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1.師弟対決

一人称での物語は初投稿です。

視点がブレてるとか、こまかい表現で気になる箇所があれば、ご指摘いただければと思います。

 草原を風が駆け抜ける。


 目の前には腕を組んで佇む1匹の熊。


 ()()()()()()()()――


 私は毎日、ここに来てこの『熊』に戦いを挑むのだ。


 草木を揺らす風が、熊の毛並みにも波紋を作っている。


 私はいつも通りゆっくりと、しかし堂々とその熊に向けて歩を進める。


「来たか―― 我が弟子よ」


 腕を組んで待ち構えていた熊。その閉じられていた目蓋が開き、鋭い眼光が私を捉える。


「師匠……」


「みなまで言う必要はない。

 ここに来るのはこれが最後なのであろう?」


「……はい」


 師匠は既に私の事情を知っているようであった。


「ならば、これが最後の試合となるだろう。

 全力でかかってくるがよい!」


 師匠が腕組みを解く。


 まだ構えておらず、ただ立っているだけなのに、まったく隙が無い。


 私の目の前にバトル申請のダイアログが表示される。


『Bear さんより、バトルの申請がありました。

 挑戦を受けますか?

       Yes / No』


 師匠からバトル申請が届いた。


 いつもは挑む側の挑戦者であるのだが、今日は受けて立つ立場となる。

 もしかすると、師匠からバトル申請されたのは初めてかもしれない。


 私はごくりと息を飲むと、ゆっくりと「Yes」のボタンに触れる。


 それと同時に、師匠の頭の上に緑色で棒状の体力ゲージが出現する。


 私の頭上にも同じゲージが出ているはずだ。


 バトルが承認されたことにより、辺りにいたギャラリーも光学迷彩が施され、私と師匠だけの世界となる。


 ゆっくりと拳を構える。



 師匠と私の間に数字が表示されて、カウントダウンされる。


 3…… 2…… 1……


 Fight!!


 それを合図に、試合が始まる。


 私は開始の合図とともに地面を蹴り熊の姿をしている師匠に肉薄する。


 先手必勝!


 先制の右拳を打ち出そうとした瞬間、竜巻が巻き起きた――いや、違う。師匠が一回転し回し蹴りを放ったのだ。

 あまりにも早い体捌きに、師匠を中心に旋風(つむじかぜ)が巻き起きたのだ。


 ズガガガガン!!!


 咄嗟に防御に切り替え、両の腕に装備した鉄甲(てっこう)で暴風と化した蹴りを受け止める。



「くうっ!」


 あまりの衝撃に私の口から呻き声が漏れる。


 凄まじい衝撃に吹き飛ばされるが、なんとか地面を削って踏みとどまった。


 スキルの恩恵で破壊不能の無敵部位となっている『鉄甲』で受けた為、直接なダメージはないが、吹き飛びと、地面を削ったダメージで微かに体力ゲージが減少する。


「はあぁぁあぁっ!」


 師匠が目にも止まらぬ速度で掌打を繰り出す。

 すると、肉球型の衝撃波が次々と発生し、態勢を崩している私を襲う。【スキル】と呼ばれる特殊効果だ。


「これぐらいの攻撃ならっ!」


 私は全身を脱力させると、流れるような動きで無敵部位である鉄甲を利用してその衝撃波の嵐を左右にいなす。


 師匠に教わった『流水の捌き』だ。


「見事ないなしだ。だがっ!」


 ドン!


 爆発が起きたかの様な衝撃音とともに、熊の巨体が目の前に迫る。


 師匠の必殺技『ベアタックル』だ。


「くっ!」


 私は必死に身を捻り、横っ飛びしながら、師匠の横っ面に拳を叩き込む。


「ぬぐっ!」


 珍しい、師匠の苦悶の声。


 クリーンヒット。


 しかも、カウンターとして判定されたらしく、態勢を崩した状態の攻撃であったのにもかかわらず、師匠の体力ゲージが2割程度減少した。


 対する私は攻撃の反動を利用して距離を広げ、師匠の特攻を回避することに成功した。



「回避しながらの『水穿(すいせん)』か。

 なかなかやる様になったな」


 師匠は拳を受けた頬を軽く擦ると、ニヤリと口元を歪める。


「いえ、紙一重です。もし掴まれて居たら『ベアハグ』で試合は終わってました」


 気を緩めず、ゆっくりと立ち上がりながら師匠に言葉を返す。


 実際、師匠の爪先が私の脇を掠めていた。


 高速で組みつく『ベアタックル』から圧倒的膂力で背骨を砕く『ベアハグ』へ繋げるのは師匠の常勝コンボだ。


 こう見えて師匠は打撃より、絞め技、関節技の方が得意なのだ。師匠に捕まるイコール、即敗北と思っていい。


「ここからは小細工無しだ。行くぞ」


 誘うように両の拳を打ち合わす。


「はい!」


 私は拳を構えて頷く。


 それに呼応するかのように、風がざわめく。


 そのざわめきの音が途切れるのを合図とするかのように、師匠と私は同時に地面を蹴った。


 肉薄し、拳を繰り出すのも同時。


 拳が衝突すると、爆発にも似た衝撃波が広がる。


 しかし、二人ともその衝撃に怯まずに次の拳を打ち出した。


 さらに衝撃。


 そして、目にも止まらぬ拳の応酬が始まる。


 拳が衝突する衝撃波が暴風の様に草原の草木を揺らす。


「はあぁぁあぁっ!」


 私は裂帛の気合いと共に連打の速度を限界まで上げる。


 僅かながらこちらの方が速度が上の様で、師匠の拳の弾幕を掻い潜って何発か拳が師匠の身体をとらえる様になる。


 師匠の体力ゲージが減り始め、体力が半分を切り、体力ゲージが黄色に変わる。


(速度勝負なら行ける! このまま押し切る)


 さらに拳に力を込めて攻撃を仕掛けた瞬間、視界が暗転する。


 ドゴォ!!


 遅れてやってきた衝撃と痛み。目の前に地面が迫っており、私は無意識に受け身を取って、転がる様に距離を取った。


 何がっ? 違う、理解しろ、この状況、攻撃を食らったんだ。


 一瞬意識が飛びかけ混乱するが、すぐに状況を把握し、顔を上げる。


「ふん。このまま勝てると思ったか! 甘いわ」


 視線の先には、嵐を纏った拳を突き出し私を見下ろす師匠がの姿があった。


 勝てる、と思った一瞬の隙をついたカウンターの一撃。


 その強烈な一撃は、私の体力を一気に半分まで削った。


 自分の体力ゲージが黄色に変わっているのを視界の端で確認しながら、私はゆっくりと立ち上がる。


 まだだ。まだ、形勢はこちらが優位だ。


 先程の一撃。それは師匠が防御を捨てて、必殺のカウンターを放ったものであった。本来ならばその一撃で勝負は決まっていてもおかしくはなかった。

 しかし、意識外からの一撃を受けて体力半分で済んだのは、こちらの一撃も入っていたからであった。私の攻撃が師匠の放った必殺の一撃の威力を多少なりとも相殺していたのだ。


 師匠の体力はさらに減って、4割程度。


 私の体力は5割(はんぶん)


 ここまで攻防を続けて、それでも未だに自分が優位に立っている。こんなことは幾度も繰り返した戦歴の中でも一度も無かった。


 いつもは一方的に叩きのめされて終わりなのだ。


「今日こそは、勝ちます!」


 想いを言葉にして構える。


「百万年早いわ!」


 師匠は怒号のような言葉を吐くと、その声量と闘気で空気が震える。


 その迫力に一瞬怯み、ぐっと奥歯を噛み締めた瞬間、音もなく師匠が掻き消えた。


 爆発的な速度で移動する『ベアタックル』の歩法『烈脚(れっきゃく)』と対を成す、静の歩法『幻歩(げんぽ)』だ。


 しまった――



 完全に師匠を見失った。



 ――ゾクリ――



 寒気、いや殺気か




 とてつもない一撃が来る――左っ




 視線は追いついていないが、本能に従って咄嗟に身体が防御態勢を取る。



「最終奥義・獣皇(じゅうおう)咆哮衝(ほうこうしょう)!」





 衝撃!



 無敵部位となっている鉄甲で防御。しかし、凄まじい衝撃が全身を駆け巡る。




 ――駄目だ――このままじゃ負ける。



 本能が悟る。



 この技は氣功術の奥義である『発勁(はっけい)』の極致なのだと。


 全身を伝い発せられた気をインパクトの瞬間に放出させる事で防御を無視して大きなダメージを与えるのが『発勁』である。本来ならば、放出された氣が全身を突き抜けるのだが、この技は違った。


 体内に流れ込んできた氣が螺旋を描くように一点に集まるのを感じ取り、この技の本質を見抜く。


 この技は通常の発勁とは異なり、インパクトの瞬間に放出した気をも操って相手の体内でその気を一点に集め、爆発させる技なのだ。


 防御は不能。


 ならばっ……!




 ガオオオオオオオン!!!



 技名にもなっている獣の鳴き声に似た氣の爆発が起こる。



「これが我が真陰熊流格闘術を極めし者が辿り着く最終奥義だ。

 最後の手向けとするが良い……」


 師匠はそう言葉を残す。



 システムの計算が間に合わなかったのか、一瞬遅れて体力ゲージが減っていく。

 体力が二割を切りバーの色が赤くなっても減少が止まらない。


 数秒後には体力は0になり戦闘は終わりになる――と師匠は思っているはずだ。


「まだ…… です!」


 歯を食いしばり、なんとか言葉を吐き出す。


「な、なんだとっ?!

 最終奥義を耐えたというのか」


 驚愕の声。


 その言葉に応える余裕はない。


 私は必死に息を整える。


 手足が震え、立っているのがやっとの状態だ。


「耐えたのでは、ないな。

 まさか、いなしたのか」


 師匠が驚きに目を見開いている。



 そう、防御不能と悟った私は師匠の気を逆に受け入れ、自らの気を乗せて背後へその気を受け流したのだ。


 しかし、師匠の気を全て流し切る事はできず、背中付近で気が爆発。背中に甚大なダメージを受けたが、それは致命傷には至らなかったのだ。


 背中の痛みで感覚がないが、多分私の装着しているバトルスーツは背中部分が酷いことになっているであろう。体力ゲージが残っているだけでも奇跡に近い。


 身体がいうことを利かず、攻撃もあと一撃が限界だ。


「はっはっはっは!!

 まさか、俺の最終奥義を食らって立っていられるなんて!

 お前は俺の最高の弟子だ!」


 師匠は賛辞の言葉とともに、両腕を広げる。


「誇るといい!

 そして、我が胸で眠れ『ベアー……」


 師匠の必殺技の一つ『ベアハグ』だ。


 今の状態で躱す事は不可能。


 ならば



 ドン……


 倒れるように当身を喰らわす。


 力ない当身。ダメージ換算されずに、師匠の体力ゲージは減らない。技の発動を遅らせるのが精々だ。


「最後まで見事であった。今度こそ眠れ」


 当身に中断された『ベアハグ』を再度発動させる。


 しかし、私の攻撃はこれが最後ではない、むしろこれから――


「師匠…… これが、私の最後の攻撃です!」


 奥の手。このときのために編み出した私の奥義(オリジナル)


 地面を蹴る足から螺旋状に氣を練り上げ、ゼロ距離で放つ必殺技だ。


 ゼロ距離攻撃である『寸勁』と、体内の気を爆発させる『発勁』。そして師匠から教わった真陰熊流格闘術の『呼吸』を合わせた、今の私が繰り出せる最大の一撃。


 接触した状態から放つこの技は回避不能。


 この一瞬、この一点に全てをかけて繰り出す技の名前は――


「――『瞬勁(しゅんけい)』っ!!」


 ド!


 接触状態から放たれた技であるため、衝撃音は一瞬。



 師匠の身体がふわりと浮き上がり、遅れて噴火のような破壊の本流と衝撃波が師匠の背中から迸った。



 そしてはそのまま、轟音とともに師匠のその巨体が仰向けに地面へ落ちる。



 無敵部位である鉄甲を装備していたから、反動ダメージは無かったが、これでもう腕すら上がらない。


 大の字に横たわる師匠の頭上にはまだ黄色の体力ゲージが表示されている。



 やはり届かなかったか……



 渾身の一撃でも師匠を倒せなかった。しかし悔いはないと天を仰ぐ。






 ……



 …………






「……見事だ」



 そんな私の耳に師匠の声が届く。



 ゆっくりと視線を声のした師匠の方への向けると、その頭上にあったはずの体力ゲージがなくなっていた。


 システムのダメージ計算が間に合わず、遅れてダメージが反映され体力ゲージが消失したのだと後に知ることになる。



「お前の――――勝ちだ」


 理解が追いつかない私の耳に師匠の言葉が届く。


 それとともに


 ファンファーレの音と共に、『Winner』の文字が目の前に広がるのであった。

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