ある老人の懺悔
儂は昔、罪を犯した。多くの人々を焚きつけて不満をぶつける場所を用意して散らせてしまった。勿論、そうする予定はさらさらなかった。だが、何処からか情報が漏れてしまったのか、対立している者たちに渡ってしまった。その結果は、おのずと知れたように多くの同志たちの命がはかなく散ってしまった。儂は、敵の警備兵に捕まってしまった。警備兵に連れ去れた場所は調度品が高そうないかにも官僚がいそうな部屋だった。そこには一人の男が座っていた。そいつはこっちを興味なさげに見た。
『お前が、主導者だな。意外と若そうだな。』
『・・・どうしてお前が、襲撃を知っていたんだ。』
『ああ、なんだそんなことか。そんなに難しくないぞ。わざと警備を甘い様に見させて、そんな時に国の官僚達が来るとなれば、絶好の機会となるだろ。そこを冷静さを興奮に奪われた人々はこぞって来るだろ。そこに罠を仕掛けないバカはいないぞ。でも、ここまで上手くいくとは思っていなかったがな。そういう意味では、お前には感謝だな。』そういって奴は笑いながら連れてきた警備兵に指示して儂を連れ出した。儂は、てっきり牢屋にでも連れられるものだと思っていたが、外に放り出せれた。
外は、同志たちの死体がそこらかしこに転がっていた。生きている者もいたが、五体満足なものはほとんどいなかった。そこにはつい先日、この運動が終わったら、彼女に結婚を申し込むと息を巻いていた者もいた。彼の傍らには見知らぬ女性が血を流して横たわっていた。彼は、呆然と彼女を抱き寄せては動けなくなっているようであった。
『何でだ、何を間違ってしまったのか。どうして俺は生きているんだ、真っ先に命を落とすべきなのは俺なはずなのに。』儂は、ただただそう思うことしか出来なかった。ある意味では、牢屋に入れられるよりも精神的にくるものがあった。だから奴は儂を開放したのだと思られた。何と悪趣味な奴だと思ったことか。
そんな時儂に気づいた人がいた。
『リーダー生きていましたか。良かったです。ですがこの惨状では不謹慎ですが。ここは、動かせそうな人員でこの場から、離れましょう。運べるようなら、重傷者も運びましょう。』この言葉を聞いて儂は、ただただ責められるよりもきつかった。返答はしたが、叶うことなら責めてほしかった。そうすれば儂の罪も軽くなるような気がしたからである。てきぱきと動く彼を見て儂も動いたが、できることなど無いに等しかった。
多くの死体が転がり、血と汗の匂いにまみれた場所は地獄に等しく生きている者も少なかった。そして呆然としているため、動かせなかった。かといって鼓舞する気にもなれなかった。否、出来なかったのが正しいか。所詮、儂はそこまでの器でしかなかった。
それからの儂は、眠ることが出来なくなってしまった。眠る度に出てくるのは同志たちの血濡れた死体が出てきて総じて喋りだすのだ。『お前のせいで俺たちは、死んだんだ。どうしてくれるんだ。お前がのうのうと生きていることなど到底赦せれない。』といった言葉を投げかけてくるのだ。その度儂の心は張り裂けそうになった。もう限界が近くなってきた。もういっそのことか自死しようかと思った。そうすれば、この苦しみから解放されるような気がした。
そうと決まれば、遺書をしたためた。
『もう生きることに希望を持てません。弱い私を許してください。』そうしたためて、崖から落ちよう決めて部屋に遺書を残して近くの崖まで行くことにした。
崖の下にはむき出しの山肌が広がっているであろうが、いかせん目視で判るような高さではなかったので何とも言えないが。
意を決して儂は崖に向かって一歩を踏み出した。そのタイミングで強風が吹き一歩が踏み出せなくなってしまった。まるで、『あんたのせいじゃないから気にするな。俺たちの分まで人生を謳歌しろ』なんて言われているような感じがした。だから儂は決行を中止することにした。
家に帰ると同志の一人だった青年が来ていた。
『どこに行っていたんですか。偶々用があったので寄ってみれば、呼び鈴を鳴らしても返答がなくドアノブに手をかけてみれば部屋の鍵が開いていて悪いと思いましたが、こんなもの置いてあって驚いてしまいました。それほどまでに追い詰められているなんて知らなくて知りませんでした。相談してくださってもよかったのに、そうすればきっと気持ちが半減したかもしれませんよ。だって私だって生きてしまったのですから。』そう言われて儂は涙が流れてしまった。その様子を見た青年がオロオロしているようだったが、儂はどうやって償おうかと考えていた。
それから何年の時が過ぎた。儂はあれから本格的に政治家になろうとした。そうすれば政府を引いては国を変えることにつながるのではいかと思えたからだ。しかし、あのような事件を起こした張本人が政治家にやすやすとなれるはずはないと思っていたが、何故か顔や名前が知られてなくそこまで困難ではなかった。
後にこの理由が分かるが今は触れないでおこう。そうして儂は政治家になり、政治活動に勤しんで変えようと躍起になったが政治の世界は昏く濁っていて到底普通の感性のものなら諦めねばならないかもしれないが、儂にはそのようなものはもうとっくに振り切れてしまったのでどうにでもなった。
政治家になって幾たびの季節が過ぎさって儂はそれなりのポジションにつけた。
・・・儂は、お前たちの無念は少しは晴らせただろうか。
其の願いは彼らの無念を晴らしたい
失ったものは彼らの命