ある青年の考察
今日僕は、ある人に告白をした。よく僕と話してくれるし、笑ってもくれる。話も合うし、何より僕のことを僕自身をちゃんと見てくれているのだと感じた。ああ、この人と人生を歩いてみたいなとそう静かに思った。
だから僕は、告白をした。
『好きです。貴女のことが誰よりもそして何よりも。きっと幸せにしてみせます。いや、します。だから僕と付き合ってください。』そう言って手を出した。きっと手を取ってくれるか彼女のことだから、少し照れて、『少し、考えさせてください。』とか言ってくれるのではないかと思った。
そんな浅はかな自分本位な考えを打ち砕くかのように彼女は、言った。
『ごめんなさい。私は、貴方と付き合うことが出来ません。そのような好意をもたれることさえ不快です。・・・傷つけたことに関しては、自覚はあります。私はこういう酷い人間なのです。だから、もう関わらないでください。・・・さようなら。』俯きながら考え込むようにそう言って走り出してしまった。
僕は彼女の足を止めることが出来す、追うことさえも出来なかった。いくつか理由がある。
そもそも彼女は、あまり自分を出さないような穏やかな人である。そして困っている人に手を差し伸べ、共に考えてその問題に取り組むことが出来る優しい人である。そんな彼女が普段からは考えられない発言であり、そしてここで追っても逆効果になりそうな気がしたからである。
また、この彼女は、あの発言をするときに手で服の裾を強く握っていたからである。それほど思いつめた人間にその原因を創った人間が詰め寄るのは如何なものであろう。
そしてまたここできっと会えるのではないかという淡い期待があったからである。なぜなら、彼女は『ここは家に帰るときの通り道なの。だから同じ時間に通るんです。・・・貴方もそうであったら嬉しいです。』そのようにあるとき話したからだ。その発言の通り、大体は同じ時間であった。
毎日のように時間があれば、あの場所に足繁く通った。だが、彼女は一度も姿を見せなかった。
ああ、そうかそうなのか。あのような発言をした同じところを通るはずがないのを失念していたのだ。だって、そうだろ。関わらないでくれと言った人がその相手がいるであろう道を通るか、そんなはずはないだろう。
こんなことなら、彼女の後をすぐにでも追って、『待ってくれ、僕には君が君という人間が必要なんだ。・・・だから謝らないでくれ、不快に思ったのなら詫びよう。だか、逃げないでくれ。そして無かったことにはしないでほしい。今、そのように恋仲になることが考えられないのなら、それでもいい。だが、そんな悲しい声で表情でまるで何かを押し殺したかのように言わないでくれ。』そう言って引き留めただろうに。だがもうそのようなことなど到底できるはずがなかろう。
名前や年齢以外のことを知らないものが何ができるというのだ。それでさえ少し危ういような気がする。
ああ、無力で何もできない自分が憎たらしくそしてそのようにした彼女が憎くないといられれば完全に肯定を示せないが、酷く愛おしいのだ。
・・・××、貴方はどこで何をしていますか。そして幸せですか。笑っていますか。
其の願いはまた彼女に会いたい
失ったものは彼女に出会える機会