114.ゲーム内取材~樹 莉子の視点②~
◼️前回までのあらすじ◼️
県予選ベスト8に勝ち残った神里高校に地域新聞社の取材が入った。
新米記者の莉子は、アバター『ジュリ』としてゲーム内でのeスポーツ部の取材をするのであった。
※今回も樹 莉子からの視点となります。
結論から言えば神里高校のレギュラーメンバーは私の思っていた以上にレベルが高かった。
結果的にはセツナ・レッドリーフ・マリーのAチームの勝利となったが、とてもハイレベルな闘いであった。
総評として纏めると、まず一番目立ったのは、【会心防御】の達人であるセツナさんだ。
開幕時に弾き飛ばされた『天羽々斬』は回収できなかったが、再度発動させた【武具錬成】にて別途『刀』を召喚し二刀流になってからは一気に形成はAチームに傾いた。やはりレギュラーメンバーの中でも群を抜いた実力者だと分かった。
続いて目立っていたのは拳闘士のカエデさんだ。
雷属性の特性を生かした素早い動きと、攻防にバランスの取れた身のこなし。効果的な貫通技で圧倒的な攻撃力を発揮していた彼女は、まさにこれからこの学校を背負っていく次期エースと言った動きであった。
続いて目立ったのは、ツインテールの投擲士であるクルミちゃんだ。
相手の嫌がるような立ち回りで、真っすぐなカエデの戦術と相まってとても効果的であった。バトルロイヤルでもこの二人はコンビを組んで立ち回っていたが、今回の団体戦を見ても相性が良いのが見て取れた。
残りのメンバーも予想以上に良い動きをしていた。
副部長のレッドリーフくんは、火力こそ他のメンバーに劣るが、手数の多さや冷静な対応は目を見張るものがあった。レッドリーフくんがクルミちゃんの奇襲をうまく捌けたことが今回のAチームの勝利を呼んだと言ってもいいだろう。
同じくAチームのマリーちゃんは、こちらも堅実な後方支援型の魔術士だ。司令塔であるレッドリーフくんからの指示がなくても自ら動いて効果的な支援を送り、また形成が悪くなった時に大魔法を放って、場をリセットさせた判断も良かった。
今回のメンバーの中で少し見劣りしたのは、Bチームのリョーマくんか。
彼は回避型の支援担当であり、回避力は相当なものだが、まだまだ支援の技術が追いついていないようであった。カエデの速度と、クルミの意表を突くような動きについていけず、せっかく持っている能力向上系の支援魔法がほとんど使われなかった。弓による射撃援護は良かったものの、もし支援魔法もうまく機能していればBチームの勝利もあり得たかもしれないと思うと、やや残念である。
バトルが終わり、感想戦モードとなって観戦者がバトルメンバーと接触可能となると、バトルを行なっていたメンバーはそれぞれ意見交換をした後Snowの所に集まった。
驚いたことに、最下級生であるSnowにみんな真剣に意見を聞いていたのだ。
どうやら学年や年齢などは関係なく、みなSnowの事を認めているのだなと感じ取れた。
「うん。なかなかに良いチームですね……」
感想が口から溢れる。
「ジュリ先輩。どうでしたでしょうか?
もしよろしければ、感想を頂きたいです」
私の独り言が聞こえたのか、ちょうど部内での話が終わった部員たちを代表してセツナさんが聞いてくる。
「うん。とても完成されているチームだと思ったわねぇ。
セツナさんを中心に団体戦ではどちらのチームも連携が取れていて、私達が優勝した時のメンバーと比べても遜色のないチームだと思うわね。
今の試合だと、やはりちょっと弓使いのリョーマくんが力不足なところがあったけど、ブレバト本番ではそこにSnowちゃんが入るのかしらぁ?」
私の言葉に、指摘されたリョーマくんがガックリと肩を落としていた。
「いえ、本戦ではマリーが団体戦1、2の両方に出る予定です」
答えたのはレッドリーフくんだった。
「えっ、ではSnowちゃんは……」
「今のところ個人戦3にエントリーする予定です」
私の疑問の言葉に、レッドリーフくんが答えた。
「えっ」
思わず言葉が溢れた。
同じように個人戦のみに出場させる戦略はたまに見ることがあるが、それを個人戦3に宛てるのは人数が足りないチームが人数合わせに使う時だ。ハッキリ言って3勝先取で争われる団体戦では個人戦3が行われる確率が極めて低いのだ。
「そんな勿体無い使い方をするのですか?
バトルロイヤルを見た限りではSnowはこの学校の最高戦力じゃないですかぁ。個人戦に専念させるとしてもエントリーするならエースを据える個人戦1だと思うけど……」
思ったままの言葉を告げる。
その言葉に部員達は微妙な表情となる。
「あ、あの、私、体が弱くて、なので先生や先輩方が気を遣ってくれて……」
申し訳なさそうにSnowが告げる。
「身体が弱い?」
そう発言したSnowに視線を送る。ゲーム内の見た目は健康そうだが、現実で見たSnowちゃんを思い出すと健康に難があると言われても疑問はない。
「なるほど、フルダイブ型のゲームは現実にも影響を与えるからね。それを考慮してSnowちゃんに負荷をかけないようにという心配りねぇ……」
ふむ、と考える。この判断はこのチームの正しい判断なのか。どうにも引っかかった。
「ねぇ、Snowちゃん。折角の取材なので貴女の強さも取りたいのだけれど。もし良かったら私と一戦バトルお願いできるかしらぁ」
私はSnowに口頭でバトルのお願いをする。
私の予想が正しければ、この子はこのチームには必要不可欠なメンバーだ。心配されて出番を制限されていいような子ではないはずだ。
「えっ」
私の言葉に、Snowちゃんは戸惑ったような表情を浮かべた。
「やっぱり貴女の強さを知るには直接バトルした方がいいかなって思って」
そう、やはり直接拳を合わせた方が相手の強さが分かるのだ。
取材者としては、自らゲームを行うのという行動は業務から外れた行為なのは分かっているのだが、それでも確かめたかったのだ。
Snowちゃんはどう判断したらいいのか分からずオロオロしている。その動きが可愛らしいので、私は助け舟を出す。
「セツナさん、部活動の妨げにならないようだったら、私とSnowちゃんでバトルする許可をいただけませんかぁ?」
ここで一番の発言権がある、部長のセツナさんに許可を求める。
セツナさんは少し考えた後、懲りと一つ頷いて「問題ないですね。正直に言うと、私も第一回ブレバトグランプリの優勝メンバーであるジュリさんのバトルを観てみたいというのが本音です」と答えた。
「えええ。憧れのジュリさんと、Snowちゃんのバトル……
私はどっちを応援したらいいんだろう」
私に憧れてくれていた三つ編みの女戦士であるルナちゃんが目を輝かせ、先程私に倒された他の部員は「どちらの方が強いのだろう」と騒めき始めた。
「許可も出たし、お手柔らかにお願いしますねぇ」
にっこりと笑って私はバトル申請をSnowちゃんに送った。
「あ、あの。はい。よろしくお願いします」
Snowちゃんも礼儀正しく頭を下げて、私のバトル申請を承認する。
バトルロイヤルの映像しか情報はないが、この子はとんでもない実力者だ。
さて、私の本気でも試合になるか――
高校を卒業してブレバト自体は引退した私だが、現役時代以来久しぶりに胸を高ぶらせてバトルフィールドに転送されるのであった。
次回はSnow vs ジュリとなります。
よろしくお願いします。




