第五十七話 時空間魔法使いの勇戦戦争
俺の周りの黒い霧が消えた。
苦しみから解放されると俺は口から息をする。
口から出る黒い液体は黒い霧が消えると同時に止まった。
「やっと……、終わったんだな……」
この時間はとても長かった。
短い時間だったが苦しい時間はとても長く感じるものだ。
「おめでとう、マゼル。君はもう立派な魔王だ」
ザゼルは拍手した。それに続いて街の人々も。
ただ一人拍手しなかったのはラズラである。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
唯一、俺に寄り添ってきたラズラは俺の腰をやさしくさすった。
でも、俺の心の中ではどこか痛みが残っていてフラフラしていた。
「では、早速時空間魔法の準備をしてくれ」
急にそんなこと言われても、俺の体力がもたない。
ザゼルは本当に悪魔暴走の苦しさを知っているのだろうか?
「なに言ってるの! マゼルの状態ぐらい考えなさいよ!」
ラズラがザゼルを睨め付ける。
「今は勇者軍が来ている。急がねば」
「でも、結局やらなきゃいけないんだろ?」
俺は最後の力を振り絞り、ゆっくり立ち上がった。
「マゼル、無理しないで……」
「俺のことは大丈夫って言っただろ?」
「大丈夫、大丈夫って言ってるけど大丈夫じゃないじゃん。体、フラフラしてるし……」
「けどな、やるんだ。俺は」
俺はラズラの頭をやさしく撫でた。
ふわふわした髪の毛が、俺の手からすり抜けていく。
ラズラはそれでも心配そうな顔つきだった。
「時空間魔法!」
俺が時空間魔法を発動すると、前よりも穴が大きくなっていた。多分、直径五メートルは越しているだろう。
この大きな大きな穴に、これから人々を地球に送りこむ。
街の人々は俺の発動した時空間魔法の穴に次々と飛び込んでいく。
中には地球に戻れるとわかっていたのか、泣いている人もたくさんいた。
ザイザンドロールケッキー社のゲームのテストプレイごときにこれほどの人たちを巻き込むなんて最低なゲーム会社だ。
「押さないでください! まだまだ時間はあります」
ブルコビルが人々を案内する。
しかし、勇者軍がこちらに来ると聞いて街中パニック状態であった。
みんな嬉しい気持ちと不安な気持ちでいっぱいだった。
そろそろいつもなら時空間魔法で俺の魔力がもたない時間だが、俺は余裕だった。
しかも、俺が時空間魔法をある一定時間使っていると心の痛みもいつのまにか消えた。
フラフラだった体も治ったのである。
やはりザゼルの悪魔暴走の能力が効いているのか。
「では、私は勇者軍を足止めしておく。その間、ラズラとブルコビルは人々の誘導を頼む!」
そう言って、ザゼルは空に舞った。翼もついていないザゼルはなぜか空に浮いているのである。
その姿はとても不思議で仕方がなかった。
「了解しました、ザゼル様。ではお気をつけて……」
ブルコビルが不安そうな顔でザゼルを見ていた。




