顔合わせ、詰みました
誤字脱字などのご指摘を頂きましたら順次直していきたいと思います。
楽しんで頂けると幸いです!
やっとヒーローの名前と、ヒロインの生い立ち(少々)を出せました〜
あれからどのくらい時が経ったのだろう?
王妃様との会話は思いのほか楽しかった。
「つかぬ事をお聞きするわね。スフィア王国はここ最近、財政難で困ってるのよ〜。なにか打開策はあるかしら?」
(・・・それは5歳児に聞く事じゃないですよ!?)
とうとう王妃様はとち狂ったかと彼女は失礼なことを考えながらも、王妃様の問いかけに答える。
「そうですね・・・なにか、スフィア王国だけでしか作れず、他国に必要とされるものでも作ってはいかがでしょうか?」
(いわゆる特産品ね。私が住んでいた所、他にアピールすることがないからか特産品PR頑張ってたわね〜。だからこそ・・・・・・良いわよね、都会。まぁ、個人的に言わせれば都会は住む所ではなく、遊ぶところだったけど。・・・・・・・・・あら、やだ。思考がぶっ飛んでたわ)
彼女の思考は昔を懐かしんで、飛んでいた。
(別に前世でそこまで特別な人生を歩んだわけではないわ。私は仲のいい両親の元に産まれ、スクスク育ち、学んで・・・・・・社会人になる前に持病の発作で死んでしまったけど、そこまで珍しい訳でもない。今まではなりを潜めていた持病は17歳の誕生日の日に急に悪化し、18歳まで粘ったけど、これまた誕生日の日に発作で死んだ。まるで初めからそう定められていたかのように、私の命は尽きた。でも、私の人生に悔いはない。私には寝たきり生活のおかげで、沢山の時間があった。その間に今まで読めていなかった本を読み漁り、見ることを断念していたアニメを消化し、スマホゲームに耽り、と充実した病人生活を送ったわね。・・・強いて文句を言うならご飯が味気なかったことかしら・・・・・・あらヤダ。また思考が飛んでいたわね。それにこの言葉遣い、慣れないわぁ〜。前世では相当なヤンチャっ子でネット上だけだけど男と間違われるぐらいだったものね。今でも偶にソレが出てきそうで怖いわぁ〜)
彼女は思考の海にドップリ浸かっており、気づけなかった。
カツカツとかかとを鳴らして近づいて来ている人がいることに。
「あらぁ〜、やっと来たわね〜」
王妃様の言葉に彼女はハッとする。
慌てながらも今まで幾度となくしてきたように、席を音もなく立ち、綺麗なカーテシーをする。
「初めまして、殿下。私シフォア家の長女、エルルーニャ・シファアと申します。この度婚約者となる名誉を頂き大変嬉しく思います」
そのような模範的な挨拶をしながらも心の中で呪文のように、ある言葉を繰り返す。
(殿下は本、殿下は本、殿下は本、殿下は本、殿下は本、殿下は本、殿下は本・・・・・・よし!これで自分の洗脳はオッケーよ!)
洗脳は成功したのだろう。
彼女は彼のことを最愛の人だとでも言わんばかりの瞳で見つめる。
それに対して彼はやはりか、とでも言いたげな溜息をつく。
「初めまして、エルルーニャ嬢。私はレイル・マークレーン・スフィアです。以後、婚約者としてよろしくお願いしますね?」
変わらぬ笑みを顔に貼り付けていただけの彼はフワリと笑う。
それに対して普通の女の子達なら顔を真っ赤にしていた。
だが、彼女の表情は全く変わらない。
(殿下は本、喋る本、胴体が付いた本、レイル・マークレーン・スフィアは本の名前)
そう唱え、彼の顔を本として見ていた彼女には彼の表情の変化など有って無いようなものだ。
その為か熱い視線を向けたまま頬を赤らめることのない彼女は既に『周りと違う』と認識されたことに気づかない。
彼女は大きな失敗をしてしまっていたのだ。
それに気付かずに、彼女は甘えたような声を出そうとして・・・出せなかった。
(本に甘えるって何!?どうしたらいいの!?本に感じるのは知的好奇心と尊敬だけよ!?熱い視線は尊敬してても出せるけど、どうやって甘えればいいの!?前世でも、彼氏いない歴=年齢よ!?親にすら物心ついてから甘えたことないわ!何?小説とかのヒロインみたいに頑張る?それとも、思いっきりぶりっ子を演じればいいの!?加減が分からないわ!)
彼女が物思いに耽っていたのはほんの数秒。
その間、言葉を発しようとしていた口は餌を欲する鯉のようにパクパクしていた。本当に、無意識下での事だった。
悩みに悩んだ末に結論を出した彼女は意を決して、声を出す。
「こちらこそよろしくお願いしますわ。私、殿下のこと沢山知りたいのですが・・・教えて頂けますか?」
彼女は結局、本に対する知的好奇心と同義のものしか出せずにいた。
その声音はどこかワクワクしたもので。
媚びるような声とは根本が違った。
それからの時間のことを彼女は覚えていなかった。
気付いたら家の自室のベットでぐでっとしていた。
彼女は思う。
(もう、無理だわ。本=好きな人は流石に無理があったわ。香りと視線はどうにかなるけど、声は無理だわ。あー・・・詰んだ。せめて、殿下だけの特別が私以外に出てきて、殿下の心を鷲掴みにしますように!!!)
もう半ばヤケクソだった。
・・・・・・希望的観測をせずには居られないぐらい、作戦は大失敗に終わった。
────王太子視点────
今日は両親が勝手に決めていた彼の婚約者に会う日だった。
「周りとは少し違う」と両親に勧められ、会ってみたものの、何一つとして変わらないように思う。
熱い視線、ドギツイ香水の匂い。
(何が違うと言うのだ。その辺の野獣共と同じではないか。一目見て、妖精のように可憐だとは思ったが、中身は所詮、周囲と何ら変わりない。・・・・・・やはり、つまらないな)
彼女が綺麗なカーテシーをして、自己紹介をしているがそんなもの彼の頭には入って来なかった。
彼の心はやはりか、という失望と、つまらないな、という落胆がしめていた。
(はっ。少しはこれでも、期待していたのだな)
自身の感情の変化を嘲笑う。
彼は気づかない。
この日、初めて、彼の感情が自覚できるほど激しく動いたことに。
「初めまして、エルルーニャ嬢。私はレイル・マークレーン・スフィアです。以後、婚約者としてよろしくお願いしますね?」
彼は今までの貼り付けられた笑みとは違い、フワリと笑う。
だが、彼女は顔を赤らめることなく、彼を熱い視線で見続ける。
(・・・・・・?珍しいな、普段の令嬢達なら顔を赤らめるのだが)
そうしてる間にも彼女は喋ろうと口を開いた・・・はいいが喋る言葉を探しているのか口をパクパクとしていた。
(・・・・・・・・・・・・可愛いな)
素直に思ったが、彼からしたらこれは明らかなる異常だった。
今まで何事にも心乱されず、日常は事務的に淡々とこなしていたのだから。
しかし、彼は自身のそんな変化でさえも面白いと感じていた。
「こちらこそよろしくお願いしますわ。私、殿下のこと沢山知りたいのですが・・・教えて頂けますか?」
彼女の声音からは媚びたような物は感じず、伝わってくるのはワクワクとした感情だ。
それは恋心や打算などではなく知的好奇心、と言うのが1番妥当であろう。
そして、今更ながらに彼は気づく。
彼女は普通ではない、と。
普通の五歳の令嬢ならここまで礼儀正しくないし、口も回らない。
そのはずだった。
しかし、彼女からは大人顔負けの雰囲気を感じる。
(面白い。彼女は俺に無いものを補ってくれそうだ。今まで付けていた王太子としての仮面を剥いで、本性で接したらどのような反応をするのだろう?・・・・・・だが、ここには母上もいるから本性を見せるのは次回に持ち越しだな)
それからは他愛もない話をし、彼女を家に送り届け、最後に次に会う約束を取り付け、その日は幕を閉じた。
家に送り届ける時には、彼女の心はここに在らずだったが、そんなことは彼にはどうでも良かった。
この時には既に、彼は彼女に執着していた。
(面白い。俺を楽しませる唯一と言っていい彼女を手放す気は起きないな。幸い婚約者だから、逃げることはないだろう)
彼は今はまだ気づかない。
この気持ちが彼に取っての初恋であることに。
今まで喜怒哀楽なく過ごしてきた彼には急に訪れた感情の変化を正確に理解することはまだ、難しかった。
そしてこの恋がとても難航するということに、幸か不幸か、彼は気づかない。
レイル「違ったな。そして、面白いな」
周囲「だろ?( ◜௰◝ )」
ルーニャ「いやぁぁぁぁぁ!私の本を読む自由時間がぁ!(´;ω;`)」
ルーニャ「いでよヒロイン!\\\\ ٩( 'ω' )و ////」
レイル、周囲「「無理だよなぁ〜( ◜௰◝ )」」