笑顔は一瞬ですぐに真剣な表情となる。


「で、あんたたちはなにしてんの。

 傍から見たら、明日の対戦相手に喧嘩ふっかけていたようにしか見えんかったけど?」


 祇園女子の仲間に視線を向け、厳しい言葉を投げかける。


「いや、別に、喧嘩なんて、なぁ」


「えぇ。久しぶりに会ったかつての盟友に挨拶してただけ、やし」


 冴華さんの言葉に祇園女子の二人は目を泳がせながら言葉を返す。


「そう。挨拶は済んだかな。ならば速やかに神里高校の人達に施設を使わせてあげんとね。正々堂々と、万全の状態で明日は闘いたいもんやね」


 にこりと笑って告げると、祇園女子の面々は「そうですね」と言葉を残すとそそくさとこの場を去っていった。


「すまないね。

 ずっと勝ち続けてきたことの弊害か、うちのメンバーはみんなプライドが高くてね。

 うちのメンバーが迷惑かけた」


 冴華さんが小さく頭を下げる。

 それを見て私達は慌てて「そ、そんな、頭を下げないでください」と返す。


「ったく、サエは相変わらず律儀だな。

 対戦を控えた高校同士、対戦前日に顔を合わせたらバチバチになるのは仕方ないだろ?」


 恐縮している私達の中であって、空気を読まない感じで楓先輩が冴華さんに言葉を掛ける。


「ははは。相変わらずやな、フーちゃんは」


 そんな気兼ねない言葉にも冴華さんは笑って応える。冴華さんと楓先輩は幼馴染なので、こういったやり取りには慣れている様だ。ちなみに冴華さんは楓先輩の事を「フーちゃん」と愛称で呼ぶ。


「ま、フーちゃんのいう事はごもっともや。

 明日の対戦相手が前日に和気あいあいと話すのもどうかと思うから、手短に用件だけ言うね」


 にこやかにしていた冴華さんの表情が真剣なものへと変わる。


「Snow、明日は本気で行くよ。プロだとか、タイトルフォルダーだとか関係ない。明日は私がチャレンジャーだ。

 個人戦1、そこで決着をつけましょう。これまで培ってきた全てを賭けて貴女を倒す」


 私を指さして宣言する。ゲーム内ではないのにその覚悟の視線がピリピリと肌を刺した。


 続いて冴華さんは視線を楓先輩に向ける。


「フーちゃん。貴女はSnowに正しい闘気返しの(すべ)を習いなさい。

 今日みたいな闘い方をしていたら、いつか大怪我を負うわ。この後、しっかりとその腕を診てもらいなさい」


 そして、ゆっくりとした口調で楓先輩に忠告をする。

 冴華さんは前の私達の試合を見ていた様だ。そして、楓先輩が繰り出した()()()()()()()()()を目にしたのであろう。あれはとても危険な技であった。

 楓先輩もそれに気づいていたのだろう。しっかりと言葉を受け止めて無言で頷いた。


「そして――」


 最後に冴華さんは刹那部長へと視線を向ける。


「刹那さん。明日のオーダー、個人戦1は必ずSnowを出しなさい。

 私はSnowと闘うためにこの大会に参加したの。明日のSnowとの闘いのために全てを賭けて来た。この最高の舞台で最高のバトルをさせて欲しい。

 お願い、するわ」


 さらにこちらへオーダーの要望を伝えた。相手チームへオーダーの要望を伝えるなどルールを外れた行為であるのだが、その瞳に宿る覚悟はそれ以上のものであった。


「最後にアカネ」


 一通り言いたいことを伝え終えた冴華さんはふぅと一息つくと、思い出したかのように朱音ちゃんへと声を掛ける。

 まさか自分に声がかけられると思っていなかった朱音ちゃんは硬直する。


「前に対峙した時は悪かったわね。

 チームのために個人戦1以外のオーダーは口外できないけど、もしも明日に対戦できたならば次は力を誇示するような闘いはしない。正々堂々と闘いましょう」


 予想していなかった自分へのメッセージに、朱音ちゃんは身を硬直させたままその言葉を聞いていた。


「私が伝えたかったのは以上よ。明日は良い試合としましょう」


 そう言い残して、冴香さんはその場を後にする。


 私とのすれ違いざまに「次は絶対負けないわ。明日はいいバトルをしましょう」と言葉を残していった。


 それは冴華さんの覚悟の言葉であった。


 その言葉を受け、私は身が引き締まる思だった。

■登場人物■

神里高校

・柊木 真雪 アバター名:SNow

  病弱少女。ゲーム内では無類の強さを誇る。


・久遠寺 刹那 アバター名:セツナ

  神里高校eスポーツ部の部長。準決勝で闘気を使用したため、現実世界にも影響を与える『気力切れ状態』になりかかっている。


・風祭 楓 アバター名:カエデ

  準決勝で不完全な闘気技を使用したため『気力切れ状態』となっている。両腕の状態が心配である。

  祇園女子高校から転校してきたため、次の対戦高校のメンバーとは顔見知りである。冴華とは幼馴染。


・榎崎 朱音 アバター名:アカネ

  真雪のクラスメイト。大会の補欠メンバーでもある。冴華に憧れている。


・大鍬 美月

  真雪のクラスメイト。eスポーツ部員だが、大会メンバーには選出されていない。


祇園女子高校

・姫野宮 冴華 アバター名:SaeKa

  最年少でプロとなり、さらにタイトルも持っている最強の高校生プレイヤー。

  非公式ではあるがSnowに敗北した経歴がある。Snowと再戦するためにブレバトグランプリに参加した。


・羽佐間 彩羽 アバター名:いろは

  祇園女子高校eスポーツ部の部長。SaeKaに次ぐ剣の使い手。


・酒匂 澪 アバター名:ミオ

  祇園女子高校eスポーツ部の次期エース。

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