第五十六話 魔王になる為の勇戦戦争
「では、こちらに来てくれ」
ザゼルがにこりと笑った表情で俺をチラリと見た。しかし、街の人々は俺に対して恐怖心を持っていた。
なぜなら街中で爆炎銃という強力な魔法を使用したからだ。
もしもその銃弾が誰かに当たっていたら確実に死んでいたと思う。
そりゃ俺を警戒するのは当たり前のことだろう。
堂々と街中を歩いてゆくザゼルに俺とラズラはついていった。
「ザゼル様!」
突然走ってこちらに来たのはブルコビルだった。
「なんだ、ブルコビル」
「勇者軍がこちらに向かって攻撃している模様です。すぐに街の人を避難させる準備を!」
「ちっ! こんなときに……」
ザゼルは持っていた魔法書を思いっきり地面に叩きつけた。
このとき俺は、もしかしたら時空間魔法でこの世界の人々を救えるかもしれない。そう思ったのだ。
「俺に手伝えることはありますか? できることはなんでもします!」
俺は真剣な表情でザゼルの顔を見つめた。
「マゼル、よく聞いてくれ。時空間魔法は敵を時空間に送る効果があるだろう?」
「あ、そうですね」
俺はしばらく時空間魔法を使っていないせいで、その効果も忘れかけていた。
そしてザゼルは大きく口を開けてこう言った。
「実は時空間魔法で異世界から地球に人を送ることができるんだよ」
「えっ!?」
俺は驚いてしまった。時空間魔法にそんな能力があるなんて全く知らなかった。
それだったら、俺も地球に戻れるかもしれない……。
「君の力でこの街の人を全て時空間魔法を使って地球に送ってほしい……」
「でも、俺は時空間魔法を使うと魔力がすぐに切れてしまうんだ」
この人数を時空間に送りこむ為には、流石に俺の魔力がもたない。
「君に完全な魔王になってもらいたい」
「完全な魔王?」
「そうだ。私がマゼルに悪魔暴走の呪いをもう一度かければ君は完全な魔王になる。しかし、君には相当な負担がかかってしまう。お願いだ、やってくれないか?」
俺は決めたんだ。この異世界を救うって。
その為には自分は苦しむことになる。
でも俺はそんなことたくさん味わってきた。
「お願いします!」
ラズラは心配そうにこっちを見るが、俺は笑顔でラズラにこう言った。
「心配するな、大丈夫だよ」
ザゼルは大きく深呼吸して目を閉じる。そして地面に叩きつけた魔法書を拾った。
右手には黒い魔法書。
ザゼルが目を開けると、瞳の色が赤に変わった。
悪魔暴走!
俺の身体中が黒い霧に包まれた。
そして体内からなにかわからない得体の知れない黒い液体が口から出ていく。
「うっ! 苦しい……」
どこかを締め付けられるような痛さ。
痛い、とにかく全身が痛い。
ラズラが俺の姿を見て寄り添って来ようとするが、ザゼルは「ダメだ、危ない」と言って寄せ付けなかった。
「マゼル……」
みんなが俺を見つめる中、俺はずっと唸り声をあげていたのである。




