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162.強化合宿⑥~連続組手~

■前回までのあらすじ■

県大会を制し、全国大会出場を決めた神里高校。

全国大会に向けて強化合宿を行うなことになった。


強化合宿編は、三人称視点となります

 Snowは気功術を利用した高速移動で一気に距離を詰める。


 開始と同時に炎を纏ったハルートは迎撃するようにスキルにて斬撃を飛ばすが、Snowは意に介さぬようにその攻撃を神業的な腕捌きで逸らしていく。


「スキル【推進炎加速】!」


 中距離攻撃では止められないと察したハルートは、炎の噴射にて加速するスキルを発動し刺突攻撃を仕掛ける。身体から突進する攻撃ならば、剣の刺突攻撃が逸らされたとしても自らの身体を武器にした突進攻撃に切り替えることが出来ると算段したのだ。もし両者の身体が衝突することとなれば、体格差により有利であると判断したのだ。


 しかし、その攻撃は空を切る。


 攻撃が当たると思われた瞬間、Snowが霞のように掻き消えたのだ。


 真陰熊流の移動術『幻歩(げんぽ)』――高速移動術から無音の移動術へと切り替えて回避を行ったのだ。その動きの緩急にてハルートの視点では相手が消えたかのような錯覚に陥る。

 想定外の事態であったが、ハルートは冷静であった。身を捻り急旋回することで推進炎をまき散らし不意打ちを防ぐ。

 まき散らした炎によるダメージ判定が無かったため、近距離に相手はいないと判断し、視線を巡らせ距離を取ったであろう相手を探す。瞬間、ハルートの全身に悪寒が走る。


「真陰熊流・奥義『迅潮蹴(じんちょうげ)』!」


 上空から凄まじい勢いの蹴りが降ってくる。その攻撃を脊髄反射のみで間一髪回避。


「スキル【火炎弾(ファイヤボール)】――『炎鳥飛翔(フェニックスフライ)』!」


「真陰熊流『旋風烈蹴脚』!」


 近距離で放たれた鳥を形どった炎の一撃は、つむじ風が巻き起こるような凄まじい回し蹴りによって弾き飛ばされる。

 状態異常を引き起こす炎の塊を蹴り飛ばしたのだ、その影響でSnowの右足は『火傷』の状態異常となる。

 まともに喰らえば『火傷』+『火だるま』の状態異常となり瞬時に行動不能になってしまうような攻撃だったのだが、瞬時に蹴り飛ばす判断をしたのだ。そのため、被ダメージ・被状態異常効果は最小に止められたのだ。


「嘘、だろ!」


 目の前で起きた事象に目を疑いつつも、ハルートは必死に盾を構えて再度炎を纏うスキルを発動させる。しかし、その隙をSnowは逃さない。


「秘技『水穿(すいせん)』!」


 一点への連続攻撃を叩き込む奥義にて、盾を破壊する。


「闘気解放! 秘技『灼火(しゃっか)閃華斬(せんかざん)』!」


 防御手段を失ったハルートは闘気を使用した奥の手である必殺技を繰り出す。闘気によって炎の威力を倍加させ赤い灼熱の閃光へと変化した炎を纏った剣が敵を切り裂くべくSnowを襲う。


「攻撃が直線的過ぎますよ」


 その灼熱の斬撃を軽々と左腕で逸らしながら、Snowはハルートの懐に潜り込む。触れるだけで鉄をも融解させる程の熱を帯びた一撃に怯むことなく一歩踏み込んできたのだ。いかに固有スキルにて鉄甲のみは破壊不能となっていたとしても、人並外れた胆力が無ければこの神業のような芸当を実行することはできない。


「っ、これは僕の奥の手の必殺技だったんだがな――」


 敗北を悟ったハルートは苦笑を見せる。その胸部にはSnowの拳が押し当てられていた。


「――『瞬勁』っ!!」


 闘気を帯び、ゼロ距離から放たれた必殺技にハルートは大きく吹き飛ばされる。


 その一撃で、勝負が決した。


「ふぅ…… ありがとう、ございました」


 うっすらと纏っていた闘気を霧散させて、Snowは頭を下げる。


 こうして()()()()バトルが終了した。



 ……


 …………



「次、お願いします」


 Snowは息を整えて、そう告げる。


 ハルートとのバトルが終了し、予約されている次のバトルに切り替わるはずなのだが、しばらくの沈黙が続く。

 どうしたんだろう、とSnowが疑問を持ち始めたところで、次のバトルへと切り替わる。


 現れたのは神里高校のeスポーツ部の部長であるセツナであった。


「えっ、部長?」


 Snowは驚きに目をぱちくりさせる。


「連続組手はここで終了だ」


 セツナの宣言に、Snowは慌てて「私はまだ闘えます」と言葉を返す。Snowからすれば一度も敗北していないし、まだ体のだるさも出ていなかった。あと数戦ぐらいは問題なく闘える、そんな感覚でいた。


「Snowが闘えるとしても、もう対戦相手が残っていないんだ」


 セツナは小さく首を振って答える。その言葉にSnowが「えっ?」と言葉を漏らす。


「何戦したかも分からないくらい集中していたんだな。

 連続組手ですでに9戦しているんだ。ゲストで参加してくれた県内トップクラスの相手を全員倒しきったってことだ」


 続けたセツナの言葉で、Snowがやっと今の状況を理解する。


「やっと状況を理解したようだな。私はメッセンジャーとしてバトルに入っただけだから、このバトルはSnowに勝ちをつけて終了するよ」


 そう告げると、セツナは『棄権(サレンダー)』の手続きをする。


 バトルが終了すると、Snowはバトルアウトし公共スペースへと転移する。


「……」


 公共スペースは何とも言えない空気感となっていた。Snowの圧倒的な強さを目の当たりにして対戦したメンバーだけではなく、観戦していたメンバーすら言葉を発することが出来ずにいた。


「あ、あの、連続組手に参加してくれた皆さん、対戦、ありがとうございました」


 その微妙な空気感を自分がお礼をしていなかったことが原因かと勘違いしたSnowは慌てて頭を下げて謝辞を告げる。

 それを受けても、他のメンバーの反応は微妙であった。その中でいち早く言葉を返したのは、その中でも一番の実力者でもあるハルートであった。


「今日は無敗で終われるかと思ったけど、最後にここまで圧倒的に敗けるとは思わなかったよ。

 ちなみになんだけど、スタミナ不足を補うための助言ってどんなものか、教えてもらってもいいかな?」


 その問いかけに、Snowは素直に答える。


「相手にあわせて闘うのが私の悪い癖、って指摘されて、スタミナ不足を補うには最初から全力で闘って、短期決戦にする事が一番の対処法だ、って」


「なるほど。だから連続組手の前に『最初から全力で行くので、そのつもりでお願いします』と言ったんだね。

 最初に様子見をしようなんて思っていたら、僕であっても瞬殺だっただろうからね」


 肩をすくめてハルートが応える。実際、様子見をしようとして瞬殺されたメンバーも居たので、そのやり取りを聞いて先程のバトルを思い出し、顔を青ざめさせた者も居た。


「にしても、強すぎだろ!

 連続組手では俺に使用した闘気無効化の技は使っていなかった。って事はまだすべてを出し切っていないって事だろ。兄貴ですら1ラウンド(3分)持たないなんて――」


 続けて意見したのは秩父龍勢高校のアキラだ。アキラは今回の連続組手には参加していなかったが、それでも尊敬している兄が手も足も出ずに敗北する姿は信じられない光景だった。


「あれは、手加減したって訳ではなく、カエデ先輩に闘い方を見てもらいたくて」


「えっ」


 急に話を振られたカエデが驚きの声を漏らす。


「カエデ先輩は私の闘い方を参考にすることが多かったので、こういう闘い方があるんだよと伝えたかったのです。

 闘気の使用方法ですが、私のように『流水の捌き』にて攻撃をいなすのではなく、カエデ先輩に特性がある闘気による直接防御を主体にして闘う方法もあると気づいてもらいたかったのです。

 その所為でとても苦戦してしまいましたが、何とか勝ててよかったです」


 ユキヤとの闘いを振り返ってSnowが感想を述べる。ユキヤとの闘いでは、必殺技である『跳羚剛(ガゼルエア)破風拳(スマッシュ)』を正面から受け止めるも、防御し切れずに大きく体力を減らしたが、その後の技後硬直の隙を突いた連打(ラッシュ)で一気に勝負を決めたのだった。

 傍から見ればユキヤの最強の一撃を耐えきって、カウンターで一気に勝負を決めたように見えた試合であった。


「私の闘気を使った全力防御でも防げなかったユキヤさんの必殺技は凄かったです」


 そして、相手への敬意も忘れない。相手の良かったところは、正直に称賛する。


「得意ではない戦法でも、あれだけの差が出てしまうとはな。(アキラ)が言っていた通りSnow、あんたに勝つには俺達はまだまだ精進が足りなかったようだ。

 実は高校ボクシング協会からゲームでの人気は十分に得たのでボクシング一本に絞らないか、と打診が来ていたんだ。だが、これだけの実力差を見せつけられたらこのゲームを辞めるわけにはいかないなと痛感させられたよ。

 一年間みっちりと鍛えて来年の県大会ではSnowに勝てるようになっていようと思う」


 先ほどまで影が差していたユキヤの表情が晴れ、笑みが浮かぶ。その横で秩父龍勢高校のメンバーであるクロが嬉しそうに「尾花兄弟がいないと来年のうちらの全国制覇は叶わないからな。やる気を出してくれて嬉しいよ」と双子の背中を叩いて喜びを表現した。


「私達もこのままでは来年も神里に勝てないと痛感しましたわ。今日、Snowに教えていただいた事を持ち帰って、川越女学院(うちの学校)特有の闘い方を模索していきますわ。

 まったく、せっかくセツナに勝てたというのに、さらに強い後輩が出てくるなんて困ったものです」


 やれやれと肩を竦めてレインが言葉を掛ける。レインを含め川越女学院のメンバーは全員Snowに連続組手にて挑んで玉砕していた。特に期待の新人であるサニーは、自らに有利な戦場(フィールド)であったのにも関わらず、手も足も出ずに負けてしまった事に悔しさを滲ませていた。それはまさに2年前にセツナに負けて自分を見つめなおした自らの姿と重なり、この経験は必ず次世代を担う後輩にとっての糧となると信じていた。


「俺達は全然活躍できなかったな」


 最後にリモートで参加していたもう一校の浦和赤城のメンバーが感想を告げる。それをうけて大宮電子のメンバーが「まったくだな」と冗談めかして茶々を入れて軽く口論になった。その口論は険悪なものという感じではなく、同じ市内の学校同士のふざけ合いの様相であった。


「そろそろ、1日目も終わりの時間だな。

 直接参加の2校はこの後は休憩を挟んで夕食になる。

 リモート参加の秩父龍勢と浦和赤城はそのままログアウトしてもらって構わない。明日もよろしく頼む」


 一通り意見が出そろった所で、神里高校の部長であるセツナが合宿1日目を締めくくったのであった。


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