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コミュ障が精一杯虚勢を張って道案内すると、さらにコミュ障を拗らせる

作者: 千夜

 数年前に、アメリカから旅行に来たハーフの方に道を聞かれた。


「◯◯ってどう行ったらいい?」


 方向音痴の私に聞いちゃうか、運のない人だな。

 苦笑しつつも、周りに人がいない事に気付き、それなら仕方ないかと、私はスマホで目的地を検索した。

 現在地を見せ、進む方角を指差した。そこに道はなく、民家が続いている。


 彼は私の肩に腕を回して、私の手ごとスマホを持って、肩越しにスマホを覗いた。

 近い。こういうのが外国人と日本人の差だろうか。日本人はこうやって近寄らないよな。

 そんな事を考えていると、彼が提案してきた。


「よかったら近い駅まで、案内してくれる?」


 私も言葉で説明できる気がしなかったので、買い物に行く途中だったが、少し夕飯が遅れるだけだし、人助けだと引き受けた。

 飢えて待つ3人の息子と夫よごめん、私一人を重い荷物を運ぶ買い物に行かせた結果だと思って受け入れなさい。


 歩きながら彼が名乗ったので、私もこれだけは英語で喋れるぞ、と張り切って名乗った。

 彼の歳は私よりいくつか上だった。

 日本語学校で学び、3ヶ国語話せると言う。


 凄い、私も外国語話せるようになりたい!

 英語のネット小説読みたい!!

 努力して、結果を得た人が目の前にいるのは、やる気が出る。うむ、私も頑張ろう。


 その時、スマホが揺れてポ◯モンGOのマップにチコリー◯が出現した。


「それポ◯モン? 何?」

「チコリー◯です」


「おお、チコリー◯。チコリー◯!」


 テンションを上げた彼は捕まえてもいい? と聞くので、ポ◯モンGOプレイヤーよ増えろ、と私はスマホを差し出した。


 私の手ごとスマホを持った彼は、モンスターボールを投げてチコリー◯を狙う。


 手、掴まれると動きにくいんだが。自分で持っていいのに。

 あ、でもスマホ高いからそのまま持ち逃げされたら不安だからこの方が安全なのか、な?

 海外で記念撮影を申し出た人が、そのままカメラを持ち逃げすると言うニュースが頭を過ぎる。


 私がクエスチョンマークを振っている間に、彼は見事、チコリー◯をゲットした。


「アメリカではポ◯モンGOできない」

「そうなんですか!?」


 あれ、アメリカってできないんだっけ?

 出来るのどこの国だっけ?

 中国はできない。


 その後もゆっくりと会話を続けた。


「僕、日本名があるの。サトシっていうの。どういう意味だと思う?」


 私はぽんと手を叩いていた。


「ポ◯モンのサトシ!」


「違うよ。ポ◯モンじゃないよ。ことわりって言う字、理科の理」


「あー、なるほど」


 ことわり、理を解いて使う魔法とか結構あったよなあ。ダーク系かシリアスで多かった気がする。万物の理、森羅万象、全ての起こる基準。

 壮大だな、なんて思いながら歩いていたら、男の手が何度も私の手にぶつかる。

 そして、ギュッと私の手を掴んでいた。


 なんだこれ? と私は自分の手の違和感に少しの不快感が混ざる。


「手繋ぐの嫌?」


 嫌というか、繋ぐ必要がないと思う。

 状況を考える。

 家の近くで、嫁が知らない男と手を繋いで歩いている。

 アウトだと思うんだが。


「手、繋ぐの嫌?」


 ああ、この人迷子か。迷子の手を引くのはおかしくないのか? でも、私には周囲の目がある。苦しむのは私だけでなく、子供や夫、両親、夫の両親、近くに住む友人にまで迷惑をかけるかもしれない。


「はあ、まあ」


 私としては断ったつもりだったのだけどしかし、男の手は離れなかった。

 何故だか手を繋いで道を進むと、工事中でいつも通れる道が塞がれていた。戻って遠回りしないといけない。


「すみません、こっち行き止まりでした。工事中で通れません」


「行き止まり?」


 歩き疲れたのか彼はコンクリートの段差を見つけるとそこに座り、私を引き寄せた。

 そして彼は語り出した。

 日本人のオタクで引きこもりの恋人が病気で亡くなったらしい。

 この旅はその傷心旅行のようなものらしい。


「恋人いるの?」

「はい。(旦那と子供がいますよ)」


「そうかあ、いるのかぁ」


 彼は立ち上がって再び歩き出した。

 迷子を送っていくのに随分時間がかかってしまった、とため息をつきそうになるのを我慢して私は駅へと足を進める。


「アクセサリーとかオシャレしないの?」


 手を握ったまま、私を見ながら男が問いかけた。

 化粧もオシャレも私には縁遠い。化粧は痒くなるし、アクセサリーは邪魔に感じる。そして失くす。


「男らしいのが好きなんで」


 私がそう言うと、彼はなるほどと言うように何度か頷いた。


 ありがとう、と手を差し出されたので握手を返す。


「最後にハグしてさよならの挨拶しよう」


 テレビでホームステイ番組の最後に流れる感謝の抱擁かな。

 大げさな気もするけど、彼の国にではそんなものだろうか。

 ああ、はい。と腕を広げて抱擁する迷子を、するがままにさせておく。


 僕はまた彼女できるかな? と微妙にイントネーションの違う日本語で問われる。


「可愛い彼女を作ってください」


 おお、いい事言ったぞ。と自分に満足する。


 耳貸して、と頭を寄せるので耳を向ける。


「可愛く無くてもいいかな?」


 それ、小さな声で言うほど重要な事か?

 内心首を傾げながら答える。


「好みの人を見付けてください」


 可愛くない人が、いや、オタクで引きこもりの彼女がいたと言うので、控えめな人とかが好みなのかもしれない。好きな人が見付かるといいですね。


 駅の近くでこの迷子の旅行者と別れた。


 うーん。肩に腕を回す、手を繋ぐ、許可を得てとはいえハグしたがる。迷子の外国人だから仕方無いけど、日本人の男性にされたら痴漢扱いだな。

 スマホを見ながら駅に向かう人物の、背中を見送る。


 オリンピック日本でやる時、ああいう人増えるの!?

 困惑。

 やだ! 外、出たくないな。


(外国人だからってみんながそう言う人ではないよ、きっと)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冒頭、日常の中のささやかな出来事を綴るのかと思っていたら、すぐに過剰なスキンシップの描写が出てきて、作者の身は大丈夫なのかとハラハラしてしまいました。文化の違いのスキンシップだったのかと安…
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