175.全国大会二回戦(vs津張工業高校)①
■前回までのあらすじ■
夏の一大イベント全国高校生ブレバトグランプリが始まった。
真雪(Snow)が所属する神里高校(埼玉県代表)の2回戦の対戦相手は千葉県代表の津張工業高校だ。
■登場人物/アバター紹介■
<津張工業高校>
・ゴウキ 職業:拳闘士 属性:風
巨漢のパワーファイター。強面で無口であるため怖れられることが多いが、気は優しく人望も厚い。
見た目に反して、俊敏強化系のスキルを使用した高速戦闘を得意とする。
・ドモン 職業:戦士 属性:地
リーゼントヘアに短ラン・ボンタンという不良ルック。主武器は金属バット。
金属バットを利用しエネルギー弾を打ち出したり、射撃・投擲攻撃を打ち返したり等、バットを利用した多彩な攻撃手段を持つ。
・ザキ 職業:魔術士 属性:風
髑髏の首飾りや鋲の付いた革ジャンなどパンクな風貌。
相手のスキルや魔法を無効化するカウンター系の戦術を得意とする。
・ファイガ 職業:剣士 属性:火
赤く染め上げられた髪を逆立て、深紅の特攻服を纏った剣士。
攻撃力を強化する属性効果を利用した剣術を得意とする。剣の腕も一流である。弟であるヒョウガとの連携攻撃を得意とする。
・ヒョウガ 職業:剣士 属性:氷
青く染め上げられた髪を逆立て、濃紺の特攻服を纏った剣士。
相手の能力を低下させる属性効果を利用した剣術を得意とする。剣の腕も一流である。兄であるファイガとの連携攻撃を得意とする。
・ジョーカー 職業:魔術士 属性:風
学生服をピシッと着こなし、学生帽を目深に被った風貌。
魔術士であるため支援系のスキルを使用するが、武術の達人であるため近距離戦闘で無類の強さを発揮する。
極道の一人息子で厳しく育てられ、その過程で「優しい人格」と「好戦的な人格」の二つの人格を持つようになった。
全国大会七日目。
今日は私達の二回戦が行われる日だ。
一回戦が行われた大会二日目から随分と日程が空いたため、大分ホテル生活も慣れていた。部活のメンバーと過ごす夏休みのこの時間はとても充実していて、あっという間に時が過ぎたのだった。
一度だけ東京観光をしようという事で、大会のバトル観戦とバトルの練習をお休みして舞台となっているお台場周辺を観光したのだけど、猛暑による影響で次の日に体調を崩してしまった。その所為で私には試合前二日間は外出禁止令が出てしまった。
そのため、ここ二日間は快適な室内で過ごしたためか体調は万端である。
「よし。行くぞ。
二回戦の相手は見知った顔の津張工業だ。一回戦ほどの緊張はないかもしれないが、油断は禁物だ。必ず勝利して次へ進むぞ」
セツナ部長の言葉にレギュラーメンバーは「はい!」と力強く応える。
その声の中に一回戦の時には無かった声色が含まれている。その声は私には聞きなじみの深いものだ。
「アカネちゃん。緊張してない?」
小声で声かけたのは深紅の髪をサイドテールに纏めたアバターだ。
「してないよ、っていったら噓になるかな。さすがにちょっと緊張してる」
にはは、と少しぎこちない笑みで答える。
「いつも通りでいれば大丈夫だよ」
アカネちゃんの緊張を解すように、いつもどおりの調子でその背中を軽く叩く。
そう、神里高校は二回戦の参加メンバーを変更したのだ。
熱戦の続くこの大会ではサブメンバーを含め10名メンバー登録されており、試合ごとに出場メンバーを変更することが出来るのだ。試合後半になると連戦となる事も考慮してでのルールであるため、期間の空く一~二回戦でメンバー交代する事は少ないのだが、今回は交代メンバーであるマリー先輩たっての願いで交代となったのだ。
一回戦の後に期間があったこともあり、次の対戦相手となる津張工業高校について分析することが出来た。その結果、津張工業高校のメンバーは全員闘気を扱える可能性が高いとの結論になったのだ。そして、それを受けてレギュラーメンバーで唯一闘気を操れないマリー先輩がメンバー交代を提案したのだ。先輩としては悩みぬいたうえでの提案で、団体戦の要である支援職のマリー先輩の交代は下手をすると大きな戦力ダウンとなる可能性もあった。
ギリギリまで二回戦のメンバーをどうするか部活メンバー内でも話し合い、そして最終的にマリー先輩とアカネちゃんが交代する事となったのだった。
ワアァァァァァァァァ!!!
会場に転送されると、すごい歓声が私達を待っていた。熱戦が続く中、会場のボルテージは連日最高潮だ。
『おおっと、神里高校はメンバーを変えてきましたね』
実況担当のベテランアナウンサーが私達を見てすぐさまメンバー交代に気付き、解説であるセシルさんに語り掛ける。
『支援職の要であるマリーさんが交代したみたいですわね。なにかトラブルでもあったのでしょうか?』
セシルさんはその言葉に頷いた後、うーんと小さく唸る。だがその姿を見て、なんとなくだがセシルさんは私達のメンバー交代の意図を察しながらもとぼけているように見えた。薄々気付いていたが、どうやら闘気システムについては深く追求しないようにしている様だ。
今回のメンバー交代の意図はまさに闘気対策である。津張工業高校のメンバーに対応するため、闘気を扱えるメンバーもしくは闘気に対抗する術があるメンバーに寄せたのだ。
つづけて舞台に登場した津張工業高校の登場を受けて、さらに会場が盛り上がる。
ちょっと怖めの不良軍団である千葉の津張工業高校は一回戦と変わらぬメンバー構成であった。
巨漢で強面の不良軍団の長であるゴウキ。
リーゼントヘアで短ランと呼ばれる丈の短い制服の上着に、ボンタンと呼ばれるダボつかせたズボンを穿いた金属バット使いのドモン。
髑髏の首飾りと、多くの鋲が付いた上着に裂かれたような加工がされたジーンズなどパンクな服装を身に纏った魔術士のザキ。
特攻服を羽織った赤髪を逆立てたファイガに、対をなすように特攻服に青く染めた髪を逆立てたヒョウガ。
そして、最後に登場したのがピシッと学生服を身に纏い、学生帽を目深に被ったジョーカー。
向こうのメンバーは凄く気合が入っているみたいで、いつも以上に他を圧倒するような雰囲気を感じられた。なかでもジョーカーさんの纏う空気は凄まじいもので、多分だが既に裏の人格が表に出てきているように感じられた。
両校の代表であるセツナとゴウキが舞台中央まで歩みより握手を交わす。
「互いにベストを尽くそう」
「おう。練習試合の時以上の最高の試合としよう」
二人は短く言葉を交わして、それぞれのメンバーの待つ位置へと戻った。
『さぁ、大会七日目の第一試合。埼玉県代表の神里高校 対 千葉県代表の津張工業高校。
両校ともに参加メンバーが出揃ったね。早速、試合に入って行こう!
対一試合、<団体戦1>のメンバーはこちらだぁ!』
司会進行のゲーム内マスコットキャラであるバトラーくくんが大型モニターを指さす。
≪団体戦1≫
神里高校
タッチー 剣士 属性:地
Snow 拳闘士 属性:水
アカネ 投擲士 属性:風
津張工業高校
ファイガ 剣士 属性:火
ヒョウガ 剣士 属性:氷
ジョーカー 魔術士 属性:風
表示された内容に会場の歓声が更に高まる。
「おおおおお! ついに十傑対決が実現だ!」
観客からそのような声が聞こえた。予選会で行われたバトルロイヤルでのポイントの高かった10人を十傑と言っているらしい、その十傑に私とジョーカーさんが含まれていて、その二人の対戦を待ち望んでいる人がいるって聞いていたけど、それは私が思っている以上だったみたいだ。これまで聞いたことのないような声援が私達に贈られてビックリした。
『ここで十傑対決の実現だ!
これは緒戦から大注目の対戦カードとなったぞ。さぁ、バトルフィールドへ転送だ』
バトラーくんの言葉と共にバトル参加メンバーとなる私達は、バトルフィールドへと転送された。
★
転送されたバトルフィールドは『渓谷』だ。
左右を断崖となる高い絶壁に挟まれた一本道のフィールドだ。道幅はそこまで狭くは無いのだか、圧迫感がある。そして、上空には激しい風が渦巻いており、不定期に吹きおろしの風がフィールドを駆け抜ける。『風』の属性に上方補正がかかるフィールドであるため、こちらにやや不利となる戦場だ。
転送後の布陣は共に2凸1援だ。
津張工業はファイガ、ヒョウガを前衛にし、ジョーカーが支援する配置。こちらはタッチー先輩とアカネちゃんが前衛となり、私が射撃で援護する布陣である。
いよいよ試合開始だ。互いに見知った相手であるが、言葉を交わすことは無く集中している。
試合開始までのカウントダウンが始まり、魔術士であるジョーカーが詠唱状態となる。
最初から正面対決となるかもと思っていたが、まずはセオリー通り支援魔法でくるようだ。けど、させません。
私は水の玉を出現させる。
Fight!!!
バトル開始の合図と共に各アバターが動く。
「スキル【風の――」
「『bang』!」
ジョーカーが事前詠唱していた魔法スキルを発動させようとするが、それよりも早く鍵言登録していた私のスキル【水弾丸】が発動する。
高速で撃ち出された水の弾は一直線にジョーカーへと向かう。
「くっ――」
ジョーカーはスキル発動を破棄して横っ飛びに弾丸を躱す。はやり多重起動で魔法を発動させようとしていた様で発動までに遅延があったのだ。支援魔法の発動は未解決に終わる。これで支援職がいないうちの不利を払しょくできた。
「「【属性纏衣】――奥の手発動!」」
ファイガとヒョウガは同時に属性付与のスキルを発動させる。しかも、それは体力を消費し全身に属性を纏う『奥の手発動』だった。あちらは元から様子見をするつもりは無いようだ。
対するうちのメンバーはと言うと――
「はぁぁぁっ!! スキル発動【縮地】!!」
アカネちゃんは投擲武器であるブーメランを投げつけ、それを追う様に高速移動スキルを発動させる。投擲武器の接触と自らの攻撃を同時に叩きこむ必殺技『雪中曄』を仕掛けたのだ。
タッチー先輩も前に倒れ込む勢いを乗せた独特の低空での高速移動術で相手との距離を詰める。
バトル開始後の戦況としては、こちらから攻撃を仕掛け相手が迎え撃つという形となった。
私は仲間の二人を信頼し、このバトルの最大の強敵となるジョーカーへと視線を向けその対応に集中する。
横っ飛びで初撃を躱したジョーカーに対して、私は【水弾丸】の連射で攻撃を続けた。一度の水塊の具現化では弾は四つまでしか作れないため、四連射を終えた後に油断なく相手の様子を確認する。
数発命中した手応えがあったのだが、それらは全てジョーカーの武器である杖によって防がれていた。
やはり一筋縄ではいかないよね。
そう思っていると『First Attack』のアナウンスが流れる。どうやらタッチー先輩が相手であるヒョウガに先制の一撃を食らわせたようだ。
アカネちゃんの方は投擲攻撃を回避されたが、高速移動で自らの武器へ追いつき、掴み取って再投擲を連続で行っている。
今のところこちらが優勢の様だが、ジョーカーの行動次第でこの状況もどう動くか分からない。
「くくく、やはり最初から『俺』がやってればよかったんだ」
私の射撃攻撃を躱し切ったジョーカーはニヤリと口元を歪める。それに呼応するように穏やかだった場の空気が変わり、上空を舞っていた風が吹き下ろしてくる。
その突然の突風に猛攻を仕掛けていたタッチー先輩・アカネちゃんの動きが鈍り、ジョーカーの被っていた学生帽が吹き飛ばされる。
「小手調べなど不要だ。お前ら、気合い入れて最初から全力で行け!!」
「「応!」」
ジョーカーの檄と共に三つの闘気の柱が吹き上がる。
津張工業高校の本領発揮だ。私もゆっくりと息を吐きうっすらと闘気を身に纏う。タッチー先輩もアカネちゃんも対抗して闘気を発動させる。そういつか来ると思われた闘気使いと闘うこの日のために二人は闘気を習得したのだ。強大な闘気を扱う相手を前にしても引けを取る事はない。
「行くぜ! 存分に死合いを楽しもう」
その言葉と共にジョーカーの姿が視界から消える。前に倒れる勢いを乗せた低空の高速移動術『鼠走迅脚』だ。戦術を教わったタッチー先輩も同じ移動術を使うのだがジョーカーが扱うものはさらに洗練されていた。一瞬見失ってしまった。しかし、すぐに相手を捕捉すると迎え撃つために拳を構える。
このままジョーカーを迎え撃つ形となるのだが
「ジョーカーさん、すみません。貴方との勝負は後にさせてください」
そう言葉を残すと、私の視界が切り替わる。タッチー先輩がスキル【相位置置換】を発動させたのだ。
【相位置置換】を利用した位置入れ替えでの戦術は相手のファイガ・ヒョウガの得意戦術だ。それを逆にこちらが仕掛けたのだ。
「なっ――」
私の目の前には突然の事で目を丸くした氷の剣士ヒョウガの姿があった。その一瞬の隙を私は逃さない。
「真陰熊流――奥義・崩穿華!」
相手の闘気の防壁を貫いて私の拳が突き刺さる。
私の最初の相手は氷の剣士だ。まずはこちらの闘いに集中する。
千葉代表の津張工業高校との対戦が決まった後、先輩方は多くの事を想いメンバー内で意見交換がされた。その一つがマリー先輩の二回戦辞退であったが、もう一つ大きな提案があった。
「我にジョーカー殿と闘う機会を頂きたい」
独特の口調で提案したのは二年生のタッチー先輩だった。タッチー先輩は津張工業高校のジョーカーに教えを乞い戦術を習ったのだ。そんな間柄であることと、元々尊敬していたジョーカーと真剣勝負をしてみたいと思っていたのだ。
「ただ、結果が勝敗を左右する個人戦で闘うには我では役者不足。なのでジョーカー殿が出てくるもう一つの試合である団体戦1に我を抜擢してもらいたい」
頭を下げるタッチー先輩に誰も否定の言葉を口にすることは出来なかった。
そして津張工業高校との対戦のメンバーが決まった後、私はタッチー先輩から戦術についての相談があった。
「ジョーカー殿は間違いなくSnowへと勝負を仕掛けてくる。そこに我が割り込むことは困難であろう。なので我は次の試合、ひとつスキルを変更して臨もうと思っている」
そして提案されたのが【相位置置換】を使用してでの戦術だった。メンバー表の提出時に登録スキルについても記載が必要なため、大会の試合中でのスキル入れ替えは不可能(団体戦と個人戦での入れ替えは不可)だが、各試合毎でならばスキルの入れ替えは可能(1回戦と2回戦での入れ替えは可)なのである。相手高校の傾向によってはその対抗スキルを入れる事もあるのだが、使い慣れたスキルを入れ替えるのはリスキーである。それをおしてでもそのスキル交換するという事は、覚悟もそれ程のものなのだ。私はその提案を受け入れ、そして今、その戦術を実行したのだ。
「なっ、貴様っ」
相手が入れ替わったことでジョーカーの表情が不満に歪む。
「ジョーカー殿がSnowとの対決を心待ちにしていた事は存じておる。しかし、我はジョーカー殿に教示頂いた技にてどれだけ実力を増したかを直接対決にて証明したく、無理を願った」
タッチー先輩は独特の構えでジョーカーを迎え撃つ。
「貴様に戦術を教えたのはただの気まぐれだ! 俺の邪魔をするならば容赦はしない。すぐさま片づけてSnowへ挑むまで」
ジョーカーの纏う闘気が一気に膨れ上がり、強力な掌打が繰り出される。必殺技の「蛇咬牙」だ。蛇咬牙は攻撃の軌道を自在に変化させ、相手の防御の隙間を縫って攻撃する厄介な技だ。
「容赦は不要。本気の対決は我の望むもの也――秘技・蛇咬斬!」
タッチー先輩も闘気を爆発させ、攻撃を繰り出す。その斬撃は相手の変幻自在の掌打を追いかける様に変化し攻撃がぶつかり合う。
「チィィッ! 猪口才な!」
「どんなに恨んでいただいても構わぬ。だが、必ず貴殿に我を認めさせてみせるっ」
互いに繰り出した鞭のようにしならせた蹴りが交錯し、弾かれるように距離が出来る。
こうして、神里高校 vs 津張工業高校の闘いは闘気全開のバトルで幕を開けたのであった。
という事で、団体戦では『ジョーカーvsタッチー』の師弟対決から開始です。
闘気使いが揃う津張工業高校に神里高校はどう立ち向かっていくのか?
応援、よろしくお願いします。




