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街の煌き


 冬の夜、ミホと街を歩いている。

 道に植えてある木はピカピカと輝いて、いつにも増して街は眩しい。


「ミホ、なんで冬になると木が光るの?」


「ふふっ、クリスマスだからだよ」


「クリスマス……?」


「訳もわからずにお祭り騒ぎをする日でね、良い子にしてるとサンタさんっていう人がプレゼントをくれるんだって。子供にだけ来てくれる……大人にだって来てくれてもいいのにね」


「そうなんだ……」


 当然だけど、私は良い子じゃないからサンタさんは来た事がない。

 どんな人なのかな。


「……アキはさ、なにか欲しいものない?」


「なにもいらないよ。寝る所とご飯と、それに着る物もあるから」


 願い事なんて、私には贅沢すぎる。


「……せっかくだし何か食べて行こっか」


「でも今日はミホの好きな唐揚げとマヨネーズだよ? いいの?」


「ふふっ、アキのそういうトコ好きだよ。おいで」


 ◇  ◇  ◇


 私には縁のないような高い建物。

 床も壁も天井も、全部ピカピカしている。


 エレベーターに乗って移動する。

 何回乗っても慣れなくて、身体が強張ってしまう。

 そんな時はいつも、ミホが優しく手を繋いでくれる。


「わぁ……ミホ、見て! 光がいっぱいだよ」


「でしょ? こんな時期なのに空いててラッキーだったね」


 ミホはお酒、私はジュースを頼んだ。

 みんな楽しそうに会話をしてる。

 クリスマスはきっと、みんなにとって幸せな日なんだね。


 ミホがグラスをくるくる回して外を眺めている。

 楽しくないのかな……

 私といてもつまらないよね。


「もしもし、お嬢さん? メリークリスマス」


 赤い服を着て、白い髭を生やしたおじさんが私の肩を叩いた。


「えっ? め、めりー?」


 英語……?

 なんて言えばいいんだろう。


「アキ、サンタさんだよ。ほら、何かくれるみたいだよ」


 この人がサンタさん?

 でも私は良い子なんかじゃないのに……


「お嬢さん、好きな箱を選んで。あなたにプレゼントするよ」


 様々な大きさの箱。

 でも…………


「わ、私はいいからミホにあげて。ミホはね、とっても良い子なんだよ? 頑張り屋さんで優しくて格好良くて、それに私の作るご飯を美味しいって言っていつも全部食べてくれる。私なんかよりミホにプレゼントして下さい。サンタさん、ミホは良い子だから……」


「アキ……」


「ふっふっふ、大丈夫。隣のお嬢さんにもあげるからね。あなたもとっても良い子だよ? だから一つ選びなさい」


 チラッとミホを見ると頷いてくれた。

 私に……プレゼント……

 

「お嬢さん、メリークリスマス」


 その言葉の意味は分からないけど、きっと素敵な言葉だと思った。


「……アキ、帰って唐揚げ食べよっか」


「でもお肉頼んだよね? いいの?」


「いいの。ほら、行くよ」


 輝く街を後にして、ミホの家についた。

 急いで唐揚げを揚げていく。

 ……と、後ろから衝撃。

 ミホが抱きしめてきた。


「ミホ? 油が跳ねたら危ないよ……?」


「アキだって同じでしょ。ちょっとだけ」


 そう言ってミホはコンロの火を止めた。

 いつにも増して激しく求めてくる。


「ミホ……なにかあったの……?」


「……クリスマスってね、好きな人同士がこうしてイチャイチャする日でもあるの。まぁ……私の片思いかもしれないけど」


 ミホの言葉に、顔が熱くなる。


「可愛い。もっと顔見せて」


「っ……ミホ……わ、わたしも……」


 その先を言わせないかのように、激しさを増していく。

 立っていられなくて、思わずその場に座り込む。


「私ね、クリスマスって嫌いだったんだ。恋人だとかイルミネーションだとか、馬鹿らしいって思ってた。……今も思ってるけど」


 少し遠くを見つめながら、私の頬を撫でてくる。

 気持ち良くて、思わず擦り寄せる。


「……アキといるとね、私も普通の人になれてる気がするんだ。素直に……クリスマスを受け入れてた気がする。アキが私にとってのサンタさん。素敵な毎日をくれてありがとう」


「ミホ……」


 私なんかにありがとうなんて勿体ない言葉って思ったけど、それはミホが決める事だから……私が言うのは失礼だよね。


「ありがとう、ミホ」


 そう言って、私から頬にキスをした。

 私にはよく分からない事が多い世の中だけど、私がいてミホがいて。

 それから……


「ミホ、好きだよ」


「ふふっ、知ってるよ♪」


 ただ、それだけ。


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