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マゼルの勇戦戦争  作者: モルモラ
第三章続き
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第八十八話

 俺は魔法は使えなくなった。

 しかし、動けないことはない。


 けれども、俺の時空間魔法を今使えたらみんな地球に送ることができるのに……。

 試してみるかと時空間魔法を発動した。


 やはり使えないかとがっかりしていたとき、俺の前から大きな穴が現れた。

 これは、時空間魔法の穴だ。

 黒くて大きい穴は魔法使いのほうに向けた。


 魔法使いたちは魔法封印術のお陰で魔法を発動できない。

 なぜ、時空間魔法は使うことができるのかわからなかった。

 時空間魔法は魔法ではないのか?

 それが一番不思議だったのだが、そんなこと今は関係ない。


 魔法使いたちは逃げていく。

 走って逃げるが、時空間魔法の穴はスイスイ移動していく。

 魔法使いたちを次々と吸い込んでいく。

 魔法使いは叫んでいた、恐怖を覚えていた。

 けれども仕方がない。その人たちが元の場所に戻れるなら……。


 ラズラは一旦その場から退く。

 その間に、どんどん魔法が使えなくなった魔法使いたちが消えていく。

「お前は、許さない!」

 勇者がようやく立ち上がったようだが、もう遅い。

 いっそのこと勇者も吸い込んでやろうかと思った。


 すると、勇者のほうを見ていなかった弓使いが弓を構えた。

 それを見たマリーさんが、弓使いのほうに飛んでいった。

 しかし、勇者と弓使いとの距離は近い。

 他の仲間がマリーさんを狙う。

 このタイミングでザゼルが弓使いに向かって走り出した。


 マリーさんは弓使いに赤い武装から放つビームみたいなもので攻撃した。

 弓使いの辺りは灰色の煙に包まれた。

 その煙をかき消すように斧使いがマリーさんに向かって斧を振り向く。

 流石のマリーさんは攻撃が来るのがわかっていたように転がりながらも斧をかわした。


 そこからまだマリーさんを狙い続けた。

 短剣使いが転がって避けたマリーさんに向かって走る。

 しかし、ここでザゼルは弓使いが倒れたことを察して、短剣使いに向かって斧を投げた。


 ドスンとした重い音が床に響いた。

 短剣使いはなんとか斧をかわしたが、ザゼルの力が強すぎたせいでコンクリートの床にヒビができていた。


 マリーさんは体制を立て直して、勇者に向かってまたビームを撃つ。

「勇者様とはここでお別れです!」

 大きな声で勇者に向かって言葉を放つ。


 しかし、勇者は攻撃を予測してとっくに剣を持っていたのである。

 俺は、なんとか時空間魔法を発動して勇者のほうに向けるが、時空間魔法の穴から勇者まで相当な距離があった。


 勇者は大きなジャンプでビームを回避して、マリーさんに向かって剣で攻撃する。

 一方で、短剣使いは勢いよく隙を突いてマリーさんを刺した。

 同時にマリーさんの腹から血が吹き出る。


「うっ!」

 そして、追撃をするように勇者がマリーさんを斬りつけた。

「君には憎しみとやらを味わってもらおう」

「私は、私は……」


 近づいた勇者に向かってマリーさんがビームを連射。

 ビームによってマリーさんの姿が見えない程だった。

 一方でラズラは魔法が使えなくて戦えないのが嫌だったのか、目に涙を浮かべていた。


 マリーさんは勇者に向かってこう言った。

「お前にに私の何がわかる!」と。

 しかし、勇者はマリーさんのビームを右に避けて、剣で胸を刺した。

「これで終わりだ!」


 勇者の剣が黄金に変わった。

 もうそれは、光ではなく眩しい鏡のようであった。

 勇者の周りには何か凄いオーラが放たれており、力強いものを感じた。

「勇者の力はこんなものではない!」


 その瞬間、マリーさんが壁に打ち付けられた。

 たくさんの血しぶきがマリーさんの体内から吹き出した。

 俺は一旦、時空間魔法の穴を消してマリーさんに近づいた。


 マリーさんの体はボロボロになってもう死にそうだった。

 なんとか息をしているみたいだが、もう戦えないだろう。

「マリーさん!」

 俺は涙を浮かべるマリーさんをそっと見つめた。


「私、死んじゃうのかな?」

 目を閉じたままマリーさんはなんとか話せる様子だった。

「フランコさん、フランコさん!」

 フランコさんはいつのまにか姿を消していた。


「なんでフランコさん、いませんか!」

 そう声をかけても、辺りを見渡してもフランコさんがいない。何故だ。

 フランコさんはここに来ていたはず!


「フランコさん!」

「もういいの、マゼル……」

「なんでですか? 貴方は死なないでくださいよ!」

「お願い……私を時空間魔法で地球に、送ってくれる?」


「なんで! 俺は諦めませんよ!」

「やめて、もう……私は、私はもう、死んでるの……」

「だから諦めないでください!」

「聞いて、私は現実世界でももう死んでる。

 私は変なおじさんに監禁されて挙句には包丁で刺されてね。そこで私はこの異世界に来たの。

 だから死ぬ前にここに来ているってこと。だから天国に送ってよ」


「な、何ですか、もうちょっと生きても良いじゃないですか。おかしいじゃないですか、こんな運命」

「これはね、仕方ないの。勇者とアシュコットのこと、お願い」

「わかりました……。送りますね」


 時空間魔法…….。

 黒い黒い大きな穴がとても小さく見えて、俺なんかがマリーさんを送ってしまっていいのかという思いに心が苦しくなった。


 俺はゆっくりとマリーさんに黒い穴を向けた。

「ありがとうございました。お幸せに……」


 マリーさんは笑顔でこちらに見てこう言った。その言葉を聞いて瞬間、俺はそのことを早く言ってくれなかったのか?

 もう少しそのことを知っていたら、マリーさんを救えたかもしれないのに……。


 俺は何故かその一言で泣いてしまったのである。

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