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ある少年の哀愁

 僕は、ある時から目が、色が、光が見えなくなってしまった。その兆候自体はずっと前からあったので、心構え自体はできてはいましたが、周りはそうではなかったのでしょう。だからその人に言わせれば、『なぜ、こんな時に、これから人生が楽しくなるのにこの子はそれを楽しむ権利がないの。そんなの嫌よ。』なんて言われるのでしょう。

 ああ、なんて、浅ましいのでしょうか。自分のことではないのにここまで悲しがる必要がどこにあるのでしょうか。勿論、心配してくれること自体は嬉しいのですが、過度なものになるとそれはそれで滑稽にしか聞こえず、悦に入っているかのようにしか聞こえないのです。


 勿論、目が見えないことで不便はありますが、それ以上に視力という情報が多いものを手放すことでこれまであまり感じれなかった人の感情起伏が見えてきたのです。そして人間の五感の一つを失っても生活はできるのだと痛感したのです。特に僕の場合は、音に以前よりも敏感になっていたのです。そこまで美しいとは感じられなかった音楽が途端になんと美しいものであるかのように感じ、演奏している人の気持ちまで少しばかり読み取れるようになっていたのです。例えば、楽しそうに奏でているな、とか、最近嫌なことがあったのか分からないですが、悲しげな音だなとか何となくですが、分かるようになってきたのです。人に言わせれば、『そんなことが分かってたまるか。』や『まだまだ、全然だぞ、いい気になるな小童が。』なんて言われるのが常々でしょう。


 ある人にあるとき言うつもりはなかったのですが、相談してみました。その時は目が見えくなる前です。

『なにを悩んでそんな辛気臭い顔をしているかと思えば、そんな小さなことをうだうだと考えていたのか。いいか、小童。人は、いや、生きている者は何かを犠牲にして生きているんだ。例えば、健康や貧富、住んでいる環境といったものを犠牲にして生きているだけだ。ただそれが、お前にとっては視力かもしれないだけだ。まあ、高尚な文書では、“それは神が与えた試練だの、あなたなら乗り越えることが出来るから与えたものです。”なんて言っているかもしれないが、それは儂に言わせればただの高みの見物をしてその立場にないもののどうにか立ち向かってほしくて、悲観的にならないでほしいがための言葉にしか感じられん。それでもいいかもしれないが、儂はお前に贈るのであれば、ただただ挫けずに進んで人生を謳歌してみろ。そんなことで挫けてはそれでこそ自分自身に負けたことになるんだ、だから楽しんでみろ。なんて言ってやるか。まあ、それでも挫けそうなら立ち止まってもいいだろう、そこで悲しんでもいいが、いつまでもそこに居座るな。いつか幸せの訪れに気づけないからな。分かったか小童。そんなことを考えている暇があったら、少しでも対策ぐらいは取ったらどうだ。うかうかしている暇などないだろ。』そう言って珍しく声を上げて笑っていたのでした。

 その言葉に僕は感銘を受けて点字の練習や生活をしていて不便な点の改善を悟られないようにして運命の日を待ちました。功を奏したのか何とかなりました。


 ですがふとしたときに、色ってどんな色だったけや、この色はこんな色であっているかや、この風景には何があってどんなものがあるのかという事をふと思い出したり考えたりすると無性に悲しくなり、何故か涙が出るときがあるとああ、心のどこかでは大切なものを失って、そして戻らない色のある日が懐かしくて届かない日に別れを告げてしまったことを悲しんでいるのだと気づき只々何もできない自分が辛くなるのです。


 きっともう見ることが出来ない事実は辛く僕の心を覆うかもしれないが、そこから一歩進まなければ人生は楽しくないので進もうと思います。

               ・・・ありがとうございました。××先生、また出会えましたら言いたいことがたくさんあります。


其の願いは音楽を奏でたい


失ったものは其の視力

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