第七十八話 話し合いと勇戦戦争
俺とシータは勇者軍本部に向かって歩き始めていた。
「マゼルさん、こんなところでよく再会できましたね」
「ああ、そうだなぁ」
そう言うとシータはため息をついて、俺を見つめる。
「で、マゼルさん。なんでここがわかったんですか?」
「いや、偶然見つけただけさ」
俺が小さな声になる。そろそろ眠たくなる時間だ。
目をこすると、視界がだんだん悪くなる。
しかし、俺はこのまま寝てしまってはいけないと思いながら歩き続けた。
「大丈夫ですか? マゼルさん」
「ああ、大丈夫だよ」
俺はフラフラしていたのを気づいたシータは俺のことを心配していた。
「でも、マゼルさん。こんな暗い時間に何しに行くのですか?」
俺は少し黙った。
俺が魔王なのかを伝えるかどうかと言うことを迷ってしまったからだ。
けれども、俺が魔王ということを早く知っていたほうがいいだろう。今後のためにも。
「実は俺は魔王なんだ……」
シータはその言葉を聞いた瞬間、驚いた表情をしてしゃがみこんだ。
「なんで、早く言ってくれなかったんですか……。ずっと僕、マゼルさんのことを心配していたのに!」
「ごめんな、シータ」
そうだ。早く言ってあげるべきだったのだ。
俺が悪魔暴走の呪いをかけられていたことも。
「だから、勇者軍の奴らと戦わないといけないんだ」
「話し合いでは済まない話なんでしょうか?」
「あいつらは俺を殺すつもりだ。話し合いなんて通用しない」
「だからと言って、同じ人間同士が戦うのはおかしくないとは思いませんか?」
シータは怒鳴った。
確かにシータの言うことは正論だ。おかしいことは何一つもない。
けれどもおかしいのは、この異世界なのだ。
俺もそのおかしな人間の一人である。
「戦わないとこの異世界は救われないんだ……よ……」
俺はしゃがみこんだシータを見つめて優しく語りかける。
この異世界は俺が救わないといけない。
その思いでいっぱいだった。
「一度、話し合いで解決してみませんか?」
シータは落ち着いた口調で俺のほうに振り向く。
そうしてゆっくりと立ち上がり、前を向いた。
その髪は雨のせいか、湿っている。
「でもな……」
俺が言い返そうとすると、シータは俺に抱きついてきた。湿った髪の毛のいい匂いが鼻にスーっと通った。
「お願いします、話し合いで解決してくださいよ」
俺はこのとき決めた。
話し合いで解決してみせるって。




