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マゼルの勇戦戦争  作者: モルモラ
第三章 魔王軍編
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第五十五話 誓いの勇戦戦争

「俺はもう何も失いたくないんだ。だから……黙っててくれよ」

 俺は奥歯を噛み締めて、ラズラをにらめつけた。

 しかし、ラズラは表情一つ変えなかった。

 そしてラズラが俺の肩に手を優しく添えたのである。


「私が絶対にマゼルを幸せにしてあげる」


 なんだよ……。

 幸せとか知らないよ、俺は。

 不幸だったんだよ、俺は。

 そんな俺を幸せにとか、できるわけないじゃないか。

「ほっといてくれよ! 俺は幸せになれない存在なんだ……」


 俺はうつ伏せの状態になった。

 そして泣いた。わめきながら泣いた。大量の涙を流しながら泣いた。

「ラズラ、お前にはわかんないだろうな。俺がどんだけ苦しんできたか……」

「マゼル……、私だって苦しんできたよ。何度も痛い思いをした。マゼルだけじゃないよ! 苦しんできたのは」

「俺、生きる価値を失っているんだ。この異世界から出られてもホームレス生活が続くだけでさ。どうせみんなは帰る場所があるんだろ? 俺は無いんだ……」


「マゼル、勇者軍に囚われていたとき私のこと『好き』って言ってくれたよね」

「……」

 俺は確かに好きと言った。しかし、それがどうした。

 それで俺の人生が変わるはずもないのに。


「異世界から出たら私とデートしてくれる?」

 俺は異世界から出たらただのホームレスの人間。

「俺は、俺はお前を幸せにできない。だから……断る」

「私を異世界から出して幸せにしてよ!」

 ここから出して幸せにする……。

 そうか。俺は忘れていた。

 俺は誰かを幸せにできるんだ。たとえ俺が不幸であっても。

 俺はやっぱり戦わないといけないのか。

「わ、わかったよ……」

 するとラズラはうつ伏せの俺に手を差し伸べてきた。

「私との約束だよ。破らないでね」

「ああ、約束だ」


 俺はラズラの手をぎゅっと握りしめながら立ち上がった。

 太陽が眩しい。風が気持ちいい。気持ちが晴れた。

 そしてラズラは俺を両手で抱きしめてくれた。

「マゼルのこと、大好きだよ」

「ありがとう……」

 ラズラの手は暖かく、柔らかかった。

 なにか俺を包み込むような感じだった。

 俺の涙は止まり、顔には笑顔が溢れた。この街の人のように。


 そして俺はザゼルのほうに振り向き、こう言った。

「俺は戦う。よろしく頼む」

「ありがとう、マゼル」

 俺とザゼルは手を握り合った。誓いの握手だ。

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