116.取材の最後に
◼️前回までのあらすじ◼️
県予選ベスト8に残った神里高校を地方新聞社の記者が取材に訪れた。
ゲーム内での取材にて新米記者のジュリは、チームの最高戦力であるSnowにバトルを挑んだのであった。
激しい攻防の末、勝利したのはSnowであった。
※本話から真雪(Snow)視点に戻ります。
「いやぁ、敗けちゃいましたねぇ……」
バトル後にゆっくりと起き上がりながらジュリさんが握手を求めて来た。
「いえいえ、ギリギリのバトルでした。ありがとうございます」
私はその要求に応えて手を握り返す。
感想戦モードとなったので、観戦していた部員たちが不可視モードが解除され私達の周りに集まってきた。
「すばらしいバトルでした」
「すごかったです」
部員たちが賛辞の言葉をくれる。
「あの。ジュリさん。バトルの感想をよろしくお願いします」
まずは対戦相手であったジュリさんに試合後の感想をもらおうとお願いする。勝敗に関わらず、試合後は後輩が先輩に感想をもらうのが部活のしきたりだ。
「う~ん、そうねぇ、やっぱりSnowちゃんは規格外の強さだったわね。まさか私が最強を誇ると自負していた『不動阿遮羅』を破られるなんて思わなかったわぁ。
一つ質問なんだけど、Snowちゃん、今のバトルは本気を出していたのかしら?」
ジュリさんに問われて、私は「はい」と答える。最終奥義まで使用したのだ、手を抜いていたなんてことはない。
「そうね。『最後にやっと本気を引き出せた』っていうのがほんとのところかと思うけどね。
でもそのお陰でいい絵が撮れたわぁ」
にっこりと微笑んでジュリさんは手元に『記録球』を移動させる。
そうだ。いまのバトルは取材として記録されていたんだ、と今更ながらに思い出す。
「私が苦手な射撃攻撃の【水弾丸】を使わずに、まっすぐに格闘技で対応してくれたのは好感触だったけど、本当の試合だったらもっと非情になることも重要よぅ」
人差し指を立てて忠告をしてくれた。
あの場面では正面から最高の技で打ち破らなくてはいけないと思っていたので最終奥義を繰り出したけど、勝利の確率を考えて闘うならばジュリさんの言う通りだ。
私が素直に「はい」と答えると、ジュリさんは悪戯っぽく笑って「その素直さが貴女の取り柄なのねぇ。その素直さは忘れないでね」と言葉を続けた。
そして「さてと」と前置きして、真剣な表情になってジュリさんが真っ直ぐ視線をこちらに向ける。
「もう一つ質問ね。もうひとバトルするとしたら、闘うことって出来る?」
「えっ?」
ジュリさんからの次の質問に、私は驚きの声を漏らす。
もうひとバトル…… 多分、大丈夫だと思うけど、まさか連続でバトルを申し込んでくるとは思わなかった。部員のみんなも目を丸くしている。
「あ、ごめん。連戦を挑むって意味じゃないから、ね。例えば、部長さんとか、カエデさんとかからこの後にバトルをお願いされたらバトルすることは可能かな、って質問よ」
ジュリさんが質問の内容を補足する。うん、多分問題なく闘えると思う。というか、今となっては日課となっているので、確実にカエデ先輩はバトル申請してくると思うし。
「はい。問題なくバトルできると思います」
質問の意図は分からないが、正直に答える。
「うん。やっぱりそうよねぇ、ひとバトルだけで体力が尽きるなんてことは無いみたいね」
ジュリさんは私の身体をじっくりと観察してうんうんと頷く。
なんだろう、何を伝えたいのかが分からない。
私がオロオロと視線を泳がせていると、ジュリさんは小さく微笑んで言葉を続ける。
「そんなに狼狽えなくて大丈夫よぉ。Snowちゃんが本気でバトルしたらどれくらい消耗するのか確認したかっただけだから」
そうやさしく声をかけてくれた。
「前回のバトルロイヤルで無理をして倒れちゃったみたいだけど、今みたいに通常のバトルだったら連戦も可能っことよねぇ」
独り言の様にジュリさんが呟き、私から視線を外して集まった部員たちの方へ向き直る。
「さっきSnowちゃんにも言ったことだけど『試合には非情になる事も重要』って話だけど、それはみんなにも言えるわぁ」
今度は部員みんなに向けて言葉を続けた。
「私が色々批判されても自分の戦法を貫いた様に、勝つためだったらどんな事でもすべきだと思う。それは『反則してまで勝て』ってわけじゃなく、『出せるものは全て出し切りなさい』ってこと」
その言葉に部員たちは「はい」と答えた。
「そして、それは個人だけではなくチームでもいえるわ。
ハッキリ言うけど、Snowちゃんの強さはこのチームで群を抜いているわ。地方大会レベルなら敵はいないでしょう。
そんなこのチームの最大戦力を温存するのは勿体ないとしか言いようがないわ。
Snowちゃんの体調を考えて個人戦のみにするのは良いかもしれないけど、温存を考えて個人戦3に据えるのは愚策だと思うわね。
いい? ブレバトグランプリでは各校が必死になって向かってくる。その中で全力を出しきれず消えていくチームを星の数ほど見て来たわ。記者としてだけでなく、高校時代にもね。
プロリーグと違って高校生の試合は一発勝負。その時、その時点で一番の戦力、一番調子の良いメンバーを惜しみなく使っていく。それが優勝するためのコツね。
Snowちゃんも体調が悪い時だけでなく、体調や調子が良い時は積極的に大会に参加して勝利に貢献する事。
全員がその時にできる事をする。それを肝に銘じておけば必ず勝ち残れるわぁ。
それがOGの先輩からできるアドバイスかなぁ」
そうアドバイスを締めくくる。
それを聞く部員みなの目は真剣なものだった。
それを聞いた私の心にも響くものがあった。
ずっと自分は『体が弱い』と思い込んでいたので、身体に不調を感じたら遠慮せずに声を上げていたが、逆に好調のときであってもみんなの優しさに甘えて休ませてもらっていた。積極的にチームに貢献する、そんな気持ちをどこか疎かにしてしまっていたのかもしれない。
「ごめんなさい。なんだか説教臭くなっちゃったわねぇ。私からの助言はここまでよぉ。
レギュラーメンバーの強さや、バトルシーンは今ので全て撮り終えているから、ここから先は普通の部活風景を撮らせてもらうわ」
ジュリさんはにこりと笑って話を終わらせる。部員たちは「アドバイスありがとうございました」と頭を下げた。
その後、通常の部活動に戻ったのだが、セツナ部長とレッドリーフ副部長は先程の助言を受けて色々と話し合っていた。
私はというと、いつも通りカエデ先輩と練習対戦を行なって、互いに技を磨いた。どうやらジュリさんは私に興味があるようで、そのバトルにも観戦者として私の映像を撮っていた。
こうして、その日の部活は終了した。
ゲームをログアウトし、現実世界に戻った私たちは、部活の最後に記者の二人から感謝の言葉を貰った。
「突然の取材なのに、対応いただいて、みんなには心から感謝する。
インタビューでは多くのことを聞くことができた。いい記事とする事を約束するので、次の特集記事は期待して頂きたい」
ベテラン記者の種田さんは慇懃に頭を下げて感謝の意を示す。
「私も、ゲーム内でいい絵が撮れたので、特集記事について画像情報も期待してください。
それと、みんな真面目に部活に取り組んでいてOGとしては嬉しかったですぅ。
お世辞抜きで、今のメンバーは私が現役でブレバトグランプリを優勝した時のメンバーに見劣りしない強いチームになってると思いますぅ。
絶対に県大会を勝ち抜いて、今度は全国大会出場の時に取材させて下さい。
みんなの健闘を願ってますぅ」
気の抜けた様な口調の新米記者であるジュリさん――えっと、現実世界では樹 莉子さんが拳を握って「がんばってね」というポーズでエールをくれた。
「それでは、記者の二人は私が送って行きますね。
部員のみんなはいつも通り整理運動と片付け清掃をお願いね」
顧問の老月先生がそう言葉を残して、記者の二人を引率してダイブルームを出ていった。
こうして新聞社の取材のあったその日の部活動は終了したのであった。
取材編はここで終わりになります。
次回からは県大会のトーナメント戦のお話となります。
第一回大会の優勝の後、ずっと超えられていなかったベスト8の壁。
真雪たちはそこを超えることができるのであろうか。
次回もご期待ください。
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