193.特番「スポット~ブレバトグランプリ!第一回優勝校『神里高校』復活の軌跡~」(前編)
◾️前回までのあらすじ◾️
夏の一大イベント、ブレバトグランプリ。
三回戦を勝ち上がった神里高校は決勝トーナメントへと駒を進める事となった。
大会11日目は決勝トーナメントの組み合わせ再抽選のみで、試合は行われない休養日となる。
休養日であるが、各種放送局ではこれまでのダイジェストや特定の学校を取り上げた特集が多く放送されるのであった。
■登場人物紹介■
・Snow:柊木 真雪
フルダイブVR格闘ゲームに突如現れた天才プレイヤー。
無名であったのにもかかわらず、今大会で最強の一角へと伸し上がった謎多きプレイヤーである。
・SaeKa:姫野宮 冴華
最年少でプロ入りした最強の高校生プレイヤー。
紫電一刀流という古流剣術を扱い、その活躍から『紫電の刃』というアニメが作られる程の人気者である。
七夕イベントでSnowに敗北した事で自らの奢りを悟り、高校生最後の大会でSnowにリベンジを誓う。
・セツナ:久遠寺 刹那
埼玉県代表の神里高校eスポーツ部の部長。
二刀流の剣士で、武器で相手の攻撃を弾くパリィの達人でもある。
・カエデ:風祭 楓
埼玉県代表の神里高校eスポーツ部の二年生。次期エースと目されている。
剣術道場の娘で幼少時から剣術を習っていたが、伝説の格闘家の岩隈に憧れ拳闘士へとアバター変更した。
スキルにて剣を生み出し、剣術も使用する攻撃特化のプレイスタイル。
・岩隈 京士郎
三年連続世界王者に君臨した天才格闘家。二年前に事故死した事となっている。
治療を受けている病院でSnowと出会い、その格闘術を伝授した。
熱闘続くブレバトグランプリ。
毎日のように経過を伝える特番が放送され、連日の熱いバトルがお茶の間を賑わしている。
その中でも休養日である大会11目は、各放送局がこれまでの激闘の振り返りや決勝トーナメント出場校をクローズアップする番組を放映していた。
アニメ『紫電の刃』を放送しているデジテレビは、ここぞとばかりにキャラのモデルとなったSaeKaの所属する祇園女子高校の特集を組み、そして今秋に公開される劇場版の紫電の刃の番宣を行っていた。
それ以外の放送局も、これまでのダイジェストや他の注目高校を取り上げた特番を放送していた。
各局の殆どがブレバトグランプリのこれまでのバトルを特番を組んで放送する中、他局と差別化を図るために、ベスト8進出高の中でも注目度は低いが特定の視聴者が期待できる一校に焦点を絞って特集を組んだ放送局があった。
番組特番「スポット~ブレバトグランプリ!第一回優勝校『神里高校』復活の軌跡~」
それはベスト8進出を果たした埼玉県代表の神里高校を特集した番組であった。
その番組が視聴者層とした狙った特定の視聴者とは、第一回大会からブレバトグランプリを観続けている熱心でコアなファン層だ。
コアな層と言っても今大会が七回目となる大会であるため、第一回大会から追いかけているファンは少なからず存在しているのだ。
第一回大会が行われたのは、世界的な伝染病が蔓延し社会・経済活動が停滞した時代であり、各種の行動が規制された中であったため、大会放送は驚異的な視聴率を叩きだしていた。そのため皆が想像する以上にターゲット層は多くいたのだ。
そのファンにとってみると、第一回大会はフルダイブVRを活用したeスポーツの大会。その礎となる「伝説の大会」として記憶に強く残っていた。
ネット民の反応も
・神里高校を特集するとか、分かってんじゃん!
・ニッチなとこ突いてきたな
・番組概要欄の「本邦初公開!白銀の妖精Snowの強さの秘密」ってのが気になる
というようなもので、少なからずの人々の注目を集めていた。
――今や大人気コンテンツとなった、ブレバトグランプリ(Brave Battle Online Grand Prix)――
――伝説の始まりとなった第一回大会――
――その優勝校――
そんなテロップで埼玉県立神里高等学校を特集した番組が始まる。
まずは、第一回大会のダイジェストが流れる。
第一回大会で活躍したかつての勇士たちの姿と、その中でも特に輝きを放った神里高校の優勝メンバー達のバトルが五月雨式に映し出される。
<ネット民の反応>
・これだよ、これ。当初は今みたいにスキルが豊富じゃなかったから、ガチンコの熱いバトルばかりだったんだよ
・いまプロで活躍しているメンバーの若き日の姿がwww
・あぁ、あの頃が懐かしい……(懐古厨)
そんなネットの反応が流れる中、学校紹介へと移っていく。
埼玉県の北部に位置する町である神里町。田園風景の広がるこの小さな町に佇む高等学校。それが今回の特集する学校である埼玉県立神里高校だ。
学校の概要を紹介するナレーションと共に、ドローンで撮影された映像が流れる。
緑が多く、お世辞にも都会とは言い難い風景の中に飛び込んできたのは、田舎町の高校とは思えない設備の整った奇麗な校舎だ。
「こんにちは。今回の番組のナビゲーターを務めさせていただくスポーツキャスターの呉内 紅葉です。
さて始まりましたブレバト出場校を紹介する特集番組。今回は第七回ブレバトグランプリにてベスト8まで勝ち残った注目校。埼玉県代表の神里高校を特集した番組をご案内したいと思っております」
画面がスタジオへと切り替わり、現在売り出し中の女子アナウンサーである紅葉の挨拶から番組が進行する。
ゲストとして、第1回大会時にゲームアンバサダーを務めていたお笑い芸人の「えるあーる。」の二人と、解説役として現在のトッププロで、『名人』のタイトルをもつアバター名「フェルギナス」こと鷹橋 弦久郎。そして、教育評論家の沖 直人が紹介される。
「神里高校はね、ブレバトグランプリの優勝で手に入れた賞金で、老朽化していた施設を一新したのよ。
今では最新鋭の施設が揃う国内有数の高校となったのよね」
最初の映像を受けて教育評論家の沖先生が説明する。おねえ言葉で話すのが沖先生の特徴だ。
「はい。先生のおっしゃる通りですね。
私が実際に学校を取材してきましたので、その時のVTRをご覧ください」
そして、画面がVTRに切り替わりアナウンサーが学校を訪問した時の映像が流れる。
夏休み中であるため生徒の少ない学校を校長先生が案内し、最新の設備について紹介する。
ブレバトグランプリでは優勝校に多額の賞金が入るため、学校の設備などにその賞金を使えたのだと校長先生が嬉しそうに説明する。
その途中に学校の生徒や部活が取得した賞状やトロフィーの並ぶスペースへと足を運び、その中心にブレバト第一回大会優勝のトロフィーと当時の写真が飾られている事が説明された。
その流れから、再度第一回大会についての話題となり、お笑い芸人の「えるあーる。」の二人を交えた軽快なトークで当時の話題でしばしの間盛り上がり、CMをとなった。
<ネット民の反応>
・はい、ここでCM~
・過去の話ばかりじゃねーか。はよ、Snowの蔵出し映像くれ
・思ったより田舎で、思ったより施設の整った学校だったな
・施設面だけでいえば、埼玉ではトップクラスの学校やで。立地が悪すぎるがwww
CMが明けると、またテロップが流れイメージ映像が流れる。
――第一回大会を優勝した神里高校だったが。その後は苦難の道のりであった――
それは、二回大会以降の成績が振るわなかった頃の結果であった。
第二回大会 …… 四回戦敗退(ベスト16)
第三回大会 …… 二回戦敗退
第四回大会 …… 初戦敗退
第五回大会 …… 四回戦敗退(ベスト16)
第六回大会 …… 三回戦敗退
二回大会からは県大会を勝ち上がる事すら出来なかったのだ。「墜ちた古豪」「運で手にした優勝旗」など、ネットで囁かれていたネガティブなコメントが表示される。
「2回大会以降、神里高校は苦難に晒されます。
初の試みだった第1回大会以降、eスポーツ部がある高校はこぞって高ランクのプレイヤーを集め、ブレバトグランプリに向けたチーム作りを始めまたのです」
女子アナウンサーの言葉と共に、埼玉県の強豪校の名前が挙がる。
「優秀な中学生プレイヤーの人材発掘に乗り遅れた神里高校は、全国の舞台から消えていくことになったのです。
しかし、そんな神里高校にも転機が訪れます」
そして画面が切り替わり、一人のゲームアバターの自己紹介が映る。
『本庄中学校出身、アバター名「セツナ」です。
目標はブレバトグランプリ優勝です』
ハッキリとした口調で告げたのは2年前のセツナであった。
顧問の先生から学校内で撮られた校内ローカルネットワークの映像の使用について尋ねられ許可を出していたが、まさか過去の自己紹介映像を使われると思っていなかった刹那は後でその画像を見て卒倒しかけたのだがそれは別の話。
「低迷していたうちのeスポーツ部が大きく変わったのがセツナさんの入部ですね。
中学時代からゲームで活躍していた子が、数多の高校からの誘いを断ってうちの高校に入ってくれた。そこから低迷していたうちの部活の立て直しが始まりました」
そこにはインタビューに答える部活顧問の老月先生の姿が映し出されていた。
アバター名「セツナ」こと久遠寺 刹那は幼少期にブレバトグランプリ第1回大会を見ていた。そして地元の高校が快進撃を目にした少女は、この高校に憧れ、そして入学したのだった。
そんな内容のイメージ映像が映し出される。
<ネット民の反応>
・イメージ画像だけど、ロリっ娘のセツナ、かわちい
・一回大会が神だと思っていたワイ。一気にセツナのファンになる
・セツナは小中学生の部で全国に出たりしてたからな。まさかそんな理由で神里に行ってたなんて知らなかった。
そして、現在神里高校eスポーツ部の部長であるセツナにクローズアップされた映像が流れる。
その中には、セツナの好敵手である川越女学院のレインとのバトルシーンも蔵出し映像として使われたりしていた。
「実力をつけたセツナは高校生大会でも全国レベルのプレイヤーとなり、そのセツナを中心にチーム全体も力をつけてきました。
セツナが3年になったこの年が勝負の年になる、あと一人、全国クラスのメンバーが入れば上を目指せると思ってました」
老月の言葉が続く。
「何とか良い人材をと中学で活躍していたプレイヤーに声を掛けたのですが、残念ながら有力な中学生のスカウトは上手くいきませんでした。
しかし――」
そして『絶対王者・祇園女子高校からの転入生』の言葉が画面に踊る。
「去年の実績は無いのですが、あの京都の超名門校から転入生が来たのです。これは何かの啓示かと思いました」
そして、転入生であるカエデが紹介される。
<ネット民の反応>
・Snowちゃうんかい。引っ張り過ぎや
・いや、他のメンバーの紹介とかいらんから
そんなネットの反応とは関係なしに番組が進行する。
「カエデさんがどの様なプレイヤーなのか調査するために番組はあの超名門校である祇園女子高校のメンバーに取材を申し込んだところ、大会期間中で忙しい中、インタビューに応えてくれた方がいましたので、VTRをご覧ください」
女子アナウンサーの言葉と共に画面が切り替わる。
「お忙しい中、他校の取材にもかかわらずインタビューに応えていただいてありがとうございます」
そんな言葉と共に画面に映し出されたのは、なんと女王SaeKaであった。
<ネット民の反応>
・は? ちょ、なんで女王が取材受けてんだよwww
・まさかの超大物がインタビューうけるとか、ワロタ
・これは予想外。ちょっとカエデってプレイヤーが何者か気になってきたゾ
祇園女子の元同級生とかが取材に応えたのかと思いきや、まさかの超有名人の登場に、ネット上でも騒めきが起きる。
「カエデはとても良いプレイヤーですよ。
努力を怠らず、真っすぐに強さを求める純粋なプレイヤーだ。いつか私の隣に立って闘ってくれると信じていた。転校してしまったのが残念で仕方ないです」
そしてSaeKaの口から出たのは絶賛の言葉であった。
高校生最強かつ最年少プロであるSaeKa。その言葉の影響力は絶大である事を本人は自覚していない様で、それを見たカエデ本人は「ったく、アイツは」と天を仰いだ。
「まさか、SaeKaさんがそこまで絶賛するとは。そこまですごいプレイヤーなのですか?」
予想外の回答に、インタビュアーが驚いて聞き返す。
SaeKaと言えばストイックでなかなか自分以外のプレイヤーについての感想を口にせず、したとしても京都の人間らしく裏のある様な誉め言葉であった。いまの発言のような手放しでの賛辞はなかなか類を見ない対応だったのだ。
「そうね。いいプレイヤーだよ。
って言っても、これは私の贔屓目があるからだね」
悪戯っぽく笑うSaeKa。その珍しい表情にまたしてもインタビュアーが驚きの表情になる。
「私とふぅ――いや、カエデは幼馴染なんだ。
だから私はカエデについてなら何でも分かる。なんでも聞いてくれ」
嬉しそうな笑みを見せるSaeKaの表情にインタビュアーのみならず、ネット民からも驚きの声が上がる。
<ネット民の反応>
・女王と幼馴染、だと……
・これは大スクープじゃんか。百合アート職人がアップを始めたぞ。幼馴染とか大好物やで
・カエデ×SaeKaか、SaeKa×カエデかで、朝まで語れそう
そのあとSaeKaのインタビューをもとに回想映像が流れる。
同じ剣術道場の娘として育った二人。共に剣の道を歩み、そして二人はとあるゲームに出会う。
それは、男女のハンデが無く対等に戦うことが出来るVR格闘ゲームの『Brave Battle Online』だ。
幼少時から剣術を嗜んでいた二人はゲーム内で活躍し、互いに切磋琢磨するようになる。
SaeKaはこの頃が一番楽しんでゲームをやっていたと振り返る。
だが、ゲームを続けていくうちに二人に差が出てくる。
共に同じ学校に進学したのだが、その差は歴然となってしまっていた。
天賦の才を開花させ、着実に剣の道を上り詰めていくSaeKaと、それとは裏腹に才能の壁にぶつかり挫折を味わうカエデ。
SaeKaは高校に上がっても無敗で、高校一年の時から注目を集めるプレイヤーとなっていた。
年の差のため、一年遅れて入学したカエデは同じ剣術道場出身という事で期待されていたが、一年からレギュラーを取る事は出来なかった。
それでも一年のうちから名門・祇園女子でレギュラー争いが出来るだけでも充分な実力であるのだが、周囲の目は厳しかった。
劣化版のSaeKa、同系統のプレイヤーは二人も要らないなど、厳しい声がカエデを苦しめる。
そんな苦悩の中、カエデは憧れの存在ができ、剣の道を諦め拳闘士アバターを使用し始める。
実力が知られ注目が集まり、その期待に応えるために必死で周りが見えなくなっていたSaeKaはそんな幼馴染の状況に気づかず、すれ違う二人はとある出来事で完全にその道が分かたれることとなる。
カエデの母の手術に伴う転校。
ずっと持病を抱えていたカエデの母が埼玉の有名病院で手術を受ける事となり、その看病のためカエデが埼玉の高校に転校する事となったのだ。
道を分かち、学校も変わってしまった二人はもう出会う事は無いかと思われたが、数奇な運命のめぐりあわせか、全国高校生ブレバトグランプリで交わうこととなる。
「ともにあと一つ勝ち上がれば対戦する事となるので、とても楽しみにしています。
準決勝でまた会おうカエデ。まぁ、その時は私達、祇園女子が勝つがな」
そんなSaeKaの言葉でインタビューが締めくくられた。
そのイメージ映像の後、教育評論家の沖先生が「そう。神里高校の近くに超有名な最先端医療を扱う病院があるのよね。だから、カエデさんは病院の近くである神里高校に転校になったのでしょう」と説明を付け加える。
さらに、鷹橋名人によるカエデについての解説が入る。
格闘術のみでなく、スキル【生命錬剣】を利用した剣術も組み合わせ多彩な攻撃手段で、攻撃面に特化したプレイスタイルなのだと分かりやすく説明される。
そして、再度イメージ映像が流れる。
新たにカエデを加え、神里高校のeスポーツ部は新たなメンバーで活動が始動された。
――しかし、埼玉県内には多くの強豪校が存在する……――
また新たにテロップと共に、埼玉県内の強豪校が紹介される。
――セツナ・カエデのダブルエースで臨んでも、その壁は高く、困難な道であった。そんな中、突如現れたのが――
画面にSnowの県大会での活躍シーンが映し出される。
相手を叩き伏せ、さらに強力な追撃の拳で相手を退場させたシーンだ。
それは地方新聞の一面にも使用されたもので、強力な一撃は相手を退場させるのみにとどまらず地面をも砕き陥没させた見た目だけでも大きなインパクトを残すシーンであった。
そこからさらに、バトルロイヤルで無双する姿、県大会トーナメントで相手のエースを打ち倒す姿が、迫力の効果音と共に表示され、編集された短いシーンの連続であってもその強さは視聴者に伝わる、そんな映像であった。
<ネット民の反応>
・Snowキタ――(゜∀゜)――!!
・ここからが、この番組の本番よ!
・さぁ、はよSnowの新情報くれ!(屮゜Д゜)屮カモン!
ついにSnowの情報解禁となり、ネット民も一気に盛り上がるのであった。
文字数が多くなってしまったので、前後編に分けました。
後編もほぼ9割がた書き終えているので、明日までにアップ予定です。




