第2話:楽しい会話
しばらく自転車を漕いで、狭かった道路から、広い道路にでる。すると、同じ格好をした人たちを見つけ、少しだけ安心した。
「あぁ〜…。つ、疲れた〜…。」
「ホントだねぇ。お疲れ様!」
くっちゃんはハンドルに体重を預けるようにもたれかかる。まだ“お疲れ様”なんて早いけど、こんな様子を見ちゃったらそれしか声がかけられない。
「れっちゃんって、かなり足早いね〜。ビックリだよ。」
疲れた顔で軽く笑顔を作りながら私に振り向きそう言う。まぁ、よく、みんなに言われる。私って運動は“出来ない”っていうか“しない”ってイメージがあるらしい。汗が似合わないとか言われたこともあるし…。
「よく言われるよ。でもね、アタシ…。」
「なになに??」
くっちゃんのさっきまで疲れた顔が嘘のような満面の笑みが私に向けられる。
「実は、中学のときは陸上部に入ってたんだ。あ、ちゃんとした選手だったよ?」
少しおどけたように言ってみせると、凄く驚いた顔をされてしまった。まぁ、それも結構慣れたけど……。
「マジかよぉ…。すっげぇなぁ…。全然見えねぇし。」
「もう! くっちゃんまでそうやって言うんだ!」
少し困らせたくてわざと怒った風にいってみた。
すると、すぐに
「ゴメン!!」と慌てて言ってくるものだから可笑しかった。
「なぁに笑ってんの…?」
「ごめんね? 大丈夫だから。さっきはちょっとからかってみたくなって…。」
笑いながらそう言ったら、くっちゃんは
「ンだよ〜」と安心したような表情で笑った。
くっちゃんって、いちいち表情が面白い。だからちょっとだけからかいたくなっちゃった。
「でも、人は見かけによらねぇな。俺でもさっきはついてく大変だったし…。」
“俺でも”ってところが少し気になった。くっちゃん、何か中学生のときやってたのかな?確かに、きれいに筋肉はついてるけど…なんだろう?
私が急に黙りこんだのを見て、不思議に思ったのか、不安そうにきいてきた。
「どした? 具合でも、悪くなったか…?」
「違うよ。ただ、気になったことがあってね…。」
「ン? 何だよ? 言ってみろよ。」
優しい笑顔だったので、きいてみるとこにした。
「何か中学生のときに運動してたの?」
「おっ!!よくわかったな!!」
何だか、急に嬉しそうな顔になった気がした。
「何やってたの??」
くっちゃんが中学生のときにやっていたこと。何故だか凄く興味が沸いて来た。気になる感じ。私の知らないくっちゃんのこと、少しでも知りたいのかも。
「俺さ、小さい頃からずっとテニスやってたんだ。中学の時には全国を目指すくらいだったんだ。」
テニスのことを話すくっちゃんの目は凄く輝いていた。夢を語る少年の瞳だった。
「まぁ、実際はさ…全国は無理だったけど、そこそこ活躍したんだぜ?」
そのあとに“なーんてな”と付け足すと、悪戯っ子のような笑顔を見せる。
くっちゃんには素晴らしい目標があるんだな…。そんな風に思った。
そういえば、“オオゾラ タクマ”って何処で聞いたと思ったら、全校集会で校長先生が言ってたんだ。この町から大きな大会にでる人がいるって話しだった。
「うちの学校でも、結構話題になってたの…今更だけど、思い出したよ。」
笑いながらそういうと、くっちゃんは凄く嬉しそうな顔をした。
「マジで!? うわぁ〜…嬉しいなぁ〜…。」
本当に嬉しいんだろうな。見ていて伝わってくるよ。
「れっちゃんはさぁ、何処の中学校行ってた?」
「アタシは浜咲中学校だよ。」
「嘘ぉ…マジかよ…。」
何をそんなに驚いているんだろう。私…変なこと、言った覚えないよ。
「あっ!? …悪い。浜中って頭いい奴ばっかじゃん?」
いきなりそうきかれて、少しビックリした。自分の通っていた中学校を、そう思ったことは一度もなかった。だから言われてもピンと来ない。
「れっちゃんって…確かに勉強出来そうだもんなぁ…。」
「そう見える??」
「あぁ…。何か急に見えてきた。」
出身校って、そんなに人のイメージを変えちゃうんだ。でも、確かにそれは言えてるのかもしれない。でも…中学校だしなぁ。
「まさかあの浜中で有名になれるとは、嬉しいぜ!!」
くっちゃんはそう言って笑った。そして私も笑う。
「くっちゃんは何処の中学校に行ってたの?」
「俺か?」
「うん!」
私は大きく首を縦に振る。
「俺は桜坂中学校に通ってたんだ。だから高校も桜学を選んだし。」
“桜坂中学校”。そこは、部活動(特に運動部)が強いことで有名で、部活で良い成果を残した生徒は学費や入学金免除などの待遇で、桜坂学園に入ることができるのだ。軽くエスカレーター式みたいなところがある。そのため、桜坂学園には桜坂中学校出身の生徒が多いのだ。
「そうなんだぁ。凄いね!推薦で入学したの?」
「まぁな! 親も学費が安くて助かる〜とか言ってたしな。」
桜中の生徒だったんだぁ。何て思っていると、くっちゃんから質問される。
「れっちゃんは何で高校、桜学選んだんだ? もしかしてスカウトされたとか!?」
くっちゃんが興味津々といった風にきいてきたのが可笑しかった。
「スカウトなんて…。私は桜学のことずっと憧れてたから、ここにしたの。」
「憧れ?」
くっちゃんが不思議そうな顔をしながら首を傾げる。
「そう! 憧れ! 私のお姉ちゃんがここに通ってたから…それで、ここの高校が気になって…。入学できたらなぁって憧れてたの。」
ずっと心に抱いていたことを、恥ずかしいけど、くっちゃんに話した。すると…。
「いいなぁー…。そういう理由も。俺は長男だから、兄弟に憧れるなんてないし。」
何かを懐かしむような、少し哀愁のある表情を向けられ、少しドキッとした。
「くっちゃんには…弟や妹がいるの?」
「あぁ、生意気な弟が、一人いるよ。しかも今、ソイツと暮らしてる。ってーか、勝手についてきやがったんだ。」
少し眉間に皺をよせ、怒った表情を作る。でも、どこか、楽しそうにも見える顔だった…。そう、それは“兄”の表情だった。
「お父さんやお母さんは?」
「あー………。」
今度は困った顔してる…。きいちゃ…まずかったかな?
「そもそも、俺は一人暮らしをしたかったんだ。」
くっちゃんは私に話してくれるみたい。失礼なこときいたんじゃなくてよかった…。
「それで、両親に『一人で暮らす』って言ったんだ。はじめは心配してたけど、認めてくれた。でも…弟だけは反対しやがってよぉ…。はじめは一人暮らしを満喫してたのに、一週間くらいたった頃に、『俺も此処に住む!』ってきやがった。親は止めたけど無理だったって…。」
くっちゃんは一通り話し終えると、
「はぁ…」と溜め息をついた。…何だか大変そう。でも…。
「楽しそうだなっ。」
と、思った。
一人暮らしをしたかったくっちゃんの気持ちもわかるけど、私はどちらかというと、弟の気持ちがわかった。だって…、大好きなお兄ちゃんが急にいなるなるって…寂しいことだから…。
「まぁ、賑やかって意味では楽しいけどよ…。一人暮らしをして、独り立ちしたかったって意味では、何かなぁーって思うよ。親も心配だし…。」
「親…?」
具合でも悪いのかな…。いや、だったらくっちゃんのことだから一人暮らしなんてしないと思う。じゃあ…どう心配なのかな?
「そ。だって俺の両親さぁー、俺一人いなくなるってだけで大変だったのに、さらに弟までついてきたら…寂しさのあまりやっていけないんじゃって…。」
「ふふっ…。あははっ!」
私はつい笑ってしまった。本当に楽しそうな家族だ。それに、くっちゃんの親が凄く可愛い!
「お前…今馬鹿にしただろ!!」
「してないよ!」
そんな抵抗を無視してくっちゃんは片手で私の髪の毛をぐしゃっとした。
「俺を馬鹿にした罰だ。」
ちょっと威張った風に言うくっちゃん。…本当に馬鹿になんてしてないのになぁ…。
「そんな家族、楽しそうだなって、思って。羨ましいなって。」
「はぁ? 何でだよ。普通の家族だろ?」
「だって…私のお父さん、海外にいるからさぁー…」
そう。私にとっては、両親が二人そろって普通の会話をしてるってだけでも、羨ましい話だった。
「それでかぁ。悪いな、馬鹿にしたなんて疑ってさ。」
くっちゃんは気まずそうに謝った。
「全然いいよ。ただ、馬鹿になんてしてないってわかってほしかっただけ。」
「もう疑ったりしねぇよ。」
そう言ってくれて、本当に嬉しかった。
「そうだ! 今度俺ン家に来ねぇ!? うるさいくらいに賑やかな弟と歓迎するぜ?」
「えっ!?」
「あっ!! …やっぱ嫌だよな…。 今日知り合ったばっかのヤツにこんなこと言われるの…。」
別に…嫌じゃないのに……。寧ろ私なんかを家によんでくれるなんて、凄く嬉しいのに………。普通、会ったばっかりの人を家に招こうなんて思わないんじゃないかな?
「そうだ! 今度俺ン家に来ねぇ!? うるさいくらいに賑やかな弟と歓迎するぜ?」
「えっ!?」
「あっ!! …やっぱ嫌だよな…。 今日知り合ったばっかのヤツにこんなこと言われるの…。」
別に…嫌じゃないのに……。寧ろ私なんかを家によんでくれるなんて、凄く嬉しいのに………。普通、会ったばっかりの人を家に招こうなんて思わないんじゃないかな?
「嫌だったら断っていいんだぜ? ただ、さっき弟のこといいなーみたいに言ってたからさ。」
「じゃあお家に遊びに行かせてもらうね!」
「いいぜ! ……じゃあ、今度の日曜は?」
「大丈夫! じゃあ日曜日に…。何処で待ち合わせしようか?」
私の心の中は、朝からとても明るい色に染まっていた。これもくっちゃんのお陰だな…。
「じゃあ、俺がお前ン家行くな。」
「いいの?」
「あぁ! じゃあ10時頃行ってもいいか?」
「いいよ!じゃあ楽しみに待ってるね!」
「おう!期待してろよ!」
“期待してろよ”か………。うん、楽しくなりそう!
約一週間前、叔母さんに家を借りてこっちに来た時は荷物の整理とかで忙しかったし、学校生活がとても不安だった。しかし、今、くっちゃんとこうしていると、その不安は小さくなっていっていた。こんなに楽しい友達が出来て、私はついてるな…。
こんなたわいのない会話をしていると、あっという間に学校が近付いていた。
此処からは長い坂道を登らなくてはならない。でもとても緩やかな坂だからまだマシかな?
「れっちゃんと話しながらだったから、此処まであっという間に感じたよ。」
「アタシもだよ!!」
「この坂道を登ればもう学校だな。……同じクラスだったらいいな。」
「うん!」
くっちゃんが同じクラスにいてくれたら安心できるし、何より楽しそうだな。そんな呑気なことを考えていると、あることに気付いた。
それは…視線。くっちゃんをみんなが見ている気がした。
確かにカッコイイと思うけど、これは異常だ。まるでアイドルがいるみたい。
そんな私に気付いたのか、くっちゃんが話し掛けてきた。
「どうした? ンなキョロキョロしてよっ。 怪しいぞ〜。」
ふざけた感じだったけど、きっと心配してくれたのかも。
「ねぇねぇ…みんながくっちゃんを見てるよ……。」
声のトーンを少し抑えてきいてみた。
「あぁ…。中学でテニス部に入った時からこんな感じだぜ? ……始めは変に感じたけど、今はなれた。」
くっちゃんは何でもないって感じで、サラッと言った。…凄いな。
「あれ? …れっちゃんは経験ナシ? れっちゃんくらいの容姿なら経験アリかと思ってた。」
…普通ないんじゃないかな?私、くっちゃんみたいに周りを明るくするような性格じゃないし………。
「きっと、くっちゃんが特別なんだよ。」
私がそういうと、くっちゃんが“意外”というような表情で言った。
「でも……俺にはれっちゃんにも視線が集まってるように見えるぜ?」
「なっ………!?」
“何言ってるの!!”って言おうとして、言葉が詰まる。
私何かに視線が集まるわけない。だって、この学校って、大半の人が桜坂中学校の生徒だし…。私は有り得ないよ!!
そう思っていると、誰かの会話が耳に入ってきた。
「ねぇねぇ!! あそこの二人…!! たっくんと風凛華さんじゃない!?」
「ホ…ホントだぁー……。二人そろってると画が綺麗だよね…。」
「てかさぁ、二人って仲いいのかなっ?」
「何か羨ましいなぁ〜………。」
………何か今………私の名前出なかった!?
何…なに…ナニ!?
「なっ? お前も見られてるだろっ?」
くっちゃんも聞こえてたみたい。
何か悪戯っぽい表情で笑って、そんな風に言われちゃったよ…。
「れっちゃんってば、鈍感だなぁ〜〜〜。」
凄い笑われてる……。そんなに笑わないでよ〜。
私が恥ずかしくて何も言えず、大人しく自転車を漕いでいると、もう学校前だった。
視線が余計に集まる。視線に気付いてからは変に意識してしまう。くっちゃんみたいに慣れてないから、かなり困る…。
自転車置き場に自転車を停めて、玄関の方に向かっていく。クラスを確認するために。でも、人が沢山いて近付けないや…。
「まだ結構人いるな。遅刻じゃないだけマシだな。」
「そうだね。これも頑張って自転車漕いだからだねっ!」
「そうだな。……あっ、こっちに廻ったらクラス発表の紙、見えそうだぜ。」
くっちゃんが手招きをしているので、そちらに人とすれ違いながら近付く。
確かにそこから紙は見えた。
そして…私のクラスは……。
「「あった!!」」
二人の声が同時に響く。お互い顔を見合わせて笑った。
「れっちゃんと俺…同じクラスだったな!!」
「そうだね!!」
私は凄く嬉しくって、つい彼の手をとっていた。そしてそれを思い切っきり上下に音がなくるらいに振った。
「ははっ…。そんなに喜んでくれるなんて…俺、スゲェ嬉しいわ。」
照れくさそうにそう言ってくっちゃんは笑った。とても爽やかな笑顔……。この笑顔を教室でもみれるんだ。そう思うと、幸せだった。
そこで私は冷静になった。いつまで手を握ってるつもりなんだ?って……。私は慌てて手を離した。
「ごめんなさいっ!!いきなり……。」
弱い声でそういうとくっちゃんは、笑顔で言った。
「全然いいぜ?……嬉しいしさ。」
「よかったー…。 嫌だって思われなくて……。」
「そんな風に思うわけないし。でも…ビックリはしたかな?」
にっこり笑うくっちゃん。そんなくっちゃんを見て感じる…。とってもいい人だなぁ…って。
「ホント…ごめんね?」
「ンな謝ることじゃねーだろっ? ……たださ、そんなに元気なれっちゃんみれて…嬉しいよ。」
「えっ……。」
………そんなこと言われたら…照れちゃうよ……。
「何かクールって感じでさ…俺みたいな馬鹿といてもつまんない!!って思ってるんじゃないかって…ちょっと気になったからさ…。」
「そんなこと思うわけ……それこそないのに……。」
貴方と出会ってから、此処にたどり着くまで、ずっと楽しいって思ってたから、そんな風に言われて凄く驚いた。
そんな風に見られてたなんて…ちょっと私って無愛想なのかな?…何か……急に………心配になってきた………。
「そっか…。なら、安心。俺ばっか楽しんでたとしたら…ちょっと虚しいなって感じだし…。違うってわかってよかったぜ。」
優しい笑顔が、とても眩しく見えるよ。くっちゃんっていつも素敵な笑顔を見せてくれる。軽く微笑むような笑顔や、元気一杯!!って感じに、真っ白い歯を見せて笑う顔も本当…素敵だな…。
「れっちゃん? ……どーした? ボーっとしてよ?」
「えっ!?」
どーした?なんてきかれても…“笑顔が素敵だからずっと見てた”なんて…恥ずかしくて言えないよ!!
「頬っぺも少し赤いみたいだし…熱でもあんのか??」
「うわっ!?!?」
―――っ。今変な声出した!!此処周りに人いるし、聞かれてたら恥ずかしいよ!!…聞いて…ないよね?って―――!!!
もっと心配すべきことを今されてるじゃん!!だって…だって……。くっちゃん、私のおでこに…手当ててる!!
何か…身体…動かない。と言うより、動けなくなってる…。
私の様子がおかしいことに気付いたくっちゃんが、慌てて手を額から離した。………ちょっと寂しいかも………。
「ゴメン!! …俺…癖でつい…。」
癖で…? つい…? 何でそんな動作が癖になるの!? やっぱりくっちゃんってモテそうだから…それでなの?
…みんなにもやってるってこと…かな?
何でだろう…。急に悲しい気持ちになっちゃった。さっきまで、あんなに楽しかったのに…。何で……?
“トクベツ”じゃなくて、“ビョウドウ”だから…?
でも…いいじゃない…のけ者扱いよりは…よっぽど、いいじゃない…。
ココロが痛む、そんなシュンカン。
「おいっ!? れっちゃん!?」
何…?何なの…?もう…。
「みんなにも…してあげるんだ。」
なっ、何いってるの!? 勝手に口が動くから…。そんなこと言うつもりじゃないのに…。まだわからないのに…。
「えっ?何のこと…? てか、怒ってるのか…?」
「そうじゃ…ない。 ただ…。」
「ただ?」
「くっちゃんにとって、女の子に触れるって当たり前だったの…かな?って……。」
あーあ…。言うつもりなんて、なかったのに…。どうして…言っちゃうの?
こんなこと言いたくないよ。 この気持ちって…何?別に馴れ馴れしいとかは、思ってない。私だって、さっき手握っちゃったし。そうじゃない。
だとしたら……何だろう。
私が考え込んでいると、くっちゃんが申し訳なさそうに口を開いた。
「何のことかよくわかんないけど、当たり前何かじゃない。今でこ触っちまったのは、お前が心配だったからで…。その…誰にでもとかじゃ、ない…から。」
「くっちゃん………。」
私…くっちゃんを困らせてる…。ごめんね、くっちゃん。本当は…そんなこと言うつもりじゃなかった。
「ありがと…。心配してくれて。熱は…ないよ?」
「そっ…うかも…。」
小さくなるくっちゃんの声。そうだよね…いきなりそんなこと言われたら…ビックリしちゃうよね。
「俺がさっき“癖でつい”って言ったのはさ……」
聞きたくないかも…その先の言葉なんて。
「俺の弟がさ、ちびの頃、頬っぺたが赤い時って、だいたい熱あったんだ。」
……え? いきなり…何の話?
「だから…れっちゃんも熱があって辛いんじゃないかって…無理してんじゃないかって…。それで、つい…。」
「………そうだったの?」
「あぁ。ゴメンなっ。ンなこと、ガキでもねーのに、嫌だよなっ。」
「そんなことない!」
私ってば…ただの勘違いか…。なのに…くっちゃんに変なこと言って困らせて…駄目だなぁ。
何か…くっちゃんといると、つい感情的になっちゃうっていうか…くっちゃんの雰囲気に呑まれてる…?
でも…くっちゃん相手だから素直なことが言えるのかもしれない。
「そっ…そうか? ……でもさっき―――」
「あー!! わー!! もういいの!!」
それ以上言われたら恥ずかしくって、今よりも真っ赤になっちゃう!!
「れっちゃんがそういうなら…やめる。」
フゥー…。助かった…。
「そろそろ、校舎の中に入ろ?」
「そうだな。行くぞ!! れっちゃん!!」
私たちは校舎の中に入っていった……。