ある少女の独白
今日、私は告白されました。人生初の告白です。もちろんうれしかったですし、私自身も同じ気持ちだったので首を縦に振りたくなりました。柄にもなく舞い上がってしまいそうになりました。
しかし、そうすることが私には出来なかったのです。声に出ていたのは、反対の否定の断りの言葉でした。
『ごめんなさい。私は、貴方と付き合うことが出来ません。そのような好意をもたれることさえ不快です。・・・傷つけたことに関しては、自覚はあります。私はこういう酷い人間なのです。だから、もう関わらないでください。・・・さようなら。』そう顔色一つ変えないようにして言い切ったのです。
もうこの場所から離れたくなって気づいた時には駆け出していたのでした。もう彼は見えなくなっていたのでそこでようやく足を止めたら、気づいた時には目から静かに涙が零れていたのでした。
ああ、私は悲しいのですか。彼のことを振ってしまったことが、心にもないことを言ってしまったのが、そしてこれでは、彼に合わせる顔などなくもう、きっと彼には会えないことが、とてつもなく悲しいのですか。でも今更どうしようもないことなのです。でも陰ながら応援したいと思う気持ちでさえ持つことは許されないのです。
なぜなら、私はもうすぐ私ではなくなる可能性が高いのですから。いや、正確には違いますか。例えば、私が多重人格者でその人格の一つでしかなく統合するようにと精神科に通っているからや、私が一卵性双生児の姉もしくは妹でその片割れに成り代わるように言われてその期限が近いからというわけではないのです。
私は、私は、記憶が一定の期間しか保つことが出来ないのです。正確に言えば、なにそれを何時何時したという事は覚えていられるのですが、その時どう思い、どのように感じたかというものが分からなくなってしまうのです。それ以上の期間がたてば、それをしたという記憶すら残らなくなってしまうのです。だから彼の告白を受けて晴れて恋人というものになった時『あの時のデートは楽しかったね。貴女はどうだった。良かったのならまた行こうか。今度はそこ以外もどう。』なんて聞かれてみれば、どう答えていいのか分からないのです。『そうですね。』と答えることが出来ても、それ以上のことは言えないのです。言葉に詰まってしまうのです。何が良かったのか、何が楽しかったのかさえ分からなくなっているのですから。
普通そんな人と付き合いたいかと言われたら『否』と答えるのが常でしょう。私だって出来れば嫌ですね。
だから、私はきっと一生独りで過ごさなければならないのです。
もしそのこと人に相談してみれば『では、日記でも書いたらどうだ。それを見れば何をしてどう感じたか解るのではないか。』と言われるでしょう。それが正常な考えなのでしょうね。でもそれは、私にはできても読み返したくはないのです。誰だって人の日記を読むのは恥ずかしいでしょう、もしくは気が引けるものでしょ。残念ながら私にはそのように感じてしまうのです。だからだからこそ人に不快感を与えないように出来るだけ人に関わってはいけないのです。
だからだから、彼にはもう関わっていけないのです。もうこの気持ちでさえもいつ消えるのか分からないのですが、きっと消えてしまうでしょう。だから今だけは貴方の幸せに私が隣にいることを夢見せてください。それが私のたった一つの願いです。
居なくなってももしくは態度がガラリと変わっても心配しないでください。××さん。私みたいな酷い女のことはどうか忘れてください。嫌いになってください。
・・・幸せをただただ願っています。
其の願いは、相手の幸せ
失いしものは其の記憶