第七十二話 虹と勇戦戦争
俺たちは勇者たちの後を追おうとするが、フランコさんは俺を止めた。
「マゼル、もうやめろ」
「なんでですか? 勇者たちを時空間に送り込まないと……!」
俺は慌てて走ろうとしたその瞬間、フランコさんは俺の右腕をぎゅっと握りしめた。
「ラズラとブルコビルを助けるのが先じゃないのか?」
「すみません……」
俺は戦うことしか頭になかったせいで、ラズラやブルコビルのことは全く考えていなかった。
フランコさんはずぶ濡れになったブルコビルを背中に乗せて白い門の中に向かって歩き始めた。
俺も続いてラズラを背中に乗せて歩いてフランコさんに続く。
「マゼル、なんで早く勇者を時空間に送らなかった?」
フランコさんは少し怒ったような顔で俺に話しかける。
「すみません、フランコさん。勇者は悪い奴ではないと思うんです。だって俺のことを悪者だと思って必死に戦っていた。俺を殺せば世界が救われる。そう思っていたんじゃないかと……」
俺はボソボソとした喋り口調になっていた。
唇が乾いてパサパサだ。
「世の中、そんなに甘くないよ」
「わかってます、でも俺の役目は人をただ時空間に送り込むことだけではないと思うんです」
俺の足音がどんどん大きくなる。
俺は勇者たちを時空間に送り込めなかったことをとても後悔していた。
悔しい。そんなモヤモヤした感情が心に残る。
「マゼル、お前はいい奴だな」
「いいえ、悪い奴です」
俺は即答した。俺は悪い奴だと。
俺は自分を救えなかった。
死んでいるという真実がある限り、俺は悪い奴だ。
みんな必死に生きているのに死んでいる奴がここにいるのは悪いこと。そう思っていた。
すると空に虹がかかる。
雨が止んだようだ。川はまだ増水して濁ったままだが、道は歩きやすくなった。
泥まみれになりながら必死に魔王軍総本部に戻っていった。
虹は幻想的な七色の組み合わせは最高だった。
久しぶりに見た虹はこれほど綺麗だったのだろうか。
「やっと、ついたぞ……」
フランコさんは重そうな扉を開け魔王軍総本部の中に入っていった。
俺も後に続いて中に入る。
するとフランコさんは急いで階段を駆け上がった。
俺はどうしていいかわからずその場にいるしかできなかった。
俺の足はもうちぎれそうに痛い。
さっきの戦いで魔法を使いすぎたのかもしれない。
フランコさんが階段から颯爽と降りてきた。
ポーションを両手で持っていたフランコさんは一つを俺に渡した。
俺は右手でポーションを受け取ると、慎重に開けてラズラの唇に触れて無理矢理口を開かせた。
ラズラの唇はとっても柔らかくてマシュマロみたいだった。
俺は真っ赤な唇に触れてポーションを飲まさせるとラズラはゆっくりと起き上がった。
「マゼル、私生きてるの?」
「大丈夫だ、生きてるよ」
俺は優しく微笑んだ。




