高校生な人達
「李凛、ノート見せて〜!」
「やだよ!」
「いいじゃんケチ!李凛の分かりやすいんだもん!」
休み時間、ワイワイと賑わう教室。持病が悪化する前の束の間の時間をルーニャこと李凛は味わっていた。
「お姉ちゃーん!体操服貸して〜!」
「瑠璃!また忘れたの!?私のは汚れてるからあんまり貸したくないのに!」
この時は、李凛も元気で瑠璃や友人との時間を満喫していた。
「瑠璃!貴女はまたお姉さんに服を借りに来たのですか!?体育に遅れますよ!ほら、早く体育館に行きましょう?」
「琉斗くん?なんでここがわかったの?」
「貴女の行動パターンは分かってます」
そんな中、ふと既視感を感じる男が瑠璃の後ろからヒョコリと現れる。瑠璃の頭に記憶が濁流のように流れ込んでくる。そう、彼は瑠璃の執事をしていたエルデビルトを黒髪黒目にしただけで、風貌はそっくりだったのだ。
(夢、だからかな?夢って自覚できるのは確か明晰夢・・・・・・だったかな?これはそれかぁ)
そう結論を出した彼女は夢を楽しむことにした。
「琉斗、瑠璃のことよろしくね?この子、どこか抜けてるから」
「ちょ、お姉ちゃん!私は抜けてないよ!」
「いえ、抜けていると思いますよ」
「琉斗くんまで!もう知らない!ほら、琉斗くん行くよ!」
ぷりぷりと可愛らしく怒りながらも瑠璃は琉斗と呼ばれたエルデビルト似の少年を連れて体育館に向かって行った。
「いやぁ、嵐みたいな二人だね。それにしても、あの二人付き合ってるって噂あるんだけど、知ってた?」
後ろから先程ノートを見せてと頼み込んでいた友人が喋りかけてくる。「へ〜」とそこまで興味無さそうな声を出し、彼女は席に着いた。
夢も続くこと数日。高校生活をする攻略対象者と李凛達は今日も今日とて日常を過ごす。
「ここの問題を九夜、答えてくれ」
「はい」
数学の時間、先生に名指しされ黒板に歩いて行く男はレイルに似ていた。もちろん髪と目は黒だが。
「よし、完璧だ」
彼はスラスラと黒板に答えを書き、席へと戻る。教室にいる女子は感嘆のため息をつくのだった。
「玲くん!流石だね!」
数学後の休み時間、女子は九夜こと玲に群がる。
「おうおう、今日はなんかすげーな」
「雷は空気を読もうよ・・・・・・」
女の子は黄色い悲鳴を上げて盛り上がっている。
それもそうだろう、ラルク似のガタイのいい長身男子とミハエル似の眼鏡をかけた知的なほっそりとした男子がやってきたのだ。二人ともきちんと黒髪黒目だ。
向こうでは攻略対象になるほどのイケメンが、こちらの世界で騒がれないわけがなかった。
余談だが、こちらの世界での李凛は可もなく不可もなくで向こうの世界ほどの美貌は持っていなかった。
「おい、李凛。ぼーっとしてないでこっち来い」
玲が李凛に向けて手招きをする。それを見た女子達は射殺さんばかりに彼女を睨みつける。
「え、めんどくさいからやだ」
即答で拒否したことが、女子達の逆鱗に触れたのか、眼差しはさらに強くなっていく。そんな中、玲に話しかけていた女の子が噛み付いてきた。
「ちょっと、玲くんに失礼じゃない!」
めんどくさい、としか思えない。休み時間は読書に費やすことが多いので人と話すことに時間を使うことは少ない。ましてや相手は友達ではなく赤の他人。話す気にすらならない。そんな理由から李凛は女の子のことを無視して本を読みだす。
「ちょっと!なんで無視するのよ!ねぇってば!」
耳元で金きり声で騒がれ、鼓膜が悲鳴をあげる。
「うるさい!嫌がってるって分かんないの!?羽虫は羽虫らしく、明かりの周りを飛んでなよ!静かに本読みたいんだから、話しかけてこないで!本読む邪魔するとかありえない!」
李凛はそれだけ言うと席を立ってどこかへと歩いて行った。
「あーあ、お姉ちゃんの逆鱗に触れちゃった」
李凛が立ち去り、少ししてから瑠璃が体操服片手に教室を覗く。
瑠璃の後ろには相変わらず琉斗がいた。
「あー・・・・・・瑠璃、李凛に俺が謝ってたって伝えてくれないか?」
「えー・・・・・・ジュース奢ってくれるならいいよ!」
「それぐらいならいいぞ」
「瑠璃は安いですね」
「うるさい!ばか!」
琉斗の言葉に拗ねた瑠璃は彼のお腹を軽く殴る。その様子を羨ましそうに玲が眺めていた。
この様子に、周囲の人達は玲が瑠璃のことを好きなのかと勘違いするが、実はそうではない。ただ、二人のようにイチャイチャできるのが羨ましいだけなのだ。何せ、玲は彼女からはとことん冷たくされているのでここまで人前でイチャイチャするのは一つの夢となっていた。玲の中では李凛とは恋仲ということになっていた。勿論、これを夢だと思っている李凛はそんなこと、知る由もないのだが。
所変わって李凛の家。モノクロでまとめられた李凛の部屋は本で溢れかえっており、それ以外と言うとテレビとベットと机しかなかった。生活感がほとんど感じられない部屋に、李凛と玲の二人はいた。
「李凛」
「なぁに?」
李凛は相変わらず本を読んでいる。夢の中でも今までの癖は変わらないのか、読書中話しかけられても玲にだけは優しく反応する。
「好きだぞ」
「ふぁ!?」
読んでいた本に栞を挟むことすら忘れ、勢いよく閉じる。李凛の顔は首まで赤く染っていた。
(いやいやいやいや!急すぎだって!しかもふぁ!?ってなに、ふぁ!?って!悲鳴出すにも何かほかにあったでしょ!)
いつになろうとも李凛は恋愛初心者。この李凛の反応に気を良くした玲により、夢が覚めるまで李凛はからかわれ続けた。
李凛「(σ-`д・´)バーカ」
玲「可愛いぞ、好きだ」
李凛「うるさい!( '-' )ノ)`-' )・・・・・・私も好き(ボソッ)」