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マゼルの勇戦戦争  作者: モルモラ
第三章 魔王軍編
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第五十四話 弱い男の勇戦戦争

 時空間魔法が世界を救える。

 そんなの嘘だとわかっていた。そうやって俺を惑わしてまた檻の中に閉じ込めることを。


「そんなこと……嘘だろ?」

 ザゼルは手を下を向いていた俺のほうに差し伸べて、優しい笑顔を浮かべた。

「私たちは勇者を恨んで戦うわけではない。あくまでもザイザンドロールケッキー社を恨んでいる。その為にも君の協力が不可欠なんだ。だから……頼む!」


「俺は、本当にこの異世界を救うことはできるのでしょうか? 俺は弱い人間だ、馬鹿人間だ、人を殺さない人間なんだ。そんな奴この異世界にいても意味はないんだよ……」

 すると、ザゼルは急にこんなことを言い出した。

「それがお前の本当の『優しさ』ではないのか?」


 俺の『優しさ』……。


 その優しさで俺は今まで痛い目にあってきた。

 そんなこと言われたって俺はちっぽけな人間なんだ。

 もう、優しさなんていらない。強く生きたいのである。


「マゼルー!」

 背後から聞こえるこのハキハキとした声。それはラズラだった。

 俺は振り向くことはしなかった。

「何してるの、マゼル!」

「黙っててくれ!」

 俺に優しさなんていらないんだ。強くなくてはいけなかった。

 ホームレスのときもそうだった。

 一人で生活していく為に、強くなった。


「俺は戦いたくねぇ!」


 その声は空まで響くような大声で、周りの人々も驚いていた。ザゼル以外は……。

 逃げることが負けることではない。強くなることと俺は知っている。

 だから俺は逃げる。自分の為に。


「馬鹿じゃない!」

 そう言って、ラズラは俺の顔をぶった。それも俺の顔を後ろに強引に向けて。

「痛い………!」

「自分の為に逃げるっていうの? そんなのマゼルっぽくないよ!」

「マゼルっぽくない……? なにがマゼルっぽくないんだよ」

 マゼルって誰なんだよ。この世界の架空のキャラクターだろ。そんな奴、とっくのむかしに消えてるというのに。

「今まで私を何度も救ってくれたじゃない! そんなマゼルが好きだったのに……!」

「俺はラズラを救えてないんだよ……」

「救おうとしてくれた君の姿、カッコよかったよ」


「カッコいいとか、好きとかそんなの関係ないんだよ。俺は……戦うことが怖いんだよ」

 俺は弱い人間なんだ。心も、力も。

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