112.インタビュー〜種田 牧人の視点〜
◼️前回までのあらすじ◼️
県大会のバトルロイヤルに勝ち残った神里高校。
そこに地域新聞の取材が入った。まずはインタビューという事で、真雪を含めたレギュラーメンバー6人を、ベテラン記者の種田が取材することとなったのだった。
※今回はベテラン記者の種田からの視点となります。
●作者からの一言
今回はちょっと長いです。
前後編に分けるか迷いましたが、良い切れ目がなかったので一話に纏めて投稿しました。
俺は驚いて、思わず声をあげてしまった。
とんだ失態だが、なんとか咳払いをして誤魔化す。
「で、ではレギュラーメンバーの6人は並んで貰っていいかな」
そうお願いすると、レギュラーメンバーの6人が目の前に並ぶ。
真ん中の二人は先程の部員とのやり取りからして部長と副部長だろう。樹の資料から推測すると、黒髪の和風の女性が部長の『セツナ』こと久遠寺 刹那さんで、眼鏡のイケメン男子が副部長兼参謀の『レッドリーフ』こと椛谷 慎一郎くんだろう。
そして、その右側に並ぶのがツインテールが特徴的な少女だが、こちらはツインテールのアバターを使用する『クルミ』こと百瀬 胡桃ちゃんか。なんだか視線ですごくアピールしてくるがここはスルーだ。その横、右端の赤眼鏡でボブカットの女子生徒は、三年生を示す緑のリボンタイから消去法で『マリー』こと楠木 緋鞠さんか。
左側の二人は学年が違うため、他のメンバーとリボンタイの色が違う。
二年生のショートヘアで切長の目の子が『カエデ』こと風祭 楓さんで、先程ここまで案内してくれた線の細い一年生が『Snow』こと柊木 真雪ちゃんだろう。
「まずは写真を撮らせてもらいます」
冷静にレギュラーメンバーの名前を推測しつつ、俺は首に掛けていたカメラを構える。
まずは好きなポーズを取ってもらいシャッターを切り、次に格闘ゲームを意識したファイティングポーズを取ってもらい写真を撮った。
「それでは、インタビューさせて貰いますね。皆さん楽にしていて下さい」
気を利かせてか椅子が用意されていたので、レギュラーメンバー6人に座って貰い、俺も生徒たちと向かい合うように椅子に腰掛けた。
「記事になるのは殆どがこの後のゲームでのものになるから、気楽に答えてくれればいいですよ」
緊張をほぐすためにそう言ってみたものの、やはり慣れない取材のためかみんなの表情が固い。特に一番聞きたい真雪ちゃんについては石にでもなったかのようなものであった。
さてさて、どうするかな
「俺はぶいあーるゲームってのはあんまり詳しくないのだけど、どうやらeスポーツの取材では本名ではなくプレイヤーのアバター名でやりとりするみたいだな。
なので、俺が覚えやすかった本名とアバター名が一緒の『セツナ』と『クルミ』と『カエデ』から話を聞いていこうかな?」
とりあえず分かりやすいところから話を切り出す。
本当は記憶力には自信があるのだが、こうやってボロを出しておけば相手も安心してくれるだろう。
「ツインテールの君がクルミちゃんだね。
県大会で初めて導入されたバトルロイヤルはどうだった? 率直な意見をお願いするよ」
目立ちたそうにずっとこっちに視線を送っていた少女にまずは話題を振る。
「そうね。ブレバトは格闘ゲームだから基本的に相手が決まっているのが常なんだけど、バトルロイヤルモードでは敵味方が入り混じるからすごくやり辛かったわ。
これからは索敵系スキルや、狙撃スキルが見直されると思うわね」
予想に反して的確な回答が返ってくる。この子は目立ちたがりなだけなのではなく、しっかりと自己解析も出来るタイプのようだ。
「なるほど。クルミちゃんのゲーム内でのアピールポイントを教えてもらっていいかな?」
続けてそう質問をすると、待ってましたとばかりに顔が輝く。相手の琴線を突く質問をするのも記者の腕だ。
「私については、変幻自在の戦術がアピールポイントね。背も小さくて可憐な女子が、鍛え上げた猛者達をさまざまな戦術で翻弄して倒すところを見てほしいわね」
ツインテールの髪を軽く払いながら、嬉しそうに答える。スラスラと言葉が出てきたところを見ると、この質問がくるのを事前に予測していたみたいだ。中々に計算高い子のようだ。
「ありがとう。
それでは続いて部長のセツナちゃんに話を聞かせてもらおうかな。
ズバリ、ブレバトグランプリでのこの高校の目標は?」
素早くメモに筆を走らせて、次の子に質問をする。クルミちゃんは「もう私への質問は終わりなの?」と、ちょっと不満気な表情を見せたが、限られた時間しかないのでそこは我慢してもらうしかない。
「もちろん目標は全国制覇です」
セツナちゃんは真っ直ぐにそう答えた。
ほぉ、大きく出たな。目標は高い方がいいと言うが、高すぎる目標は現実味がなくなってしまうが――
セツナちゃんを見ると真っ直ぐに真剣な目をこちらに向けていた。
いや、この子は本気なんだな。その言葉に隣のイケメン男子が「おい」と驚きの声をあげていた。
なるほど、部長のセツナはまっすぐ突き進む猪突猛進型で、参謀役であるイケメンくんが上手くブレーキを踏んで制御していると行ったところか。
「バトルロイヤルでの一位通過で自信を付けたと言うところかな。トーナメントとなる準々決勝以降も勝ち残れる自信があるということかな?」
「このメンバーならば勝ち抜いていけると思ってます。
バトルロイヤルではSnowに助けられて、私達上級生メンバーは不甲斐ない姿を見せてしまいましたが、徹底的に訓練してきた団体戦と個人戦で、私達も汚名返上出来ると信じています」
うむ。ちゃんと自分の立場を分かっているみたいだな。
巷ではまだまだ神里高校の評価はそこまで高くない。準々決勝で当たる8位通過の久喜総合高校は「相手が大宮電子でなくてよかった。神里高校はSnowのワンマンチームだから、Snowとの対戦を落としても他で十分に勝てる見込みがある」とバトルロイヤル後に言っていたからな。Snowに頼り切りっているというわけでは無いようだ。
「資料によるとバトルロイヤルでは6位通過の川越女学院高校のレインと激しいバトルがあったとあるね。川越女学院のレインとは因縁があったりするのかな?」
そう問うと、セツナちゃんは「う〜ん」と考えてから
「私が一年の時にブレバトグランプリで対戦してから、事あるごとに対戦する機会があったな。なにかそういう縁があるのかもしれない。同じ県で同じ学年だ。私としてはレインは良きライバルだと思っている」
と答えた。
なるほど。良きライバルか。これは良いネタとして使えるかもしれない。トーナメントの組み合わせから、互いに勝ち残れば準決勝でぶつかる事となる。
サラリと速筆でメモを取ると「ありがとう」とセツナちゃんへの質問を締めた。
「続いては、えっと、君がカエデちゃんかな?」
赤いリボンタイの、二年生であるショートカット少女に視線を向けて問いかけると、そっけなく「ああ」と答えた。
う〜ん、この子はとっつきにくそうだな、と直感で悟るも、それを表情には出さずに用意していた質問を投げかける。
「ブレバトグランプリのエントリシートを見たのだけど、流派の『真陰熊流』とはどんな流派なのかな?」
その質問を聞いた瞬間、カエデちゃんの目が見開かれた。
な、なんだ? 驚きと喜びが入り混じったような複雑な表情でカエデが口を開く。
「――京士郎……」
「えっ?」
「伝説の格闘家、岩隈 京士郎が残した格闘流派だ」
最初聞き取れなくて聞き返してしまったが、想定外の回答に理解が追いつかず束の間、言葉を失う。
「い、岩隈 京士郎って、2年前に亡くなった日本が誇る格闘王のあの?」
驚きで頭の中が整理できていないが、なんとか言葉を返す。
岩隈 京士郎ならば知らぬものはいないだろう。二年前に不慮の事故で亡くなった人類最強と呼ばれた男だ。まさか高校生へのインタビューでその名を聞くとは思わなかった。
「世界格闘技大会で二連覇を果たした最強の格闘家。アタシが憧れ、尊敬する人物だ」
ぶっきらぼうな回答だが、やはり俺の思い描いた人物と一致する。しかし――
「岩隈は生前に弟子を取らなかったと聞くが?――」
「詳しい話はアタシにも分かんねぇ。だけど岩隈さんが唯一その技術を教えた弟子がいて、その方からアタシは教えを受けた。ただそれだけだ」
とんでもないスクープじゃないか! まさかあの最強の格闘王がその技術を残していたなんて。
「その弟子というのは――」
俺は興奮を抑えきれずに問いかけるが、カエデちゃんは静かに首を横に振る。
「アタシにはそれを語ることができない。師匠も自分の存在が公になることを望んでいないからな」
「では何故、今この話を?」
「岩隈 京士郎の技術が受け継がれてまだ残っていることだけは知って欲しかった。それだけだ」
これ以上は語れない、そういう意志がその瞳から見てとれた。
くそぅ、大スクープが目の前にあるのに、これ以上聞き出すことはできないか…… まさか、Snowに関する情報を聞き出そうとして、こんなネタが手に入るとは。
「って、あれ。『真陰熊流』って、Snowも同じ流派だったはずだが――」
ポロリと出てしまった独り言に、カエデちゃんが「Snowはアタシの姉弟子だ。アタシより先に流派を学び、免許皆伝を師匠から承っている」と答えた。
なんてこった! そうか、そういうことか。Snowはあの最強の格闘家が残した格闘術を極めているから、あんなとんでもない強さを持っていたのか!
Snowに対する強さの謎が一つ解明された。心の中から喜びが溢れ、今にも笑い出しそうだ。
いやいや、まだインタビュー中だ。冷静に、冷静に対応するんだ。
「貴重な話をありがとう。続いて、副部長のレッドリーフくんに話を聞きたい」
ひとつ大きく息を吐いて、インタビューを続ける。
「参謀として、今年のメンバーの実力をどう分析しているかな?」
部長であるセツナちゃんは感覚で動くタイプだったので、冷静に分析した情報を聞き出そうと質問を投げかける。
「はい。今年のメンバーは第一回大会で全国制覇した時以来の全国を狙える実力者が集まっていると思います。
一年の時からレギュラーの座を勝ち取り全国クラスの実力を持つセツナを中心に三年生組は十分に闘っていける実力がある中、新戦力として去年の優勝校である祇園女子からの転校生であるカエデに、とてつもない実力を持ったSnowの二人が加わりました。
バトルロイヤルではSnowに救われた形ですが、充分に実力を発揮できれば、このメンバーでなら確実に県大会は勝ち抜いていけると確信しています」
クイッと眼鏡の位置を直しながらレッドリーフくんが意見を述べる。なかなかに上手く纏められたその内容を、俺は速筆でメモに認める。
って、なんか重要なこと言ってなかったか?
「ちょっと待ってくれ。カエデちゃんは祇園女子からの転校生なのか?」
レッドリーフくんへのインタビューを中断してカエデちゃんへ質問を飛ばす。
「ん? ああ、そうだが」
それがどうした、みたいな表情でカエデちゃんが答える。
「もしかして、女王SaeKaと面識があったりするのか?」
そうであったらいいな、さらにSaeKaと因縁とかがあればネタとしては完璧なのだが
「面識もなにも、アタシとサエは幼馴染だが?」
おいおいおいおい、なんてこった。あの女王SaeKaとも繋がっているのか。
これはいい記事が書けるぞ。久々に記者としてヒット記事の予感に震える。
おっと、少し興奮しすぎたようだ。冷静に。冷静にだ。
「突然の質問で済まなかった。ありがとう。
さて、レッドリーフくんへの質問の続きだが――」
こうしてレッドリーフくんへのインタビューを続けた。
「ありがとう。続いては、マリーちゃんかな。
マリーちゃんはレギュラー唯一の支援職だけど、負担になることとか無いかな?」
続けてボブカットの三年生であるマリーちゃんに話を聞く。
マリーちゃんは「負担になることはないっすね」とサラリと答えた。どうやらこの子は他人とあまり壁を作らないタイプらしく、どの部員とも上手くやれているらしい。語尾に「っす」とつける癖があるのが、後輩記者の樹とにているなと感じた。
「さて、最後はSnowちゃんだね」
そしてついにSnowちゃんへの質問タイムだ。俺と目があった瞬間、Snowちゃんが「ひゃい!」と変な声を出したが一旦スルーしよう。
それにしても本当にこの子がバトルロイヤルで活躍したあのSnowなのだろうか。そう目を疑うほどに普通の子だ。色素の薄い栗色の猫毛の髪がどことなくSnowの銀髪を連想させる。
「バトルロイヤルでは大活躍だったけど、率直に感想を聞かせてもらえるかな?」
まずは簡単な質問を投げかけてみる。
「えっと、バトルロイヤルではみんなに迷惑をかけてしまって……」
しゅんと肩を落としそう答えるSnow。
「えっ?」
想定外の反応に思わず声が漏れてしまった。他のメンバー達も同じ反応だ。
「えっと、聞き間違いかな。迷惑をかけたって……」
恐る恐る聞き返すと、「いえ、聞き間違えでは無いです……」と消えいりそうな声で言葉を続ける。
「あの後、すぐに倒れてしまって、多くの人に迷惑を掛けてしまったので」
「ちょ、何を言ってるんだ。バトルロイヤルを勝ち残れたのはSnowのお陰だ。むしろ私達は感謝してるくらいだ」
「そうっすよ。Snowが倒れてしまうまで無理させてしまった私達が反省こそすれど、迷惑なんて思うわけがないっす」
その言葉に俺よりも先に他のメンバーが慌ててフォローに入る。
なんだか、印象が大分違うな。
俺もバトルロイヤルの映像を見たが、Snowはもっと自信に満ち溢れていて気高い印象があったのだが、こうして見ると気弱な女子高生にしか見えない。
「記録からすると、個人で獲得したポイントは全国で見ても女王SaeKaに次ぐ2位。一人でチームの総合得点のその殆どを叩き出した大活躍だ。誇ってもいい良い成績ですよ」
一応、俺の方からもフォローを入れる。
「えっ、ええっ。そうなんですか? 昨日までずっと寝ていたので、詳しい結果は知らなくて……」
俺の言葉にSnowは目を白黒させている。
な、本当に結果を知らなかったということか。と言うか、昨日の取材申し込み時に休みを取っていたと聞いたが、まさか取材対策ではなく本当に休んでいたのか。
話を聞けば聞くほど、この子とSnowが同一人物だとは思えなくなる。
「部員のみんなはこの子のことどう思っているのかな?」
失礼を覚悟で他の部員に訊いてみる。
「メンバーの中で一番信頼してる」
セツナは真っ直ぐな目で――
「化物ね。敵じゃなくて良かったとつくづく思うわ」
クルミは髪をいじりながら――
「うちの最大戦力であり、切り札だな。全幅の信頼を置いている」
レッドリーフは頷きながら――
「語彙力が無いので難しいこと言えないっすけど、すごい子っすよ」
マリーは朗らかに――
「いつかは超えたい壁だが、いまは目指すべき目標、最高の手本だ」
カエデは鋭い目つきで――
部員達が同時に答える。
そんな部員からの言葉を受けてSnowは恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めていた。
なるほど。ここまで信頼されているのならば、この子がSnowで間違い無いな。
ならば、やはり疑問がある。
「これだけの強さを持ったSnowが、何故今まで無名だったんだ?
いくら大きな大会が無い中学生以下のレギュレーションでもこれだけの強さがあれば目につくはずだし、推薦入学を行なっている大宮電子や浦和赤城あたりから声がかかってもおかしく無いはずだが…… 無名の中学校だったのかい?」
疑問に思ったことを訊いてみる。
出身校が分かれば、そちらも取材してSnowがどのような子だったかを深掘りも出来る。ちょっと踏み込んだ質問だが、話の流れからしたら問題ないであろう。
俺の質問を聞くと、Snowが俯いてしまう。
なんだ。訊いてはいけないことだったか……
「――ってないんです……」
蚊の鳴くような声で答えたSnowちゃんの声に耳をそばだてる。
「私、中学校に行ってないんです」
再度Snowが発した言葉に、言葉を失う。
中学校に行っていない。まさか、何かが理由で登校拒否となっていたとかなのか? いじめなどをキッカケに体を鍛える、という逸話などもよく聞くが、もしかしたらそんな類の人生を歩んでいたのか――そう勘ぐっていると、Snowは続けて言葉を紡ぎ始めた。
「私、先天性の難病を患っていて、中学までは学校には行ったことがなくて、病院で通信教育を受けただけなんです」
そして語られた内容は、俺が想像していたよりも壮絶なものであった。
他の部員も知らなかった様で、みな驚きの表情を浮かべている。
「まさか、今も難病を抱えて?」
「一年前に手術を受けて、病気は完治してます。
ですが、激しい運動とかすると体調が崩れちゃうんです。それでバトルロイヤルの時も倒れてしまって……」
俺の問いに、周りを心配させないようにか食い気味に答える。
なるほど。病気で入院していたので、全くの無名だったのか。難病を乗り越えて、ゲームの世界で才能が開花したのか。記事としては最高の内容だが――
俯くSnowの姿を見て、俺はSnowの難病についてのメモを線を引いて消した。
多くの読者の心を動かすであろうネタだが、その記事によって純粋な少女を傷つけるわけにはいかない。素直にそう思った。
このネタは――しかたないが、封印だ。
小さく溜息をついて顔を上げると、多くのネタを提供してくれたカエデちゃんが更に衝撃の一言を放つ。
「Snow、気にするな。学歴が無かろうが、たった三ヶ月でみんなからの信頼を得たことと、ゲームの中であってもあれだけの強さを手に入れたことは誇っていいことだ」
背を丸くして消沈するSnowを慰める。
ん? なんか今、とんでもない事言ってなかったか?
「ちょっと待ってくれ、三ヶ月で強さを手に入れたって……」
「何を言っているんだ。Snowはプレバトを始めてから3ヶ月の初心者だぞ?」
「えっ、えええええぇぇぇぇっ!!!」
カエデが放った今日一番の衝撃発言に、俺は思わずペンを落としてしまった。
次回は新米記者の樹からの視点で、ゲーム内での取材になります。
樹からの視点については、キリが良く書けると思うので、程よい長さで、早めに投稿できる予定です。
お楽しみにしてください。
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