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176.全国大会二回戦(vs津張工業高校)②

■前回までのあらすじ■

夏の一大イベント全国高校生ブレバトグランプリが始まった。

真雪(Snow)が所属する神里高校(埼玉県代表)の2回戦の対戦相手は千葉県代表の津張工業高校だ。


■登場人物/アバター紹介■

<神里高校>

・Snow 職業:拳闘士 属性:水

  深紅の中華風武闘着を纏った、銀髪の美少女。

  真陰熊流格闘術の使い手で、どんな攻撃も『流水の捌き』にて攻撃を反らし、氣功術を利用した強力な攻撃で相手を倒す。


・タッチー 職業:剣士 属性:地

 痩身痩躯の剣士。身の柔軟性を活かした変幻自在の剣術を扱う。

 近距離戦闘タイプ。古風な口調が特徴。


・アカネ 職業:投擲士 属性:風

 赤髪サイドテールのブーメラン使い。

 運動神経が良く、格闘術も無難にこなすオールラウンダー型。


<津張工業高校>

・ファイガ 職業:剣士 属性:火

  赤く染め上げられた髪を逆立て、深紅の特攻服を纏った剣士。

  攻撃力を強化する属性効果を利用した剣術を得意とする。剣の腕も一流である。弟であるヒョウガとの連携攻撃を得意とする。


・ヒョウガ 職業:剣士 属性:氷

  青く染め上げられた髪を逆立て、濃紺の特攻服を纏った剣士。

  相手の能力を低下させる属性効果を利用した剣術を得意とする。剣の腕も一流である。兄であるファイガとの連携攻撃を得意とする。


・ジョーカー 職業:魔術士 属性:風

  学生服をピシッと着こなし、学生帽を目深に被った風貌。

  魔術士であるため支援系のスキルを使用するが、武術の達人であるため近距離戦闘で無類の強さを発揮する。

  極道の一人息子で厳しく育てられ、その過程で「優しい人格」と「好戦的な人格」の二つの人格を持つようになった。

 私の攻撃がヒョウガの頬を掠め、僅かにダメージを入れる。それと同時に攻撃した私の腕の一部が凍りつく。


「くっ……」


 嫌な予感が脳裏を掠め、距離を取る様に飛び退ると、ヒョウガの剣先が私の体を掠める。


 危ない、幻惑系のスキルで武器の長さを錯覚させていたのか……


 切先が掠めた部分がパキパキと凍っていく。


 ちょっとヤバいかもしれない。


 私は両腕の状態を確認する。所々、凍結状態となっていて、感覚が鈍くなっている。

 ヒョウガは闘気を利用して接触時に状態異常付与攻撃を仕掛けてきていみたいだ。最初の一撃は確実に大ダメージを与えたのだが、それ以降は敢えてダメージが小さくなる様に攻撃を受けて、状態異常を付与していたのだ。このまま気づかずに攻勢だと思い込んで単調な攻撃を続けていたら行動不能になっていたかもしれない。


「さすがSnowだ。俺の戦術に気づいたみたいですね」


 私の攻撃の手が止まった事でそれを察しヒョウガが口を開く。最初に奥義がモロに入っていたため、残り体力が半分を切っているのだが、その表情に悲壮感はない。


「俺の実力ではSnowに敵わないのは自覚している。時間さえ稼げればいい。俺があんたを足止めしておけば、兄貴やジョーカーさんがあんたの仲間をぶっ倒してくれるからなッ!」


 闘気が増大する。全身に纏わせた属性効果と相まって、超低温の冷気に包まれ、空気中の水分が結晶化しまるで竜の鱗のように宙を漂う。氷属性の【属性纏衣】全身展開はその見た目から氷竜形態と呼ばれている。

 ちなみに火属性の全身展開は火鳥形態と呼ばれており、アカネちゃんが対峙しているファイガがまさにその状態となっている。


 このままだとマズいかも


 ちらりと他の戦況を確認するが、アカネちゃんもタッチー先輩も劣勢の様だ。アカネちゃんは闘気を扱えるようになったのが最近という理由もあるが、それ以上にタッチー先輩の方は明らかな実力差が見てとれた。同じ流派を扱うため互いの手の内を知っていおり、それでなんとか対応出来てはいるが、しかし師弟という関係上、やはり師にあたるジョーカーの方が一枚も二枚も上手の様だ。


 私がなんとかしないと


 気ははやるが、中途半端な攻撃だと逆に状態異常による反撃で行動を封じられてしまう。接触の発生しない打撃攻撃以外での唯一の攻撃方法である【水弾丸(ウォーターショット)】は、超低温の冷気によって無効化されてしまう。属性の相性が最悪なのだ。ここは大技を繰り出すしかないか――


 ヒョウガは時間稼ぎに徹しようとしているため、私は足を止めて氣を練る。が、その一瞬が大きな隙となってしまった。


 ――【相位置置換(ポジションチェンジ)】――


 相手の、いや正確にはファイガのスキルが発動し、ヒョウガとファイガの位置が入れ替わる。


 対峙していたヒョウガの代わりに目の前に現れたのは、赤い髪の炎の剣士。その剣士は炎を纏わせた剣を振り被っていた。ファイガが対峙していた相手は中距離攻撃を得意とするアカネちゃんだ。そのため、大きな予備動作を取ることも可能だったのだ。


「喰らえぇぇっ、超熱爆猛波衝(フレイムブレイム)!!」


 ファイガが剣を振りぬくと、剣が纏っていた炎が熱波に変換され、超高温となった衝撃波が私を襲う。

 右腕に氣を込めた状態であった私は、その練り込んだ闘気を無駄にしたくないと思い、防御を選択した。それが私の判断ミスであった。

 ファイガの技は殆どダメージの無いものであったのだ、広範囲の状態異常付与攻撃であった。全身に超高温の熱波を浴び、防御と判定された上半身は無事であったが、両足が『火傷』の状態異常となってしまった。


 ズキン、と両足に疼痛が発生する。火傷の状態異常は時間ごとに小ダメージが継続して発生するのだ。さらに火傷となった部位への被ダメージが増大する。威力は地味ではあるが、長期戦を考えればその効果は絶大だ。

 両腕の部分凍結に加え、両足の火傷。直接なダメージは貰っていないが、ジワジワと不利な状況に追い込まれている。


 畳み掛けるようにファイガが斬撃を飛ばしてくる。


 だが斬撃ならばなんとかなる。


 私は飛んでくる斬撃を左腕で軽くいなして距離を詰める。


「くっ、斬波衝が牽制にもならないなんて、やはり規格外の化物だ」


 ファイガは飛ぶ斬撃は効果ないと悟り、闘気による迎撃に切り替える。全身に纏う炎がさらに大きくなる。そして鳥の羽のように立ち上っていた炎が襲い掛かってくる。

 闘気によって制御された翼を模した炎が、生き物のようにうねりながら袈裟の軌道で降りかかってくる。この攻撃は実体のない攻撃なので『流水の捌き』で攻撃を反らすことは出来ない。


 ザッ――


 瞬時に回避に切り替え、その攻撃を躱し相手の懐に潜り込む。無音の移動術『幻歩』を使用したつもりであったが、状態異常『火傷』の影響で上手く扱えず相手の視界から消えることが出来ず、動きが目で追われてしまった。


「秘技・鳳翼(ほうよく)炎連斬(えんれんざん)!」


 そしてファイガの攻撃が襲い掛かる。灼熱を帯びた剣の斬撃と合わせて、炎の翼による追撃が同時に襲う。実体のある剣と、実体をともわない炎の連撃だ。実体のある剣と炎の隙の無い二連撃。防御の難しい高度な必殺技であるが――


 私は構わずに左腕で剣による攻撃を逸らす。


「剣を躱せても炎翼の追撃は防げまい!」


 追撃で凄まじい炎の奔流が私を包み込む。


「水よ!」


 炎に包まれる直前に私は自らの属性である水をありったけ具現化して身に纏った。炎に包まれた瞬間、纏った水の表面がジュボボと音を立てるが、高熱の攻撃を見事に防いだ。沸騰、蒸発で水が消滅しないように纏った水を高速で循環させたのが良かった様だ。


「なっ――」


 必殺の技を完璧に防がれ、ファイガが驚愕の表情を見せ、隙が生まれる。


「真陰熊流・最終奥義『獣皇咆哮衝』!!」


 その隙を見逃さずに渾身の一撃を放つ。私の繰り出せる最大威力の必殺技だ。


「くおぉっ、【属性纏衣】全開放!」


 ファイガが身に纏った炎を解き放ち自らを中心に爆発を発生させ私の攻撃の威力を相殺しようと試みる。しかし、私の攻撃は水属性を帯びているため、それは不発に終わる。だが『火傷』状態の両脚にダメージが発生し、攻撃の目測がわずかにズレた。


 一撃必殺箇所である心臓を狙った一撃は、目標を外れて相手の左肩に決まる。


 相手の体力が一気に減少する。ガォォンと獣の咆哮に似た追加ダメージで左腕を部位破壊となり更にダメージが追加されたが、退場させるまでには至らなかった。


「だけど――」


 私は続けざまに攻撃を繰り出し畳みかける。既に相手の体力ゲージは赤表示だ。このまま連続攻撃(ラッシュ)を仕掛けて退場させる!


 そう思った瞬間、目の前の相手がヒョウガと入れ替わる。


「兄貴をやらせるわけにはいかない!」


 青髪の剣士は必死の形相で私の攻撃を防御する。


 バキキ……


 確実にダメージを与えているのだが、私の腕の凍結箇所もジワジワと広がっていく。そのカウンター攻撃があるため、なかなか攻めきれない。


「くっ……」


 この氷の剣士とは、絶望的に相性が悪いのだ。直接攻撃を当てると状態異常を付与してくるカウンター技と、受け身に回り長期戦を狙う戦法を使う相手はまさに私にとっての天敵と言っていい。


 全力で短期決戦にするのが一番の戦法と師匠に教えてもらったのに、それをさせてくれないこの状況に焦りが募る。


 そう思っていると、さらに悪い方に状況が変わる。


「藤岡無双流、奥義・猛虎噛砕掌(タイガーバイト)!!」


 ガブンという牙がかみ合わされるような音と共に「ぐぁ……む、無念――」という声が聞こえる。


 タッチー先輩!


 そして、プレイヤー『タッチー』が退場した旨の通知が表示される。


「ふん。この俺に一撃を入れ、奥義まで使わせた事は褒めてやろう。だが、テメーでは力不足だ。せめてSnowと良い勝負できる程度に実力をつけてから挑んで来い」


 退場するタッチー先輩に向けて、ジョーカーがそう告げる。辛口の言葉であるが、しっかりと相手を認めているのが分かった。

 しかし、これでこちらの不利的状況が更に深刻になった。


 ちらりとアカネちゃんの方へ視線を移すと、片腕となったファイガに対し互角以上に渡り合えているが、自分のバトルで手一杯で他に気を配る余裕はないようだ。


 多少無理してでも、一人倒しておかないと――


 凍結の状態異常を受けのも厭わずに、一気に決めに行こうと拳に力を籠めるが、それより早く相手の対応が早かった。


「うちの双子相手に苦戦したみたいだな。

 格上と対峙した時の戦術として俺が伝授した戦術だ、もし俺が相手してでもてこずるような戦術だ。

 だが、状態異常攻撃以外はほぼ無傷なのは流石だと言わざるを得ない」


 スキル【相位置置換(ポジションチェンジ)】にて私の目の前にジョーカーが現れる。


 それだけで圧迫されるような強力なプレッシャーを受ける。チラリと体力ゲージを見ると二割ほど減少していた。


「タッチー先輩は貴方にダメージを与えられたようですね」


「ああ。奴の覚悟と気迫はうちのメンバーに見習わせたい、と思ったぜ。ただ――」


 私の言葉に応えつつ、ジョーカーが拳を構える闘気を纏う。


「それとこの試合の評価は別だ。

 奴が無理を言って俺と当たる様な戦術としたなら、それは愚策と断じるぜ。その甘い配慮がお前らの敗北につながるのだからな」


「勝負が決まる前に私達の戦術を判断しないでください。

 私が貴方を倒せば、今回の戦術も愚策にはなりません!」


 ジョーカーの構えに呼応するように私も拳を構え、闘気を開放する。


「ハッ、言ってくれるぜ。ならば、証明してみせろ」


 ジョーカーが地面を蹴り距離を詰める。私も同じく地面を蹴る。


 そして、互いに繰り出した拳が交錯する――

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