第1話:はじまり
こちらの作品は気まぐれで文章力のない者によって書かれた物語です。なので、文章の表現や誤字・脱字などがあった場合は見逃していただければと思います。
では、暇潰しなどにどうぞお読み下さい。楽しんでいただければ光栄です。
とある春の晴れた日。私はこの日がとても待ち遠しかった。
だって…今日から私は高校生になれるから……。ずっと憧れてた、姉と同じ制服を着れるその日を……。でも、やっと叶ったよ。お姉ちゃん。
心のなかで、此処にはいない姉に話しかける。姉の優しい顔が、私の頭の中をいっぱいにした。今は会えないけど、会った時には私の制服姿を見せてあげるね。
鏡の前に立ち、くるりとそこで一回まわる。少し遅れてスカートがひらり。この制服は姉が着ていたときからずっと可愛いと思っていた。そんな制服と私は釣り合ってない気がした。だって…まだ中学生って感じのオーラが出てるんだもん!!
少し大人ぶった表情を作ったがそれをすぐ崩す。そして頬をぷぅっと膨らまし、ぺしんと叩いて潰す。
―――何落ち込んでるの!!これからじゃん!!まだ中学生みたいなのは仕方ないよ!!
自分に気合いを入れて、きっと待っているであろう母のいる一階へとおりていくことにした。
寝室のある屋根裏部屋から、キッチンのある一階まで小さい梯子と螺旋階段を使っておりていく。
キッチンのある部屋の扉を開くと、朝食の美味しそうな匂いと、いつも母が飲んでいるコーヒーの香ばしい匂いが私に染み込む。
そんな心地のよい空気を愉しんでいると、母の声が聞こえる。
「何そんなとことに立ってるの?ご飯が冷めちゃうよ?」
いつも通りの優しい声。その声のするほうを見ると優しく微笑む綺麗な顔がある。
自分の母親の顔なのに“綺麗”なんておかしいかもしれないけど、これは本音。私はお母さんみたいな美人になりたいと思っている。……そして、姉みたいな美人にも………。
私は母に返事を返し、朝食の置いてあるテーブルのもとまで寄って、椅子を引きそこに座る。私は思い出したように母に、
「おはよう!」と元気な声で言うと母は落ち着いた声で返事を返してくれた。
「いただきまぁす!」
「はぁい、どうぞ。」
こんな毎日の当たり前のやり取りはやっぱりいい。心が落ち着いた。
私が美味しく朝食を食べていると、急に母から声がかかった。
「今日から高校生ね。その制服、とっても似合ってるよ。」
その言葉は、とても嬉しかった。似合ってないって心配してたところだったから…。
「きっと卒業までには冬彌より似合うようになってると思うわぁ。」
「もぉ〜、卒業って…入学式もまだ出てないんだよ?早いってば。」
入学式を前に少し緊張していたのに、そんな風に言われて少し可笑しかった。
朝食を綺麗に食べ終えて、身支度を終わらせ、いつでも学校に行けるようにして、私は外に出た。
外に出ると、眩しい朝の気持ちいい日差しに、澄んだ空気が私を出迎えてくれたような気がした。こっちの方には人が滅多に来ないから、此処を独り占めしている気分だ。
長い長い坂道の途中にある私と母の家。そこからの景色は最高!きれいに並んだ町並みがおもちゃみたいに小さくて、可愛いらしい。この町には海も山もあるし、それらを全部まとめて眺めることができるんだからとっても気に入ってしまった。
そして家を出て、坂を上っていき、家の裏側までまわる。そこにはとても広い草原が広がっている。此処に立っていると、自分がとても小さく見える。でもそれは虚しいっていうよりも、のびのびとした広い心持ちになれる。だから、此処も好き。
草原にくる途中には別れ道があって、その道を真っ直ぐ進んでいくと、小さな森のような林のような場所がある。そこには小さい頃に、何度か来たことがあった。
そもそも長い長い坂道に広がるこの世界は、母方の叔母の所有している土地なのだ。
こんなに広い土地を持っているなんて凄いと思う。私がこっちの方の学校に通うことを知って、此処を貸してくれると言ってくれたのだ。でも、そのお陰で、私はそこまで朝早く起きなくて済んだし、バスとかの機関を使わなくて済んだ。だから叔母さんには感謝だ。
私は、小さな森の方に向かって歩きだす。こんなにいいところなのに人が滅多に来ないのは、きっと私有地だからだ。
森の入り口の前で一旦立ち止まり、先に進んでいく。
ゆっくりとした歩調で奥に入っていく。
―懐かしいような
―新しいような
―そんな
―不思議な感覚
ある程度まで森の中に入ったところで視界にピンクがはいる。さっきまでミドリばかりだったので、そちらを振り向く。そしてつい言葉を漏らす。
「綺麗………。」
円を描くように生えるミドリと、中心に優雅に佇むピンク。その光景は初めてで、見とれていた。私のココロを虜にするそれ。つい絵でも描きたくなる。
ぼーっと眺めていると後ろから明るく元気な声が神秘的な空間に響き、此処はやっぱり現実の世界なんだと我にかえる。
…って……。
「誰!?」
ぼーっとしすぎで話しかけられたことをスルーしてしまうところだった。
誰もいないはず…誰も来ないと思ってた。
だけど、声がしたってことは人がきたってことだ。しかも男の人の声だから、母でもない。
まぁ、立入禁止ではないからいてもおかしくはないけど…。ここに人ってくるんだぁ。
そんなふうに思っていると……。
「あぁ、悪い。俺は大空 拓魔って言うんだ。」
元気で明るい声。その声の持ち主は拓魔くんっていうんだ。
後ろをゆっくり振り返ると、私と同じ服を着た男の人がそこには立っていた。スマートなのに筋肉がしっかりついた身体。顔立ちは華があり整って、カッコイイと思う。髪は明るい茶色の中に赤や金、オレンジ色がところどころに混ざっている。
私がじっと彼を観察していたのが気まずかったのか、彼は口を開いた。
「えぇ…っと…君は……?」
そうだった。相手に聞いておいてまだ自分は名乗っていなかった。
私は慌てて名乗る。
「あたしは風凛華 魅麗、はじめまして。」
そうあいさつをすると、向こうも
「はじめまして!」と笑顔で言ってくれる。
「俺さぁ、よく此処にくるんだぁ。でも人にあったことなかったから、誰も来ないのかと思ってたんだ。」
そう言い終えると、こちらに近づいてきて、私の横に並ぶ。やっぱこの人…凄く背が高い。それに近くで見てもカッコイイし。
「魅麗ちゃんは此処、よく来るの?」
“よく”かぁ…。引っ越したばかりだから、“よく”ではない。しかも借りてるとはいえ、今は私たちの土地だし…。
何て答えようと考えていると、彼が少し首を傾げる。
「どうしてンな難しい顔してんだよ。あっ、俺…ヘンなことでも聞いたか?」
難しい顔…してたんだ…私…。言われて気付く。
「変なことなんて、何も言ってないじゃない? 黙っててごめんね? 何て言っていいのかって…そう思ってたの。」
私の言った言葉に“?”を浮かべたような表情をする。やっぱ、おかしいかな…?今いったこと。
沈黙を彼は破るように言った。
「てかさぁ、お前も俺と同じ高校なのな。スゲェ偶然だよな!!」
満面の笑みを向け、そう言う彼。あまりにも明るすぎるその声に笑ってしまった。彼は怪しむように……
「なっ!?………何だよ〜………。お前が難しく顔してるから話題かえたら笑い出しやがってよぉ…ヘンなヤツ!!」
そう言い終えると、彼は私の頭をがしがしと乱暴に掻き回す。髪型は酷く崩れてしまったのに怒りなどの感情はなく、かわりに親しみのような心地よい感情でいっぱいになる。
不思議だなぁ…。彼とは、ずっと前から仲が良かったみたいな感覚になっている。
私は思い切って頭に思い付いたままに話してみることにした。
「さっきの質問…」
「えっ?」
笑っていた私が急に喋り出したからか、目を丸くして手を止めた。
「小さい頃から、此処には何度か来たことがあったの。でも、貴方みたいにずっとじゃない。だけどもう此処は私の大事な“モノ”になってる…。」
私が話し終えたのを確認して、彼は質問をしてきた。
「私のって…どういう意味?」
彼は少し困った顔をしてるように見える。
それはそうか。今まで自分がずっと来ていたところを自分のモノと宣言されたんだから。
きっと此処が叔母の私有地だって知らないんだろうなぁ…。
「実は此処って、私の叔母の私有地なの。」
「へ………? そなの………?」
あー…。やっぱり知らなかったか。それもそうだと思う。此処って私有地に見えないし。“市民の場所”って感じだし。私だって初めてきいた時は信じなかったし。
「それで、叔母さん、優しい人だから、此処を今は私達に貸してくれてるの。高校から実家までの距離、かなり遠くて大変だから…。」
笑顔でそう言うと、彼はしばらく目をパチパチさせてから、
「なるほど」と呟く。わかってもらえたみたい。
「それで何て言っていいか困ってたのか。今は自分の家だもんな、よく来るとかの次元じゃねーもんな!」
明るい声が耳に響く。そして、綺麗な笑顔を見せてくれる。
「ごめん!!」
いきなり謝る彼。私は不意打ちだったので、きっと変な顔をしたと思う。
「何で…謝るの?」
何とか絞り出した声。上擦っているのが自分でも恥ずかしいくらいにわかる。
「だって…俺…他人の土地に侵入してたってことだろ?……何年も…。」
顔を赤くしながら言う彼が、何だか可愛いく見えてしまい、駄目だとわかっていても笑ってしまう。
……だって…絶対可笑しい!長身の綺麗でカッコイイ顔立ちの高校の制服着た男の人が、小学生みたいに頬を染めながら言ってるんだもん。釣り合ってないし!!
でも、彼の気持ちはちゃんと伝わった。それに………。
「いいんだよ?だって此処は立入禁止じゃないんだしさ。それに、こんな場所があるってわかったら私だって毎日来たい!!って思うしさ! だから、いいんだよ? 今までだって…そして、これからもね!」
思ったままのことを伝えると、彼は嬉しそうな顔をした。
「なぁ…俺等。もうダチ…だよな!?」
「もちろん!」
私たちはお互い微笑み合った。
「なぁ…お互いさ、親しみの気持ちを込めて、NMで呼び合わね?」
NMかぁ…。いいかも!それ!
「いいねぇ、喜んで!」
私は笑って親指を立てて、オッケーの手を作り、そう言った。
彼はたちまち笑顔になる。この人の笑顔って人を凄く虜にする力があると思う。実際、私は虜になってしまったし…。
そう思っていると、声がかかる。
「普段さぁー、NMで、どんな風に呼ばれてる?」
「アタシは“みぃ”とか、“れい”かな?」
真っ先に思い付いた、よく言われてるNMを挙げる。すると………
「やっぱ在り来りはつまんねぇし、俺が呼ぶからには、人が呼ばないのにしねぇと…。」
うーん…あんまり恥ずかしいのにならないといいなぁ…と思いながら様子を伺う。
「よし!決めた!!」
パァっと、花が開いたような表情をする彼が少し眩しい。
「なになに??」
「れっちゃん!!!」
「へっ!?」
自覚する…。今、凄い間抜けな声出したって…。何か…恥ずかしい。
「………ダメ?」
小動物のような凄く心配してる声と表情。…可愛いなぁ。男の子なのに。
「駄目なわけないよ!! 凄く嬉しい! ありがとう!」
そう言うと、彼の安心した表情が目に飛び込む。
「じゃあ、俺は“くっちゃん”な!!」
自分で言って、少し恥ずかしくなったのか、頬を赤くしてる。そんなところも可愛いと思う。
「いいねぇ、“くっちゃん”!!」
私も言ってみて恥ずかしくなった。でも、それは心地いい恥ずかしさ。
「俺のことそうやって呼ぶヤツいねぇから…二人だけな…?」
ヒミツゴト。
そんなに重大ではないけれど、二人だけってのが凄く嬉しい。
「じゃあ…私のこともそうやって呼ぶ子いないから、二人だけね。」
笑顔を向けてそういうと、さっき私が手で作った、親指を立てたカタチを作り、
「当たり前!!」と言ってくれた。
今まで男の子と、こうやってあまり話さなかったから、少し新鮮な感覚だった。
―その時だった。
「あっ…メールだ…って!!!」
「どうしたの?」
呑気な私の問い掛けに、慌てた様子で携帯の画面を見せてくれた。
そこには、少し寒気がする事実があった…。
「ち…遅刻ーーー!!!」
入学式の日に遅刻なんてアリエナイよ!
私は彼の制服の袖をガシッと掴むとそれを引っ張り、走り出した………。
走って、はしって、ハシッテ…。
長い坂道を勢いよく下った。何度か躓きそうになるが、転ぶことはなかった。どんどんスピードがつき、長かった道のりもあっという間って感じがした。
くっちゃんと私の自転車がある場所までつき、勢いよくブレーキをかける。そして少し息を整えてからお互い自転車にまたがった。
「よしっ!! 行くぞ!!」
「うんっ!!」
私達は目一杯に自転車のペダルを漕ぎ、私達の目的地である“桜坂学園”へと向かった。
小説をご覧下さいましてありがとうございます!
精一杯書かせていただいた仮想世界の下らない話しですが。これからもよろしくです。