137.県大会・決勝戦(vs大宮電子高校)②
■前回までのあらすじ■
ブレバトグランプリの県大会。
真雪(Snow)率いる神里高校は決勝まで勝ち上がった。
そして、ついに決勝戦が始まった。
現在は以下の状況となっています。
●試合結果●
①神里高校○ 3-0 ×久喜総合学院
②大宮電子高校○ 3-0 ×松伏緑山高校
③秩父龍勢高校○ 3-2 ×川越女学院
④所沢国際高校× 1-3 ○浦和赤城高校
〜準決勝〜
⑤神里高校○ 3-1 ×秩父龍勢高校
⑥大宮電子高校○ 3-1 ×浦和赤城高校
★試合中★
〜決勝〜
・神里高校 - 大宮電子高校
二刀流の侍であるクワンタが闘気を解放すると、風と雷の二属性のオーラが同時に展開される。
「いくぜ! まずは戦力の劣る投擲士から潰すぜ」
クワンタは闘気を放出して超スピードで距離を詰めてくる。狙いはアカネちゃんの様だ。今のクワンタとの対決だとアカネちゃんの方が分が悪い。いくら闘気を扱える様になったと言っても闘気使いと闘うとなるとアカネちゃんには荷が重い。私は氣功術を利用した蹴足で二人の間に飛び込む。
「はぁぁぁっ!!」
高速移動するクワンタに蹴りを放つ。クワンタは「チィッ」と舌打ちして私の蹴りを左手の刀で防御する。
間髪入れずに拳の連打を放つ。
クワンタは私の攻撃速度についてこれずに、慌てて左肩に装備した大剣を模した盾で防御し距離を取る。
「貴方の相手は私よ!
アカネちゃんは<炎の剣士>をお願い」
背にいるアカネちゃんに指示を飛ばす。
「弱いところから削っていく作戦だったんだがな。まぁいいや。バトルロイヤル最高得点のあんた相手に俺の<双属性並列起動>がどこまで通用するか試してやる」
ニヤリと笑みを浮かべてクワンタが二刀を構える。
「こちらも望むところです」
拳を構えて受けて立つ。
「いくぜ。スキル【風刃】!」
クワンタは右の刀で風の斬撃を飛ばしてくる。それを私は『流水の捌き』で攻撃を左右にいなす。
「風刃の連撃を難なく躱すか。だが、俺の攻撃は風の斬撃だけではないぜ。はぁぁぁぁっ、『雷切丸道雪』効果発動! 雷撃纏衣――雷刃斬!」
風の斬撃を飛ばしながら距離を詰めてきていたクワンタが、左の刀に雷を纏わせて強力な斬撃を繰り出す。雷属性の攻撃には貫通効果のあるため、私は大きく後方に跳んでそれを躱す。
すかさずに、距離を取った私を追う様に風の斬撃が飛んでくるが、私はその攻撃は見切って左右に受け流す。
距離を空けた時は風の斬撃で攻撃、近距離では雷を纏った貫通力のある強力な一撃を繰り出す、隙のない戦法だ。
「思った以上の化物だな。俺の必勝の戦術でダメージを全く与えられないなんて。なんて防御技術だよ」
クワンタが愚痴をこぼしながら【風刃】を放つ。防御出来ているが、このままでは防戦一方だ。ここはこちらからも仕掛けるしかない。
私は向かってくる【風刃】をギリギリまで引きつけると、無音の移動術である『幻歩』を発動させる。
「やったか――」
相手には攻撃が当たった様に見えたのだろう。完全に私を見失っている。私はその隙に、相手の視線の死角を突いて幻歩にて相手の懐に飛び込む。
「真陰熊流格闘術・奥義『水穿』!!」
必殺の右拳を相手の脇に叩き込む。
「がはっ……」
私を見失っていたクワンタに完璧な一撃が入る。脇を保護していた胴当てが砕け、相手の体に大きなダメージを与える。
人体の急所ともなっている脇の下へのダメージでクワンタの表情が苦悶にゆがむ。
このまま一気に勝負を決めるべく、一歩踏み込む。瞬間、ゾクリと嫌な予感が過る。
「刀剣解放――『百雷陣』!!」
クワンタが属性六刀剣の特殊効果である刀剣解放を発動させる。クワンタを中心とした広範囲に雷撃の嵐が空き荒れる。慌てて防御態勢となるが雷属性の特性である貫通効果で体力が削られる。
「一気に畳みかける。刀剣解放――『神風烈波』!」
さらにもう一つの属性六刀剣の刀剣解放を重ねる。雷が荒れ狂っているため防御態勢を崩せない。私は凄まじい衝撃を伴った空気の塊をモロに正面から受ける形となる。
「ぐぅぅぅっ!!」
全身に痛みが走る。
防御態勢を取っていたのだが、風属性の追加効果の『吹き飛ばし』効果で大きく後方に吹き飛ばされたのだ。吹き飛ばし効果にはダメージ判定はないのだが、貫通効果のある雷の嵐の中を吹き飛ばされたため一気に体力が削られたのだ。貫通効果のある雷の効果範囲を強制的に移動させる凶悪なコンボだ。刀剣解放は『バトル内に一度きりしか使用できない』のだが効果は絶大だ。
「くっ、ここまで体力が削られてしまうなんて」
受け身を取って、吹き飛ばしの落下ダメージ無効化させつつ油断なく立ち上がる。
一気に勝負をかけてアカネちゃんの援護に向かおうと思っていたのだが、流石に決勝まで上がってきた大宮電子高校だ。個人的な強さで言えば秩父龍勢高校の双子の方が上なのだが、大宮電子高校はやはりこのゲームを熟知している。上手く立ち回ってなかなかこちらのペースでバトルを進めることが出来ない。
チラリと他のメンバーの状況を確認する。
アカネちゃんはマリー先輩を庇うような格好で相手のエースであるハルートと対峙しているようだ。どうやらハルートが用いる戦術との相性が悪いマリー先輩が狙われているようだ。
全身に炎を纏う【属性纏衣】の「奥の手発動」を利用した特攻攻撃は、付随効果で『火属性効果無効化』があるのだ。火属性であるマリー先輩はハルートに対しては攻撃手段がないのだ。
属性の相性を熟知した嫌らしい戦術だ。
マリー先輩は相手の魔術師であるライザーが魔法スキルを発動させないように牽制しつつ、アカネちゃんへ支援するので精一杯だ。アカネちゃんもマリー先輩を庇いながらの闘いとなっているため戦況は圧倒的に不利である。
「余裕だな。他のメンバーが気になるか?」
私の視線が一瞬逸れたのを感じ取ったのか、クワンタが声を掛けてくる。相手はまだ余裕の表情だ。
「奥の手の一つである刀剣解放を使ってしまったが、俺の奥の手は一つじゃない」
ゆっくりとこちらに向かって歩を進めながら、クワンタはスキル【念動力】を発動させる。すると左肩に装備されていた大剣を模した盾の留め金が外れ、その盾が宙に舞う。
「これがもう一つの奥の手、<三刀剣之陣>だ」
そう宣言するとともに、クワンタは再度『闘気』を発動させ両手に持つ刀に属性効果を纏わせる。
「いくぜ!」
クワンタが距離を詰めてくる。それを追随するように大剣が宙を走る。
「はぁぁぁぁっ」
クワンタが連撃を仕掛けてくる。
両手に持つ刀の連続攻撃に宙を舞う大剣の攻撃も加わる怒涛の攻撃だ。達人の様なキレのある斬撃ではないため、なんとか『流水の捌き』にて対処出来ているが、やはり貫通効果のある雷の刀が厄介だ。完璧に捌かないと、それだけで体力が削られていく。
それに【念動力】による操作で予測不能な軌跡を描く剣の攻撃も厄介だ。相手の身体の動きでの予測が出来ないので意識をそちらにも割かなくてはいけない。その為に意識が散漫になり雷属性の貫通攻撃を捌ききれなくなっている。
このままじゃジリ貧だ。なんとか相手の三刀剣之陣を破らなくては。
ひとつだけ確実に相手の必勝の陣を破る方法があるのだが、出来れば使いたくない。
「奥義・水穿!」
ワザと隙を作り、浮遊武器の攻撃を誘い込んで武器破壊を試みる。伝説級の武器である二刀は破壊不能のため狙うならば浮遊武器だ。同箇所に連撃を叩き込むことによって威力を倍加させる必殺技なのだが、浮遊した武器は重心が無いため威力が伝わりきらずに大きく弾き飛ばすのみの結果となった。
「せやぁっ!」
大技後の隙をついて、クワンタが雷の剣による攻撃を仕掛けてくる。しかし、それも私は読んでいる。回避行動と共に大きく飛び上がりカウンターの回し蹴りを叩き込む。
やはりゲーム運びは上手いが、闘いとなると素人だ。スキルが介在しない戦闘部分であれば付け入る隙はある。
どうやら先ほどの攻撃で弾き飛ばした大剣は【念動力】の制御から外れた様で地面に転がっている。
二刀流のみの攻撃であれば対処可能だ。
今のうちに一気に畳みかける。
私は一気に距離を詰める。
「クソっ」
クワンタはそう吐き捨てて、必死に刀を振るうが素人の太刀筋では私には通用しない。これならばセツナ部長の方が遥かに強い。
私は日本の刀の攻撃を捌きつつ次々と拳を叩き込む。
「くそっ、猪口才な。
これならどうだ! 必殺・風雷双刃斬」
クワンタは闘気によって属性効果を強化した二刀を頭上で合わせて、二つの属性の混合させた一つの大きな闘気剣を生み出して振り下ろす。
これも相手が奥の手として用意していた必殺技であろう。闘気によって凄まじい威力の攻撃となっているが、そんな大振りの攻撃など私にとっては脅威ではない。
私は『幻歩』にてその攻撃を回避すると、相手の死角へと移動する。
「奥義・崩穿華!!」
先ほどの一撃で罅の入った鎧へ必殺技を叩き込む。
「ぐああぁぁっ!!!」
その一撃でクワンタの鎧が砕け散り、体力が一気に減少する。
これがシステムの効果に頼らない、格闘技術にて繰り出す本物の貫通技だ。
「くそがぁぁぁぁぁっ!!!」
叫び声を上げながらクワンタは先程生み出した風雷の闘気剣を大きく薙ぎ払う。苦し紛れの大振りが当たるはずもなく、私は大きく後方へ跳んで回避する。
「何故、何故だ?! 俺の奥の手が、悉く、全て破られるなんて。おかしいだろ!!」
絶叫するかのような言葉が私にぶつけられる。
「貴方はゲームシステムに頼り過ぎなのです。もっと自分の技を磨かなくては――」
「うるさい! お前、絶対チートを使ってるだろ。そうじゃないと説明がつかねぇ。そんな相手なんて相手してられるか。この試合が終わったら運営に直訴してやるから覚悟しておけ」
クワンタは私にそう吐き捨てると、二刀で作っていた闘気剣を解除し、左手側に持った雷属性の刀に『闘気』を集中させる。
何に怒っているのか分からないが、何かやろうとしているのは明らかなので油断せずに私は構えを取る。
「これが俺の最後の奥の手だ。はあぁぁぁぁぁっ!!!」
クワンタを闘気を込めた刀を振り被る様に大きく上段に構え、そして――
まさかっ
相手の視線が私から外れる。その視線の先はいまだに必死に闘いを続けているもう一方の戦場であった。
「<刀剣貫通電磁投擲>ぉぉぉ!!!」
闘気を込めた雷切丸道雪を投擲したのだ。慌てて撃ち落とそうとしたが、雷属性によって加速された刀には触れることが出来ずに、雷を纏った刀が一直線にアカネちゃんに向けて飛んでいく。
「アカネちゃん!! 避けて!!!」
必死に叫ぶ。
闘いに集中していたアカネちゃんは反応が遅れる。
「なっ――」
アカネちゃんが私の言葉に気付いた時にはすでに遅かった。
ズシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!
高速で飛来した刀がアカネちゃんの左肩へと突き刺さったのであった。




