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154.師匠の助言

◼️前回までのあらすじ◼️

定期検診で病院に訪れた真雪はゲーム内でBear師匠とバトルする事となった。

真雪は全力を尽くしたが、一歩及ばすBear師匠に敗北してしまうのであった。

「今回は俺の勝ちだな」


 仰向けに倒れ放心するようにしばらく空を見上げ私の耳に師匠が声が届く。私は一つ息を吐いた後「はい。敵いませんでした」と答えて身を起こす。


「立てるか?」


 そう手を差し出す師匠。その手を借りて私は立ち上がる。


「良いバトルであった。更に強くなったな、Snow」


 師匠のその言葉と共に、バトルを観戦していたギャラリーから拍手が起きる。


「はい。ありがとうございます」


 私は師匠からの言葉に応え、頭を下げる。厳しい言葉が多かった師匠から称賛の言葉を貰えたことが嬉しかった。


「最後のあの一瞬の硬直が勝敗を分けたな。

 自分が出来る事は相手も出来る前提でいる事と教えたはずだが、まだまだだったな」


 続けて師匠からの先ほどのバトルに対する批評の言葉。私は素直に「はい。まだまだ精進が足りませんでした」と頷く。


「――まさか師匠が私の技を使うなんて思いもよらなかったので……」


 そう言葉を続けたところで、師匠の視線が鋭いものになる。その視線にドキリと鼓動が跳ねる。なにかいけないことを言ってしまったのか、と直感するが何が悪かったのか分からない。


「お前には足りていないものが三つある。それを伝えよう」


 そして師匠が話題を切り出す。その言葉に私はゴクリと唾を飲み込む。師匠がこうして言葉で助言をくれる事はとても珍しい事だ。その言葉を聞き逃さないように真っすぐに師匠へと視線を向ける。

 それを感じ取ったのか、ギャラリーからの拍手と声援がぴたりと止む。


「格闘技術で足りないものがあるのならばこうやって直接的に伝える事はない。それは理解しているな?」


 師匠の言葉に頷く。


 そう、師匠は格闘技術について口頭で伝える事は無かった。いつもその目で見て、その身体で体験して技術を習得しろというスタンスだったのだ。


「こうして口頭で伝えるという事は、お前に足りないのはそれ以外の部分だ」


 そう前置きをして言葉を続ける。


「先ほどのお前の言葉から読み取れたものがまず一つだ」


 言葉を切って私に思考する時間をくれる。


 先ほどの言葉とは「師匠が私の技を使うなんて思いもよらなかった」という内容だ。師匠の反応からその言葉が手懸りとなっているのだと思ったのだけれども、それが何かが分からない。


「この俺が未熟者の技を真似ると思うのか?

 既にお前は俺が認めるほどの――その技を習得したいと思わすほどの実力者なんだ。それを自覚することだ」


 私がたどり着けなかった答えを告げる。


 それは夢奏(ゆかな)ちゃんからも言われた内容であった。


 私が実力者である、と自覚すること。それが足りていない事の一つだと告げられたのだ。だが、それが何を意味するのかがやはり分からない。


「俺の様にお前の技を習得する様な相手は稀かもしれないが、これから先に闘う相手はほぼ間違いなく対策を取ってくるだろう。

 勝てないと思った相手は玉砕覚悟の捨て身技を連発してくることもあり得るし、自棄(やけ)になって汚い手を使ってくる事もあり得る。

 実力が拮抗した相手では起きえない強者ゆえの憂いというものが存在するのだ」


 私の反応を見て師匠が補足する。その言葉を受けて「なるほど」と納得する。『くまたろう』として武者修行をしていた時に、色々な手段を使って私を斃しにくる相手が多かった。修行時はそんな戦法があるのか、と感心しただけであった。しかし、それが全国大会だったならば、それがチームとしての敗北にも繋がる事になるのだ。全国大会でチームの一員として闘うとなれば、そんな油断は許されない。


「足りていなかったものの二つ目は『闘気崩し』の実用性についての知識と経験だ。これについてはバトルの中で実感してもらったな」


 私が納得したのを確認して、師匠が二つ目の私に足りなかったものを告げる。


 そう先程のバトルの中で私が使用した裏奥義の『威水滅華(いすいめっか)』。それを師匠が見事に打ち破って見せた。それを思い出して私は「はい」と頷く。


「『威水滅華』は闘気を扱う相手へ絶対的対抗策ではない。だが、決まれば一発逆転になることも確かだ。

 要は使いどころという事だ。

 技の特性、そして失敗時のデメリットを知ることで、本当の意味で技を修めたことになる。今回の闘いでそれを知れただろう」


 腕を組んでそう言葉を付け加える。


「そして、最後の三つ目。これが一番伝えたかった事、致命的な敗北にも繋がりかねないものだ。

 正確にいえば足りていないというよりは、間違っていると言った方がいいだろう。

 それはお前の『弱点』についての認識だ」


 師匠の言葉に「え」と言葉が漏れる。


 私の認識が見違っている?


「お前は持久力(スタミナ)不足を自らの弱点と思っていないか?」


 ズバリと指摘されて、私は眼を見開き、何度か瞬きした後、「……はい」と肯定することしかできなかった。


 まさか、その認識が間違っているの?


 けど、激しいバトルの後は熱を出したり、寝込んでしまうこともあった。それは持久力(スタミナ)不足が原因で、それが私の弱点だと思っていた。


「それは半分当たっているが、半分は間違っている。

 お前の本質的な弱点は『現実世界で』の身体の弱さにある」


 師匠の言葉を受けても、それが私の思いとどう違うのかがピンと来なかった。


「分かりやすく言えば、現実の自身の弱さをゲーム内でも抱えていると錯覚しているという事だ。

 ここはゲーム――仮想現実の世界で、現実世界とは異なるのだ。現実世界での弱点が、こちらでも適用されるというものではない。その認識がお前には足りていない」


 そう補足説明されて、はっとする。


 まさにその通りだった。現実世界で病弱で虚弱な私は、ゲームの中でもそれが影響すると思っていた。けど、違うの? ならばバトル後に体調を崩してしまうのは――


 釈然としない反応の私を見て、師匠は質問を投げかける。


「今の俺との闘いは全力を尽くしたか?」


「?…… はい。全力を尽くしました」


 その問いに私は一瞬、意図が分からず戸惑うが、すぐに回答する。今持てる全ての力を出し尽くした。その回答に嘘偽りはない。


「そうだろうな。

 それではもうひとつ訊く。今の身体の調子はどうだ? 通常にバトルした後と比べ疲労度や消耗度は大きいか?」


 その問いかけに、私は自分の体の状態を確認してみる。そして、自らの身体が予想以上に()()()()()()()ことに気付く。あれだけ本気で闘い、闘気まで使用したというのに、いつものようなバトル後の身体の重みが無いのだ。


「思ったより、疲労は残っていない、です」


 正直に答えると、師匠は「だろうな」というような感じで大きく頷く。


 何だろう。今の問答(やりとり)の中に『こたえ』がありそうだ。


「お前は病気の影響で体力が無いと思い込んではいないか?

 知らぬ知らぬのうちに相手に合わせた闘いをしてしまっていないか?

 それらの全てが、お前が弱点だと思っている『持久力(スタミナ)不足』たらしめている原因だ」


 そして私の弱点についての考察を告げられる。まさにその通りであったが、その言い回しが引っ掛かる。その言い回しは暗に『弱点を克服できる手段がある』と言っているようだった。


「もしかして師匠は、私のその弱点を克服するための方法が思い浮かんでいるのですか」


 正直に問いかけると、師匠はふと不敵に口端を歪めて「ああ」と頷く。


「現実世界での体力であれば、圧倒的に足りていないであろうが、ここは仮想現実の世界だ」


 師匠は両手を広げて空を見上げ、言葉を続ける。


「こちらの世界での運動情報は電気信号にて現実の身体にフィードバックされるが、それは現実で運動した時の身体負荷に比べれば小さいものだ。長時間こちらの世界で運動すれば現実世界の運動に近いフィードバックとなるが、運動が短時間であればそこまで大きな負荷フィードバックは無い」


 師匠の言葉が続く。


「先ほども伝えたが、お前の本質的な弱点は『現実世界での身体の弱さ』にある。

 ではその弱点を克服するにはどうしたらいいか――」


 そしてそこで言葉を途切れさせる。私に考える時間をくれたのだ。


 本当の弱点は『私の現実世界での身体の弱さ』。ゲーム内での運動では長時間でなければ現実世界の身体への負担は少ない。ならば――


「バトルを短期決戦に持ち込む、のが弱点克服の手段、ですかね」


 一つの答えにたどり着く。その言葉を聞いて師匠は満足げに笑みを浮かべる。


「そうだ。それがゲームにてお前が次なる高みへと進む方法だ。

 お前は眼がいい。それは視力という意味ではなく、相手の心理の機微や、技の特性を瞬時に見抜く観察眼という意味だ。その長所があるが故に、後手に回り長期戦となる事が多く見受けられる。

 もう、相手の技術を見抜き技術を習得するという段階は終えて良いだろう。これから先、全国大会では瞬時に自らの実力の全てを引き出し短期決戦で勝負を決める、そういう戦術へと切り替えて行くべきだ。そうすれば弱点克服と共にさらに高みへと達せられるだろう」


 うむ、と師匠が鷹揚に頷く。


「ありがとうございます。

 それを伝えるために、師匠はバトルをしてくれたのですね? 今回のバトルで得たもの、師匠の助言を胸に更に精進していこうと思います」


 感謝の言葉を告げると、師匠はゆっくりと右手を差し出す。


「改めて、言おう。良いバトルだった」


「はい。こちらこそ、多くのことを学ばせていただきました」


 その手を握り返してそう告げると、再度ギャラリーから万雷の拍手が巻き起こる。


 こうして、定期検診で訪れた病院で再会を果たした師匠との再戦は幕を閉じたのであった。

これにて『病院・師匠との再戦編』は終わりになります。


真雪と楓の全国前の強化回の位置付けとして描き始めた病院回でしたが、うまく書き表せずすみません(もっと劇的に強くなる様な流れにしたかった……)


次回からは他の神里高校のメンバーの強化回としての『強化合宿編』となります。

引き続き応援、よろしくお願いします。

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